「スキージャンプ (航空)」の版間の差分
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米海兵隊によるスキージャンプ台の検討について加筆。 |
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== VTOL機での使用 (STOVL方式) ==
[[1960年代]]、イギリスの[[ホーカー・シドレー]]社は、世界初の実用[[垂直離着陸機]]として[[ホーカー・シドレー ハリアー|ハリアー]]の開発を進めていた。まずは[[イギリス空軍|空軍]]向けの[[攻撃機]]として開発されていたが、[[1969年]]頃からは、海軍向けの[[艦上戦闘機]]版の開発も着手された{{Sfn|Calvert|2019}}。
ハリアーは垂直離着陸(VTOL)に対応しているが、離陸する際には、短距離でも滑走を行えば相当に搭載量を増やすことができることから、実際の運用では、垂直離陸(VTO)ではなく、短距離離陸(STO)と垂直着陸(VL)を組み合わせた'''[[航空機の離着陸方法#短距離離陸垂直着陸機|STOVL]]'''方式となることが多い。当初、装備を搭載したハリアーを発艦させるためには[[カタパルト]]が必要と考えられていたが、母艦として予定されていた全通甲板巡洋艦(後の[[インヴィンシブル級航空母艦|インヴィンシブル級]])は[[蒸気タービン]]ではなく[[ガスタービンエンジン]]を主機とする予定だったため、カタパルトのための蒸気の供給が課題となっていた。これを解決するため、1969年、海軍のダグラス・テイラー中佐と、ホーカー・シドレー社のラルフ・フーパー技師が、ほぼ同時に、ハリアーの発艦支援設備としてスキージャンプ台を使うことを着想した{{Sfn|Polmar|2006|loc=ch.19 New Directions}}。これは、まずエンジンノズルを船尾側に向けたままで水平な飛行甲板上を加速し、艦首のスキージャンプ台に差し掛かったところでノズルを回転させて推進力を部分的に下方に向けて、半弾道の曲線を描きながらスキージャンプ台を通過する、というものであった。機体は、主翼の揚力とエンジンの推力によって浮揚することになる{{Sfn|Calvert|2019}}。
[[ベッドフォード (イングランド)|ベッドフォード基地]]の使用されていない[[誘導路]]に実験用のスキージャンプ台が設置されて、1977年8月より試験飛行が開始された。試験には、空軍の[[ホーカー・シドレー_ハリアー#ハリアーGR.1|ハリアーGR.1]]と、BAeがデモンストレーション用に自費製作した複座のハリアーT.52が使用された。この結果、スキージャンプ台の恩恵が確認され、試験を担当したテストパイロットであるジョン・ファーレイは、「これまで経験したことのない、総合的に[[Win-Win]]の最善のアイデア」と評した。当初、勾配角は6度とされていたが、後に20度までの様々な角度で試験が行われ、12度が最善であると結論された{{Sfn|Calvert|2019}}。しかしインヴィンシブル級の1・2番艦では、艦首に設置された[[シーダート (ミサイル)|シーダート]]発射機との干渉を避けるため、勾配角は7度とされた。一方、まだ起工前の[[アーク・ロイヤル (空母・3代)|3番艦]]では設計を修正する余裕があったため、勾配角12度とされており、1・2番艦でも後に同様に改修された{{Sfn|Calvert|2019}}。
また[[1978年]]9月には、陸軍工兵隊によって[[ハンプシャー]]の[[ロイヤル・エアクラフト・エスタブリッシュメント|王立航空研究所]]にも勾配角15度のスキージャンプ台が設置されて、同年の[[ファーンボロー国際航空ショー]]でハリアーによる発進がデモンストレーションされた。翌年、[[アメリカ海兵隊]]はこのスキージャンプ台を購入して、勾配角を12度に変更して[[パタクセント・リバー海軍航空基地]]に移設したのち、[[1981年]]には[[チェリー・ポイント海兵隊航空基地]]に近い{{仮リンク|ボーグ海兵隊予備着陸場|en|Marine Corps Auxiliary Landing Field Bogue}}に移設して、海兵隊のハリアー操縦士の訓練に用いられた{{Sfn|松崎|2005}}。[[1984年]]度計画からの[[ワスプ級強襲揚陸艦]]の建造にあたり、設計段階ではスキージャンプの設置も検討されたものの、スキージャンプ部分で[[ヘリコプター]]が発着できなくなり発着スポット数が減少することが問題視され、艦型が大きく十分な滑走距離を確保できることも勘案して、結局は採用されなかった{{Sfn|Gardiner|1996|p=618}}。
== CTOL機での使用 (STOBAR方式) ==
{{Double image stack|right|Sukhoi Su-33 launching from the Admiral Kuznetsov.jpg|F-14A taking off from a ramp during ski jump feasibility tests.jpg|250|「[[アドミラル・クズネツォフ (空母)|アドミラル・クズネツォフ]]」のスキージャンプから発進する[[Su-33 (航空機)|Su-33]]|[[パタクセント・リバー海軍航空基地]]のスキージャンプから発進する[[F-14 (戦闘機)|F-14A]]}}
[[ロシア海軍#ソ連海軍|ソビエト連邦海軍]]が[[1977年]]から[[黒海]]沿岸のサキ飛行場に建造した{{仮リンク|ニートカ|ru|НИТКА}}飛行実験センターには、[[カタパルト]]や[[アレスティング・ワイヤー]]とともに、勾配8度および14度のスキージャンプ台が設置されていた{{Sfn|Polutov|2017|pp=116-119}}。当初、[[キエフ級航空母艦|1143型航空巡洋艦(キエフ級)]]に続く重航空巡洋艦(TAvKR)では、ニートカで開発されたカタパルトとアレスティング・ワイヤーを導入した[[CATOBAR]]方式が採用される計画だったが、政府・軍上層部にはSTOVL空母・ヘリ空母への支持が根強かったために、結局、実際に建造された「[[アドミラル・クズネツォフ (空母)|アドミラル・クズネツォフ]]」ではカタパルトの導入は棄却され、代わりにスキージャンプ台を採用するように変更された{{Sfn|Polutov|2017|pp=138-143}}。
