削除された内容 追加された内容
タグ: モバイル編集 モバイルアプリ編集 Androidアプリ編集
Harkosa (会話 | 投稿記録)
整理、出典
1行目:
'''堤防'''(ていぼう)とは、人家のある地域に[[河川]]や[[海]]の水が浸入しないように、[[河岸]]や[[海岸]]、[[運河]]に沿って土砂を盛り上げた[[治水]]構造物のことである。一部は、[[土手]](どて)とも呼ばれる。
 
[[ファイル:Shikano Tottori25n4592.jpg|thumb|260px|例:江戸時代初期築造の堤防<br />「伊木の堤」([[鹿野 (鳥取市)|鳥取市鹿野]])]]
 
== 河川堤防 ==
=== 概説 ===
河川の堤防は主に[[洪水]]時の氾濫を防ぐ目的で設けられる。洪水時に想定される水位を計画高水位といい、これに越水を防ぐための余裕高、地盤や堤防の沈下を見越した余盛りを加えた高さまで堤防が作られる。
河川の堤防は主に[[洪水]]時の氾濫を防ぐ目的で設けられる。
 
==== 堤防の構造 ====
日本において河川堤防は、[[河川法]]に定める河川管理施設の一つとされ河川区域に含まれるため<ref>日本の河川は総延長約25万kmあり、国土交通省が管理する「[[一級河川]]が109水系、約8.7万kmと、都道府県が管理する「[[二級河川]]」が2722水系、約3.6万km、市町村が管理する「準用河川」が2509水系、約2.0万kmに分類される。ただし一級河川でも主要部以外は国土交通省から都道府県に管理が委託されている箇所が多いため、国土交通省が実際に管理しているのは約1.1万kmである。河川の科学 p.16</ref>、私有地内にあったとしても工作物の設置や土地の掘削、竹木の植栽・伐採などには河川管理者の許可が必要となる。ただし、高規格堤防特別区域(後述)では規制が緩和される。
 
=== 堤防の構造 ===
[[ファイル:River Levee Cross Section Figure.svg|thumb|250px|一般的な河川堤防の断面図。<br />1.計画高水位 (HWL) 2.低水路 3.高水敷([[河川敷]]) 4.表法 5.表小段 6.天端 7.裏法 8.裏小段 9.犬走り 10.低水護岸 11.堤外地 12.堤防敷 13.堤内地 14.河川区域]]
[[ファイル:Levee (Arakawa)01.jpg|thumb|250px|整備中の堤防]]
24 ⟶ 23行目:
尚、同様の特殊堤として、河川構造物に越流堤、囲繞堤(いじょうてい)、背割堤及び道流堤がある。
 
==== 高規格堤防の種類 ====
[[ファイル:Bank types on a model map.PNG|thumb|400px|right|'''多様な堤防''']]
[[File:Yokotei of Arakawa River.JPG|thumb|300px|right|[[さいたま市]][[桜区]]にある[[荒川 (関東)|荒川]]左岸の横堤。]]
 
