「社会的責任投資」の版間の差分

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日本国内のSRI資産残高は約5,787億円(2009年)で推移しており、アメリカでは2兆7,110億ドル(2007年)、ヨーロッパでは2兆6,654億ユーロ(2007年)である。
=== 日本のSRIの状況 ===
日本で初めてのSRI金融商品([[日興アセットマネジメント]]からの[[エコファンド]])が発売されたのは1999年。浸透し始めたのは2003年頃から<ref>{{Cite journal|和書|author=松村勝弘|year=2006|title=わが国における社会的責任投資(SRI)論議の問題点とその普及に必要なもの|url=http://hdl.handle.net/10367/1772|journal=立命館経営学紀要|volume=44|page=45-69|publisher=立命館大学経営学会}}</ref>。しかし、先に挙げた数字からもわかるように、欧米や日本以外のアジア各国に比べると、その市場規模は小さい<ref>{{Cite web|url=https://www.env.go.jp/council/02policy/y024-02/mat_06.pdf|title=社会的責任投資(SRI)とエコファンド|accessdate=15.01.19|publisher=損害保険ジャパン}}</ref>。日本でSRI投資が浸透しづらい理由には、1.資産運用に携わる受託者は投資家の利益を最優先させる責任を負っているが、SRIを考慮することはこの責任に反するとする意見が多いこと、2.SRIの投資銘柄を選定する(以下に挙げるスクリーニング)の際、ESG(環境、社会、ガバナンス)を考慮するが、そのために必要な開示情報が標準化されておらず、専門性をもった人材が少ないためにその情報の比較評価について信頼性を担保することが困難であること、3.日本人の個人金融資産の半分以上が現金または預金であることからもうかがえるように、そもそも日本人の投資意識が低いことが挙げられる<ref name=":0">{{Cite journal|和書|author=安藤範親|year=2011|title=社会的責任投資(SRI)の現状と課題 (金融をめぐる課題と方向性)|journal=Monthly review of agriculture, forestry and fishery finance|volume=64(10)|page=624-635|NAID=40019021519}}</ref>。
 
NPO社会的責任投資フォーラムによると、2018年6月末時点で運用されている日本のSRI残高は7,072億円<REF>[http://www.jsif.jp.net/ NPO社会的責任投資フォーラム]の集計)。<br/REF>
※[http://www.jsif.jp.net/#!data/c213l 最新データはこちらを参照]。
 
== SRI評価手法 ==
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===ポジティブスクリーニング===
ネガティブスクリーニングでは、一定基準に満たない企業を投資先から排除してしまうのに対して、ポジティブスクリーニングは企業が行っているCSR経営を評価し、その評価の点数に基づいて投資を行うことである。一般には、アンケート調査票を企業に送付し、調査機関がアンケート結果に基づいて企業の点数をつける。近年、欧米の調査機関から、日本の多くの企業にもこれらの調査票が送付され、内容を確認せずにアンケートに回答しなかったことから適正な評価が受けられず投資先から排除されてしまうなどの問題が起こった
一般には、アンケート調査票を企業に送付し、調査機関がアンケート結果に基づいて企業の点数をつける。近年、欧米の調査機関から、日本の多くの企業にもこれらの調査票が送付され、内容を確認せずにアンケートに回答しなかったことから適正な評価が受けられず投資先から排除されてしまうなどの問題が起こった。
 
=== 規範に基づくスクリーニング ===
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=== 18世紀 ===
SRIの歴史は、18世紀にさかのぼることができる。例えば、[[メソジスト]]運動の指導者だった[[イングランド]]の[[ジョン・ウェスレー]](1703-1791)は商業活動を行うにあたって人を害してはならないと説いた<ref>{{Cite journal|和書|author=足達英一郎|year=2004|title=企業の社会的責任と雇用・労働問題|url=http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9592143/www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2004/09/pdf/045-052.pdf|journal=日本労働研究雑誌|volume=530|page=45-52}}</ref>。米国では、[[クエーカー]]教徒が1758年のフィラデルフィア年会にて奴隷の所有に反対する立場を明らかにし、1776年には人の売買や所有を行った者を除名にすると宣言し<ref>{{Cite journal|和書|author=山形正男|year=1971|title=クェーカー教徒と奴隷制反対運動--1688年~1776年|url=http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000001243-00|journal=アメリカ研究|volume=5|page=178-196}}</ref>、この表明をSRIの先駆けとみなすこともある。
 
===1920年代===
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大学の基金や労働組合、公務員年金基金などが、[[ベトナム戦争]]で[[ナパーム弾]]を供給する軍需関連企業や、[[アパルトヘイト]]を継続する[[南アフリカ共和国]]に進出する企業の[[株式]]を売却した。この結果として[[ゼネラルモーターズ]]は南アフリカから撤退している<ref>JSIF『[http://www.jsif.jp.net/coloum1304-2 SRIとESG投資の違いとは?]』、2017年2月閲覧。</ref>。
*'''1971年'''
社会的スクリーニング行った[[ミューチュアルファンド]]、PAX World Fund<ref name=PWF>[http://www.paxworld.com/ PAX World Fund]</ref>が発売された。これによって、小口投資家にもSRIを行うことが可能となった。
 
