「リチウムイオン二次電池」の版間の差分

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山原内 (会話 | 投稿記録)
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=== 電解質 ===
水溶液系電解質はリチウムによって電気分解することから使えず、非水溶液系電解質が使用される<ref>但し、近年は水溶液を電解質として使用するリチウムイオン電池の開発tが進められつつある</ref>。リチウムイオン電池内の液状の電解質は{{Chem|Li|P|F|6}},{{Chem|LiBF|4}}あるいは{{Chem|Li|Cl|O|4}}のようなリチウム塩とエチレンカーボネートのような溶媒によって構成される。液体の電解質は正極と負極の間に満たされ充放電によってリチウムイオンが移動する。一般的に室温 ({{Val|20|u=degC}}) での電解質の導電性は {{Val|10|ul = mS|upl = cm}} ({{Val|1|ul = S|upl = m}}) で {{Val|40|u=degC}}ではおよそ{{Val|30|–|40|u=%}}で{{Val|0|u=degC}}付近ではさらに下がる<ref>{{Cite web|url=http://www.cheric.org/PDF/Symposium/S-J2-0063.pdf|title=LIQUID ELECTROYTE SYSTEMS FOR ADVANCED LITHIUM BATTERIES|format=PDF|author=R. Wenige|author2=M. Nieman|author3=U. Heider|author4=M. Jungnitz|author5=V. Hilarius|publisher=Merck KGaA|location=D-64271, Darmstadt, Germany|accessdate=2015-10-29}}</ref>。
 
しかし有機溶媒は正極で分解、変質しやすい。適切な有機溶媒を電解質に用いているにもかかわらず本質的に溶媒は分解し、相間固体電解質(SEI)と呼ばれる固体の層に変化する<ref>{{Cite book|editor-last1=Balbuena|editor-first1=P.B.|editor-last2=Wang|editor-first2|Y.X.|title=Lithium Ion Batteries: Solid Electrolyte Interphase|year=2004|publisher=Imperial College Press|location=London}}</ref>。これはリチウムイオンの導電性を妨げる。相間は充電後の電解質の分解を防止する。一例としてエチレンカーボネートはリチウムより{{Val|0.7|u=V}}高電圧で分解し高密度で相間は安定である。
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まだアイデアの域を出ないものの「[[カルシウム]]イオン電池」というのも研究されている(一般乗用車に搭載されているカルシウム電極電池、通称「MFバッテリー」とは異なる)。この電池は電池の電圧がリチウムイオン電池よりやや落ちる(理論電圧は満充電で{{Val|3.5|u=V}}程度)が、リチウムイオン {{Val|1|u=mol}} を両極間でやりとりするのに対してカルシウムイオン 1mol を両極間でやりとりする場合、2倍の電流密度が得られる(2価のため)という強みがある。電解液には {{Chem|Ca(ClO|4|)|2}}、{{Chem|Ca|2|[Fe(CN)|6|]}} などを非プロトン極性溶媒に溶解した液を用いる。電極材料としては{{Chem|CaMn|2|O|4}}/{{Chem|MoS|2}}系が有望視されている。そのほか、[[マグネシウム]]や[[ナトリウム]]を使うアイデアもある。
 
== 水溶液系リチウムイオン電池 ==
{{main|水系リチウムイオン電池}}
従来のリチウムイオン電池では水の電気分解の電圧である1.23V以上の起電圧のため、可燃・有毒・高価な非水系電解質の使用が必須であったが、近年、[[水溶液]]系の電解質([[イオン液体]])を使用するリチウムイオン電池の開発が進みつつある。複数の手法が提案されており、一つは二成分高濃度電解質‘‘water-in-bisalt’’ (WiBS)などを用いる方法でもう一方は[[イオン液体]]を使用する手法でそれぞれ一長一短がある。WiBSの使用では0.5V(vs.Li/Li+)以下では水素が発生するので一般的なLiB電極は使用できないので[[グラファイト]]負極やリチウム金属表面に保護膜を形成して水の電気分解を生じさせない手法が提案される<ref name="ALIB"/><ref>Yang, Chongyin, et al. "[https://www.cell.com/joule/pdf/S2542-4351(17)30034-X.pdf 4.0 V aqueous Li-ion batteries.]" Joule 1.1 (2017): 122-132.</ref><ref>Sun, Wei, et al. "“[http://cswang.umd.edu/files/2018/02/166-2et62ow.pdf Water-in-Salt” electrolyte enabled LiMn2O4/TiS2 Lithium-ion batteries.]" Electrochemistry Communications 82 (2017): 71-74.</ref>。
 
