「スーパーヘテロダイン受信機」の版間の差分

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== 歴史 ==
スーパーヘテロダインの原理は[[第一次世界大戦]]中の[[1918年]]、[[エドウィン・アームストロング]]が無線方位測定(RDF) (RDF) 機器での高周波増幅用[[三極管]]の供給不足に対処する手段として考案した。三極管高周波増幅では、同じ周波数に同調した共振回路にプレートもグリッドも接続される場合、グリッドとプレート間の容量結合によって増幅回路が発振してしまう可能性がある。このため、初期の設計では低利得の三極管増幅回路をカスケード接続する必要があり、多大な電力を消費した。しかし、それだけの価値があるとされていた。
 
アームストロングは、より高い周波数の機器の方が敵の船団をより効率的に発見できることに気づいたが、当時は「短波」<ref>当時は500kHz以上を全て「{{Lang|en|short wave}}」と称していた。</ref>の実用的な増幅器は存在しなかった。
 
アームストロングは、[[再生回路|再生式受信機]]が発振してしまったとき(アームストロングは再生式の考案者でもある)、その傍にある他の受信機が突然、送信されたのとは違う周波数で放送を受信するという現象に遭遇した。アームストロングらは、その現象が放送局の搬送周波数と発振周波数の間で「スーパーソニック・ヘテロダイン<ref>{{Lang-en-short|supersonic heterodyne}}</ref>」([[うなり]]のこと。ただし、通常の(「うなり」の項目で説明している)振幅の和によるものではなく、[[ヘテロダイン]]の項目で説明しているように[[混合器 (ヘテロダイン)|混合器]]による、変位の積によるものである)が発生しているためだと理解した。例えば、放送局が300kHzで送信していて、発振回路が400kHzで発振している場合、その局の放送は300kHzで受信できるだけでなく、100kHzと700kHzでも受信できる。2つの周波数を混合すると、新たに2つの周波数が生じ、一方は元の周波数の和となり、もう一方はそれらの差になる。この現象を[[ヘテロダイン]]という。<!--ふつうの「うなり」と考えると、周波数f1とf2の信号の和は、周波数|f1-f2|の包絡線の形を持つ、周波数(f1 (f1+f2)/2( ← /2に注意)の信号になる。この場合差のほうしか出てこないのだが、(スーパー)ヘテロダインについて、そのような説明がよくされている、が実は間違っている?-->
 
このような洞察から、アームストロングは短波増幅問題の解決策を見出した。例えば、1500kHzの周波数を受信したい場合、発振回路([[局部発振器]] 。略して局発と言う)を1560kHzの周波数で発振するように設定する。すると、信号の周波数は60kHzにまで下がり、高周波増幅性能が低い三極管でも容易に増幅可能となる。
 
最初のスーパーヘテロダイン回路は、[[中間周波数]](IF) (IF) のフィルタに鉄芯の[[変圧器|トランス]]の自己共振を利用していた(通常は、可変[[コイル]]を使う)。初期のスーパーヘテロダイン回路ではIFは20kHzと低かった。そのため[[#イメージ周波数]]の信号による干渉が発生しやすいが、当時は周波数選択性よりも感度が重視されていた。
 
アームストロングは素早く回路を実装でき、その技法は軍により迅速に採用された。しかし[[1920年代]]にラジオ放送が始まったころにはまだあまり普及していなかった。これは、発振回路に余分な[[真空管]]を必要とすることと、調整に技量を要することが足かせとなったためである。市販のラジオ受信機には、単純さと低価格で優れた[[ニュートロダイン]]という高周波増幅方式が一般に使われた。
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== 概要 ==
スーパーヘテロダイン受信機の原理は、それまでの受信機の設計の欠点を克服するものである。[[Q値]]の高い[[フィルタ回路]]でも高周波帯では[[帯域幅]]が広く、[[高周波同調受信機|高周波同調(TRF) (TRF) 受信機]]は周波数の選択性が弱い。[[再生受信機]]はTRF受信機よりも感度がよいが、安定性や選択性には問題があった。
 
