「時間外労働」の版間の差分

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→‎時間外労働の制限: 働き方改革関連法で時間外労働に規制
改正法施行により改訂
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{{law}}
'''時間外労働'''(じかんがいろうどう)とは、[[労働基準法]]等において、法定[[労働時間]]を超える労働のことをいう<ref>通常は、就業規則等で定められた所定労働時間を超えて労働することの意味で用いられるが、法的には、所定労働時間を超えても、法定労働時間を超えなければ「時間外労働」とはならない。</ref>。同じ意味の言葉に、'''残業'''(ざんぎょう)、'''超過勤務'''(ちょうかきんむ)、'''超勤'''(ちょうきん)がある。
 
日本の法令において、時間外労働が許されるのは以下の3つのうちのいずれかに当てはまる場合に限られる。以下[[労働基準法]]は条数のみ記す。
 
* [[#災害等の場合|災害その他避けることができない事由]]によって、臨時の必要がある場合において、使用者が[[行政]][[官庁]](所轄[[労働基準監督署]]長)の'''[[許可]]'''を受けて、その必要の限度において労働させる場合(事態急迫の場合は、事後に届け出る)(第33条1項)。
* 官公署の事業(一部の事業を除く)に従事する[[国家公務員]]及び[[地方公務員]]が、[[公務]]のために臨時の必要がある場合(第33条3項)。
* 第36条に基づき、'''[[労使協定]]を書面で締結し'''、これを行政官庁(所轄労働基準監督署長)に'''届け出た'''場合(いわゆる'''[[#三六協定|三六協定]]'''(さぶろくきょうてい)<ref>[http://www.bengo4.com/roudou/n_3552/?via=google_plus 新入社員が「社員旅行」に行かないと言い出したーーイヤなら参加しなくてもいいのか?]弁護士ドットコム</ref>)。
 
労働者の自発的な時間外労働は、使用者の指示・命令によってなされたものとはいえないので、労働基準法上の時間外労働とは認められない(東京地判昭和58年8月5日)。ただし、使用者の指示した仕事が客観的にみて正規の時間内ではなされえないと認められる場合のように、超過勤務の'''黙示の指示'''によって法定労働時間を超えた場合には時間外労働となる(昭和25年9月14日基収2983号)。
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いわゆる「管理監督者」等の[[労働時間#労働時間の特例・適用除外|第41条該当者]]については、第33条、第36条等の時間外労働に関する規定は適用されないので、これらの手続きによることなく時間外労働をさせることができ、当該時間外労働に対する割増賃金の支払いも必要ない。
 
平成31年4月の改正法施行により、内容及び手続きが大幅に改められた。[[長時間労働]]は、健康の確保だけでなく、仕事と家庭生活との両立を困難にし、[[少子化]]の原因や、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参加を阻む原因となっている。これに対し、長時間労働を是正すれば、[[ワーク・ライフ・バランス]]が改善し、女性や高齢者も仕事に就きやすくなり、労働参加率の向上に結びつく。こうしたことから、時間外労働の上限について、「労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(平成10年労働省告示第154号。以下「限度基準告示」という。)に基づく[[行政指導|指導]]ではなく、これまで上限無く時間外労働が可能となっていた臨時的な特別の事情がある場合として'''労使が合意した場合であっても、上回ることのできない上限を法律に規定し、これを[[罰則]]により担保する'''ものである(平成30年9月7日基発0907第1号)。
*以下[[労働基準法]]は条数のみ記す。
 
== 可能なケース ==
日本の法令において、時間外労働が許されるのは以下の3つのうちのいずれかに当てはまる場合に限られる。
 
* [[#災害等の場合|災害その他避けることができない事由]]によって、臨時の必要がある場合において、使用者が[[行政]][[官庁]](所轄[[労働基準監督署]]長)の'''[[許可]]'''を受けて、その必要の限度において労働させる場合(事態急迫の場合は、事後に届け出る)(第33条1項)。
* 官公署の事業(一部の事業を除く)に従事する[[国家公務員]]及び[[地方公務員]]が、[[公務]]のために臨時の必要がある場合(第33条3項)。
* 第36条に基づき、'''[[労使協定]]を書面で締結し'''、これを行政官庁に'''届け出た'''場合(いわゆる'''[[#三六協定|三六協定]]'''(さぶろくきょうてい)。
 
=== 災害等の場合 ===
「災害その他避けることができない事由」とは、災害発生が客観的に予見される場合をも含む(昭和33年2月13日基発90号)。
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=== 三六協定 ===
{{Quotation| 第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその[[労働組合]]、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。<br> ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、一日について二時間を超えてはならない
}}
 
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三六協定を締結し、所轄労働基準監督署への届出を行わずに残業を行わせた使用者に対して、厚生労働省は'''「36(サブロク)協定のない残業は犯罪です!!」'''とするリーフレットを配布し、周知をはかっている。
 
