「SH-60J (航空機)」の版間の差分

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| ユニットコスト=50億円
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'''SH-60J'''は、[[日本]]の[[海上自衛隊]]の[[対潜哨戒機#哨戒ヘリコプター|哨戒ヘリコプター]]。[[シコルスキー・エアクラフト]]社製[[SH-60 シーホーク#LAMPSヘリコプター(SH-60B シーホーク)|SH-60B]]を基に開発され[[対潜哨戒機#哨戒もので、海上自衛隊のヘリコプター|哨戒ヘリコプター]]としては初のシステム機である{{Sfn|水交会 |2012|p=251}}
 
== 開発来歴 ==
=== HSS-2BとSH-X ===
[[海上自衛隊]]では、[[シコルスキー S-61#日本|HSS-2B]]の後継として、[[アメリカ海軍]]の[[SH-60 シーホーク#LAMPSヘリコプター(SH-60B シーホーク)|SH-60B]]を日本向けに改造開発したSH-60Jが導入された。[[防衛庁]]は[[1983年]]([[昭和]]58年)から、アメリカ海軍の艦載ヘリ多目的運用構想 [[LAMPS]] III を参考にしつつ国内向けに開発を開始した<ref>[http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9494891/www.mod.go.jp/trdi/data/pdf/50th/TRDI50_06.pdf 技術研究本部50年史 技術開発官(航空機担当)]</ref>。{{要出典|範囲=
海上自衛隊では、新型の哨戒ヘリコプターとして[[三菱-シコルスキー S-61#HSS-2B|HSS-2B]]を開発し、[[1979年|昭和54年]]度より配備を開始していた。これは従来のHSS-2/2Aを元に、従来のディッピングソナーに加えて[[ソノブイ]]や捜索[[レーダー]]を搭載して対潜捜索能力を強化し、更にシステム化を図った画期的な機体であった。しかしその搭載システムは、固定翼哨戒機でいえば[[P-2J (航空機)|P-2J]]と同水準のものであり、昭和53年度から導入を開始した[[P-3 (航空機)|P-3C]]には劣るものであった。アメリカ海軍の哨戒ヘリコプターとしては、[[LAMPS#LAMPS_Mk.III|LAMPS Mk.III]]のための新しいSH-60Bの配備が進んでおり、[[航空集団]]司令部では、回転翼機部隊のシステム化の遅れへの危機感が募っていた。またHSS-2Bは[[ライセンス生産]]化を図っていたとはいえ、1986年4月の時点でも、アイテム比で40%、金額費で27%の国産化率にとどまっており、アメリカ合衆国からの輸入なしには製造困難であった。しかし既にアメリカ合衆国での同型機の生産は1980年10月には終了し、1990年代前半には海軍での運用を終了する予定であったことを勘案すると、1990年代後半には、海上自衛隊でのHSS-2Bの維持管理に支障をきたす恐れが大きかった{{Sfn|海上幕僚監部|2003|loc=ch.5 &sect;11}}。三菱重工業では、HSS-2Bを発展させたHSS-2Cを航空集団や海上幕僚監部に提案していたものの、内容は国産とは程遠いものであった{{Sfn|嶌田|2012}}。
搭載電子機器は[[貿易摩擦]]の影響で[[アメリカ合衆国|アメリカ]]が輸出を拒んだため|date=2019年11月}}、一部を[[ブラックボックス]]を含む試作機用グリーンエアクラフト2機を輸入し、それ以外をほとんど防衛庁[[技術研究本部]]が国産開発した。試作機XSH-60Jの1号機は[[1987年]](昭和62年)[[8月31日]]に日本で初飛行した。
 
