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{{出典の明記}}、刑事手続法の文献が少なく正確性に疑問
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文献では答弁取引は司法取引の一種とされており不正確な点を改稿
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'''司法取引'''(しほうとりひき)とは、一般には刑事手続において[[検察官]]の訴訟裁量を背景に[[被告人]]と検察官の間で処分上の利益と引換えに捜査あるいは公判手続における協力を得ることをいう<ref name="bukai">{{Cite web |url=http://www.moj.go.jp/content/000105603.pdf|title=新時代の刑事司法制度特別部会における期日外視察の概要|publisher=法務省|accessdate=2019-08-01}}</ref>。ただし必ずしも司法取引の定義が明確になっているわけではない<ref name="bukai" />。なお、Plea bargain(答弁取引)に「司法取引」の訳が当てられることがあるが、答弁取引は司法取引の一種であり、厳密さに欠けるという指摘がある<ref name="houritsugo">小山貞夫『英米法律語辞典』研究社、2011年、836頁</ref>。
{{出典の明記|date=2019年7月}}
'''司法取引'''(しほうとりひき)とは、裁判において、[[被告人]]と[[検察官]]が取引をし、被告人が[[罪]]を認めるか、あるいは[[共犯]]者を[[法廷]]で[[告発]]する、あるいは[[捜査]]に協力することで、[[求刑]]の軽減、またはいくつかの罪状の取り下げを行うこと。
 
== 米国における司法取引 ==
=== 概要手続 ===
司法取引の結果として軽減された検察官の求刑に裁判所が法的に拘束されるわけではなく、求刑以上の量刑を行うことも可能であるが、司法取引の刑事政策上のメリット、当事者主義の理念から裁判所は司法取引の結果を尊重することが多いとされる。
米国の司法取引は有罪答弁と引き換えに行われる答弁合意と、有罪答弁を求めず捜査・公判への協力と引き換えに行われる非公式刑事免責に大別される<ref name="bukai" />。[[アメリカ合衆国]]では刑事裁判の大部分で司法取引が行われている。
 
司法取引では有罪答弁をする対象となる訴追事実、協力内容、事実関係、量刑について合意し、検察官は協力事実を量刑担当裁判官に知らせ量刑を軽くする方向で考慮するよう求める<ref name="bukai" />。
被告人による[[罪状認否]]の制度が存在する[[英米法]]の[[国家]]で可能になる制度である。[[アメリカ合衆国]]では、刑事裁判の大部分で司法取引が行われている。一方、[[大陸法]]の国家では、類似制度として、改悛者制度や王冠証人制度を導入している国もある。
 
罪状認否手続(アレインメント)で被告人が合意に従って有罪答弁または不抗争答弁(有罪は認めないが争わない旨の答弁)をすれば、公判廷における事実審理を経ることなく量刑審理に移行する<ref name="bukai" />。連邦刑事訴訟規則11条では、被告人に対する権利等の告知とその理解の確認、答弁の任意性の確認、答弁の事実的基礎の確認を行う必要があると定められている<ref name="bukai" />。
== メリット・デメリット ==
=== 司法取引のメリット ===
* 刑罰を軽減する替わりに、裁判にかかる時間と費用を節約できるだけでなく、減刑ながらも有罪を獲得できる([[犯罪]]件数が多く、また裁判の結果が予測困難な陪審員制の国では重要である)。
* より重要な犯罪の捜査の進展に役立つ情報を得ることができる。
* ほぼ犯人に間違いないが、その動機などの証明に証拠が不十分な場合、ある程度の刑罰を与えることが可能である。
* 証言することにより自身も刑事訴追を受けるおそれがあるため[[黙秘権]]を行使して証言を拒む証人に対し、刑事免責と引き換えに[[自己負罪拒否特権]]を外して証言を引き出せる。
 
供述の信用性確保の観点から、公判には協力者の供述だけで臨むのではなく他のソースによる独立の裏付け証拠が重要とされている<ref name="bukai" />。また司法取引の合意には他人に関する虚偽の事実を述べた場合には白紙に戻す条項が付けられている<ref name="bukai" />。
=== 司法取引へのデメリット ===
* 検察官による脅しや、被告人の[[知識]]不足で罪状を認めてしまうことがあり、[[冤罪]]を起こしやすい。司法取引経緯について明らかになる取調べの可視化がなかったり、共犯者の証言の裏付けを怠ったまま信頼性が高いと判断される司法文化がある場合はその傾向が強くなる<ref>2014年6月28日[[中日新聞]]朝刊「話題の発掘 ニュースの追跡」</ref>。
* 法廷で[[死刑]]を宣告される可能性を避けるために無実の人間が罪を認めてそれ以外の刑([[終身刑]]など)を受け入れる可能性がある。
* テロリストなど国家にとって好ましからざる人物に裁判にかける事例において(陪審により)万に一つでも無罪となることが考えられる場合、死刑を終身刑にするなどと司法取引を強制して裁判によらず監獄に幽閉する危険がある。
* 取引の条件として共犯者を法廷で告発すると、法廷証言において[[偽証]]させる動機が強く働く。真犯人が重刑を避けるために司法取引を行い、無実の者又は犯罪の役割の軽い者に罪をなすりつける偽証を行う可能性がある。米国で冤罪事件を調査したら15%が司法取引によるものだった<ref>2014年6月27日[[中日新聞]]朝刊5面社説</ref>。
* 取引であるため、優秀な[[弁護士]]を雇える金持ちが有利な取引を行いやすく[[法の下の平等]]に反する場合がある。
* 公正であるべき[[司法]]の場で取引を行うことは、法の公正さを損なう。
* 刑期短縮や保釈など身柄拘束が短縮されることを期待して罪を認めたり偽証をするなど、[[人質司法]]の問題がある。
* [[特定秘密保護法]]と[[公益通報者保護法]]が競合するような場合などは特に、公開法廷の原則が守られず問題になる。
* 「法廷で全てを明らかにして罪を認めさせる」という犯罪被害者の処罰感情にそぐわない可能性がある。
 