スーパーヘテロダイン方式の受信機では、可変周波数 ''f''の信号が検波の前にもっと低い固定周波数 ''f''<sub>IF</sub>に変換される。周波数 ''f''<sub>IF</sub>を中間周波数(IF) (IF) と呼ぶ。[[振幅変調|AM]]ラジオ受信機(中波)の場合、その周波数は455kHzであることが多い。[[周波数変調|FM]]受信機 ([[超短波|VHF]]) では10.7MHz、テレビでは45MHzが一般的である。
 
受信した信号は全て[[局部発振器]]で生成された波形と[[混合器 (ヘテロダイン)|混合器]]で混合される。ユーザーは局部発振器の発振周波数 ''f''<sub>LO</sub>を調整することで選局を行う。混合器では、局部発振信号と受信信号群が混合され、''f''の信号は|''f''-''f''<sub>LO</sub>|=''f''<sub>IF</sub>と''f''+''f''<sub>LO</sub>に変換される。変換された信号のうち、''f''<sub>IF</sub>の信号のみがフィルタをパスし、増幅され、[[復調]]され、元の音声信号に戻される。''f''+''f''<sub>LO</sub>の信号のほうは、フィルタがあればフィルタをパスせず、中間周波増幅段は''f''<sub>IF</sub>の信号のみを選択的に増幅するようになっているので十分に低減される。
[[Fileファイル:Superhet-Upper.svg|center|thumb|400px|上側ヘテロダインの場合の図]]
 
== 上側と下側 ==
中間周波数 ''f''<sub>IF</sub>がいくつになるかは、局発周波数 ''f''<sub>LO</sub>が受信信号の周波数 ''f''よりどれだけ高いかあるいは低いかに依存する。いずれの場合も中間周波数は|''f''<sub>LO</sub>-''f''|となる。従って、中間周波数が ''f''<sub>IF</sub>になる、局発周波数 ''f''<sub>LO</sub>には、''f''<sub>LO</sub>=''f''+''f''<sub>IF</sub>と''f''<sub>LO</sub>=''f''-''f''<sub>IF</sub>の2つがある。<!--[[#影像周波数|影像周波数]]の信号の混じり込みを防ぐには、混合器を通す前に影像周波数の信号をフィルタなどで十分に低減する必要がある。--><!-- ← 修正してたらいらなくなった、というかやっぱたぶん和の成分のことを間違って影像と言っている -->''f''<sub>LO</sub>が受信周波数よりも高い''f''+''f''<sub>IF</sub>のほうを'''上側ヘテロダイン'''またはハイ・サイド・インジェクション<ref>{{Lang-en-short|high side injection}}</ref>という。逆を'''下側ヘテロダイン'''またはロー・サイド・インジェクション<ref>{{Lang-en-short|low side injection}}</ref>という。上側ヘテロダインでは信号の周波数成分が逆になる。実際に変化があるかどうかは、その信号の[[周波数スペクトル]]が対称性を持つかどうかに依存する。不都合な場合は、後からさらに逆にする。
 
[[中波]]AMラジオでは、下側を用いると[[中波帯]]の下限近くにて、例えば531-455=76(kHz)76 (kHz) と局発周波数が低くなり過ぎるので上側を用いる。
 
== イメージ周波数 ==
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原理から考えて、中間周波数 ''f''<sub>IF</sub>の信号には、上側ヘテロダインであれば、周波数 ''f''<sub>c</sub>の目的の信号と局発の信号を混合した信号の他に、周波数 ''f''<sub>LO</sub>+''f''<sub>IF</sub>の信号と局発の信号を混合した信号が混じる。
 
[[Fileファイル:Superhet-Image.svg|center|thumb|400px|イメージによる妨害の図]]
 