'''三六協定'''(さぶろくきょうてい)には、以下の事項を定めなければならない(第36条2項)。平成31年4月の改正法施行により、それまで施行規則第16条1で定めていた事を法本則で定めることとなった
# 三六協定により労働時間外またを延長し、又は休日労働させる必要のあことができ具体的事由こととされる労働者の範囲
#: 時間外・休日労働は臨時的の場合に限されるの対象「業務趣旨から、でき種類」及び「労働者数」を協定すだけ具体的ものであることが望ましい昭和23平成30年9月137日基発0907171号)。
# 対象期間(時間外・休日労働協定により労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる期間をいい、1年間に限るものとする。以下同じ)
# 業務の種類
#: 三六協定において、1年間の上限を適用する期間を協定するものであること。なお、事業が完了し、又は業務が終了するまでの期間が1年未満である場合においても、三六協定の対象期間は1年間とする必要があること(平成30年9月7日基発0907第1号)。
#: 業務の区分を細分化することにより当該必要のある業務の範囲を明確にしなければならない(平成21年5月29日厚生労働省告示316号)。これは、業務の区分を細分化することにより当該業務の種類ごとの時間外労働時間をきめ細かに協定するものとしたものであり、労使当事者は、時間外労働協定の締結に当たり各事業場における業務の実態に即し、業務の種類を具体的に区分しなければならないものである。例えば、労働時間管理を独立して行っている各種の製造工程が設けられているにもかかわらず業務の種類を「製造業務」としているような場合は、細分化が不十分であると考えられる(平成11年3月31日基発169号)。
# 労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる場合
# 労働者の数
#: 時間外労働又は休日労働をさせる必要のある具体的事由について協定するものであること(平成30年9月7日基発0907第1号)。時間外・休日労働は臨時的の場合に限定されるとする法の趣旨から、できるだけ具体的であることが望ましい(昭和23年9月13日発基第17号)。
#: 協定した時点の労働者数を書けば足りる。協定以後に労働者数が変動した場合にも改めて届け出る必要はない。
# 「1日」及び1日を超える一定の対象期間(「における1日を超え3、1ヶ月以内の期間」及び1年のそれぞれの期」)について労働時間を延長して労働させることができる時間又は労働させることができる休日の日数
#: 改正前の三六協定は、「1日」及び「1日を超える一定の期間」についての延長時間が必要的協定事項とされていたが、今般、第36条4項において、1ヶ月について45時間及び1年について360時間(対象期間が3ヶ月を超える1年単位の変形労働時間制により労働させる場合は1ヶ月について42時間及び1年について320時間)の原則的上限が法定された趣旨を踏まえ、改正後の三六協定においては「1日」、「1ヶ月」及び「1年」のそれぞれの期間について労働時間を延長して労働させることができる時間又は労働させることができる休日の日数について定めるものとしたものであること(平成30年9月7日基発0907第1号)。
#: 「1日」についてのみ、又は一定期間についてのみの協定は要件を満たさないので、双方を協定しなければならない。但し1日協定及び[[フレックスタイム制]]の協定はこの限りでない。なお、これらの期間に加えて「3ヶ月を超え1年未満の期間」について労使当事者が任意に協定することを妨げるものではない。
# 労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするために必要な事項として厚生労働省令で定める事項(施行規則第17条1項、2項)
#: 「1年間」についての延長時間を必ず定めなければならないこととしているのは、1年間を通じて恒常的な時間外労働を認める趣旨ではなく、1年間を通じての時間外労働時間の管理を促進し時間外労働時間の短縮を図ることを目的としたものである(平成11年1月29日基発45号)。事業完了までの期間が1年未満である場合は、「1年間」についての延長時間を定めることは要しない。
#* 三六協定の有効期間の定め([[労働協約]]による場合を除く)
#*: 「1年有効期」について延長時間を定めなければならないため、協定の有効期間最低1年間とな形式的に[[瑕疵]]があ。ただし、協定の中で定めらと解さる3ヶ月以内の期間の延長時間につ、労働基準監督署は受理しな取り扱いとなっは、別個に1年未満の有効期間を定めることができる。なお三六労働ついて定期的に見直しよる場合は[[労働組合法]]の適用行う必要があ受けと考えられることからので必ずしも有効期間は1年間との定めをすることが望まし必要はない(平成11昭和29363129日基発169355号)。
#* 第36条2項4号の規定に基づき定める1年について労働時間を延長して労働させることができる時間の起算日
#: 有効期間の定めのない協定は形式的に[[瑕疵]]がある協定と解され、労働基準監督署は受理しない取り扱いとなっている。なお労働協約による場合は[[労働組合法]]の適用を受けるので、必ずしも有効期間の定めをする必要はない(施行規則第16条2項、昭和29年6月29日基発355号)。
#*: 三六協定において定めた、1年について労働時間を延長して労働させることができる時間を適用する期間の起算日を明確にするものであること(平成30年9月7日基発0907第1号)。
#* 第36条6項2号及び3号に定める要件を満たすこと。
#*: 三六協定で定めるところにより時間外・休日労働を行わせる場合であっても、第36条6項2号及び3号に規定する時間を超えて労働させることはできないものであり、三六協定においても、この規定を遵守することを協定するものであること。これを受け、様式第9号及び第9号の2にチェックボックスを設け、当該チェックボックスにチェックがない場合には、当該三六協定は法定要件を欠くものとして[[無効]]となるものであること(平成30年9月7日基発0907第1号)。
#* 限度時間を超えて労働させることができる場合
#*: 三六協定に特別条項を設ける場合において、限度時間を超えて労働させることができる具体的事由について協定するものであること(平成30年9月7日基発0907第1号)。
#* 限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置
#*: 過重労働による健康障害の防止を図る観点から、三六協定に特別条項を設ける場合においては、限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置(以下「健康福祉確保措置」という。)を協定することとしたものであること。なお、健康福祉確保措置として講ずることが望ましい措置の内容については、指針第8条に規定していること。使用者は、健康福祉確保措置の実施状況に関する記録を当該三六協定の有効期間中及び当該有効期間の満了後3年間保存しなければならないものであること(平成30年9月7日基発0907第1号)。
#* 限度時間を超えた労働に係る割増賃金の率
#*: 三六協定に特別条項を設ける場合においては、限度時間を超える時間外労働に係る割増賃金率を1ヶ月及び1年のそれぞれについて定めなければならないものであること。なお、限度時間を超える時間外労働に係る割増賃金率については、第89条2号の「賃金の決定、計算及び支払の方法」として就業規則に記載する必要があること(平成30年9月7日基発0907第1号)。
#* 限度時間を超えて労働させる場合における手続
#*: 限度基準告示第3条1項に規定する手続と同様のものであり、三六協定の締結当事者間の手続として、三六協定を締結する使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者(以下「労使当事者」という。)が合意した協議、通告その他の手続(以下「所定の手続」という。)を定めなければならないものであること。また、「手続」は、1ヶ月ごとに限度時間を超えて労働させることができる具体的事由が生じたときに必ず行わなければならず、所定の手続を経ることなく、限度時間を超えて労働時間を延長した場合は、法違反となるものであること。なお、所定の手続がとられ、限度時間を超えて労働時間を延長する際には、その旨を届け出る必要はないが、労使当事者間においてとられた所定の手続の時期、内容、相手方等を書面等で明らかにしておく必要があること(平成30年9月7日基発0907第1号)。
 