この結果、HSS-2Bの運用試験中ながらも、早速、その後継となる次期艦載ヘリコプター(SH-X)計画が立ち上げられることになった{{Sfn|海上幕僚監部|2003|loc=ch.5 &sect;11}}。SH-X計画は1979年の[[中期業務見積り#五三中業|五三中業]]に盛り込まれ{{Sfn|嶌田|2012}}、1981年5月にはアメリカ合衆国・カナダに技術調査団が派遣された。当初は適当な外国の機体をライセンス生産し、それに、HSS-2Bに準じたシステムを海自が直接調達して搭載することを計画して、[[1982年|昭和57年]]度の要求に盛り込む予定であった。その後、HSS-2Bの戦力化状況も踏まえて、無理にHSS-2Bのシステムを転載するよりも、むしろ時間をかけてでもシステム開発を行う方針に転換され、同年度の要求は断念された{{Sfn|助川|2012}}{{Sfn|藤田|2012}}。
3号機からは[[三菱重工業]]による量産(機体とエンジンは[[ライセンス生産]])が開始され、[[1991年]]([[平成]]3年)[[8月]]から各部隊に配備され、[[2005年]](平成17年)までに103機が配備された。1機あたりの製造価格は約50億円で、機体寿命は約6,000飛行時間といわれる。[[1998年]](平成10年)度から[[2001年]](平成13年)度にかけて製造契約された32機([[艦載機|艦載型]]の補充用である8284号機を除く)は陸上基地配備用であり、艦載用の機体に次の装備品を追加装備している。
 
=== XSH-60Jの開発 ===
* 8271号機からの32機(艦載型の補充用である8284号機を除く):赤外線監視装置([[FLIR]])
機体としては、米海軍のSH-60Bシーキング、英・伊共同開発の[[アグスタウェストランド AW101|EH101マーリン]]、フランスの[[AS 532 (航空機)|AS.532SCクーガー]]の3機種が俎上に載せられた。AS.532SCは、既に同系列の[[AS 332 (航空機)|シュペルピューマ]]が[[陸上自衛隊]]の要人輸送機として採用されることになっており、また安価であったものの、重心が高いため、デッキハンドリング等艦艇における運用上の問題が懸念された。またEH101は性能面では期待されたものの、当時いまだ計画段階であり、また国際共同開発であったために先行きが不透明であるとみなされた{{Sfn|海上幕僚監部|2003|loc=ch.5 &sect;11}}{{Efn2|EH101は哨戒ヘリコプターとしては落選したものの、後に掃海・輸送ヘリコプターとして導入された。SHXプロジェクト初代マネージャーは、このEH101の完成機に触れて、「これがあの当時もっと形になっていたら、あるいはSHX計画も違ったものになっていたかと思うほど素晴らしい航空機になっていた」と評した{{Sfn|助川|2012}}。}}。
* 8285号機からの19機:不審船対策としてミサイル警報装置(AAR-60)及び[[チャフ]]/[[フレア (兵器)|フレア]]投射装置(AN/ALE-47(PJ))
* 8294号機からの10機:[[グローバル・ポジショニング・システム|GPS]]航法装置(MAGR)
 
これらの検討を経て、機体としてはSH-60Bが選定された。しかし上記の通り、搭載システムはSH-60Bのものとは異なり、海自独自のものを搭載するという形態を考慮し、米海軍と区別して'''SH-60J'''と呼称することとされた。開発に使用する2機分の機体(グリーンエアクラフト)を海上幕僚監部が直接調達して技術研究本部に委託することになり、[[1983年|昭和58年]]度予算でグリーンエアクラフトのうち1機の調達と技術研究本部による開発予算が認められて、開発が開始された。本研究開発の主契約業者は、従来からの海上自衛隊の対潜ヘリコプターの製造・支援の経験を買われ、三菱重工業が選ばれた{{Sfn|海上幕僚監部|2003|loc=ch.5 &sect;11}}。
また、8271号機以降からソノブイ投射器及びソノブイ処理関連の装備品を取り降ろし、電子機器搭載ラックを左舷側に集中させてキャビン空間を広げた機体も数機存在する。そのうち8285号機以降の機体は航続距離増大のため、アメリカ海軍の[[SH-60 シーホーク#艦上対潜ヘリコプター(SH-60F オーシャンホーク)|SH-60F]]と同様に左舷ウェポンパイロンに機外燃料タンクを1個搭載可能となっている。
 
