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この言語の一般的な名称として使われているヘブライの名は、[[ユーフラテス川]]を越えて移住する人たちのことを総称して[[ヘブル人]]と呼んでいたことに由来する。紀元前3500年頃に{{仮リンク|カルデアのウル|en|Ur of the Chaldeans}}(現在のイラク)から[[カナン]]の地(現在のパレスチナ・イスラエル)に移住したとされる[[アブラハム]]一族と、その子孫である人々が他称としてヘブル人、ヘブライ人などと呼ばれるようになり、彼らが使う言語がヘブル語、ヘブライ語と呼ばれる。
 
== 古ヘブライ語 ==
{{main|{{仮リンク|聖書ヘブライ語|en|Biblical Hebrew}}}}
古代ヘブライ語または聖書ヘブライ語は[[フェニキア語]]などと同じく[[カナン諸語]]のひとつであり、最も古いヘブライ語で書かれた碑文は紀元前10世紀に書かれた[[ゲゼル・カレンダー]]であとされ<ref>「ヘブライ語文法ハンドブック」p241 池田潤 白水社 2011年8月30日発行</ref>。[[旧約聖書]]はこの言語で書かれたことから、この碑文つけられた。[[イスラエル王国]]や[[ユダ王国]]ではこの言語が日常語として使用されていたが、紀元前6世紀本当ユダ王国が滅亡し[[バビロン捕囚]]が起きると、[[バビロン]]に連行されたものたちを中心に[[アヘブ]]の強い影響を受けるよかどなり、[[紀元前537年]]に[[アケメネス朝]]の[[キュロス2世]]によっつい解放され[[エルサレム]]に帰還したのちもこの影響も持れている<ref>「ヘブライ語文法ハンドブック」p241 池田潤 白水社 2011年8月30日発行{{citation|url=https://www.biblicalarchaeology.org/daily/biblical-artifacts/inscriptions/the-oldest-hebrew-script-and-language/|title=The Oldest Hebrew Script and Language|date=2018-04-01|publisher=Bible History Daily}}</ref>。西暦132-135年の[[ヘレニズムバル・コクバ]]時代に入ると[[ギリシア語]]も使用されるようになりの手紙まで3言語併用数百状況が続く中で古代ヘブライ語の日常使用は減少し碑文が残っていった<ref>「ヘブライ語文法ハンドブック」p242-243 池田潤 白水社 2011年8月30日発行Steiner (1997) p.145</ref>。
 
[[旧約聖書]]はこの言語で書かれているが、異なる時代の言語が混じっている。引用された韻文の言語にはきわめて古い時代のものがあり、[[イスラエル王国]]の成立(紀元前1000年ごろ)以前の[[士師]]の時代にさかのぼる。紀元前10-6世紀の言語は古典ヘブライ語または(標準)聖書ヘブライ語と呼ばれる。紀元前6-2世紀の言語は後期古典ヘブライ語、または後期聖書ヘブライ語と呼ばれる。このほかに[[サマリア五書]](紀元前2世紀後半)も重要な資料である<ref>McCarter (2004) p.319</ref><ref name="s1">Steiner (1997) p.146</ref>。
[[70年|紀元70年]]に[[エルサレム攻囲戦 (70年)|第一次ユダヤ戦争]]によってエルサレムが破壊され、ユダヤ人の世界離散([[ディアスポラ]])が起こると、離散民、地元民ともに他言語の使用が一般化していき、ヘブライ語は日常語としては完全に使用されなくなった<ref>「ヘブライ語文法ハンドブック」p243-244 池田潤 白水社 2011年8月30日発行</ref>。一方で[[典礼言語]]としてはその後も存続し、200年ごろには[[ミシュナー]]、500年ごろには[[タルムード]]といった重要な宗教文書がヘブライ語で編纂されている。この時期のヘブライ語は聖書ヘブライ語からはすでに大きく変化しており、[[ミシュナー・ヘブライ語]]と呼ばれている<ref>「ヘブライ語文法ハンドブック」p244-245 池田潤 白水社 2011年8月30日発行</ref>。またこの時期には日常語としての使用が消滅していたので、正確に発音を行うための母音記号である[[ニクダー]]が考案された。現在使用されているニクダーはこのうちの[[ヘブライ語のティベリア式発音|ティベリア式発音]]に基づくものである<ref>「ヘブライ語文法ハンドブック」p244 池田潤 白水社 2011年8月30日発行</ref>が、その後のヘブライ語の変化によって現代の発音と表記の間にはずれが生じている<ref>『図説 世界の文字とことば』 町田和彦編 66頁。河出書房新社 2009年12月30日初版発行 ISBN 978-4309762210</ref>。
 