*本堤
*:洪水を防ぐ役割を主に担う連続堤のことを本堤という。
*副堤、控え堤、二線堤
*:本堤の保護やバックアップの目的で設けられる小さい堤防のことを副堤、控え堤、二線堤という。
*横堤、羽衣堤
*:河道とほぼ直角に、本堤から河川に向かって設けられた堤防のこと。洪水の流れを受け止めて流速を落とし、遊水池のような効果も期待できる。河川敷を広く取った場所に造られ、普段は耕地として利用されている他、天端部を橋に接続する道路として使用されているものもある。下流側に向けて斜角が付けられた横堤は羽衣堤(はごろもてい)と称される<ref>{{harvtxt|長門昇|1998|p=252}}</ref>。
*:[[埼玉県]][[比企郡]][[吉見町]]から[[戸田市]]にかけての荒川に設けられた[[荒川横堤]]が代表的。[[岐阜県]]、[[愛知県]]の[[木曽川]]流域では、[[猿尾堤]]ともいう。
*囲繞堤、周囲堤、越流堤
*:遊水池を設けて氾濫した水の受け皿とする場合、遊水池と川を隔てる堤防を囲繞堤(いじょうてい)、遊水池と人家のある土地を隔てる堤防を周囲堤とよぶ。また、遊水池へ水を導くためわざと堤防を低くしてある部分を越流堤(別名:洗い堰)とよぶ。越流堤には流水により浸食されない強固な構造が要求される。
*背割堤
*:河川の合流部に、二つの流れを分けるように設けられた堤防。一方の河川で増水があったとき、もう一方の河川への背水(逆流や堰上げ)による影響を小さくするためや、互いの河川の水位に大きな差がある場合に設けられる。
*導流堤
*:河川の分流・合流地点、河口などに設置される堤防。流れと土砂の移動を望ましい方向に導くために設けられ、背割堤は導流堤の役割を兼ねていることが多い。
*[[霞堤]]
*:堤防が不連続となっており、上流側堤防の終端部の堤内側に平行して下流側堤防が始まる構造の堤防。増水時に不連続部に洪水を逆流で堤内地側へ呼び込み遊水させて流れを緩める、上流で氾濫した水をすみやかに排水する、堤防が決壊しても堤防が二重となっている(控え堤の効果)ためリスクを低減できるなどの効果が期待できる。堤防が折り重なる様子を霞に見立ててこの名がある。[[武田信玄]]が[[釜無川]]に設けた[[信玄堤]]が有名。
*輪中堤
*:集落や耕地の周囲をぐるりと囲うように設けられた堤防。堤に囲まれた部分は[[輪中]]とよばれる。[[木曽川]]、[[長良川]]、[[揖斐川]]の合流する[[濃尾平野]]につくられたものが有名。桑名市長島町などに見られる。
*山付堤
*:山の尾根など、地形の高まりに接続するように造られた堤防。
 
=== 堤防の整備 ===
日本において河川堤防は、[[河川法]]に定める河川管理施設の一つとされ河川区域に含まれるため<ref>日本の河川は総延長約25万kmあり、国土交通省が管理する「[[一級河川]]が109水系、約8.7万kmと、都道府県が管理する「[[二級河川]]」が2722水系、約3.6万km、市町村が管理する「準用河川」が2509水系、約2.0万kmに分類される。ただし一級河川でも主要部以外は国土交通省から都道府県に管理が委託されている箇所が多いため、国土交通省が実際に管理しているのは約1.1万kmである。河川の科学 p.16</ref>、私有地内にあったとしても工作物の設置や土地の掘削、竹木の植栽・伐採などには河川管理者の許可が必要となる。ただし、高規格堤防特別区域(後述)では規制が緩和される。
 
==== 設計 ====
[[ファイル:River's bank (Basic cut view) J.PNG|thumb|400px|'''河川堤防'''(断面図)]]
堤防の大まかな設計は、位置と高さ、幅より構成される。以下では日本の事情について記述する。
* 位置
*: 多くの河川では、過去に氾濫した時の堆積土砂である自然堤防が堤体として利用できるため、堤防の設置位置はこういったものの形状と量に左右される傾向が強い<ref name="kasen-no-kagaku-32-33">河川の科学 p.32-33</ref>。また、人工河川では用土確保の他にも周囲の交通路への影響や無理のない河川の流れも考慮される。
* 高さ
*: 堤防の高さは「計画高水位」に基づいて決められ、安全に流せる最大の流量「計画高水流量」から導かれる。
*: 計画高水流量は、河川流域の「対象降雨量」に、設計に用いる最大の雨量が発生する確率「計画確率」<ref>「計画確率」は、一級河川では1/100から1/200、重要河川では1/200とされている。</ref>を適用した上で、流出計算を施すことで「基本高水流量」を求め、これからダムや遊水地での「洪水調整量」を引いたものである。計画高水位は計画確率で用いた雨量時に発生する高水位のことであり、計画高水流量など時間による変化で表したハイドログラフなどを用いて決定される<ref name="kasen-no-kagaku-32-33"/>。
* 幅
*: 堤防の幅は、越水・浸透・浸食に対する十分な安全性が保たれるように考慮されて提体の断面幅が決められる<ref name="kasen-no-kagaku-32-33"/>。
 
==== 堤防と水位 ====
堤防の整備上の水位として計画高水位がある。
* 計画高水位
*: 計画高水流量が河川改修後の河道断面(計画断面)を流下するときの水位。危険水位ではない。
* 計画高水流量
*: 河道を建設する場合に基本となる流量で、基本高水を河道と各種洪水調節施設に合理的に配分した結果として求められる河道を流れる流量。
 