これによって、[[航空機の離着陸方法#通常離着陸機|CTOL]]方式の艦上機をスキージャンプで発艦させ、着艦時にはアレスティング・ワイヤーで停止させるという[[航空機の離着陸方法#短距離離陸拘束着艦機|短距離離陸・拘束着艦('''STOBAR''')]]方式が開発された{{Sfn|Polutov|2017|pp=138-143}}。その準同型艦である「[[ヴァリャーグ (空母)|ヴァリャーグ]]」でもこの方式が踏襲されたほか、同艦を「[[遼寧 (空母)|遼寧]]」として就役させた[[中国人民解放軍海軍]]では、国産化した[[001A型航空母艦]]でも同様の方式を採用した{{Sfn|小原|2019}}。また[[インド海軍]]も、キエフ級の準同型艦である「[[バクー (空母)|バクー]]」を「[[ヴィクラマーディティヤ (空母)|ヴィクラマーディティヤ]]」として再就役させる際にはSTOBAR方式に対応して改装し{{Sfn|Polutov|2017|pp=120-137}}、国産の「[[ヴィクラント (空母・2代)|ヴィクラント]]」でも同様の方式を採用した{{Sfn|井上|2019}}。
また[[アメリカ海軍]]でも、蒸気カタパルトの運用が困難な小型空母を想定して、スキージャンプの研究に着手した。
ただしSTOBAR方式では、発艦のためにCATOBAR方式よりも長い滑走レーンを必要とし、航空機の運用効率が低くなる{{Sfn|小原|2019}}。[[最大離陸重量]]も制約され、例えば[[Su-33 (航空機)|Su-33]]シリーズの場合、発艦可能な重量は26トンまでとされている<ref>{{Cite news|url=http://archive.defensenews.com/article/20130928/DEFREG/309280009/Chinese-Media-Takes-Aim-J-15-Fighter|title=Chinese Media Takes Aim at J-15 Fighter|archiveurl=http://webarchive.loc.gov/all/20150810120751/http://archive.defensenews.com/article/20130928/DEFREG/309280009/Chinese-Media-Takes-Aim-J-15-Fighter#|archivedate=2015-08-10|newspaper=[[:en:Defense News|Defense News]]|author=Wendell Minnick|date=28 September 2013}}</ref>。このため、STOBAR方式は、CATOBAR方式の導入を志向する海軍にとっての過渡的な存在とも評されている{{Sfn|井上|2019}}。
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* {{Cite book|last1=Brown |first1=J. D. |title=Carrier operations in World War II |date=2009 |publisher=Seaforth Publishing |isbn=9781848320420|ref=harv}}
* {{Cite book|first=Denis J.|last=Calvert|year=2019|chapter=シーハリアーの開発と運用|title=世界の傑作機 No.191 BAe シーハリアー|publisher=[[文林堂]]|pages=34-53|isbn=978-4893192929|ref=harv}}
* {{Cite book|first=Robert|last=Gardiner|title=[[:en:Conway Publishing|Conway's All the World's Fighting Ships 1947-1995]]|year= 1996|publisher=[[:en:United States Naval Institute|Naval Institute Press]]|isbn=978-1557501325|ref=harv}}
* {{cite book |last1=Green |first1=Michael |year=2015|title=Aircraft Carriers of the United States Navy |publisher=Pen and Sword |isbn=9781473854680|ref=harv}}
* {{Cite book|first=Norman|last=Polmar|year=2006|title=Aircraft Carriers: 2|publisher=Potomac Books Inc.|isbn=978-1574886634|ref=harv}}
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* {{Cite journal|和書|last=井上|first=孝司|year=2019|month=9|title=多様化する現代空母 (特集・世界の空母2019)|journal=世界の艦船|issue=907|pages=92-99|publisher=海人社|naid=|ref=harv}}
* {{Cite journal|和書|last=小原|first=凡司|year=2019|month=9|title=中国の空母4隻体制は脅威か (特集・世界の空母2019)|journal=世界の艦船|issue=907|pages=110-113|publisher=海人社|naid=|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|last=松崎|first=豊一|year=2005|chapter=Harrier & Sea Harrier in Action|title=世界の傑作機 No.111 ハリアー / シーハリアー|publisher=文林堂|pages=72-83|isbn=978-4893191274|ref=harv}}
== 関連項目 ==
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