グリーンエアクラフト2機は[[1985年|昭和60年]]度末に領収されて、直ちに開発のため技術研究本部に供与された。これによって開発されたプロトタイプはXSH-60Jとして1987年8月より試験飛行を開始した。その初飛行の成功を受けて、同年には量産機12機の予算が成立した。そして2年に渡る試験を経て、1991年6月28日に部隊使用承認を受けた{{Sfn|森|2012}}。
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画像:SH60J NP002.jpg|データリンク用装置
画像:SH60J NP003.jpg|[[ブラックボックス (航空)|フライトレコーダー]]
画像:SH60J NP004.jpg|前方監視赤外線装置(FLIR)
画像:SH60J NP005.jpg|発煙筒投下器
画像:A NASQ-81(V) MAD.JPG|AN/ASQ-81 磁気探知装置(MAD)
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== 任務設計 ==
=== 機体 ===
SH-60Jは、[[護衛艦]]に搭載され、空飛ぶCIC([[戦闘指揮所]])として各種戦術を実施する。
上記の通り、機体は基本的にSH-60Bと同様の設計で、これに国産の[[システム]]を搭載した構成となった。これに伴い、HSS-2Bでは4名であった搭乗員が3名に減少するのに対応できるよう、最大限の制御・表示の統合化を図るとともに、母機であるSH-60Bの性能特性を最大限に活用するために、母機の設計重量内で開発を行うべく、徹底的な重量管制を行った{{Sfn|海上幕僚監部|2003|loc=ch.5 &sect;11}}。
 
SH-60Bは、シコルスキー社の社内ではS-70B-3と称される。これは[[アメリカ陸軍]]の[[汎用ヘリコプター]]として開発された[[UH-60 ブラックホーク|UH-60A(S-70)]]をもとに[[艦載ヘリコプター]]としての運用に対応して設計変更したもので、外見上の大きな違いは、S-70では尾輪がテイルブーム最後部下にあったのに対し、S-70Bでは胴体直後のテイルブーム付け根下面に移されている点である。また胴体の窓は大きなもの1枚になり、テイルブームや水平安定板、主ローターブレードは折り畳みに対応した。艦載型では[[ベアトラップ|RAST]][[飛行甲板#着艦拘束装置|着艦拘束装置]]にも対応している。右舷キャビン扉上には、救助用のホイスト式[[ウインチ]]が設置されている{{Sfn|青木|2008}}。
=== 主任務 ===
# 対[[潜水艦]]戦
# 水平線外索敵
 
なお試作機のエンジンは[[ゼネラル・エレクトリック T700|T700-GE-401]]であったが、1988年10月の決定に基づき、量産機ではT700-401Cに変更された{{Sfn|森|2012}}。
=== 副次任務 ===
[[機関銃]]を搭載しての[[ガンシップ]]から捜索救難まで、多様な任務を持つ。
# [[捜索救難]] SAR:サーチアンドレスキュー
# 人員物資輸送 VERTREP:バートレップ(バーチカルリプレッシュメント)
# 空中消火
# 通信中継 COMREL:コムリレー(コミュニケーションリレー)
# 写真/ビデオ撮影と画像/映像転送
# 不審船対処
# [[特別警備隊]]の強襲降下
# [[水中処分員|EOD]]による[[機雷]]除去
 
=== 任務概要センサー ===
本機のシステム開発は、[[艦載ヘリコプター]]・システムの開発、すなわち[[対潜艦]]のサブシステムとして1機1艦を戦術単位とする構想のもとで進められた。この点では原型となったLAMPS Mk.IIIと同じであるが、海自独自の戦術思想として、最終的に潜水艦を追尾攻撃する段階では複数機による従来の戦術を踏襲し、また艦とのデータリンクの圏外ではヘリコプターが独自に作戦行動を行いうるよう、LAMPSと同様の[[ソノブイ]]に加えて、[[ディッピングソナー]]の搭載も求められた{{Sfn|助川|2012}}。すなわち、アメリカ海軍ではSH-60Bが担当する広域対潜戦と、SH-60Fが担当する近接対潜戦とを1機種で対応する機種といえる{{Sfn|松田|2012}}。
乗員は[[パイロット (航空)|パイロット]]2名と、[[レーダー]]や[[ソナー]]を操作する[[センサーマン]](兼[[降下救助員]])と呼ばれる[[航空士]]1名で運用される。
 