防災上の水位として、はん濫危険水位(氾濫危険水位)、避難判断水位、はん濫注意水位(氾濫注意水位)がある<ref name="i114">命を守る水害読本実行委員会『命を守る水害読本』毎日新聞出版、2017年、114頁</ref>。水防法10条及び11条に基づき水位等の予測が技術的に可能な流域面積の大きい河川で、洪水により国民経済生活上重大な損害等を生ずるおそれのある河川として国土交通大臣や都道府県知事が指定するものを洪水予報河川という<ref name="i114" />。また、水防法13条に基づき洪水予報河川を除く河川のうち洪水により国民経済生活上重大な損害等を生ずるおそれのある河川として国土交通大臣や都道府県知事が指定するものを洪水予報河川という<ref name="i114" />。
* はん濫危険水位(氾濫危険水位)
*: 洪水による氾濫で相当の家屋に浸水等の被害を生じるおそれのある水位<ref name="i114" />。はん濫危険水位(氾濫危険水位)は堤防から水があふれだす水位から住民が避難等にかかるとみられる時間に相当する水位上昇分を考慮して決定される<ref name="i114" />。市町村長が避難勧告を判断する目安となる水位とされている<ref name="i114" />。
* 避難判断水位
*: 住民に氾濫発生の危険性に関する注意喚起を開始する水位<ref name="i114" />。市町村長が避難準備・高齢者等避難開始を判断する目安となる水位とされている<ref name="i114" />。
* はん濫注意水位(氾濫注意水位)
*: 洪水時に水防団等が適切な巡視活動を実施するために出動する目安となる水位<ref name="i114" />。
 
==== 高規格堤防 ====
[[ファイル:River's bank (Basic & Super).PNG|thumb|300px|right|上:'''従来型の堤防'''<br />下:'''スーパー堤防'''<br />スーパー堤防は高さに対して堤体の幅が約30倍である。堤防沿いの建物などを移転させてから盛土(図では赤い部分)を施し、整地後に堤の上に改めて建物を建築する。]]
[[File:Monument of super dike birthplace1.JPG|thumb|スーパー堤防発祥の地の碑と事業説明板(千葉県栄町矢口スーパー堤防内)]]
41 ⟶ 93行目:
**[[2012年]][[1月19日]] - 国土交通省は区間873[[キロメートル|km]]のうち50.6kmの5.8%が整備完了としたが、[[会計検査院]]は不完全区間があり完成区間は1.1%と指摘<ref name=yomi20120120>読売新聞 2012年1月20日 13S版36面</ref><ref>[http://www.jbaudit.go.jp/pr/kensa/result/24/h240119_1.html 「大規模な治水事業(ダム、放水路・導水路等)に関する会計検査の結果について] 「要旨」5ページ(イ)[[会計検査院]] 2012年1月19日</ref>。また、2010年10月の事業仕分けで廃止と判定されたが、[[東北地方太平洋沖地震|2011年東北地方太平洋沖地震]]をふまえ、「人命にかかわる」として約120kmは整備継続の方針<ref name=yomi20120120 />。
 
=== 防の種類(決壊)と欠壊 ===
==== 破堤(決壊) ====
[[ファイル:Bank types on a model map.PNG|thumb|400px|right|'''多様な堤防''']]
[[File:Yokotei of Arakawa River.JPG|thumb|300px|right|[[さいたま市]][[桜区]]にある[[荒川 (関東)|荒川]]左岸の横堤。]]
 
