「リアリズム法学」の版間の差分

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'''リアリズム法学'''(Legal Realism)とは、20世紀の前葉に興隆した法学革新運動の一つである<ref>ただし、後述するように、リアリズム法学を運動や学派と捉えることには疑義が呈されている。</ref>。当時の主流派は、「形式主義法学」と呼ばれ<ref>本用語は、大屋雄裕(2014)「批判理論」同他編『法哲学』有斐閣、p.300よりした。</ref>と呼ばれ、①法は、政治といった他の社会的制度から独立したルールの体系であり、②法解釈は、そうしたルールを三段論法等によって論理的・客観的に行われるし、行われるべきであると考えていた。リアリズム法学は、こうした主流派の考えを痛烈に批判し、①法は、政治政策やイデオロギーから独立した中立的ルール等ではなく、また、②法解釈は論理性や客観性を装っているが、現実には裁判官によって実質的な立法が行われているのだ、と主張した。
 
==歴史的背景==
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法は安定していなければならないが、 しかし同時に、 静止することもできないのである。 それゆえに、 〔歴史上の〕あらゆる法思想は、 安定の必要と変化の必要という衝突する要請を調和させるために努力してきたのだ。<ref>Roscoe Pound (1922) ''An Introduction to the Philosophy of Law'', Yale University Press, introduction</ref>
 
その内的な構造の精密さによってではなく、それが達成する結果によって判断されなければならない。それは、その論理的なプロセスの美しさや、それがその基礎と見なすドグマからそのルールが生じる厳密さによってではなく、それがその目的を達成する程度によって評価されなければならない。<ref>)Roscoe Pound (1908) “Mechanical Jurisprudence”, 8 ''Columbia Law Review'' 605, p.605. なお訳出は、戒能通弘(2011)「近代英米法思想の展開(4・完)」『 同志社法学』63巻1号、p.664に依る</ref>(戒能664)
 
パウンドは、リアリズム法学が興隆するにつれ、リアリズム法学を痛烈に批判することになるが<ref>Roscoe Pound (1931) “The Call for a Realist Jurisprudence”, 44 ''Harvard Law Review'' 697 </ref>、元来その主張の主旨は、リアリズム法学と通底するものであると考えられる<ref>森村進(2016)「リアリズム法学は社会学的法学とどこが違うのか」同編『法思想の水脈』法律文化社</ref>。
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こうしたリアリズム法学の主張は、アメリカにおいて大きな論争を巻き起こして形式主義法学に対して変容を迫るものであった。そして、リアリズム法学は、論争の中で実際に一定の受容がなされ、折衷的に、1950年代から60年代にかけて力を持ったヘンリー・ハート(Henry Hart)らのプロセス法学(Legal Process)等に受け継がれることになる<ref>大屋雄裕(2014)「批判理論」同他編『法哲学』有斐閣、p.301-302</ref>。
 
また、リアリズム法学は、戦後GHQの指導下にあったこと等から日本にも流入し、経験的事実の観察を重視する「経験法学研究会」設立の契機の一つとなった<ref>長谷川晃(2004)「日本の法理論はどこから来たのか」角田猛之=長谷川晃編『ブリッジブック法哲学』信山社、pp.51-52</ref>。本研究会は、民法学者の川島武宜と法哲学者の碧海純一が中心となって、東京大学において設立したものであり、そこでの議論・人脈が後の日本の法学界に対して大きな影響を与えることになった<ref>経験法学研究会については、平井宜雄(1997)「『法的思考様式』を求めて――三五年の回顧と展望」北大法学論集47巻6号、pp.119-129</ref>。
 
こうして、「いまや我々は皆リアリズム法学者である(We are all legal realists now)」などと述べられるようになるが、その継受が実質的に不徹底で歪められたものであることを問題視し、1970年代後半に、リアリズム法学から強い影響を受けた[[批判法学]](Critical Legal Studies)が勃興し、新たに注目されるようになる<ref>見崎史拓(2018)「批判法学の不確定テーゼとその可能性(1)――法解釈とラディカルな社会変革はいかに結合するか」『名古屋大学法政論集』276号、pp.211-212</ref>。また、経験的事実の重視という側面を強調し、最新の社会科学の知見を取り入れることでリアリズム法学の再興を図る「新リアリズム法学(New Legal Realism)」といった学派や<ref>岡室悠介(2007)「アメリカ憲法理論における『法』と『政治』の相剋――新リアリズム法学を中心に」『阪大法学』63巻 2 号</ref>、「[[法と経済学]](Law and Economics)」といった学派も、近年盛んに論じられている。リアリズム法学の可能性は、まだ十分に検討され尽くしてはいないのである。<br />
 
== 脚注・参照 ==
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==関連項目==
*[[プラグマティズム法学]]
*[[批判法学]]
 
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[[Category:法哲学]]
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== 脚注・参照 ==