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また、[[根]]が太く、[[発泡スチロール]]のように膨らんだ感じのものが多い。根の細胞には[[菌類]]が[[共生]]して[[菌根]]を形成しており、ラン科独特の構造から[[ラン菌根]]と呼ばれる。なお、かつては一部の植物のみが菌根を作るとされてきたが、現在では陸上植物のほとんどが菌類と共生していることが知られる。ただし、そのほとんどが[[グロムス類]]であるのに対して、ラン科のものは[[担子菌]]類と共生している点が独特である<ref>Yukawa et al.(2009)</ref>。
 
ラン科植物の[[種子]]はほこりのように細かい。例えば[[レブンアツモリソウ]]の種は、[[小麦]]の種子(約50mg)の1万分の1の重さ(約5μg)しかない。<ref>[http://www.rareorchids.org/custom.html ランの種子の特徴と共生菌]</ref>。未成熟な胚のみで[[胚乳]]もなく、ほとんど貯蔵養分を持っていない。このような小さな種子は、適切な菌類と出会う確率は非常に少なくなるため、一度に100万を超える種子を造る。
ラン科植物の[[種子]]はほこりのように細かく、未成熟な胚のみで[[胚乳]]もなく、ほとんど貯蔵養分を持っていない。自然下では[[発芽]]の際に菌類が共生して栄養を供給する。さらに菌類への依存を強め、自分自身は[[光合成]]をせず菌類にたよって生きる、[[腐生植物]]になっているものがいくつもの群に見られる。ラン科植物の種子は、その内部に未分化な細胞塊があるだけで[[子葉]]を退化させている。例外的に子葉を持つものとして[[シラン属]]、[[プレティア属]]、[[ナリヤラン属]]、[[ソブラリア属]]などが知られている。これらの属は、外形的に[[ササ]]や[[ヨシ]]に似た姿で、多くが日当たりのよい場所の地面に生える点でも共通しており、これはラン科の起源を考える上で興味深い点との指摘がある<ref>西村(1997)</ref>。
 
自然下では、適切な菌類と運良く出会うことが種子の発芽の条件となる。まず菌類が種子内に侵蝕する。種子細胞は、菌類を細胞壁と細胞膜の間に閉じ込め、[[ペロトン]](菌毬、{{Lang-en-short|Peloton}})と呼ばれる構造を造る。また、菌類に対する[[抗菌物質]]を出して[[成長点]]を守っている。種子細胞はペロトン内の菌を消化し栄養とすることで育っていくが、種子細胞の成長条件が悪かったり、ペロトンの消化が弱かったりすると逆に菌に侵蝕されてしまい腐ってしまう。ラン植物では発芽初期に一般の種子植物に見られるような[[子葉]]を退化させており、種子内部に未分化な細胞塊があるだけで自分自身では全く[[光合成]]をせず栄養を菌類のみへ頼る[[腐生植物]]になっているものがいくつもの群に見られる。つまり子葉をもつランは例外的であり、[[シラン属]]、[[プレティア属]]、[[ナリヤラン属]]、[[ソブラリア属]]などが知られている。これらの属は、外形的に[[ササ]]や[[ヨシ]]に似た姿で、多くが日当たりのよい場所の地面に生える点でも共通しており、これはラン科の起源を考える上で興味深い点との指摘がある<ref>西村(1997)</ref>。
上記のように、ラン科植物は発芽初期には、共生能力を有する特定種の菌類から養分を提供されなければ通常は発育できない。そのためランは共生菌が存在しにくい栽培下では、親株なら栽培できても種子から育成することは(一部の例外的な種類を除いて)難しい。これを克服する方法として、糖含有培地に播種して初期生育に必要な養分を幼植物に供給し、共生菌を利用することなく種子の発芽・生長を可能にする[[無菌播種]]という技法が考案されている。ほとんどの[[着生ラン]]の種子は、その種にとって好適な養分を含んだ培地に播種して適温に保てば容易に発芽・生育する。一方で多くの地生ラン(温帯以北に分布する種類ではほとんど全種類)では種子に休眠性があったり、菌依存性が強く発芽・生育に特殊な発芽条件、あるいは複雑な栄養要求性をもつ場合があり、着生ランと同じ播種方法・培地組成では育成できない場合が多い。[[腐生植物]]である[[腐生ラン]]にいたっては栽培、移植技術がそもそも研究されていない種類も多数ある。
 
ラン科植物は共生菌が存在しにくい栽培下では、親株なら栽培できても種子から育成することは(一部の例外的な種類を除いて)難しい。これを克服する栽培方法として、[[培地]]を使った方法が考案された。糖含有培地に播種して初期生育に必要な養分を幼植物に供給し、共生菌を利用することなく種子の発芽・生長を可能にするというもので、この技法を「[[無菌播種]]」と呼んでいる。洋ランの多くは[[着生ラン]]で、ほとんどの着生ランはその種にとって好適な養分を含んだ培地に播種して適温に保てば種子は容易に発芽して生育する。
近年は、シュート先端にある生長点を切り出して培養する[[メリクロン]]など、[[組織培養]]で増殖する技術も進歩してきている。これは、種子で殖やす場合と異なり、優良な個体を大量に増殖することができるため、いわゆる「洋ラン」の営利栽培では欠かすことのできない技術となっている。しかし、この技法も温帯以北産の地生蘭の場合には技術的に確立されていない種類が大部分を占め、それらのランでは主要な生産技術になりえていない。
 
一方で、温帯以北に分布するほとんどの種類は[[地生ラン]]といい、着生ランと同じ播種方法・培地組成では育成できない場合が多い。これは、種子に休眠性があったり、菌依存性が強く発芽・生育に特殊な発芽条件、あるいは複雑な栄養要求性をもつ場合があるためである。さらに生活環のすべてを菌根に依存する[[腐生植物|腐生ラン]]にいたっては栽培、移植技術がそもそも研究されていない種類が多数ある。
[[森林]]性や[[湿地]]性のものが多いが、[[草原]]に生息するもの、乾燥地に生息するもの、極地や高山にも分布するものがある。しかし分布の中心はやはり[[熱帯]]の湿潤な地域で、[[熱帯雨林]]では一本の木に何十種類ものランが着生する例がある。蘭の多くは特に夏場の強い直射日光に弱く、とりわけ胡蝶蘭などの園芸においては直接の日光は避けることが求められる。
 
近年は、[[シュート_(植物)|シュート]]の先端にある生長点を切り出して培養する[[メリクロン]]など、[[組織培養]]で増殖する技術も進歩してきている。これは、種子で殖やす場合と異なり、優良な個体を大量に増殖することができるため、いわゆる「洋ラン」の営利栽培では欠かすことのできない技術となっている。しかし、この技法も温帯以北産の地生蘭の場合には技術的に確立されていない種類が大部分を占め、それらのランでは主要な生産技術になりえていない。
 
[[森林]]性や[[湿地]]性のものが多いが、[[草原]]に生息するもの、乾燥地に生息するもの、極地や高山にも分布するものがある。しかし分布の中心はやはり[[熱帯]]の湿潤な地域で、[[熱帯雨林]]では一本の木に何十種類ものランが着生する例がある。蘭の多くは特に夏場の強い直射日光に弱く、これも菌根菌の生活条件と深く関わりがある。とりわけ胡蝶蘭などの園芸においては直接の日光は避けることが求められる。
 
== 利用 ==