ディッピングソナーとしては、国産のHQS-103が搭載された。これは、アメリカ海軍のSH-3HおよびSH-60Fが搭載する[[:en:AQS-13#AQS-18|AN/AQS-18]]の[[ソナー#送波・受波|送受波器]]([[トランスデューサー]])を使用して、[[ソナー#送信・受信|ドライエンド]]([[音響信号処理]]部)を国産化したものであった{{Sfn|助川|2012}}。
護衛艦の戦闘システムの一部であるため、CIC(戦闘指揮所)とSH-60Jは[[データリンク]]を通じて任務を遂行する。データリンクによって、SH-60Jのレーダー画像、ソノブイ信号などを護衛艦に伝送して、SH-60Jのレーダー画像を護衛艦でも直接見ることができる。すなわち、SH-60Jは、護衛艦から発進した時点で空飛ぶ[[レーダーサイト]]となり、護衛艦周辺の艦艇や航空機、近接する敵[[ミサイル]]を探知する。また、レーダー画像の調整は護衛艦からも行なえる。護衛艦の哨戒長は、SH-60Jに捜索パターンなどの作戦行動を指示して、自艦の索敵能力を飛躍的に向上させることができる。対艦索敵任務を受け持つSH-60Jは、強力な索敵手段であることから「エアボーンパウンサー([[SBD (航空機)|索敵攻撃機]])」と呼ばれる。[[ESM]]逆探知装置も有力な索敵手段であり、敵性電波を傍受したならば、瞬時に目標を判別し発信位置を特定することができる。SH-60Jの副操縦士は、[[P-3 (航空機)|P-3C]]の[[戦術航空士]]と同様の任務も担当する。操縦の補佐以外にも効率的な任務遂行のため、CICと連携してリコメンド(提言、進言)を機長またはCICに与える責任をもつ。
 
[[磁気探知機]](MAD)はHSS-2Bの搭載機をマイナーバージョンアップしたAN/ASQ-81(V)4となった。一方、[[レーダー]]はHPS-104、また[[電子戦支援|逆探装置]]はHLR-108と、いずれも国産の新型機が搭載された{{Sfn|水交会|2012|loc=海上自衛隊回転翼関連年表}}。
SH-60Jは1機種で広域哨戒用の[[ソノブイ]]と、位置極限のための[[ディッピングソナー]]を運用する。航法機器も充実しているため、暗夜での超低空オペレーションが実施可能である。護衛艦に搭載され、[[戦術データ・リンク|データリンク]]を通じて艦側戦闘システムの一部に組み込まれている、との意を込めてHS(ヘリコプターシステム)と呼称されている。
 
<gallery widths="180px" heights="150px">
艦載ヘリとして運用するため[[飛行甲板#ヘリコプター甲板|RAST]](着艦拘束装置)が備えられ、降着装置も強化された。また、HF無線機、[[増槽]]タンク、[[FLIR]](赤外線暗視装置)、[[74式車載7.62mm機関銃|74式機関銃]]、旧型[[グローバル・ポジショニング・システム|GPS]]、自機防御システム([[チャフ]]、[[フレア (兵器)|フレア]])も追加装備されている。捜索救難用器材ついては、サーチライトとホイストライトや救難用[[ウインチ]]があり、吊り下げ輸送用のカーゴフックも装備している。
画像:SH60J NP003.jpg|[[ブラックボックス (航空)|フライトレコーダー]]
画像:A NASQ-81(V) MAD.JPG|AN/ASQ-81 磁気探知装置(MAD)
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=== 開発3品 (HCDS・AFMS・HS-LINK) ===
== 着艦方式 ==
SH-60Jは、国内で初めて[[:en:MIL-STD-1553B|MIL-STD-1553B]]データバスで個々のセンサ・制御系を連接し、戦術情報処理表示装置(HCDS)および自動飛行制御装置(AFMS)に組まれたソフトウェアで航空機を制御するシステムとなった。これらのシステム開発にあたっては、HSS-2Bというよりは、むしろ当時導入が進められていたP-3CおよびE-2Cのソフトウェア資産が影響を与えたとされる{{Sfn|助川|2012}}。なお、このAFMSとHCDS、そしてHCDSと艦をつなぐデータリンク(HS-LINK)は「開発3品」と称された{{Sfn|松田|2012}}。
動揺があるうえに狭い護衛艦の飛行甲板へ着艦するため、3種類の着艦方式がある。護衛艦内では着艦をデッキランディング(通称ディーラン)と呼称する。
[[画像:SH-60J landing March 2007.jpg|thumb|250px|[[アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦]]への着艦を試みるSH-60J]]
 