;本堤
:洪水を防ぐ役割を主に担う連続堤のことを本堤という。
;副堤、控え堤、二線堤
:本堤の保護やバックアップの目的で設けられる小さい堤防のことを副堤、控え堤、二線堤という。
;横堤、羽衣堤
:河道とほぼ直角に、本堤から河川に向かって設けられた堤防のこと。洪水の流れを受け止めて流速を落とし、遊水池のような効果も期待できる。河川敷を広く取った場所に造られ、普段は耕地として利用されている他、天端部を橋に接続する道路として使用されているものもある。下流側に向けて斜角が付けられた横堤は羽衣堤(はごろもてい)と称される<ref>{{harvtxt|長門昇|1998|p=252}}</ref>。
:[[埼玉県]][[比企郡]][[吉見町]]から[[戸田市]]にかけての荒川に設けられた[[荒川横堤]]が代表的。[[岐阜県]]、[[愛知県]]の[[木曽川]]流域では、[[猿尾堤]]ともいう。
;囲繞堤、周囲堤、越流堤
:遊水池を設けて氾濫した水の受け皿とする場合、遊水池と川を隔てる堤防を囲繞堤(いじょうてい)、遊水池と人家のある土地を隔てる堤防を周囲堤とよぶ。また、遊水池へ水を導くためわざと堤防を低くしてある部分を越流堤(別名:洗い堰)とよぶ。越流堤には流水により浸食されない強固な構造が要求される。
;背割堤
:河川の合流部に、二つの流れを分けるように設けられた堤防。一方の河川で増水があったとき、もう一方の河川への背水(逆流や堰上げ)による影響を小さくするためや、互いの河川の水位に大きな差がある場合に設けられる。
;導流堤
:河川の分流・合流地点、河口などに設置される堤防。流れと土砂の移動を望ましい方向に導くために設けられ、背割堤は導流堤の役割を兼ねていることが多い。
;[[霞堤]]
:堤防が不連続となっており、上流側堤防の終端部の堤内側に平行して下流側堤防が始まる構造の堤防。増水時に不連続部に洪水を逆流で堤内地側へ呼び込み遊水させて流れを緩める、上流で氾濫した水をすみやかに排水する、堤防が決壊しても堤防が二重となっている(控え堤の効果)ためリスクを低減できるなどの効果が期待できる。堤防が折り重なる様子を霞に見立ててこの名がある。[[武田信玄]]が[[釜無川]]に設けた[[信玄堤]]が有名。
;輪中堤
:集落や耕地の周囲をぐるりと囲うように設けられた堤防。堤に囲まれた部分は[[輪中]]とよばれる。[[木曽川]]、[[長良川]]、[[揖斐川]]の合流する[[濃尾平野]]につくられたものが有名。桑名市長島町などに見られる。
;山付堤
:山の尾根など、地形の高まりに接続するように造られた堤防。
 
== 設計 ==
[[ファイル:River's bank (Basic cut view) J.PNG|thumb|400px|'''河川堤防'''(断面図)]]
堤防の大まかな設計は、位置と高さ、幅より構成される。以下では日本の事情について記述する。
 
=== 位置 ===
多くの河川では、過去に氾濫した時の堆積土砂である自然堤防が堤体として利用できるため、堤防の設置位置はこういったものの形状と量に左右される傾向が強い<ref name="kasen-no-kagaku-32-33">河川の科学 p.32-33</ref>。また、人工河川では用土確保の他にも周囲の交通路への影響や無理のない河川の流れも考慮される。
 
=== 高さ ===
堤防の高さは「計画高水位」に基づいて決められ、安全に流せる最大の流量「計画高水流量」から導かれる。
 
計画高水流量は、河川流域の「対象降雨量」に、設計に用いる最大の雨量が発生する確率「計画確率」<ref>「計画確率」は、一級河川では1/100から1/200、重要河川では1/200とされている。</ref>を適用した上で、流出計算を施すことで「基本高水流量」を求め、これからダムや遊水地での「洪水調整量」を引いたものである。計画高水位は計画確率で用いた雨量時に発生する高水位のことであり、計画高水流量など時間による変化で表したハイドログラフなどを用いて決定される<ref name="kasen-no-kagaku-32-33"/>。
 
=== 幅 ===
堤防の幅は、越水・浸透・浸食に対する十分な安全性が保たれるように考慮されて提体の断面幅が決められる<ref name="kasen-no-kagaku-32-33"/>。
 
== 破堤 ==
[[ファイル:GretnaLevee.jpg|thumb|250px|増水したミシシッピ川。河原は水没しているが堤防のおかげで町には被害がない。]]
 
