「ファウスト (グノー)」の版間の差分

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[[File:Ary Scheffer Faust et Marguerite.jpg|thumb|upright=1.3|[[アリ・シェフェール]]によるファウストとマルグリート]]
『'''ファウスト'''』({{lang-fr| ''Faust''}})は、[[シャルル・グノー]]が作曲した全5幕の[[オペラ]]。[[ドイツ]]の文豪[[ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ|ゲーテ]]の[[劇詩]]『[[ファウスト]]』を題材にしている。原作がドイツ語なのに対して、オペラはフランス語である(フランス語題名は『フォースト』)。初演は[[1859年]][[3月19日]]に、パリの{{仮リンク|リリック座|fr|Gaîté-Lyrique}}で行われた<ref>『歌劇大事典』P176</ref>。「清らかな住まい」や「金の子牛の歌」、「宝石の歌」などをはじめとするアリア、第5幕で踊られる[[バレエ音楽]]は非常に有名で、単独で演奏会や録音で取り上げられる機会が多い。
{{Portal クラシック音楽}}
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[[File:Charles Gounod by Nadar in 1870.png|thumb|left|upright=0.65|[[ナダール]]撮影のグノー]]
『新グローヴ オペラ事典』では本作は「ゲーテの戯曲が要求する形而上学的な意義が陳腐な感傷の犠牲になったと見なされる一方で、音楽様式は劇的な明暗に乏しく、単に優雅で時には甘ったるいと批判されてきた。その対極にあるのが、多くの場面に見られる優れた舞台上の効果である。-中略-教会の場面では古風なオルガンの前奏、典礼風のコラール及びゴシック様式の舞台装置といった非人間的な背景からマルグリートの孤立が浮かび上がる。さらに、メフィストフェレスの哄笑と共に、先に弱音で現れた旋律がオーケストラによってフォルティシモで、しかも断片的に演奏される第3幕幕切れはすこぶる印象的なので、[[アミルカレ・ポンキエッリ|ポンキエッリ]]や[[フランチェスコ・チレア|チレア]]などもこの方法を採用した。最後の昇天の場面は音楽的高揚へと至る壮大なクライマックスへと効果的である」と指摘している<ref>『新グローヴ オペラ事典』P559</ref>。
『フランス・オペラの魅惑』の著者である澤田肇は本作では「第3幕での宝石や花占いの歌、第4幕での紡ぎ車の歌、第5幕での清らかな天使たちの歌などは繊細なうちに広がる歓喜、期待、悲しみ、高潔の情感の極致に達する。女性の愛と美を称揚する〈女性の音楽家〉という意味で、グノーは [[ジュール・マスネ|マスネ]] と双璧をなすフランス・オペラの代表的作曲家と言えるのである」<ref>『フランス・オペラの魅惑』P130</ref>と述べている
『オペラ史』を著した{{仮リンク|ドナルド・ジェイ・グラウト|label=D・J・グラウト|en|Donald Jay Grout}}は「グノーの劇音楽の代表作である『ファウスト』は歴史上かつてないポピュラーな作品になった。-中略-フランス以外の45カ国で24の異なる言語で上演されているきた。グノーと台本作者がゲーテの原作の第一部の恋愛部分だけに範囲を絞ったのも確かに賢明であった。-中略-[[エクトル・ベルリオーズ|ベルリオーズ]]は彼にしては珍しくグノーの音楽を褒め、特にファウストのアリア「清らかなる君の住居」(Salut! demeure chaste et pure)と第3幕の愛の2重唱の結尾を褒め上げた。しかし、このスコアはほとんどひとつ残らず、どの番号も有名である」と述べている<ref>『オペラ史』下巻P500~501</ref>。
 