HSS-2Bでは、ソノブイ信号を受信して艦艇に伝送するAKT-22装置を装備していたものの、その効用は少なく、実運用ではディッピングソナーによる複数機の編隊戦術が主流となっていた。また戦術情報処理表示装置(TDDS)を搭載していたものの、艦の[[戦術情報処理装置]](CDS)とのシステム的な連接がなされているわけではなく、ソノブイ信号の伝送以外は無線電話で連絡しているのみであった{{Sfn|助川|2012}}。これに対してSH-60Jでは、LAMPS Mk.IIIと同様に、機上の戦術情報処理表示装置(HCDS)と、艦上のCDSとを、多重データリンクで連接する方式が採用された{{Sfn|助川|2012}}。HCDSの電子計算機としては富士通のF-3コンピュータ(16ビット)が使用されたが、これはSH-60Bで搭載されていたAN/AYK-14コンピュータをもとに国産化したもので、記憶媒体を[[磁気記録]]から[[CMOS]]に変更して小型軽量化するなどの変更が加えられている。[[プログラミング言語]]は、P-3Cや艦艇システムと同系統のCMS-2Mが用いられていた{{Sfn|中川|2012}}。またデータリンクのプロトコル策定にあたってはリンク 11が参考にされた{{Sfn|加藤|2013}}。
; フリーデッキランディング
: [[着艦拘束装置]]を使用せず、着艦後はタイダウンチェーンで艦に係止する方法。格納庫からの搬出入は、機体を人力で押すことによって行う。
: 本着艦方式の名称である「フリーデッキランディング」は[[海上自衛隊]]独自の呼称であり、[[アメリカ海軍]]においては「クリアデッキランディング」と呼称する。
 
なお艦のCDSとは直接連接はできず、CDSインターフェイス装置(CDS-IFU)を介した連接となった。当初、艦上での試験は58DD「あさぎり」を計画していたが、このCDS-IFUの予算化の遅れによって、59DD「あまぎり」が試験艦となった。また本来あるべきシステムとしてのASWDSを装備した艦は61DD「うみぎり」以降となり、技術/実用試験期間中には試験を行えなかった{{Sfn|森|2012}}。
; アンテザードランディング
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: 着艦拘束装置を使用する。航空機下部の突起部(メインプローブ)を着艦拘束装置で挟み込み、機体を係止する。もっとも使用頻度の高い着艦方法。格納庫への搬出入は、着艦拘束装置を使用する。
画像:SH60J NP002.jpg|データリンク用装置
: 本着艦方式の名称である「アンテザードランディング」は海上自衛隊独自の呼称であり、アメリカ海軍においては「テザードランディング」と呼称する。
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=== 追加装備 ===
; テザードランディング
1999年3月の[[能登半島沖不審船事件]]を受けて、[[74式車載7.62mm機関銃|74式機関銃]]及びその銃架、静止画像伝送装置、探照灯、機外スピーカー、[[ファストロープ器材]]、暗視装置付ヘルメットを装備することとした{{Sfn|海上幕僚監部|2003|loc=ch.7 &sect;7}}。
: 着艦拘束装置を使用する。ホールダウンランディングともいう。航空機下部に護衛艦からのRA(リカバリーアシスト)ケーブルを取り付け、護衛艦側のウインチによって強制的に機体を引き降ろすことにより着艦させる。悪天候時の着艦方法である。着艦後は、着艦拘束装置で航空機下部の突起部(メインプローブ)を挟み込み、機体を係止する。格納庫への搬出入は、着艦拘束装置を使用する。
: 本着艦方式の名称である「テザードランディング」は海上自衛隊独自の呼称であり、アメリカ海軍においては「リカバリーアシストランディング」と呼称する。
 
その後、[[アメリカ同時多発テロ事件]]を受けて2001年から[[自衛隊インド洋派遣]]が開始されるにあたり、小火器での攻撃への対策として、コクピット周囲に防弾板が装着された。またSH-60Jでの荷物の吊り下げ移送(カーゴスリング)については、以前の試験の際に航空機が不安定となったことからしばらく行われていなかったが、この派遣の際に再度の検討を実施した結果、実施要領が策定されて、実施可能となった{{Sfn|小豆野|2012}}。
== 現況と今後の推移 ==
[[画像:Fresh from overhaul and without squadron markings (5232265951).jpg|thumb|250px|left|SH-60J]]
2019年3月末時点での海上自衛隊の保有数は24機<ref name="hakusyo01">{{Cite web |url =https://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2019/html/ns009000.html |title =令和元年度防衛白書 資料9 主要航空機の保有数・性能諸元 |accessdate=2019-11-19}}</ref></ref>。
 
