「労働協約」の版間の差分

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# 前項の予告は、解約しようとする日の少くとも九十日前にしなければならない。
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労働協約の有効期間を定める場合、上限は3年である([[b:労働組合法第15条|第15条]]1項)。3年を超える有効期間の定めをした労働協約は3年の有効期間の定めをした労働協約とみなされる(第15条2項)。有効期間の定めがない労働協約は当事者の一方が少なくとも90日前に相手方に予告して解約することができる(第15条3項、4項)。内容について特に制限はないが、個別的労働関係や団体的労使関係に関連していることを要する。労使が合意すれば[[強行法規]]や[[公序良俗]]([[b:民法第90条|民法第90条]])に反しない限り基本的には当事者の自由である<ref>努力義務として、「常に労働関係の調整を図るための正規の機関の設置及びその運営に関する事項を定める」ようにしなければならない([[労働関係調整法]]第2条)</ref>。
*労働協約の有効期間について、[[期限#民法上の期限|不確定期限]]を付する場合も含まれる([[東京12チャンネル]]事件、東京高判昭和44年3月10日)。なお、不確定期限を付する形で期間を定める労働協約について、当該期限が到来せず3年を経過した場合に、第15条2項に従い3年の期間を定めとみなされ、期間満了時に労働協約は終了するとした判例がある([[日本通信機]]事件、横浜地判昭和43年4月6日)。
 
一般的な労働協約では、労使間の紛争が生じた場合には、一定の手続(一定期間の協議・[[あっせん]]・[[調停]]・予告等)を経なければ[[争議行為]]に訴えないこと('''平和条項''')を定めることが多い。仮に平和条項を定めなかったとしても、労使間で労働協約を結んだ以上、その協約事項に関しては、その有効期間中はその内容を尊重する義務('''平和義務''')を負い、協約有効期間中、協約に定められた労働条件その他の事項の変更・廃止を求めて争議行為を行わない、組合は組合員らに対しこれに関した争議行為を行わないように働きかける義務を負う。もっとも平和義務違反の争議行為については、平和義務は労働組合が負担すべきものであり、企業秩序の侵犯に当たるとすることはできず、その義務違反自体を理由として使用者が争議行為参加者を[[懲戒処分]]とすることはできないとするのが判例の立場である([[弘南バス]]事件、最判昭和43年12月24日)。
 
労使交渉がもつれた末に[[労働委員会]]が[[仲裁]]をした場合、仲裁委員会が作成する仲裁裁定は労働協約と同一の効力をもつ([[労働関係調整法]]第34条)。もっとも[[厚生労働省]]の調査では、2003年(平成15年)を最後に仲裁による解決は激減し、2004年(平成16年)以降は2016年(平成28年)に1件あったのみで他の年は0件となっている<ref>[https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/14-30-05.pdf 平成30年労働争議統計調査の概況 厚生労働省]および過年度の同調査より</ref>。
 
== 一般的拘束力 ==
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# 一の地域において従業する同種の労働者の大部分が一の労働協約の適用を受けるに至つたときは、当該労働協約の当事者の双方又は一方の申立てに基づき、[[労働委員会]]の決議により、[[厚生労働大臣]]又は[[都道府県知事]]は、当該地域において従業する他の同種の労働者及びその使用者も当該労働協約(第二項の規定により修正があつたものを含む。)の適用を受けるべきことの決定をすることができる。
# 労働委員会は、前項の決議をする場合において、当該労働協約に不適当な部分があると認めたときは、これを修正することができる。
# 第一項の決定は、公告によつてする。労働契約と就業規則との関係については、労働契約法(平成19年法律第128号)第12条の定めるところによる。
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労働協約は労働組合と使用者側との契約であることから、協約上特に適用範囲を限定しない限り締結した労働組合に加入している組合員全員に適用され、当該組合員でない者に対して効力が及ぶものではない。しかし、労働組合が[[b:労働組合法第17条|第17条]]・[[b:労働組合法第18条|第18条]]のどちらかの要件を満たした場合は、その労働組合が締結した労働協約が当該組合の組合員以外の者にも自動的に拡張適用される('''一般的拘束力''')。
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*非組合員等特定の労働者に労働協約の一般的拘束力を適用することが諸般の事情から見て著しく不合理であるとみなされる特段の事情があるような場合には、拡張適用は認められない([[朝日火災海上保険]](高田)事件。最三小判平成8年3月26日)。
*第17条は労働協約の締結状況だけで自動的に適用されるのに対し、第18条では大臣又は知事の決定によってはじめて効力を生じる。もっとも[[企業別労働組合]]が圧倒的な主流である日本では、第18条によって拡張適用が実現された例はきわめて少数しかない<ref>厚生労働省労政担当者参事官室編「労働組合法・労働関係調整法(5訂新版)」(労務行政研究所、2006年)p.658~によれば、労働組合法施行後、第18条による拡張適用は8件のみであり、1989年(平成元年)に愛知県で決定されたものを最後に例がない。</ref>。
*第18条の決議及び決定は、当該地域が一の都道府県の区域内のみにあるときは、当該[[都道府県労働委員会]]及び当該都道府県知事が行い、当該地域が2以上の都道府県にわたるとき、又は[[中央労働委員会]]において当該事案が全国的に重要な問題に係るものであると認めたときは、中央労働委員会及び厚生労働大臣が行うものとする(施行令第15条)。
 