'''三六協定は労使協定である'''ので、使用者と、その事業場の労働者の過半数で組織する[[労働組合]](ない場合は事業場の労働者の過半数の代表者)とが時間外労働、[[休日労働]]について'''書面で締結'''しなければならない。また、労使協定は一般に締結した段階で効力が発生するものであるが、三六協定については'''行政官庁に届出なければ効力は発生しない'''。法定の協定項目について協定されている限り、労使が合意すれば任意の事項を付け加えることも可能である(昭和28年7月14日基収2843号)。
 
協定の更新拒否が業務の正常な運営を阻害する行為に該当する場合は、[[争議行為]]に該当する。(昭和32年9月9日法制局一第22号)
 
「過半数代表者」については、管理監督者以外の者から、三六協定を締結することの適否を判断する機会が当該事業場の労働者に与えられていて、かつ労働者の過半数がその者を支持していると認められる民主的な手続き(投票・挙手・話し合い・持ち回り決議等)により選出されることとしなければならない(昭和63年1月1日基発1号)。また「過半数」の算定には、労働者であれば管理監督者、出向労働者(時間については受入、賃金については支払労働者)、送り出し派遣労働者、パートやアルバイト、さらには時間外労働が制限される年少者等(昭和46年1月18日基収6206号)、協定の有効期間満了前に契約期間が終了する労働者(昭和36年1月6日基収6619号)をも含むが、[[解雇]]係争中の労働者(労働基準法に違反しないと認められる場合。昭和24年1月26日基収267号)、受入れ派遣労働者は含まない。事業場に管理監督者しかいない場合は、割増賃金率の記載のみで足りる(管理監督者であっても[[深夜労働]]に対する割増賃金の支払いは必要なため)。使用者は、労働者が過半数代表者であることもしくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取り扱いをしないようにしなければならない(施行規則第6条の2)。
 
事業場に2以上の労働組合がある場合、一の労働組合が労働者の過半数を組織していればその労働組合と三六協定を締結することで、他の組合員や組合員でない者に対しても効力は及ぶ(昭和23年4月5日基発535号)。また、協定の締結相手の要件は協定の'''成立要件であって、存続要件ではない'''と解される。したがって、三六協定の締結当事者が過半数代表者でなかった場合、その協定は[[無効]]であるが、いったん有効に締結した過半数代表者がその後過半数割れを起こしたり、異動で管理監督者になったとしてもその協定は有効のままである。更新も可能であり、その旨の協定を届出ることで三六協定の届出に代えることができる(施行規則第17条2項)。
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[[みなし労働時間制#労使委員会|労使委員会]]が設置されている事業場(第38条の4第1項)においては、その委員会の5分の4以上の多数による決議によって、三六協定に規定する事項について決議が行われた場合において、これを行政官庁に届け出た場合は、当該決議は三六協定と同様の効果を持つ(第38条の4第5項)。
 