[[File:Levee collapse of Nagara river.jpg|thumb|250px|降り続いた雨で決壊した長良川の堤防([[1976年|昭和51年]]9月12日の[[9.12水害]])]]
堤防がれて堤内にすることで川の水があふ堤防から流出すことを'''破堤'''はてい決壊)という。破堤の要因を大別すると[[浸透]]、[[浸食]]、越水の3つが挙げられる<ref name="bousaiyougo" />
; 浸透
: 川表側の水位が上昇し、堤内側地盤との水頭(水圧)差により生じる堤防内の[[間隙水圧]]が大きくなった場合に、川表側からの河川の浸透水による水みちが形成されることで、裏法側や堤内基盤に漏水を生じさせる作用である。浸透水が堤防を構成する土砂類を吸い出し、[[パイピング現象]]を急速に進行させる可能性もあることから、最終的な堤防の欠壊を防ぐためにも早期の発見と適切な対処が必要。
:: 対処法:水防活動により川表側ではシート張工、裏法側では月の輪工、釜段工などを行う。
; 浸食
: 波や水流にさらされることで、表法面の土砂が削られたり、堤防や護岸の足(脚部)が深掘れしていく現象。ある部分が大きく浸食されることを洗掘といい、放置して規模が大きくなると堤防の幅が痩せていき、十分な浸透路長を稼げなくなることによる浸透破壊、または堤防本体のそのものの崩壊を生じさせることで、やがて破堤につながる。
:: 対処法:水防活動により裏法側では築き廻し工などを行う。
; 越水
: 水位が堤防高を越え、水があふれる現象。表法面ほどは補強されないことの多い天端や裏法面が削られることにより、侵食による破壊と同じメカニズムが生じ、やがて破堤につながる。
:: 対処法:水防活動により天端への積み土嚢工などを行う。
 
* 越水破堤
越水では破堤の有無に関わらず漏れ出た水によって「超越洪水」が起きる場合がある<ref name="kasen-no-kagaku-32-33"/>。
*: 洪水により水位が堤防を越えて水があふれ、堤脚部(堤防の下部)が削り取られることで土塊が崩落して決壊するもの<ref name="i101">命を守る水害読本実行委員会『命を守る水害読本』毎日新聞出版、2017年、101頁</ref>。堤防の破堤(決壊)の原因の多くは越水破堤である<ref name="i101" />。
*: 越水だけであれば堤防の高さを増せば単純に防げるが、費用対効果や堤体の総合的な耐力を考慮すれば現実的な高さには上限が生じる。ここでいう越水対策とは天端や川裏側の浸食に対する備えであり、越流水で生じる浸食作用から堤体を護ることである。越水対策では、越水された場合であっても容易には流水で堤体を侵食されないように、天端の川裏側角や川裏の法尻部分にはそれぞれ法肩保護工と法尻工が行われ、天端や法面という平面部は遮水シートや保護マットを覆うといった対策が行われる。
*: なお、越水では破堤の有無に関わらず漏れ出た水によって「超越洪水」が起きる場合がある<ref name="kasen-no-kagaku-32-33"/>。
* 洗堀破堤
*: 河川の流水が直接堤防を削り取り決壊するもの<ref name="i101" />
*: 表法面をコンクリート製などの護岸工事を行ったり、水制(すいせい)を設けるといった対策が行われる。適切に管理された斜面の芝もある程度有効である。
* 浸透破堤
*: 河川の水位が上昇するとともに堤防内の水位も上昇して浸透し、土の粒子間の接触が弱まることで内部から堤防が削り取られ決壊するもの<ref name="i101" />。堤内側地盤との水頭(水圧)差により生じる堤防内の[[間隙水圧]]が大きくなった場合に、川表側からの河川の浸透水による水みちが形成されることで、裏法側や堤内基盤に漏水を生じさせる。
*: 鋼矢板製の止水壁を川表側の土中に打込んだり、透水性の低いブランケットと呼ばれる土で川底を覆う工法や、遮水シートやブランケットで表法面を覆う工法を採る。また、川裏側にドレーン工と提脚水路を設けて堤体内に浸透した水をできるだけ早期に排水できるようにするといった対策が行われる。大量の雨水が堤体内に浸透するのも避ける。
* パイピング破堤([[パイピング現象]])
*: 河川の水位の内外差により河川側から浸透流が発生し基礎地盤の土砂が流出して陥没するもの<ref name="i101" />。
 