== 労働契約・就業規則・労働協約の関係 ==
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{{See also|就業規則#効力関係}}
効力の優先順位は優位のものから順に、[[法令]]、労働協約、就業規則、[[労働契約]]となる。使用者が一方的に作成・変更できる就業規則や、使用者と個々の弱い立場での[[労働者]]が結ぶ労働契約よりも、労働者の団体である労働組合が使用者と結んだ労働協約が優先する。労働協約に定める'''労働条件その他の労働者の待遇に関する基準'''に違反する労働契約の部分は[[無効]]となり、労働契約に定めのない部分についても、基準の定めるところによる('''規範的効力'''、[[b:労働組合法第16条|第16条]])。また、就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない([[b:労働基準法]]第92条|労働基準法第92条]])と規定され、労働協約の就業規則に対する優先性を明らかにしている。
 
もっとも、労働協約が就業規則より優越するとはいっても、労働協約は原則として当該組合員にしか適用されないので、非組合員がいれば、均等待遇([[b:労働基準法第3条|労働基準法第3条]])の要請から、実際には労働協約の趣旨に沿った就業規則の改定が行われなければ、労働協約の内容は実現できない(特に、労働協約によって労働条件を労働者の不利益に改定する場合に問題となる)。
 
労働協約が失効した場合、労働協約の内容を反映して規定された就業規則がある場合には、当該協約失効後はその就業規則によるべき(いわゆる「余後効」)である([[香港上海銀行]]事件。最一小判平成元年9月7日)。また、具体的な労働協約の内容が、どれほど組合員にとって不利益であっても、当該規定の内容が、特定のまたは一部の組合員をことさらに不利益に扱うことをあらかじめ目的として締結されたなど、労働組合の目的を逸脱して締結されたような場合以外は'''規範的効力に支障はない'''(朝日火災海上保険(石堂)事件。最一小判平成9年3月27日)。つまり、労働協約については、たとえ労働契約の定めた内容の方が労働者に有利であっても労働協約の効力が優先する<ref>産業別労働組合が主流である諸外国では労働協約は最低基準を定めるものにすぎないが、企業別労働組合が主流である日本では、労働協約は最低基準ではなく画一的標準を定めるものとなる。よって個々の労働契約の有利を認めてしまうと労働組合の集団的規制が損なわれてしまう。もっとも、労働協約が自ら個々の労働契約の有利な労働条件を許容している場合にまでこれを否定する必要はなく(判例として、[[ネッスル]]事件(大阪高判昭和63年3月28日))、実際には有利原則は一律に定まるものでなく個々の労働協約の解釈により決せられる。</ref>(労使交渉は相互譲歩の取引であり、労働者に不利な合意のみを取り出して協約の効力を否定するのでは、労使交渉全体が成立しない)。一方、就業規則については、就業規則の定める基準に達しない労働条件を定める労働契約を無効にするが、基準を上回る労働条件を定める労働契約は無効にはならない。
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== 関連項目 ==
* [[日本の労働組合]]
* [[労働基準法]]
 
== 外部リンク ==