「パルメニデス (対話篇)」の版間の差分

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特に本作で描かれる「老パルメニデスと青年ソクラテスの出会い」は、後続する『テアイテトス』(183E-184A)と『ソピステス』(217C)内でも言及されており、中期から後期にまたがる本作『パルメニデス』と後続する三部作『テアイテトス』『ソピステス』『ポリティコス(政治家)』の計4作品は、内容的に緊密につながる1つのグループ(四部作)を形成している<ref name=zen3/>。そしてこれら4作品の内、『パルメニデス』『ソピステス』『ポリティコス(政治家)』の3作品が、[[ディオゲネス・ラエルティオス]]の『[[ギリシア哲学者列伝]]』等で[[プラトン全集#ディオゲネス・ラエルティオスによる分類|「論理的」作品として分類されている]]ことからも分かるように、これらの作品では「論理(学)的」な観点から「イデア論」の掘り下げが行われている。もちろん[[論理哲学]]の色彩が強い[[エレア派]]の関係者がこれらの作品に登場するのも偶然ではない。
 
そうした一連の4作品の中で、本作は「序章」の役割を果たしており、「老パルメニデスと青年ソクラテスの出会い」を通して、[[ソフィスト]]達が操る「[[弁論術]]」([[レートリケー]])や「[[論争術]]」(エリスティケー)とは区別された、「[[問答法]]・[[弁証法]]」(ディアレクティケー)へとつながる「正統な論理的営み」の起源・系譜を描くと同時に、その系譜の中にいる老パルメニデス率いるエレア派の思想・論理にも、青年ソクラテスの「イデア論」にも、共に後世で解決されるべき課題・問題が孕まれていたことを示唆する内容となっている。(そして、本作に続く「三部作」でその解決へと迫っていく構成となっている。)
 
(ちなみに、本作の直後の作品である『テアイテトス』は、三部作の初っ端として「イデア論」に直接的には踏み込まず、その「前提的な問題」を扱っているので、「イデア論」の問題として本作と内容的に直接つながってくるのは、その後の『ソピステス』である<ref>全集2, 岩波, p.442</ref>。)
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内容としては、パルメニデスや[[ゼノン (エレア派)|ゼノン]]に代表される(あらゆる存在を「一」なるものと捉える)「[[エレア派]]の[[存在論]]」と、(プラトンが描く)ソクラテスの「イデア論」の「出会い(邂逅)」を描くことがメインテーマであり、作品中では「イデア論」の萌芽となる考えを持ちつつも未だ愛知者(哲学者)の道へと踏み込み切れていない青年ソクラテスが、ゼノンに対して自分の考えをぶつけ、その議論を引き取った老パルメニデスが、愛知(哲学)の先輩として青年ソクラテスの未熟な「イデア論」の難点を指摘しつつ、愛知者(哲学者)としての姿勢や論理的思考・検討・論証のあり方について、「手ほどき」をする前半部が、作品中の「肝・核心」となっている。
 
その後の長い後半部は、老パルメニデスが先の青年ソクラテスとの対話の最後に、知恵の探求(愛知、哲学)においては、対象について様々な形で考察を加えること(「前提文・仮定文における述語を、[[肯定]]形だけでなく[[否定]]形でも考察」「帰結文における主語を、「[[補集合]]」に入れ替えても考察」「それぞれにおける「それ自身」「それ以外」との関係性も考察」など)を検討する癖をつける「予備練習」(思考訓練)が重要であることを説いたことで、それを実際に見せてほしいとソクラテスやゼノン等にせがまれ、エレア派これは半ば「遊び」であると断りつつ、自身の信条でもある「一」を題材に、青年アリストテレスとの対話を通して、実際にそれを披露するという「[[形式論理学]]」の教科書的な内容となっている。
かくしてこの出会いが青年ソクラテスを愛知者(哲学者)の道へと本格的に踏み出させるきっかけとなったこと、そしてパルメニデスがソクラテスの愛知(哲学)における実質的な師であったことを示唆する内容となっている。
 
かくしてこの出会いが青年ソクラテスを愛知者(哲学者)の道へと本格的に踏み出させるきっかけとなったこと、またソクラテスの執拗な問答([[ディアレクティケー]])のスタイルはパルメニデスによる指導(「予備練習」)の影響を受けていること、たがってパルメニデスがソクラテスの愛知(哲学)における実質的な師であったことなどを示唆する内容となっている。
その後の長い後半部は、老パルメニデスが先の青年ソクラテスとの対話の最後に、知恵の探求(愛知、哲学)においては、対象について様々な形で考察を加えること(「前提文・仮定文における述語を、[[肯定]]形だけでなく[[否定]]形でも考察」「帰結文における主語を、「[[補集合]]」に入れ替えても考察」など)を検討する癖をつける「予備練習」が重要であることを説いたことで、それを実際に見せてほしいとソクラテスやゼノン等にせがまれ、エレア派の信条でもある「一」を題材に、青年アリストテレスとの対話を通して、実際にそれを披露するという「[[形式論理学]]」の教科書的な内容となっている。
 