水溶液系の[[電解質]]を使用することにより、従来の非水系電解質のリチウムイオン電池の製造工程で必須であった湿度0%の徹底した[[除湿]]が不要になるため、作業環境の向上、費用低減が可能になるとともに、発火等のリスクが下がり、安全性が向上する事が期待される<ref>{{cite web|title=新たなリチウムイオン伝導性液体の発見 -水を用いた安全・安価・高性能な超 3 V 動作リチウムイオン電池へ- |url=http://www.t.u-tokyo.ac.jp/shared/press/data/setnws_20160829104914824439422318_505588.pdf |format=PDF|accessdate=2018-12-06}}</ref><ref>{{cite web |title=水で作れる電解液を新発見、リチウムイオン電池を安く安全に |url=http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1608/30/news038.html |accessdate=2018-12-06 }}</ref><ref name="ALIB">{{cite web |title=Aqueous Li-Ion Batteries |url=http://lithiumion.info/myblog/?tag=水系リチウムオン電池 |accessdate=2018-12-06 }}</ref><ref name="ALIB02">{{cite web |title=水を電解液に用いたリチウムイオン電池 |url=https://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/news/16/082603735/ |accessdate=2018-12-06 }}</ref>。
 
== ナノワイヤーバッテリー ==
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=== 概要 ===
従来の炭素系負極を大きく超える容量を持つ事から珪素負極が研究(一部実用化)されているが、リチウムイオンの出入り([[インターカレーション]])によって珪素が数倍の体積に膨らむことから亀裂を生じやすく、充放電を繰り返した際の劣化(容量低下)を起こしやすい点が問題である。
 
さて、材料をナノサイズ化すると一般的に体積変化に対する柔軟性が増す事が知られている。このため現在研究されている珪素系負極はほぼ全て珪素を[[ナノ粒子]]化し、それを導電性炭素などで繋いだ構造となっている。これに対し、スタンフォード大のCui博士のグループが開発した珪素ナノワイヤー系負極は、非常に長いナノワイヤーを電極として利用する事で電極末端までの電子の流れをスムーズにし、体積変化による劣化はワイヤー径がナノサイズである事で回避、さらにその非常に大きな表面積のためにLiイオンの侵入も容易で高速での充放電を可能とした。彼らの実験結果によれば、既存の炭素系負極に対し初期容量で10倍、その後の充放電でも8倍程度の容量を維持している<ref>{{Cite web|url=http://gm-volt.com/2007/12/21/gm-voltcom-interview-with-dr-cui-inventor-of-silicon-nanowire-lithium-ion-battery-breakthrough/|title=Interview with Dr. Cui, Inventor of Silicon Nanowire Lithium-ion Battery Breakthrough|date=2007-12-21|accessdate=2015-10-29}}</ref>。
 
なお、彼のグループはその後も様々な[[ナノマテリアル|ナノ材料]]を用いた電極開発を行っており、2011年には[[ナノワイヤー]]状の炭素により覆われた硫黄を作成し、正極材料としての優れた特性を報告している<ref>{{Cite journal|doi=10.1021/nl2027684|journal=Nano Lett.|volume=11|pages=4462-4467|year=2011|title=Hollow Carbon Nanofiber-Encapsulated Sulfur Cathodes for High Specific Capacity Rechargeable Lithium Batteries|author1=Guangyuan Zheng|author2=Yuan Yang|author3=Judy J. Cha|author4=Seung Sae Hong|author5=Yi Cui}}</ref>。硫黄正極は現在使われている{{Chem|LiCoO|2}}や{{Chem|LiFePO|4}}といった正極材料の10倍程度の容量(単位重量あたり)を実現可能であり特に韓国系メーカーが中心となって開発を進めているのだが、サイクル特性が悪く充放電により急速に劣化する点が問題となっている。彼らの作成した炭素被覆硫黄ナノワイヤー正極では、炭素により覆われる事で硫黄の溶け出しを防止する事でサイクル特性が向上、約150回の充放電後でも700 mAh/gと非常に大きな容量が維持されている。
 
ただしこれら十分に制御されたナノ構造を量産段階の電池に応用するにはまだ困難も多く、こういった技術が即座に製品として市場に出回るわけでは無い。
 
== ナノボールバッテリー ==
=== 概要 ===
ナノボールバッテリーはナノワイヤバッテリーと同様の発想で電極の素材をナノサイズ化する事でイオンの[[インターカレーション]]に伴う体積変化への柔軟性を増し、出力密度、サイクル特性を向上させる<ref>He, Guang, et al. "[http://www.science.uwaterloo.ca/~lfnazar/publications/ACSNano_2013_7_10920.pdf Tailoring porosity in carbon nanospheres for lithium–sulfur battery cathodes.]" Acs Nano 7.12 (2013): 10920-10930.</ref><ref>Zheng, Guangyuan, et al. "[https://www.researchgate.net/profile/Hyun_Wook_Lee/publication/264246344_Interconnected_hollow_carbon_nanospheres_for_stable_lithium_metal_anodes/links/53f7a5660cf24ddba7da0fba.pdf Interconnected hollow carbon nanospheres for stable lithium metal anodes.]" Nature nanotechnology 9.8 (2014): 618.</ref>。超高速充放電が可能になると期待されるものの、課題も多く、多数のナノボールを電極として固定する事が困難で[[インターカレーション]]に伴う体積変化によって劣化する事が指摘されており、2018年現在、量産化の目途は立っていない。
 
== リン酸鉄リチウムイオン電池 ==