===1980年代===
[http://www.paxworld.com/ PAX World Fund]<ref name=PWF />のような、ミューチュアルファンドは数を増やし、環境問題、女性、マイノリティー、人権、雇用といった項目を考慮するようになっていった。また、米国で始まったこれらのファンドは、欧州にも拡大していった時期でもある。
*'''1984年'''
英国において、倫理ファンド(ethical fund)が発売された。
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*'''1994年'''
スイスのプライベートバンクであるサラシン銀行<ref>[http://www.sarasin.ch/ サラシン銀行(Sarasin)]</ref>が企業の[[環境効率]]性を元に評価した、エコ・エフィシェンシー(Eco-Efficiency)ファンドを設定。
*'''1996年'''
ノルウェー最大の保険会社である、ストアブランド</ref>[http://www.storebrand.no/ ストアブランド(Storebrand)]</ref>が資源生産性を評価軸に加えたStorebrand Environmental Value Fundを発売。
*'''1997年'''
スイスの[[UBS]]が株式投資エコパフォーマンスを発売。
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===2000年代===
*'''2006年''' 機関投資家を中心とした投資コミュニティに対して提唱したイニシアチブ、[[責任投資原則]]ガイドラインを国連が発表<ref>{{Cite webjournal |和書|title=PRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)|url=https://sustainablejapan.jp/2015/08/18/unpri/18140|website=Sustainable Japan {{!}} 世界のサステナビリティ・ESG投資・SDGs|accessdate=2019-10-22|language=ja}}</ref>。 フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)の下で、投資意思決定プロセスにESG観点(環境、社会、コーポレートガバナンス)を組み込むべきだとした世界共通のガイドラインであるPRIは次の6原則から成る<ref name=cjaros.10.3_8>小方信幸、「[https://wwwdoi.jstageorg/10.jst.go.jp/article12949/cjaros/.10/.3_8 わが国におけるESG投資の現状と展望]」『リアルオプションと戦略』 2018年 10巻 3/10_8/_pdf/号 p.8-char/ja18, 翻訳][https:{{doi|10.12949//wwwcjaros.unpri10.org/pri3_8}}, 原文])日本リアルオプション学会</ref>

原則1:ESGとは<ref name=cjaros.10.3_8 />、
# ESG 問題を投資の分析と意思決定のプロセスに組み込む。 原則2:
# ESG 問題を運用方針と実践に組み込む積極的な株主となる。 原則3:
# 投資対象企業の ESG 問題に関する適切な開示を探求する。
# 原則4 :投資業界におけるこの原則の受入れと履行を促進する。
# 原則5 :この原則の実践が有効であるように一致協力する。
# 原則6 :この原則の実践に向けて活動状況と進展について報告する。
 
== 受託者責任とSRI ==
年金運用をSRIによって行うことに関しては、[[受託者責任]]法、米国における[[エリサ法]]の観点から問題が呈せられることがある。米国におけるエリサ法では、年金基金の資産運用に際して、他の年金基金に比して明らかに運用利益が減少するような運用行うことを禁止している。SRIでは、企業の経済状況以外の社会性を根拠に、投資対象を狭めているとして、資産運用のリスクを高めているとの批判を受け、エリサ法に抵触するとの議論が行われている。しかし、このような状況は、2006年4月に世界最大の年金基金であるカルフォルニア州公務員退職年金基金([[カルパース]]<ref>[http://www.calpers.ca.gov/ Board of Administration] CalPERS:California Public Employees' Retirement System], (運用資産約20兆円)</ref>が年金運用に環境及び持続可能性を考慮することを求めている UNEP Financial Initiative<ref>[http://www.unepfi.org/ UNEP Financial Initiative(UNEP・FI)]</ref>の[[責任投資原則]]に署名したことから、SRIは受託者責任、エリサ法には抵触しないという考え方が一般化しつつある。しかし日本においてはSRIが受託者責任に反するとの考えが根強く、これがSRIの日本での浸透を妨げている<ref name=":0" />。
 
== SRIの種類 ==
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ESG(ESG:環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance))投資とSRI投資には多数の類似点があり、ほぼ同種のものとして扱われている。
 
経済的リターンという側面だけではなく、倫理的な面に配慮した投資という点で、環境・社会・ガバナンスを意識したESG投資とSRI投資は類似している。上述のようにSRI投資が日本に導入されたのは1999年であるのに対し、日本でESGが明確に意識されるようになったのは2015年と比較的新しく、当初倫理的側面を強く前面に押し出したSRI投資が特殊な投資手法であると受け止められたのに対し、ESG投資は倫理的側面を意識しつつも最優先するのは経済的リターンだと考えられた。しかし、近年では両者はどちらも倫理的側面と経済的側面を同時に追求できるものと理解されるようになり、ほぼ同義のものとして扱われるようになった<ref>{{Cite journal|和書|authorname=小方 信幸|year=2018|title=わが国における ESG 投資の現状と展望|url=https://doi.org/10.12949/cjaros.10.3_8|journal=リアルオプションと戦略|publisher=日本リアルオプション学会|volume=10|issue=3|page=8-18|doi=10.12949/cjaros.10.3_8}}< /ref><ref>{{Cite web|title=ESG(環境・社会・ガバナンス)・ESG投資|url=https://sustainablejapan.jp/2016/05/14/esg/18157|website=Sustainable Japan {{!}} 世界のサステナビリティ・ESG投資・SDGs|accessdate=2019-10-07|language=ja}}</ref>。
 
==関連項目==