=== 司法取引の例種類 ===
==== 答弁取引 ====
* 比較的単純な犯罪で、正式な裁判をするのが面倒な場合、求刑を多少軽減し罪状を認めさせる。
米国の答弁取引は一般に検察側に協力するのと引き換えに一部の訴因あるいは軽い罪のみを訴えの対象とする合意をいう<ref name="houritsugo" />。有罪答弁(または有罪答弁と捜査・公判協力)と引き換えに訴因や量刑の見返りを与える合意を答弁合意という<ref name="bukai" />。
* [[マフィア]]の[[組織犯罪]]を捜査する場合、証言した構成員の罪を軽減する代わりに得た情報により、組織全体の犯罪を暴く。[[企業犯罪]]や[[汚職]]事件なども同様。
 
* 被告が多くの罪状で起訴されている場合、全ての罪状を審議するのは時間がかかるため、主要な罪状の捜査への協力の代わりに、軽い罪状の起訴を取り下げる。
==== 非公式刑事免責 ====
* [[状況証拠]]から、ほぼ間違いないが、裁判で確実に有罪にできるほどの直接証拠が無い場合、刑の軽減を条件に罪状を認めさせる。
有罪答弁を求めず捜査・公判協力と引き換えに、供述や証言を不利益に利用しない、あるいはこれに基づいて訴追しないといった見返りを与えることを非公式刑事免責という<ref name="bukai" />。
* [[航空事故]]や[[医療事故]]など[[事故調査]]では、業務に従事していた個人に対して「故意の破壊行為」またはそれに近い「認識ある過失」がない限りは、刑事責任や民事責任を問わない代わりに、当事者からの証言を得やすくし、事故原因の真相究明と今後の事故防止対策を優先する。
 
== 日本における司法取引 ==
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: 強盗罪容疑で起訴された男性は、公判でも起訴内容を認めていたが、[[覚せい剤取締法]]違反での追起訴後に否認し、「警察官が強盗を自白すれば覚醒剤を立件しないと取引を持ちかけた」と証言。
: [[大阪地方裁判所]]は強盗事件に関する男の自白調書について、偽約束の可能性による違法性から証拠採用しなかったが、共犯者の公判証言などから男性の強盗事件と[[覚醒剤]]事件への関与を認定して、有罪判決を下した。
 
== メリット・デメリット ==
=== 司法取引のメリット ===
* 刑罰を軽減する替わりに、裁判にかかる時間と費用を節約できるだけでなく、減刑ながらも有罪を獲得できる([[犯罪]]件数が多く、また裁判の結果が予測困難な陪審員制の国では重要である)。
* より重要な犯罪の捜査の進展に役立つ情報を得ることができる。
* ほぼ犯人に間違いないが、その動機などの証明に証拠が不十分な場合、ある程度の刑罰を与えることが可能である。
* 証言することにより自身も刑事訴追を受けるおそれがあるため[[黙秘権]]を行使して証言を拒む証人に対し、刑事免責と引き換えに[[自己負罪拒否特権]]を外して証言を引き出せる。
 
=== 司法取引のデメリット ===
* 検察官による脅しや、被告人の[[知識]]不足で罪状を認めてしまうことがあり、[[冤罪]]を起こしやすい。司法取引経緯について明らかになる取調べの可視化がなかったり、共犯者の証言の裏付けを怠ったまま信頼性が高いと判断される司法文化がある場合はその傾向が強くなる<ref>2014年6月28日[[中日新聞]]朝刊「話題の発掘 ニュースの追跡」</ref>。
* 法廷で[[死刑]]を宣告される可能性を避けるために無実の人間が罪を認めてそれ以外の刑([[終身刑]]など)を受け入れる可能性がある。
* テロリストなど国家にとって好ましからざる人物に裁判にかける事例において(陪審により)万に一つでも無罪となることが考えられる場合、死刑を終身刑にするなどと司法取引を強制して裁判によらず監獄に幽閉する危険がある。
* 取引の条件として共犯者を法廷で告発すると、法廷証言において[[偽証]]させる動機が強く働く。真犯人が重刑を避けるために司法取引を行い、無実の者又は犯罪の役割の軽い者に罪をなすりつける偽証を行う可能性がある。米国で冤罪事件を調査したところ15%が司法取引によるものだった<ref>2014年6月27日[[中日新聞]]朝刊5面社説</ref>。
* 取引であるため、優秀な[[弁護士]]を雇える金持ちが有利な取引を行いやすく[[法の下の平等]]に反する場合がある。
* 公正であるべき[[司法]]の場で取引を行うことは、法の公正さを損なう。
* 刑期短縮や保釈など身柄拘束が短縮されることを期待して罪を認めたり偽証をするなど、[[人質司法]]の問題がある。
* [[特定秘密保護法]]と[[公益通報者保護法]]が競合するような場合などは特に、公開法廷の原則が守られず問題になる。
* 「法廷で全てを明らかにして罪を認めさせる」という犯罪被害者の処罰感情にそぐわない可能性がある。
 
== 脚注 ==
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* [[恩赦]]
* [[課徴金|課徴金減免制度(リーニエンシー制度)]]
 
{{Law-stub}}
 
{{DEFAULTSORT:しほうとりひき}}