[[イスラエル王国]]や[[ユダ王国]]ではこの言語が日常語として使用されていたが、紀元前6世紀にユダ王国が滅亡し[[バビロン捕囚]]が起きると、[[バビロン]]に連行されたものたちを中心に[[アラム語]]の強い影響を受けるようになり、[[紀元前537年]]に[[アケメネス朝]]の[[キュロス2世]]によって解放され[[エルサレム]]に帰還したのちもこの影響は続いた<ref>「ヘブライ語文法ハンドブック」p241 池田潤 白水社 2011年8月30日発行</ref>。[[ヘレニズム]]時代に入ると[[ギリシア語]]も使用されるようになり、3言語併用の状況が続く中でヘブライ語の日常使用は減少していった<ref>「ヘブライ語文法ハンドブック」p242-243 池田潤 白水社 2011年8月30日発行</ref>。
その後さらにヘブライ語は変化していき、{{仮リンク|中世ヘブライ語|en|Medieval Hebrew}}と呼ばれる一時期を迎えた。10世紀末には[[イベリア半島]]の[[コルドバ (スペイン)|コルドバ]]で[[イェフーダー・ベン=ダーウィード・ハイユージュ]]が初のヘブライ語文法書を完成させている<ref>https://doors.doshisha.ac.jp/duar/repository/ir/15036/003071010004.pdf 「聖書ヘブライ語と現代ヘブライ語 アイデンティティーを求めて」p67 アダ・タガー・コヘン 基督教研究第71巻第1号(同志社大学) 2009年6月26日 2019年8月9日閲覧</ref>。一方各地に離散したユダヤ人は現地語を話すか、あるいは[[セファルディム]]が話す[[スペイン語]]に属する[[ラディーノ語]]や、[[アシュケナジム]]が話す[[ドイツ語]]に属する[[イディッシュ語]]といった、ある程度のヘブライ語の痕跡を残す現地語の変種を話すようになっており、一般的な話し言葉としては完全に使われなくなっていた。また典礼用のヘブライ語の発音方式そのものも地域によって違いが生ずるようになり、セファルディムは子音の多い[[セファルディム式ヘブライ語]]を、アシュケナジムは母音の多い[[アシュケナジム式ヘブライ語]]を使用するようになっていた<ref>「ヘブライ語文法ハンドブック」p247 池田潤 白水社 2011年8月30日発行</ref>。
 
== 中期ヘブライ語 ==
{{seealso|ミシュナー・ヘブライ語}}
聖書より新しい時代のヘブライ語としては[[死海文書]]の言語がある。また、[[ミシュナー]]や[[タルムード]]などの{{仮リンク|ラビ文学|en|Rabbinic literature}}に使用される言語は後期聖書ヘブライ語から直接発達したものではなく、かつては学者によって人工的に造られた言語と考えられていたが、現在では西暦紀元後数世紀にわたって話されていた口語のヘブライ語を反映したものと考えられている<ref>McCarter (2004) p.320</ref><ref name="s1"/>。
 
おそらく135年の[[バル・コクバの乱]]の結果、多くのユダヤ人は[[アラム語]]地域であった[[ガリラヤ]]地方へ逃れ、口語としてのヘブライ語は西暦200年ごろ滅亡したと考えられている。その後のユダヤ人の第一言語はアラム語や[[ギリシア語]]になり、ヘブライ語は学者の使用する言語に過ぎなくなった<ref>McCarter (2004) p.321</ref><ref name="s1"/>。
 
[[ヘブライ文字]]は原則として子音のみを表したが、6世紀ごろから[[マソラ本文]]に点([[ニクダー]])を加えて正確な読みを注記することが行われた。当時は地域によって異なる伝統が行われ、東部(バビロニア)と西部(パレスチナ)では読みが異なっていた<ref>McCarter (2004) pp.322-323</ref>。現在使用されているニクダーはこのうちの[[ヘブライ語のティベリア式発音|ティベリア式発音]]に基づくものである<ref>「ヘブライ語文法ハンドブック」p244 池田潤 白水社 2011年8月30日発行</ref>が、その後のヘブライ語の変化によって現代の発音と表記の間にはずれが生じている<ref>『図説 世界の文字とことば』 町田和彦編 66頁。河出書房新社 2009年12月30日初版発行 ISBN 978-4309762210</ref>。
 