なお最後の32機は陸上配備型とされたが、これらは赤外線監視装置([[FLIR]])を備えている。またこのうち最後の19機には、不審船対策としてミサイル警報装置(AAR-60)及び[[チャフ]]・[[フレア (兵器)|フレア]]投射装置(AN/ALE-47(PJ))が、そして特に最後の10機には[[グローバル・ポジショニング・システム|GPS]]航法装置(MAGR)が装備された。このほか、後には多くの機体のテイルブーム左舷に飛行記録装置が追加装備された{{Sfn|青木|2008}}。
多くの実任務にその威力を発揮し、[[能登半島沖不審船事件]]、[[漢級原子力潜水艦領海侵犯事件]]、台風・地震・水害・山火事による災害派遣のほか、離島洋上における救難、患者輸送など、多様な任務に従事している。そのため、[[海上自衛隊]]では「[[対潜哨戒機#哨戒ヘリコプター|哨戒機]]/[[回転翼機]](哨戒ヘリコプター)」と分類している。
 
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[[2002年]](平成14年)から代替機となる発展型の'''[[SH-60K (航空機)|SH-60K]]'''の調達が進行中である。ただし厳しさを増す財政を受けて、耐用飛行時間に達したSH-60Jの機数に合わせてSH-60Kの調達を続けられないため、[[2011年]](平成23年)度予算からSH-60Jの機体寿命延命措置が開始されている<ref>[http://www.mod.go.jp/j/yosan/2011/yosan.pdf 平成23年度概算要求の概要] 防衛省</ref>。平成23年度から27年度予算までに計10機の機齢延伸予算が計上されている。5年程度延伸する計画を予定している。
画像:SH60J NP004.jpg|前方監視赤外線装置(FLIR)
{{-}}
画像:SH60J NP005.jpg|発煙筒投下器
</gallery>
 
== 性能・主要諸元 ==
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|caption2=折り畳まれたテイルブーム<br/>中央に見える物はチャフ・フレア・ディスペンサーとフライトレコーダー
}}
{{航空機スペック
* 乗員:3名
|固定翼 or 回転翼?=回転翼
* 最大乗組員数:8名
|ジェット or プロペラ?=プロペラ
* 全長:19.8[[メートル|m]]
|出典={{Cite book|和書|editor=朝雲新聞社|year=2011|title=自衛隊装備年鑑 2011-2012|publisher=[[朝雲新聞|朝雲新聞社]]|isbn=978-4750910321|page=294|ref=harv}}
* 胴体幅:4.4m
|乗員=3名
* 全高:5.4m
|全長 SI=19.76 m
* 主回転翼直径:16.4m
|全長 fp=
* 発動機:[[ゼネラル・エレクトリック T700|T700-IHI-401C]] [[ターボシャフトエンジン|ターボシャフト]](1,660 [[馬力|SHP]](連続)、1,800 SHP(離昇))×2
|全高 SI=5.18 m
* 燃料 [[ジェット燃料|JP-5]]
|全高 fp=
* 超過禁止速度:275km/h=M0.22
|全幅 SI=16.35 m
* 実用上昇限度:5,790m
|全幅 fp=
* 航続距離:580[[キロメートル|km]](最大)
|スパン SI=16.4 m
* 自重:6,200kg
|スパン fp=
* 最大離陸重量:9,700kg
|空虚重量 SI=6.2 t
|空虚重量 fp=
|最大離陸重量 SI=9.9 t
|最大離陸重量 fp=
|エンジン名(プロペラ)=[[ゼネラル・エレクトリック T700|T700-GE-401C]]
|エンジン種類(プロペラ)=[[ターボシャフトエンジン]]
|エンジン数(プロペラ)=2
|出力 fp=1,800 shp
|超過禁止速度 SI=
|超過禁止速度 fp=
|最大速度 SI=276 km/h
|最大速度 fp=149 kt
|巡航速度 SI=
|巡航速度 fp=
|航続距離 SI=
|航続距離 fp=
|上昇限度 SI=
|上昇限度 fp=
|武装=[[74式車載7.62mm機関銃|74式機関銃]]×1(必要に応じて搭載)
|魚雷=[[Mk46 (魚雷)|Mk.46短魚雷]]×2{{Efn2|[[97式短魚雷]]は運用していない<ref>[http://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/13/jizen/youshi/06.pdf 平成13年度政策評価書(事前の事業評価)哨戒ヘリコプター(SH-60K)7機の整備] 防衛省</ref>。}}
}}
 