なお、浸透防止策、浸食防止策、越水対策などの対策を施された堤防は「難破堤堤防」と呼ばれる。
=== 破堤防止 ===
; 浸透防止策
: 鋼矢板製の止水壁を川表側の土中に打込んだり、透水性の低いブランケットと呼ばれる土で川底を覆う工法や、遮水シートやブランケットで表法面を覆う工法を採る。また、川裏側にドレーン工と提脚水路を設けて堤体内に浸透した水をできるだけ早期に排水できるようにされる。大量の雨水が堤体内に浸透するのも避けた方が良い。
; 浸食防止策
: ここでいう浸食防止策とは川表側の浸食に対する備えであり、川の流れで生じる浸食作用から堤体を護ることである。表法面をコンクリート製などの護岸工事を行ったり、水制(すいせい)を設ける。適切に管理された斜面の芝もある程度有効である。
; 越水対策
: 越水だけであれば堤防の高さを増せば単純に防げるが、費用対効果や堤体の総合的な耐力を考慮すれば現実的な高さには上限が生じる。ここでいう越水対策とは天端や川裏側の浸食に対する備えであり、越流水で生じる浸食作用から堤体を護ることである。越水対策では、越水された場合であっても容易には流水で堤体を侵食されないように、天端の川裏側角や川裏の法尻部分にはそれぞれ法肩保護工と法尻工が行われ、天端や法面という平面部は遮水シートや保護マットを覆うといった対策が行われる。
 
==== 欠壊 ====
上記のような対策を施された堤防は「難破堤堤防」と呼ばれる。
欠壊とは堤防が激しい川の流れや波浪などで削り取られたり、雨の浸透により堤防の一部が崩れることをいう<ref name="bousaiyougo">但し、決壊と欠壊は混同する恐れがあるため、危険度が低い欠壊は今後用いないこととなった。 {{Cite web|author=第四回 洪水等に関する防災用語改善検討会 |date=2006-06-08|url=https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/past_shinngikai/shinngikai/bousaiyougo/060608/ref2.pdf |title=用語改善案 |format=PDF|publisher=[[国土交通省]]|accessdate=2018-11-03}}</ref>。
 
== 海岸堤防 ==
{{See also|防潮堤}}
[[津波]]・[[高潮]]・高波の被害を防ぐために[[海岸]]に沿って設けられる堤防は海岸堤防とよばれる。海岸堤防の高さは計画高潮位(異常潮位の際に想定される潮位)に波の影響を考慮した高さを加えたもの以上に設定される。波による浸食や越波に耐えうるよう、河川堤防よりも強固な構造となっている。
122 ⟶ 132行目:
 
一方で岩手県の[[下閉伊郡]][[普代村]]や[[九戸郡]][[洋野町]]においては、東北地方太平洋沖地震においても高さ15.5mの[[普代水門]](1984年に完成)や[[太田名部防潮堤]](以上普代村)や高さ12mの防潮堤(洋野町)が決壊せずに津波を大幅に減衰させ、集落への人的・物的被害を最小限に抑えることができた<ref>[http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110403-OYT1T00599.htm 明治の教訓、15m堤防・水門が村守る] {{webarchive|url=https://www.webcitation.org/5yI3URE9a?url=http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110403-OYT1T00599.htm |date=2011年4月28日 }} 読売新聞 2011年4月3日 2011年4月24日閲覧</ref><ref>[http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK31023_R30C11A3000000/ 岩手県普代村は浸水被害ゼロ、水門が効果を発揮] 日本経済新聞 2011年4月1日 2011年4月24日閲覧</ref><ref>[http://www.47news.jp/CN/201104/CN2011041201000147.html 『津波で5割超の防潮堤損壊 岩手県が効果検証へ』] 共同通信 2011年4月12日 2011年4月24日閲覧</ref>。普代村では2011年の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)において被災した民家は無く、死者はゼロである<ref>[http://www.iwate-np.co.jp/311shinsai/sh201104_2/sh1104247.html 普代守った巨大水門 被害を最小限に] 岩手日報 2011年4月24日</ref>。
 
== 関連用語 ==
;欠壊
:堤防が激しい川の流れや波浪などで削り取られたり、雨の浸透により堤防の一部が崩れること<ref>但し、決壊と欠壊は混同する恐れがあるため、危険度が低い欠壊は今後用いないこととなった。 {{Cite web|author=第四回 洪水等に関する防災用語改善検討会 |date=2006-06-08|url=https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/past_shinngikai/shinngikai/bousaiyougo/060608/ref2.pdf |title=用語改善案 |format=PDF|publisher=[[国土交通省]]|accessdate=2018-11-03}}</ref>。
;計画高水流量
:河道を建設する場合に基本となる流量で、基本高水を河道と各種洪水調節施設に合理的に配分した結果として求められる河道を流れる流量。
;計画高水位
:計画高水流量が河川改修後の河道断面(計画断面)を流下するときの水位。危険水位ではない。
 
== その他 ==