== 関連作品(ドイツ文学の影響) ==
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| マルグリート|| [[ソプラノ]] || 村の若く美しい娘||マリー=カロリーヌ=ミオラン・カルヴァロ
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| ヴァランティン || [[バリトン]] || マルグリートの兄。<br>兵士||オズモンド・レイナル
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| ジーベル|| [[メゾソプラノ]] || 村の若者。<br>ヴァランティンの友人で、マルグリートに恋している||アメリー・フェーヴル
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[[File:Faust by Gounod Act1 1864 Covent Garden lithograph NGO2p132.jpg|thumb|upright=1.1|ファウストにマルグリートの幻影を見せるメフィストフェレス]]
 
管弦楽による短い前奏がファウストの苦悩を表す。半音階的テクスチュアが博士の博識を、また牧歌的な地方色に彩られた音楽が自然の純朴な喜びを表現している。老学者ファウストが自分の書斎で、人生をかけた自分の学問が無駄であったと嘆いている。空しい人生に終わりを告げるため、服毒自殺を図るが、外から楽しそうな少女たちの牧歌的な合唱が聞こえてくるので、2度思いとどまる。ファウストが人生の快楽を呪っていると、そこに悪魔メフィストフェレスが現れ、2重唱「私はここにおります」(Me voici!)となり、ファウストの望みは欲しいものは、金か名誉かと聞くという。ファウストは[[カバレッタ]]「私に快楽を」(A moi les plaisirs!)を歌って青春を望むが、その代償としてメフィストフェレスはファウストに死後の魂を渡すように言う。ファウストがためらっていると、メフィストフェレスは美しい娘マルグリートの幻影を見せる。ここでの旋律は後の庭の場面で歌われる2重唱を先取りしている。幻影に魅せられたファウストは死後の魂を渡すという契約書を書き、にサインする。若返りの薬を飲んで一瞬で若者になる。2人は二重唱で「私に快楽を」を初回より半音高く繰り返して幕となる。
 
=== 第2幕 ===
 
市と祭りで賑わう街の広場で、マルグリートと村人学生たち、兵士たち、若い娘たち、既婚女性たちがにぎやかに合唱している。最初は個別に歌われるが、やがて[[マイアベーア]]風に[[対位法]]でまとめられ、華やかに締めくくられる。今日は、マルグリートの兄ヴァランティンが出征する日、彼はマルグリートにもらった小さなメダルを手に持っている。ヴァランティンは妹を一人残して出征する悩みアリア「出征を前に」(Avant de quitter ces lieux)を歌い、ジーベルとワーグナーらにマルグリートを頼む。ワーグナーが「ねずみ中に歌」(Un rat plus poltron que brave)を歌ったところで、メフィストフェレス入ってこの世はすべて金が第一だと「金の子牛の歌」「金の子牛はずっと立ってる!」(Le veau d'or est toujours debout!)を歌う。その後、メフィストフェレスはワーグナーやジーベルの手相を見ながら不吉な事を言うので、悪魔であることがばれてしまい退散する。一方でファウストはマルグリートに恋心を抱いて愛を告白するが、マルグリートに慎み深断られる。悲劇のヒロインの登場はのどかな[[ディヴェルティメント]]を背景とした短く控え目なものだが、それだけに一層強い印象を残す
 
=== 第3幕 ===
[[File:Faust by Gounod Act3 1859 engraving by Lamy NGO2p134.jpg|thumb|upright=1|第3幕のマルグリートの庭、初演時のリトグラフ]]
 