三六協定を締結していても、それだけでは監督官庁からの'''免罰効果'''しかなく、時間外労働をさせるには、[[就業規則]]や労働契約等に、所定労働時間を超えて働かせる旨の'''合理的な内容'''の記述があって初めて業務指揮の根拠となる([[労働契約法]]第7条、最判平成3年11月28日)。さらに、三六協定を締結していない場合には、第33条第1項・第3項に該当する場合にのみ時間外労働が許される。したがって、三六協定に定めた限度を超えて時間外労働をさせることは労働者の同意にかかわらず法違反となる(昭和53年11月20日基発642号)。時間外労働を常態化して行う三六協定であっても、労働基準監督署は受理して差し支えない扱いとなっている(昭和23年12月18日基収3970号)。こういった諸要件を具備した上で、指揮命令をうけた労働者が正当な事由なく時間外労働を拒否した場合、[[就業規則]]によって定める[[懲戒処分]]の対象となることがある。なお派遣労働者を三六協定によって時間外・休日労働させるには、'''派遣元'''の事業場においてその旨の協定を締結しておかなければならない。
 
行政官庁への届出は、所定の様式(様式第9号)が用意されていて、届出時に必要事項を記入する。実際には様式第9号の労働組合又は労働者の過半数代表の欄に労働組合の押印や労働者自身に署名、又は記名押印させて、そのまま三六協定の書面としても使用することが多い<ref>これを届け出た場合には、当該協定書の写しを当該事業場に保存しておく必要がある(昭和53年11月20日基発642号)。</ref>。
 
なお、時間外労働が離職の日の属する月の前6月間において「いずれか連続する3か月で45時間」「いずれか1か月で100時間」又は「いずれか連続する2か月以上の期間の時間外労働を平均して1か月で80時間」を超える時間外労働が行われたことにより離職した労働者は、[[雇用保険]]における基本手当の受給において「'''特定受給資格者'''」(倒産・解雇等により離職した者)として扱われ、一般の受給資格者よりも所定給付日数が多くなる([[雇用保険法]]第23条、雇用保険法施行規則第36条5号イ)。また特定受給資格者を発生させた事業主には、雇用保険法上の各種の雇い入れ関係の助成金が当分の間支給されなくなる。
==== 限度時間基準 ====
 
厚生労働省「平成25年度労働時間等総合実態調査」によれば、三六協定を締結している事業場は、301人以上の事業場では96.1%であるのに対し、10人未満の事業場では46.8%となっていて、事業場規模が小さくなるほど締結率が低い傾向となっている。また延長時間は、限度基準上限(月45時間・年360時間)に集中化する傾向がある。また、特別条項付きの三六協定を締結している事業場は、301人以上の事業場では96.1%であるのに対し、10人未満の事業場では35.7%となっていて、事業場規模が小さくなるほど締結率が低い傾向となっている。また月80時間超の延長時間を定めている事業場は、301人以上の事業場では34.7%、10人未満の事業場でも21.5%となっている。月100時間超の延長時間を定めている事業場となると、301人以上の事業場では10.6%、10人未満の事業場でも5.5%となっている。概して、延長時間数は実労働時間数と比べても相当長めに設定されている。
 
==== 限度時間 ====
{| class="wikitable floatright" style="font-size:90%; margin-left:1em; text-align:right;"
|+ 限度時間基準<span style="font-weight:normal">(単位:時間)</span>
! 日を超える期間 !! 通常 !! 1年単位の<br />変形労働時間制<br /><span style="font-weight:normal">(3か月を超える期間)</span>
|-
!1週間
|15||14
|-
!2週間
|27||25
|-
!4週間
|43||40
|-
!1ヶ月
|45||42
|-
!2ヶ月
|81||75
|-
!3ヶ月
|120||110
|-
!1年
|360||320
|-
|colspan=3| ※<small>[[#延長限度なし|延長限度なし]]適用除外・猶予業務を除く</small>
|}
 
三六協定で「対象期間における1日、1ヶ月及び1年のそれぞれの期間について労働時間を延長して労働させることができる時間」を定めるに当たっては、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、'''限度時間'''を超えない時間に限るものとした。その時間数は、'''1ヶ月について45時間'''及び'''1年について360時間'''(対象期間が3ヶ月を超える[[変形労働時間制|1年単位の変形労働時間制]]により労働させる場合は、1ヶ月について42時間及び1年について320時間)であること(第36条3項、4項、平成30年9月7日基発0907第1号)。これが原則的な時間外労働の上限となる。これまで「限度基準告示」に定めてきた限度時間を、平成31年4月の改正法施行により、法本則に規定することとした。また「限度基準告示」では2か月、3ヶ月の限度時間を定めていたが、改正法では1ヶ月と1年のみ、限度時間として定めることとなった<ref>1年単位の変形労働時間制は、あらかじめ業務の繁閑を見込んで労働時間を配分することにより、突発的なものを除き恒常的な時間外労働はないことを前提とした制度であり、このような弾力的な制度の下では、当該制度を採用しない場合より繁忙期における時間外労働が減少し、年間でみても時間外労働が減少するものと考えられることから、1年単位の変形労働時間制により労働する労働者に係る限度時間については、当該制度によらない労働者より短い限度時間が定められたものである(平成11年1月29日基発45号)。</ref>。
[[厚生労働大臣]]は、労働時間の延長を適正なものとするため、三六協定で定める労働時間の延長の限度、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率その他の必要な事項について、'''労働者の福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して'''基準を定めることができる(第36条2項)。これに基づき、「労働基準法36条1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(限度時間基準)が告示されている(平成21年5月29日厚生労働省告示316号)。労使とも、三六協定で労働時間の延長を定めるに当たり、当該協定の内容がこの基準に適合したものとなるようにしなければならず(第36条3項)、行政官庁はこの基準に関し、三六協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる(第36条4項)。
 