=== 武装運用史 ===
[[画像:Fresh from overhaul and without squadron markings (5232265951).jpg|thumb|250px|left|SH-60J]]
* [[Mk46 (魚雷)|Mk.46短魚雷]]×2<ref>[[97式短魚雷]]は運用していない。[http://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/13/jizen/youshi/06.pdf 平成13年度政策評価書(事前の事業評価)哨戒ヘリコプター(SH-60K)7機の整備] 防衛省</ref>
上記のように、まずグリーンエアクラフト2機を輸入したのち、3号機からは[[三菱重工業]]による量産(機体とエンジンは[[ライセンス生産]])が開始され、[[1991年]]([[平成]]3年)[[8月]]から各部隊に配備され、[[2005年]](平成17年)までに103機が配備された。1機あたりの製造価格は約50億円で、機体寿命は約6,000飛行時間といわれる。
* [[74式車載7.62mm機関銃|74式機関銃]]×1(必要に応じて搭載)
 
2018年3月末時点での海上自衛隊の保有数は22機<ref name="hakusyo30">[http://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2018/html/ns009000.html 平成30年度防衛白書 資料9 主要航空機の保有数・性能諸元]</ref>。
=== 主要装備品 ===
 
* 戦術情報処理表示装置
多くの実任務にその威力を発揮し、[[能登半島沖不審船事件]]、[[漢級原子力潜水艦領海侵犯事件]]、台風・地震・水害・山火事による災害派遣のほか、離島洋上における救難、患者輸送など、多様な任務に従事している。そのため、[[海上自衛隊]]では「[[対潜哨戒機#哨戒ヘリコプター|哨戒機]]/[[回転翼機]](哨戒ヘリコプター)」と分類している。
* 通信器材
 
** UHF無線機 [[航空無線]]
[[2002年]](平成14年)から代替機となる発展型の'''[[SH-60K (航空機)|SH-60K]]'''の調達が進行中である。ただし厳しさを増す財政を受けて、耐用飛行時間に達したSH-60Jの機数に合わせてSH-60Kの調達を続けられないため、[[2011年]](平成23年)度予算からSH-60Jの機体寿命延命措置が開始されている<ref>[http://www.mod.go.jp/j/yosan/2011/yosan.pdf 平成23年度概算要求の概要] 防衛省</ref>。平成23年度から27年度予算までに計10機の機齢延伸予算が計上されている。5年程度延伸する計画を予定している。
** UHF/VHF無線機 [[国際VHF|船舶無線]]
{{-}}
** 暗号通信装置
** [[戦術データ・リンク|データリンク]]装置
** [[HF無線機]]([[航空管制隊]]、[[護衛艦]]、基地司令部との通信用。最大到達半径約300海里)
* 航法器材
** 自動操縦装置
** [[慣性航法装置]]
** ドップラーレーダー航法装置
** [[戦術航法装置|TACAN航法装置]]
** [[超短波全方向式無線標識|VOR]]航法装置
** UHF/DF([[自動方向探知機]])
* 哨戒用器材
** [[レーダー]]最大捜索距離 約100[[海里|nm]](180[[キロメートル|km]]、高度約2000[[メートル|m]]での数値)
** HQS-103 ディッピングソナー
** [[ソノブイ]]×25本
** ESM逆探装置(敵捜索用レーダーの探知方位を母艦に知らせ、さらに敵射撃管制用レーダーの被照射をパイロットに知らせる)
** [[磁気探知機|MAD]](オプティカルポンピング式磁気探知機 AN/AQS-81シリーズ、探知範囲約500m)
** [[FLIR]](赤外線暗視装置、一部のみ)
** 航空カメラ、暗視双眼鏡、ジャイロ付き双眼鏡、画像伝送装置
* 救難用器材
** サーチライト
** レスキューホイスト(荷重制限600[[ポンド (質量)|lb]]/約270[[キログラム|kg]])
** カーゴフック(荷重制限4000ポンド / 約1900kg)
** 海面着色剤(マリンロケーションマーカー)
* その他
** [[飛行甲板#ヘリコプター甲板|RAST]](着艦拘束装置)
** 自機防御装置([[チャフ]]/[[フレア (兵器)|フレア]])
** [[グローバル・ポジショニング・システム|GPS]]
** [[増槽|機外燃料タンク]](JP-5 800ポンド / 約1時間飛行可能)
** マーカーシューター(発煙筒投下器。発煙筒Mk-7(15分間燃焼)またはMk-6(約45分間燃焼))
** 水中発音弾(音響警告用。電子音型と爆発音型がある)
** 空中消火器材
** カーゴフック 機外取付貨物、最大荷重約2t
 