その後さらにヘブライ語は変化していき、{{仮リンク|中世ヘブライ語|en|Medieval Hebrew}}と呼ばれる一時期を迎えた。10世紀末には[[イベリア半島]]の[[コルドバ (スペイン)|コルドバ]]で[[イェフーダー・ベン=ダーウィード・ハイユージュ]]が初のヘブライ語文法書を完成させている<ref>https://doors.doshisha.ac.jp/duar/repository/ir/15036/003071010004.pdf 「聖書ヘブライ語と現代ヘブライ語 アイデンティティーを求めて」p67 アダ・タガー・コヘン 基督教研究第71巻第1号(同志社大学) 2009年6月26日 2019年8月9日閲覧</ref>。一方各地に離散したユダヤ人は現地語を話すか、あるいは[[セファルディム]]が話す[[スペイン語]]に属する[[ラディーノ語]]や、[[アシュケナジム]]が話す[[ドイツ語]]に属する[[イディッシュ語]]、[[アラビア語]]圏で話される[[ユダヤ・アラビア語群]]といった、ある程度のヘブライ語の痕跡を残す現地語の変種を話すようになっており、一般的な話し言葉としては完全に使われなくなっていた。また典礼用のヘブライ語の発音方式そのものも地域によって違いが生ずるようになり、セファルディムは子音の多い[[セファルディム式ヘブライ語]]を、アシュケナジムは母音の多い[[アシュケナジム式ヘブライ語]]を使用するようになっていた<ref>「ヘブライ語文法ハンドブック」p247 池田潤 白水社 2011年8月30日発行</ref>。
 
中世に入って文献学者の{{仮リンク|ヨハン・ロイヒリン|en|Johann Reuchlin}}は非ユダヤ人にして初めて大学で聖書ヘブライ語を教授し[[カバラ]]についての著書 (De Arte Cabalistica) を残し、[[ラビ]]としての教育を受けた[[バルーフ・デ・スピノザ]]は死後に遺稿集とした出版された『ヘブライ語文法総記』で文献学的聖書解釈の観点からより言語語学的なヘブライ語の説明を行った。その冒頭部で、母音を表す文字がヘブライ文字には存在しないにもかかわらず「母音のない文字は『魂のない身体』(corpora sine anima) である」と記した。[[18世紀]]に入るとユダヤ人の間で[[ハスカーラー]]と呼ばれる[[啓蒙]]運動が起こり、聖書ヘブライ語での文芸活動が始まった。この動きは、のちの19世紀におけるヘブライ語の復活に大きな役割を果たした<ref>https://doors.doshisha.ac.jp/duar/repository/ir/15036/003071010004.pdf 「聖書ヘブライ語と現代ヘブライ語 アイデンティティーを求めて」p68 アダ・タガー・コヘン 基督教研究第71巻第1号(同志社大学) 2009年6月26日 2019年8月8日閲覧</ref>。
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* キリスト聖書塾編集部編 『現代ヘブライ語辞典』 キリスト聖書塾 [[1984年]]([[昭和]]59年)1月 ISBN 4-89606-103-9
* 橋本功著 『聖書の英語とヘブライ語法』 英潮社 [[1988年]](昭和63年)10月 ISBN 4-268-00317-7
* {{cite book|author=McCarter, P. Kyle, Jr.|year=2004|chapter=Hebrew|title=The Cambridge Encyclopedia of the World's Ancient Languages|editor=Roger D. Woodard|publisher=Cambridge University Press|isbn=9780521562560|pages=319-364}}
* {{cite book|author=Steiner, Richard C.|year=1997|chapter=Ancient Hebrew|title=The Semitic Languages|editor=Robert Hetzron|publisher=Routledge|isbn=9780415412667|pages=145-173}}
* [[ギラード・ツッカーマン]] {{cite book |last=Zuckermann |first=Ghil'ad |year=2003 |url=http://www.palgrave.com/products/title.aspx?is=140391723X |title=Language Contact and Lexical Enrichment in Israeli Hebrew |publisher=Palgrave Macmillan |isbn=978-1403917232}}
*{{cite web|url=https://jp.reuters.com/article/pope-and-netanyahu-spar-idJPKBN0E703X20140527|title=キリストが話した言語めぐり異論、ローマ法王がイスラエル首相に|accessdate=24 June, 2018}}