==== 限度時間の延長 ====
労使当事者は、三六協定において1日を超える一定の期間についての延長することができる時間を定めるに当たっては、当該一定期間は「1日を超え3箇月以内の期間」及び「1年間」としなければならない(限度時間基準第2条)。そして延長時間は、'''基準で定める限度時間を超えないようにしなければならない'''(限度時間基準第3条1項)。具体的には表の通りである<ref>1年単位の変形労働時間制は、あらかじめ業務の繁閑を見込んで労働時間を配分することにより、突発的なものを除き恒常的な時間外労働はないことを前提とした制度であり、このような弾力的な制度の下では、当該制度を採用しない場合より繁忙期における時間外労働が減少し、年間でみても時間外労働が減少するものと考えられることから、1年単位の変形労働時間制により労働する労働者に係る限度時間については、当該制度によらない労働者より短い限度時間が定められたものである(平成11年1月29日基発45号)。</ref>。なお「1日」の延長時間には制限がないので、翌日の始業時刻まで時間外労働を行わせる前提で協定時間を設定、締結することは可能である。<!--協定するうえでの指標値であって、協定に採用しない期間に拘束力はない-->
三六協定においては、上記に掲げる事項のほか、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、1ヶ月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間並びに1年について労働時間を延長して労働させることができる時間を定めることができることとしたものであること。この場合において、1ヶ月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間については、三六協定に定めた時間を含め'''100時間未満'''の範囲内としなければならず、1年について労働時間を延長して労働させることができる時間については、三六協定に定めた時間を含め'''720時間を超えない'''範囲内としなければならないものであること。さらに、対象期間において労働時間を延長して労働させることができる時間が1ヶ月について45 時間(対象期間が3ヶ月を超える1年単位の変形労働時間制により労働させる場合は42時間)を超えることができる月数を'''1年について6ヶ月以内'''の範囲で定めなければならないものであること。(第36条5項、平成30年9月7日基発0907第1号)。これが例外的な時間外労働の上限となる。これまで「限度基準告示」に定めてきた特別条項を、平成31年4月の改正法施行により、厳格化したうえで法本則に規定することとした。また「限度基準告示」では2か月、3ヶ月の限度時間を定めていたが、改正法では1ヶ月と1年のみ、限度時間として定めることとなった。なお「100時間未満」については休日労働の時間を含めて判断するが、「720時間を超えない」については休日労働の時間を含めずに判断する。
 
==== 適用除外・適用猶予 ====
延長時間の限度は、時間外労働に対して設定されているので、休日労働の時間数については延長基準の限度は定められていない。このため、休日の労働では「労働させることができる休日」に「すべての休日」とさせる協定が可能で、「労働させることができる休日の始業及び終業の時刻」に「0時〜24時」と24時間を設定することもできる。(平成21.5.29厚生労働省告示316号)
新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務については、専門的、科学的な知識、技術を有する者が従事する新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務の特殊性が存在する。このため、限度時間、三六協定に特別条項を設ける場合の要件、1ヶ月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間の上限についての規定は、当該業務については適用しない(第36条11項)。なお、「新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務」とは、専門的、科学的な知識、技術を有する者が従事する新技術、新商品等の研究開発の業務をいうものであること(平成30年9月7日基発0907第1号)。
 
以下の事業・業務には、その性格から直ちに時間外労働の上限規制を適用することになじまないため、猶予措置を設けたものであること(第139~142条、施行規則第69条、71条、平成30年9月7日基発0907第1号)。
なお、限度時間基準に規定する時間を超える時間外労働が離職の日の属する月の前6月間において「いずれか連続する3か月で45時間」「いずれか1か月で100時間」又は「いずれか連続する2か月以上の期間の時間外労働を平均して1か月で80時間」を超える時間外労働が行われたことにより離職した労働者は、[[雇用保険]]における基本手当の受給において「'''特定受給資格者'''」(倒産・解雇等により離職した者)として扱われ、一般の受給資格者よりも所定給付日数が多くなる([[雇用保険法]]第23条、雇用保険法施行規則第36条5号イ)。また特定受給資格者を発生させた事業主には、雇用保険法上の各種の雇い入れ関係の助成金が当分の間支給されなくなる。
# [[建設|工作物の建設等の事業]]
#: 令和6年3月31日までの間、第36条3項~5項まで及び6項(第2号及び第3号に係る部分に限る。)の規定は適用しないこととし、同年4月1日以降、当分の間、災害時における復旧及び復興の事業に限り、第36条6項(第2号及び第3号に係る部分に限る。)の規定は適用しないこととしたものであること。
# [[運輸業|自動車の運転の業務]]
#: 令和6年3月31日までの間、第36条3項~5項まで及び6項(第2号及び第3号に係る部分に限る。)の規定は適用しないこととし、同年4月1日以降、当分の間、時間外労働の上限規制として1年について960時間以内の規制を適用することとしたものであること。
# 医業に従事する[[医師]]
#: [[医師法]]に基づく[[応召義務]]等の特殊性を踏まえた対応が必要であることから、令和6年4月1日から時間外労働の上限規制を適用することとし、具体的な規制の在り方等については、現在、医療界の参加の下で有識者による検討を行っているものであること。
# [[鹿児島県]]及び[[沖縄県]]における砂糖を製造する事業
#: 令和6年3月31日(同日及びその翌日を含む期間を定めている三六協定に関しては、当該協定に定める期間の初日から起算して1年を経過する日)までの間、三六協定に特別条項を設ける場合の1ヶ月についての上限、1ヶ月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間の上限についての規定は適用されないものであること。また、規則第17条1項3~7号までの規定は適用されないものであること。同年4月1日以降は、第36条の規定が全面的に適用されるものであること。
 