村の若者ジーベルは恋するマルグリートのところに現れ「花の歌」(Faites-lui mes aveux)歌ってマルグリートに花を贈ろうとするが、メフィストフェレスの計略により、花はすぐに枯れてしまう。それでも何とか花輪を作り、それをマルグリートの家の玄関に置き、立ち去る。そこにファウストとメフィストフェレスが登場する。ファウストは彼女の幸福な暮らしぶりを見て感動しアリア「この清らかな住まい」(Salut! demeure chaste et pure)を歌う。メフィストフェレスが用意した宝石入りの小箱を玄関に置いて2人は立ち去る。
マルグリートは祭の日に声をかけられたファウストのことを忘れられず、糸を紡ぎならが[[バラード]]「トゥーレの王」(Il était un roi de Thulé)を歌いながら登場現れるメフィストフェレスは扉の外にそっと宝石箱を置く。マルグリートは玄関に置かれた宝石を見つけ驚き、身に着けながら[[カバレット]]「宝石の歌」(Air des bijoux)を憧れと伴に歌う。マルグリートの友人のマルトが現れ、宝石について話しているときにファウストとメフィストフェレスが登場して四重唱「少しの間でも私の腕を取って」(Prenez mon bras un moment)となる。ファウストはマルグリートを、メフィストフェレスはマルトをそれぞれ口説く。やがて、マルグリートは頑なに愛の告白を拒むが、最終的にファウストの愛を受け入れる。
 
マルグリートが「トゥーレの王」(Il était un roi de Thulé)を歌いながら登場。玄関に置かれた宝石を見つけ驚き、身に着けながら「宝石の歌」(Air des bijoux)を歌う。マルトが現れ、宝石について話しているときにファウストとメフィストフェレスが登場する。ファウストはマルグリートを、メフィストフェレスはマルトをそれぞれ口説く。やがて、マルグリートはファウストの愛を受け入れる。
 
=== 第4幕 ===
[[File:Faust by Gounod Act 4 scene 3 design by Cambon - Essai sur l'histoire du theatre p553.jpg|thumb|upright=1|第4幕3場、カンボンによるデザイン]]
 
ファウストはマルグリートの元から去り、マルグリートは糸をつむぎながら来ぬ人を待っている。彼女はファウストにもてあそばれ彼の子供を身ごもっていたが、それでもなおファウストを忘れられず、彼は戻ってこない(Il ne revient pas)と「紡ぎ車の歌」を歌う。マルグリートは教会で祈るっていると、ジーベルがやってきてファウストへの復讐をはかるが、マルグリートはこれを拒む。悪魔たちの合唱がマルグリートを包む。広場では兵士たちが「我らの父祖の不滅の栄誉」(Gloire immortelle)を合唱する。ヴァランティンが軍から帰ってきて、妹のマルグリートが騙され未婚の母になったことを聞き、妹の変わり果てた姿を見て怒る。ファウストとメフィストフェレスが登場。マルグリートの家の前でファウストは後悔に苦悩するが、メフィストフェレスは[[セレナード]]「眠った振りをせずに」(Vous qui faites l'endormie)を歌い、不気味に笑う。ヴァランティンはファウストに決闘を挑む。しかし悪魔の力を借りたファウストに負け、死にかけたヴァランティンは死ぬ、マルグリートに「呪われろ!」と激しい言葉を残し事切れる
 
=== 第5幕 ===
 
ハルツの山中。[[ワルプルギス]]の夜。「鬼火の合唱」にのって、ファウストはメフィストフェレスに連れてこられ、ワルプルギスの酒池肉林の騒ぎの中にいる。次々に美女が現れ、踊る。ここでバレエの場面となる(省略されることもある)。しかし、ファウストはマルグリートを忘れられず、マルグリートの幻影を見る。ファウストがマルグリートのところへ戻ると、マルグリートは生まれた子供を殺した罪で牢獄の中にいた。再会したマルグリートとファウストは喜び、愛の二重唱「そう、それは私だ!愛している!」(Oui, c'est moi, je t'aime!)を歌う。しかし、マルグリートは気が狂っていた。ファウストとメフィストフェレスは牢から逃れさせようするが、マルグリートはついてこうとしない。そこへメフィストフェレスが現れ、フィナーレの三重唱を展開となる。そのとき牢獄の壁が開いてマルグリートの魂が昇天してゆく。メフィストフェレスは大天使ミカエルの剣によって倒される。マルグリートが神に祈ると、天使たちの合唱「救われた!キリストはよみがえられた!」(Sauvée! Christ est ressuscité!)が聞こえ、マルグリートは神の元に救済されていく。
 
== 有名な楽曲 ==