他方で、後半に披露される「予備練習」の内容が、(一応パルメニデスによって半ば「遊び」であることが断られてはいるものの)[[詭弁]]すれすれの矛盾に満ちた内容として描かれており、青年ソクラテスの未熟な「イデア論」と同じく、パルメニデスやエレア派の思想や論理もまた、後世で解決されるべき課題・問題を抱えた未熟なものであったことが示唆されている。
 
=== 導入 ===
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* '''「神」と「分断」''' - 仮に「形相」としての「知識」を分有するものがいるとすればそれは'''「神」'''以外あり得ないが、そうするとこれまでの議論から、「神」と「人間」は互いに対して「知識」も「影響力」も持ち得ない'''「分断」'''された関係となってしまう。
 
パルメニデスは、「イデア論」にしては、他にも'''多くの難点'''を挙げることができるし、それゆえ人々は「イデア論」を聞かされても、「形相」など'''存在しない'''か、仮に存在しても'''不可知'''なものであると'''異論'''を立てることになるし、それを説得するのは難しいこと、そしてそんな彼らを説得するには、「形相」を自ら充分に学び知り、他人にも充分に教授できる優れた人物が現れるのを待つ他ないと指摘する。ソクラテスも同意する。
 
しかし他方でパルメニデスは、反対に「形相」のようなものを'''認めない'''としたら、それはそれで'''自分の考えを向ける先が分からなく'''なり、'''問答による討議の効力も失わせる'''ことになるだろうと指摘する。ソクラテスも同意する。
 
==== 哲学の「予備練習」 ====
そこでパルメニデスは、ソクラテスがなすべきこととして、対象をよく検討する'''「予備練習」(思考訓練)'''の重要性を挙げる。
 
パルメニデスは、一昨日ソクラテスとアリストテレスが問答しているのを聞いて、その突進する意気込みは立派だったが、対象について決めてかかるところがあり、練習を積まなければ真理から逃げられてしまうと指摘する。
 
そしてその「予備練習」とは、先ほどゼノンがやったり、ソクラテスもゼノンに対してやったような類の考察・論証でるが、それをより徹底し、例えば「もし〇〇が△△で'''ある'''ならば」だけでなく、「もし〇〇が△△で'''ない'''ならば」のような'''前提文'''の'''[[否定]]形'''も含めて考察したり、'''帰結文'''においても「〇〇は□□である」だけでなく、「〇〇'''以外'''は××である」のように'''「[[補集合]]」'''についても考察したり、さらにはそれぞれが「それ自身」「それ以外」との'''関係'''においてどうであかなど、徹底的に検討していくことが重要だと説く。
 
よく分からないので実際にやって見せてほしいと頼むソクラテスに、ゼノンや青年アリストテレス等も加勢し、する。パルメニデスは仕方なく、これは半ば「遊び」であると断りつつ、自分が信条とする「一」という前提を題材に、そして居合わせた中で一番若かった青年アリストテレスを相手に、問答をしながら論証を実行して見せることにする。
 
=== パルメニデスとアリストテレスの対話(予備練習) ===
よく分からないので実際にやって見せてほしいと頼むソクラテスに、ゼノンや青年アリストテレス等も加勢し、パルメニデスは仕方なく、自分が信条とする「一」という前提を題材に、そして一番若かった青年アリストテレスを相手に、問答をしながら論証を実行して見せることにする。
パルメニデスはまず、「'''「一」'''が'''ある'''ならば」という前提の下で、'''「一」'''がどうであるのかの考察を進め、続いて同じ前提の下で'''「一」以外'''がどうであるかの考察を進める。続いて「'''「一」'''が'''ない'''ならば」と前提を'''否定形'''にしつつ、'''「一」'''がどうであるのか、'''「一」以外'''がどうであるのかを考察していく。
 
その結果、帰結において同じような内容が'''肯定'''も'''否定'''もされることになり、最終的に「「一」があるとしてもないとしても、「一」と「一」以外は、「自分自身に対する関係」と「相互の関係」において、「あらゆる仕方」で「あらゆるもの」であるとともにまたないのであり、そう見えるとともにまた見えないことになる」と結論付けられることになる。
=== パルメニデスとアリストテレスの対話 ===
 