== 三六協定に関する指針 ==
厚生労働省「平成25年度労働時間等総合実態調査」によれば、三六協定を締結している事業場は、301人以上の事業場では96.1%であるのに対し、10人未満の事業場では46.8%となっていて、事業場規模が小さくなるほど締結率が低い傾向となっている。また延長時間は、限度基準上限(月45時間・年360時間)に集中化する傾向がある。
[[厚生労働大臣]]は、労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするため、三六協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率その他の必要な事項について、'''労働者の健康、福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して'''指針を定めることができる(第36条7項)。これに基づき、「労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針」が告示されている(平成30年9月7日厚生労働省告示323号)。労使とも、三六協定で労働時間の延長及び休日の労働を定めるに当たり、当該協定の内容がこの指針に適合したものとなるようにしなければならず(第36条8項)、行政官庁はこの指針に関し、三六協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる(第36条9項)。この助言及び指導を行うに当たっては、労働者の健康が確保されるよう特に配慮しなければならない(第36条10項)。
 
指針は、時間外・休日労働協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率その他の必要な事項を定めることにより、労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとすることを目的とするものであること(指針第1条、平成30年9月7日基発0907第1号)。
==== 延長限度なし ====
延長時間の限度は、以下の事業・業務には適用されない(限度時間基準第5条)。労働時間管理等について別途[[行政指導]]を行っている分野については、現行の指導基準の水準に到達させることが先決であること、事業又は業務の性格から限度時間の適用になじまないものがあること等の理由によるものである。
 
*[[建設|工作物の建設等の事業]]
*[[運輸業|自動車の運転の業務]]
*新技術、新商品等の研究開発の業務
*季節的要因等により事業活動若しくは業務量の変動が著しい事業若しくは業務又は公益上の必要により集中的な作業が必要とされる業務として厚生労働省労働基準局長が指定する事業又は業務(指定する範囲に限る)(ただし、1年間の限度時間は適用される)
 
しかし[[働き方改革関連法案]]が成立し、建設業、運輸業は2024年4月より限度なし指定から外されることとなった。
 
==== 特別条項 ====
三六協定の締結にあたり、前項の限度時間以内の時間を一定期間についての延長時間の原則として定めたうえで、労使が合意すれば、弾力措置として、限度時間基準を超えた時間数を設定することができる(限度時間基準第3条1項但書)。これを'''特別条項'''という。1年単位の変形労働時間制により労働する労働者についても特別条項付き協定を締結することができるが、限度時間の制限がない上述の事業・業務には本項の適用はない。特別条項付き三六協定には以下の事項を定めなければならない。
 