=== 配備基地 ===
* [[館山航空基地]]:[[第21航空群]]-第21航空隊-第212飛行隊
* [[大村航空基地]]:[[第22航空群]]-第22航空隊-第223飛行隊
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* [[厚木飛行場|厚木航空基地]]:[[第51航空隊 (海上自衛隊)|第51航空隊]] - 第513飛行隊
 
=== 航空事故 ===
海上を超低空で飛行するため、「SH-60Jの整備員は塩害との戦い」といわれる。飛行終了後は必ず機体洗浄とエンジン洗浄が実施され、さらに入念な点検整備が施される。
また、夜間飛行も多いため、搭乗員は各種装備の更新と練度の向上に努めている。
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: [[第二次世界大戦]]時に[[タイムトラベル|タイムスリップ]]した、[[たかなみ型護衛艦]]「[[さざなみ (護衛艦)|さざなみ]]」の艦載機として登場。[[大日本帝国海軍|日本海軍]]と連携し、対潜警戒を行う。
 
== ==
{{Reflist脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
{{Reflist|2}}
 
== 参考文献 ==
* {{Cite journal|和書|authorlink=青木謙知|last=青木|first=謙知|year=2008|month=10|title=HSS-1からSH-60Kへ 対潜ヘリコプターの発達 (特集 海上自衛隊の艦隊航空)|journal=[[世界の艦船]]|issue=696|pages=88-91|publisher=海人社|naid=40016204590|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|last=小豆野|first=実|year=2012|chapter=テロ特措法に基づくインド洋方面への派遣|title=第3巻 回転翼機|series=海上自衛隊 苦心の足跡|publisher=水交会|pages=513-518|ref=harv}}
* {{Cite journal|和書|last=石川|first=潤一|year=2001|month=7|title=海上自衛隊艦載航空部隊発達史 (特集 海上自衛隊のDDHとその将来)|journal=世界の艦船|issue=584|pages=96-99|publisher=海人社|naid=40002156111|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|editor=海上幕僚監部|year=2003|title=海上自衛隊50年史|ncid=BA67335381|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|last=加藤|first=靖|year=2013|chapter=ASW装備システム化の道程|title=第4巻 水雷|series=海上自衛隊 苦心の足跡|publisher=水交会|pages=264-267|ref=harv}}
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* {{Cite book|和書|editor=水交会|year=2012|title=第3巻 回転翼機|series=海上自衛隊 苦心の足跡|publisher=水交会|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|last=助川|first=士朗|year=2012|chapter=SHXについて|title=第3巻 回転翼機|series=海上自衛隊 苦心の足跡|publisher=水交会|pages=254-264|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|last=中川|first=利春|year=2012|chapter=SH-60J用戦闘指揮システムHCDSの開発について|title=第3巻 回転翼機|series=海上自衛隊 苦心の足跡|publisher=水交会|pages=305-307|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|last=藤田|first=幸生|year=2012|chapter=SH-60グリーンエアクラフトの予算取得|title=第3巻 回転翼機|series=海上自衛隊 苦心の足跡|publisher=水交会|pages=264-273|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|last=松田|first=導|year=2012|chapter=SHX研究開発の思い出|title=第3巻 回転翼機|series=海上自衛隊 苦心の足跡|publisher=水交会|pages=279-283|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|last=森|first=哲郎|year=2012|chapter=SH-60Jの開発・試験について|title=第3巻 回転翼機|series=海上自衛隊 苦心の足跡|publisher=水交会|pages=294-299|ref=harv}}
 
== 関連項目 ==