*'''「一」'''が'''ある'''ならば
**'''「一」'''は(否定的帰結)
***'''「多」'''では'''ない'''
***'''「部分」'''でも'''「全体」'''でも'''ない'''
***'''「始め」'''も'''「終わり」'''も「中間」も'''ない'''
***'''「限り」'''も'''ない'''
***'''「形」'''も'''ない'''
***('''「他者の内」'''にも、'''「自分の内」'''にも)'''「存在」'''し'''ない'''
***(「変化」や「運動」としての)'''「動」'''も'''「不動」'''も'''ない'''
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「同一」'''でも'''「不同一」'''でも'''ない'''
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「類似」'''でも'''「不類似」'''でも'''ない'''
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「等」'''でも'''「不等」'''でも'''ない'''
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「年長」'''でも'''「年下」'''でも'''「同年」'''でも'''ない'''
***'''「時間」'''を分有したり、その内にあることも'''ない'''
***'''「有」'''を分有し'''ない'''
***(したがって)「'''ない'''」
***それに対する'''「名前」'''も'''「説明(命題)」'''も'''「知識」'''も'''「感覚」'''も'''「思いなし」'''も'''ない'''
**'''「一」'''は(肯定的帰結)
***'''「有」'''を分有している
***'''「全体」'''でも'''「部分」'''でもある
***'''「多」'''でも'''「無限」'''でも'''「有限」'''でもある
***'''「始め」'''も'''「終わり」'''も'''「中間」'''もある
***('''「自分の内」'''にも、'''「他者の内」'''にも)ある
***'''「動」'''でも'''「不動」'''でもある
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「同一」'''でも'''「不同一」'''でもある
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「類似」'''でも'''「不類似」'''でもある
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「接触的」'''でも'''「非接触的」'''でもある
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「等」'''でも'''「不等」'''でも'''「多」'''でも'''「少」'''でもある
***'''「時間」'''を分有する
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「年長」'''でも'''「年下」'''でも'''「同年」'''でもある
***'''「有」'''を分有する
***それに対する'''「名前」'''も'''「説明(言論)」'''も'''「知識'''」も'''「感覚」'''も'''「思いなし」'''もある
**'''「一」以外'''は(肯定的帰結)
***'''「部分」'''を持ち、'''「全体」'''と'''「一」'''を分有する
***'''「多」'''であり'''「無限」'''であり、'''「限界」'''も分有する
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「類似」'''でも'''「不類似」'''でもある
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「同一」'''でも'''「不同一」'''でもある
***'''「動」'''でも'''「不動」'''でもある
***以上のようなおよそ正反対の規定の全てを受け入れる
**'''「一」以外'''は(否定的帰結)
***(どのようにしても)'''「一」'''では'''ない'''
***'''「多」'''でも'''ない'''
***'''「全体」'''でも'''「部分」'''でも'''ない'''
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「類似」'''でも'''「不類似」'''でも'''ない'''
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「同一」'''でも'''「不同一」'''でも'''ない'''
***'''「動」'''でも'''「不動」'''でも'''ない'''
***'''「動」'''でも'''「不動」'''でも'''ない'''
***'''「生」'''でも'''「滅」'''でも'''ない'''
***'''「大」'''でも'''「小」'''でも'''「等」'''でも'''ない'''
 
*'''「一」'''が'''ない'''ならば
{{節stub}}
**'''「一」'''は(肯定的帰結)
***それに対する'''「知識(理解)」'''が存在する
***'''「異」'''がある
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「類似」'''でも'''「不類似」'''でもある
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「等」'''でも'''「不等」'''でもある
***'''「有」'''も'''「非有」'''も分有する
***'''「変・動」(生・滅)'''でも'''「不変・不動」(不生・不滅)'''でもある
**'''「一」'''は(否定的帰結)
***'''「有」'''を分有し'''ない'''
***'''「変・動」(生・滅)'''でも'''「不変・不動」(不生・不滅)'''でも'''ない'''
***'''「大」'''でも'''「小」'''でも'''「等」'''でも'''ない'''
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「類似」'''でも'''「不類似」'''でも'''ない'''
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「同一」'''でも'''「不同一」'''でも'''ない'''
***それに対する'''「知識'''」も'''「思いなし」'''も'''「感覚」'''も'''「説明(言論)」'''も'''「名前」'''も'''ない'''
**'''「一」以外'''は(肯定的帰結)
***'''「無限」'''であり'''「有限」'''であり、'''「一」'''であり'''「多」'''である
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「類似」'''でも'''「不類似」'''でもある
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「同一」'''でも'''「不同一」'''でもある
***(「自分自身」や「他のもの」と)'''「接触的」'''でも'''「非接触的」'''でもある
***'''「動」(生・滅)'''でも'''「不動」(不生・不滅)'''でもある
**'''「一」以外'''は(否定的帰結)
***'''「一」'''でも'''「多」'''でも'''ない'''し、そう'''「思わく」'''されることも'''ない'''
***'''「類似」'''でも'''「不類似」'''でも'''ない'''
***'''「同一」'''でも'''「不同一」'''でも'''ない'''
***'''「接触的」'''でも'''「非接触的」'''でも'''ない'''
***何ものも'''ない'''
*'''結論'''
**「一」があるとしてもないとしても、「一」と「一」以外は、「自分自身に対する関係」と「相互の関係」において、「あらゆる仕方」で「あらゆるもの」であるとともにまたないのであり、そう見えるとともにまた見えないことになる
 
==訳書==