* 限度時間を超える必要がある'''特別の事情'''
** 「特別の事情」については、'''臨時的なものに限る'''(平成15年10月22日厚生労働省告示355号)。労使当事者が事業又は業務の態様等に即して自主的に協議し、可能な限り具体的に定める必要がある。具体的には、予算・決算業務や、ボーナス商戦に伴う業務の繁忙、機械の故障、大規模なクレームへの対応などが挙げられる。一方、年間を通じて適用されることが明らかな事由や、単に「業務上やむを得ないとき」や「使用者が必要と認めるとき」といったあいまいな表現では認められない。 しかし、現実には明らかに臨時的ではないものは認められないにしても、何が臨時的なものであるかは現実的には判断できるものではなく、たいていは何を書いてあっても受付される。なお第33条に該当する場合は「特別の事情」に含まれない。
* 限度時間を超える場合に際して労使が取る'''手続き'''
** 「手続き」の方法については特に制約はないが、三六協定の締結当事者間の手続として労使当事者が合意した協議、通告その他の手続であること。「特別の事情」が生じ、限度時間を超過する前に必ず行う必要がある(平成11年1月29日基発45号)。
{| class="wikitable floatright" style="font-size:90%; margin:1.5em; text-align:right; min-width:14em"
|+特別延長時間数の上限規制<br>(2019年から部分施行)<ref>労働基準法 第35条第2項</ref>
|-
! 期間
! 超勤上限
|-
|{{rh}}|1ヶ月 || 100時間
|-
|{{rh}}| 1年間 || 720時間<br>(運送業は960時間)
|-
|colspan=2|<small>※ 2020年4月に完全施行</small>
|}
* 特別延長時間数
** その上限は労使当事者間の自主的な協議による決定に委ねられており、法令等の制限はないが、延長することができる労働時間を'''できる限り短く'''するように'''努めなければならない'''(限度時間基準第3条2項)。
** 月80時間超の時間外労働を定めると労働基準監督署から「長時間労働の抑制のための自主点検結果報告書」の提出を求められ、実際に月80時間超の時間外労働を行った労働者がいると[[臨検|呼出監督]]の対象となることから<ref>「平成28年度地方労働行政運営方針」により、それまで「月100時間」としていた臨検の基準を「月80時間」に引き下げた。</ref>、月80時間超の特別条項は設定しないことが望ましいが、呼出監督の対象となる会社が極めて多く、全数の呼出監督が行えない状況である。
** 2019年4月からは[[働き方改革関連法案]]により、上限時間規制が適応されることとなった。[[#延長限度なし]]業種にも適応される。違反した者は一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金となる。
* 「1日を超え3ヶ月以内の一定期間」について、限度時間を超える期間の回数
** 通常三六協定は有効期間1年として定めることから、限度時間を超える期間の回数については、特定の労働者について'''1年の半分を超えないように定める'''とは法文上記載されておらず、法文上「臨時的なもの」というのの解釈を1年の半分を超えないようにと厚生労働省が通達でさえないもので主張しているだけである。 しかし厚生労働省は、例えば1ヶ月単位の場合は6回以内、3ヶ月単位の場合は2回以内で定める、などと指導しているが、その法的な根拠はほとんどない。
* 限度時間を超える時間外労働に係る割増賃金の率
** 平成22年4月施行改正基準において、時間外労働が三六協定で定めるところの限度時間超となった場合の割増率の記載が義務付けられ、2割5分を超える率を定めることが'''努力義務'''となる(限度時間基準第3条3項)。なお後述の60時間超の場合と異なり'''中小事業主への猶予はなく'''、すべての特別条項に適用される。定めた場合は、就業規則に記載しなければならない。ただし、中小企業には記載することが義務付けられているだけで、割増率を2割5分を超える率にすることが定められたわけではないので、60時間超の時間外労働に対する割増率を2割5分と書いておいても問題ない。
 
特別条項付の三六協定を締結していたとしても、特別条項により協定された延長時間を超えた場合や、延長する回数制限を超えた場合、そして限度時間を超えて時間外労働を行わせる場合に協定されている手続きを踏んでいなければ労働基準法違反に問われる。
 
しかし、そもそも超える協定を届けられても、是正を求める等[[行政指導]]は行われるものの、その他の要件が整っている限り届出を受理しないことはできず、協定が無効となることもない。特別条項の適用は個人単位(事業所単位でない)であるので、人を交代して配置すれば事業場としては1年を通じて上述の制限時間を超えた労働者を配置することができる。
 
また、特別条項は、時間外労働の限度に関する基準という告示であるので、告示を守らない三六協定であっても労働基準監督署は最終的には受付を拒否できない。たとえば、月45時間を年6回を超える年12回の三六協定が届け出られても、受付を拒否はできない。労使協定で必要な時間数を協定して届出をしてしまえば、事実上労働基準法上の'''残業時間数には上限がない'''というのが現状である。
 
また、事業場の転勤で別への事業場に転勤ということになれば、特別条項を回数を引き継ぐ法的根拠はなく、転勤前の事業場で6回までの特別条項超えをしていた場合でも、転勤後の事業場で特別条項を6回超えなければ法違反とならない。
 
しかし、厚生労働省の主張する基準を超える時間外労働に関する協定を提出すると窓口ではそれなりに抵抗を受ける。このため、明確に「指導に従わない」旨を伝えきらないと、いつまでも指導に従う可能性があったから指導を続けたと主張され、いつまでも指導を受ける恐れがある。このため、指導に従わない意向が強い場合は、指導の法的根拠を確認の上、法的根拠のない通達による指導には従わないことを明確に伝えることが必要になる。なお、事業場が行政指導に従わないことを理由に労働基準監督署が事業場に不利益を与えることは法律により禁止されている(行政手続法第32条)。また、行政指導をする際に、行政上特別の支障がない限り、相手方の求めに応じて、指導事項を記載した書面を交付しなければならないが、労働基準監督署の窓口では書面による指導は一部だけのことが多く、多くは口頭で指導されることが多い。このため、問題のあると思われる指導内容の場合には、書面の交付を求めることが望ましい(行政手続法第35条)。
 
厚生労働省「平成25年度労働時間等総合実態調査」によれば、特別条項付きの三六協定を締結している事業場は、301人以上の事業場では96.1%であるのに対し、10人未満の事業場では35.7%となっていて、事業場規模が小さくなるほど締結率が低い傾向となっている。また月80時間超の延長時間を定めている事業場は、301人以上の事業場では34.7%、10人未満の事業場でも21.5%となっている。月100時間超の延長時間を定めている事業場となると、301人以上の事業場では10.6%、10人未満の事業場でも5.5%となっている。概して、延長時間数は実労働時間数と比べても相当長めに設定されている。
 