同じように、下側ヘテロダインであれば、周波数 ''f''<sub>LO</sub>-''f''<sub>IF</sub>の信号と局発の信号を混合した信号が混じる。
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下図はスーパーヘテロダイン受信機の構成図である。実際、全ての設計でこれらの要素を全て持つとは限らないし、他の設計の複雑さも表されていないが、局部発振器と混合器の後にIF増幅器とフィルタが続く構成は全てのスーパーヘテロダイン受信機で共通である。コスト削減した設計では、局部発振器と混合器の能動部品を1つにする場合(7極周波数変換管など。なお[[トランジスタ]]ラジオでは分けないほうがふつう)がある。
 
[[画像ファイル:RF1-IF2-receiver.png|center]]<!-- あまり適切な図ではない -->
 
この方式の利点は、回路の大部分でごく狭い範囲の周波数だけを通す点である。広範囲の周波数を扱う必要があるのは、周波数変換部より前だけである。例えば、1MHzから30MHzまで受信する場合でも、周波数変換部以降は典型的なIFである455kHzだけを扱えばよい。
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スーパーヘテロダイン受信機は、周波数安定性と選択性に優れている。局部発振器による同調はフィルタによる同調よりも安定させやすく、特に[[周波数シンセサイザ]]技術を使えば安定性が増す。同じ[[Q値]]でも、IFフィルタの方がRFフィルタよりも[[通過帯域]]を狭くできる。IFを固定とすることで[[水晶発振子]]によるフィルタを使うこともでき、高度な周波数選択性を必要とする用途で活用される。
 
テレビ受信機の場合、[[1941年]]に登場した[[NTSC]]システムに使われていた残留側波帯(VSB) (VSB) を受信するのに必要な正確な[[バンドパスフィルタ|帯域通過]]特性を実現できるのはスーパーヘテロダインだけだった。当初、複雑な可変[[インダクタンス]]を注意深く調整する必要があったが、[[1980年代]]初期以降、電気機械式[[表面弾性波フィルター]]が使われるようになった。表面弾性波フィルターは精密[[レーザー]]加工で安価に製造でき、高精度で安定している。
 
その後、IFフィルタ後のIF処理を[[ソフトウェア]]で実装した[[ソフトウェア無線]]アーキテクチャが登場した。最近ではアナログのテレビ受信機やデジタルの[[セットトップボックス]]にソフトウェア無線を使ったものも登場しつつある。[[アンテナ]]を小さなコンデンサ経由で[[集積回路]]に接続すればよく、全ての信号処理はデジタルで行われる。同様の技術は[[携帯電話]]や[[デジタルオーディオプレーヤー|MP3プレイヤー]]にFMラジオ機能を実装する際にも使われている。
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== 脚注 ==
{{Reflist}}
<references />
 
== 参考文献 ==
* {{Cite book|title={{Lang|en|The Electronics Handbook}}|last=ウィテカー|first=ジェリー|date=1996年 |publisher=CRCプレス |isbn=08-493834-55 |pages=1172 }}
 
== 関連項目 ==
* [[自動利得制御]](AGC (AGC)
* [[復調|復調回路]]
* [[可変周波数発振回路]](VFO (VFO)
* [[再生受信機]]
* [[ストレート受信機]]
* [[レフレックス受信機]]
* [[ヘテロダイン]]
* [[ダイレクトコンバージョン受信機]](DCR (DCR)
 
== 外部リンク ==
{{Commonscat|Radio electronic diagrams|ラジオエレクトロニクス}}
* [http://antiqueradios.com/superhet/ {{Lang|en|Who Invented the Superheterodyne?]}}(スーパーヘテロダイン方式の歴史)
* [http://www.qsl.net/vu2msy/receiver.htm {{Lang|en|Radio Receivers}}](スーパーヘテロダイン受信機についての詳しい解説)
* [http://www.microwaves101.com/encyclopedia/receivers_superhet.cfm {{Lang|en|Superheterodyne receivers]}}({{Lang|en|<code>microwaves101.com</code>}})
 
{{Normdaten}}