== 時間外労働の制限 ==
時間外労働は、以下の業務、労働者については無制限にできるものではなく、制限がある。
* '''坑内労働'''等厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の[[労働時間]]の延長は1日において2時間以内とされている(第36条第16但書)。「健康上特に有害な業務」とは、以下の業務のことである(施行規則第18条)。有害業務とその他の労働が同一日において行われる場合、有害業務の時間の延長が1日当たり2時間を超えなければ、その他の労働で2時間を超えたとしても、所定の手続きをとる限り適法である(昭和41年9月19日基発997号)。
** なお、常時500人を超える労働者を使用する事業場で、坑内労働又はこれらの有害な業務に常時30人以上の労働者を従事させる事業場においては、複数選任すべき[[衛生管理者]]のうち少なくとも1人は衛生管理者の業務に専任する者を置かなければならない([[労働安全衛生法]]施行規則第7条1項5号)。さらに'''◆'''の業務においては、複数の衛生管理者のうち少なくとも1人は衛生工学衛生管理者免許を持つ者の中から選任しなければならない(労働安全衛生法施行規則第7条1項6号)。
<blockquote>
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** 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
* 労働者が上記育児介護休業法による請求をし、又はこれらの所定労働時間超労働・時間外労働をしなかったことを理由として、事業主は当該労働者に対して'''[[解雇]]その他不利益な取扱いをしてはならない'''(育児介護休業法第16条の9、18条の2)。
 
*[[働き方改革関連法]]で時間外労働に規制がかかったが、業務量減や人員増をせず残業時間を減らすことだけ企業に求められた結果、[[サービス残業]]になっては本末転倒になる。時間外労働規制に休日労働は含まれない。管理職もパソコン使用記録やタイムカードで企業に時間把握が義務付けられたが、企業が把握しなくても罰則はない<ref>2019年4月4日中日新聞朝刊5面</ref>。
 
== 法定労働時間内の時間外労働 ==
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== 医師による面接指導等 ==
{{Seealso|労働安全衛生法による健康診断#面接指導}}
事業者は、月10080時間超の時間外労働により'''疲労の蓄積が認められる'''労働者(算定期日前1月以内に面接指導を受けた労働者その他面接指導の必要がないと[[医師]]が認めた者を除く)に対し、当該労働者の'''申出'''により、医師による'''面接指導'''を行わなければならない([[労働安全衛生法]]第66条の8)。事業者は面接指導が行われた後、遅滞なく(おおむね1月以内。緊急に就業上の措置を講ずべき必要がある場合には可能な限り速やかに)当該医師から意見を聴かなければならない。事業者は、医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、[[深夜業]]の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の[[安全衛生委員会#衛生委員会|衛生委員会]]若しくは[[安全衛生委員会]]又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
 
労働災害の認定にあたってはその基準が時間外労働の時間数で例示されていて、[[過労死]]を引き起こす脳・心臓疾患の場合、発症前1ヶ月に100時間を超える時間外労働、あるいは直近の2~6ヶ月間の平均で80時間を超える時間外労働をしている場合には、その'''業務と発症の関連性が強い'''と判断され、労働基準監督署が[[労働災害#業務災害|業務災害]]を認定する可能性が高くなる(平成22年5月7日基発0507第3号)。[[うつ病]]などの[[精神障害]]の場合、発症前2ヶ月間につき120時間以上、あるいは発症前3ヶ月間に月100時間以上の時間外労働がある場合、'''強い心理的負荷([[ストレス (生体)|ストレス]])があった'''と判断され、やはり労働基準監督署が業務災害を認定する可能性が高くなる(平成23年12月26日基発1226第1号)。
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[[労働基準監督官]]による[[臨検]](強制立入調査、第101条以下)が行われた場合、三六協定が未締結であったり、三六協定に定める限度時間を超えて時間外労働をさせている、三六協定の労働者代表の選任方法が妥当ではない等の事実が認められると、36条違反を是正するよう指導される。世間の求めに応じ、近年監督実施件数は増加傾向にある。原則として臨検を拒否することは出来ず、監督官の臨検を拒んだり、妨げたり、尋問に答えなかったり、虚偽の陳述をしたり、帳簿・書類(法定帳簿・書類のみならず、第109条でいう「その他労働関係に関する重要な書類」を含み<ref>「平成22年版労働基準法 下」厚生労働省労働基準局編 労務行政</ref>、使用者が自ら始業・終業時刻を記録したもの、[[タイムカード]]、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録も含まれる(平成29年1月20日策定労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン))を提出しなかったり、虚偽の帳簿・書類を提出した場合は、30万円以下の[[罰金]]に処せられる(第120条)。
 
{{Seealso|臨検の具体的な手続き|労働基準監督官#労働基準監督署に配置された労働基準監督官の主な業務}}
 
== 割増賃金 ==
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*[http://www.rosei.jp/jinjour/list/series.php?ss=104 労働基準法の基礎知識 (労務行政研究所)] - 労働基準法がわかりやすく解説されている。
*[http://www.rosei.jp/jinjour/article.php?entry_no=56937 労働時間、休日の原則(ジンジュール 労務行政研究所)]
*[https://www.mhlw.go.jp/content/000350259.pdf 労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針(厚生労働省)]
 
{{就業}}