「ゴーストライター」の版間の差分

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日本では、1973年に出版された[[糸山英太郎]]議員の自伝・『太陽への挑戦』(双葉社)について、ゴーストライターの[[豊田行二]]が翌年に『小説・糸山英太郎 太陽への挑戦者』を『[[オール読物]]』(文藝春秋)に発表して代筆を暴露するという事件があった。元の本は一年半で50万部を売り上げるベストセラーであり、双葉社の怒りは相当なものであった。中堅幹部は、次のように語っている。「『太陽への挑戦』は糸山・豊田・双葉社の三者共犯から生まれた“鬼っ子”なんだからね、三者とも恥ずかしい行為をしているわけなんだよ。だから、それは公けにすべきではなく、棺桶の中まで持って入る“秘密”でなくちゃいけない」<ref>『ゴースト・ライター』エフプロ出版、p.35</ref>。
 
出版界では長らく暗黙の了解の存在だったゴーストライターという仕事を、広く公然化したのは[[ベストセラーズ|KKベストセラーズ]]の創業者・[[岩瀬順三]]である<ref name="最前線145" >[[塩沢実信]]『出版最前線』[[彩流社]]、1983年、p.145</ref><ref name="櫻井" >櫻井秀勲『戦後名編集者列伝』編書房、2003年、p.78</ref><ref name="yurindoyo" >[http://www.yurindo.co.jp/static/yurin/back/422_3.html 情報紙『有鄰』No.422 P3 - 有隣堂]</ref><ref>[http://www.1book.co.jp/002108.html 塩沢 実信 氏より (書籍「ベストセラー感覚」より)]</ref>。[[1982年]][[11月17日]]に[[NHK教育テレビジョン|NHK教育テレビ]]で放送された『[[NHK教養セミナー]]』「[[NHK教養セミナー#現代社会の構図|現代社会の構図ー出版界最前線]]」第2回〈ベストセラーを狙え〉<ref name="最前線145" />に出演した岩瀬が、当時同社から出版されて[[ベストセラー]]第2位だった[[江本孟紀]]の『[[プロ野球を10倍楽しく見る方法]]』<ref name="mituju" >[http://tate.32ch.jp/list_html/list1_html/015mituju.html 犯された蜜獣]</ref><ref name="emoyan" >[https://web.archive.org/web/20140215041522/http://blog.golfdigest.co.jp/user/emoyan/archive/238 江本孟紀ブログ 2007年12月28日(金)「日本のプロ野球を作った男たち!」]</ref>に関して、アナウンサーが「この本も、原稿をまとめたのは、実は出版社だという話です」と言うと、岩瀬は「書いたか書かないかでなく、誰の本.....[[山口百恵]]の本、江本の本ということが重要だ」と前置きをして「ゴーストライターによってつくろうとも、なまじ本人が書いて拙い文章の本をつくるより、言わんとすることを正確に、より読みやすく面白く書いてもらったほうがいい。江本孟紀の書いた本を売っているのではなく、“江本の本”を出しているのだと判断してもらいたい」と発言した<ref name="最前線147" /><ref name="櫻井" /><ref name="yurindoyo" />。これは、当時のゴーストライターに対する強い批判に岩瀬が回答し、ゴーストライター必要論を強調したものであった<ref name="最前線147" />。『プロ野球を10倍楽しく見る方法』は、220万部という記録的な売れ行きとなり、以降のゴーストライターブームをつくったと言われた<ref name="櫻井" />。その後、この手のタイトルと本作りのスタイルは他社にそっくり真似られ、20世紀末にはすっかり定着している。こうした手法を編み出したのは岩瀬ではなく、[[光文社]]の[[カッパ・ブックス]]の創始者・[[神吉晴夫]]といわれる<ref>[『カッパ・ブックスの時代』(新海均・著、河出書房新社)]</ref>。それまでは、著者が書いたものをそのまま本にするというのが一般的な傾向であったが、神吉が「編集者と著者の共同作業」という出版メソッド・すなわち、編集者がテーマを設定して、企画力を発揮し、編集者が徹底的に注文を付けて書かせるという「創作出版」・著者と共に共同製作を行う「出版プロデューサー的出版社」を編み出し<ref name="yurindoyo" /><ref>[https://web.archive.org/web/20130307205508/http://www.kanda-zatsugaku.com/120608/0608.html 戦後のベストセラー史どうしてあの本は売れたのか - 神田雑学大学]</ref>、岩瀬の手法はこれを進化させたものであった。
 
ビジネス書や実用書ではゴーストライターの起用が当然となっている出版業界であるが、近年は小説などの分野においてもゴーストライターを使う例が見られる。例として、元・[[ライブドア]]経営者の[[堀江貴文]]による小説、『拝金』と『成金』があげられる。小説におけるゴーストライターの起用は、出版業界でもグレーゾーンにあたるらしく、普段はゴーストライターの起用を隠さない堀江もこれに関しては、口を閉ざしてコメントを拒んだ。有名人やタレントの名を借りた本が売れる現状の中で、出版業界のなりふり構わぬマーケティング手法には疑問が呈されている<ref>[http://biz-journal.jp/2014/03/post_4418_2.html 堀江氏小説ゴースト問題、出版業界の慣習としてもルール違反のワケ〜透ける出版不況の深さ]</ref>。
 
他人の手を借りて制作するという例でいえば、ノンフィクション作品や推理小説では取材や事実確認といった、いわば下調べ作業は[[データマン]]の手に任せ、ライターは[[アンカーマン]]として作品を書くだけといった分業体制を取っているケースは多い。例として、[[松本清張]]や[[猪瀬直樹]]の名前が挙げられる。本人が書いている場合は、ゴーストライターとは言いきれない<ref name="thepage140218">{{Cite web |url=httphttps://web.archive.org/web/20140228141751/thepage.jp/detail/20140218-00000008-wordleaf |title=<佐村河内さん問題>ゴーストライターはどこまで許される? |accessdate=2014-02-23}}</ref>。また[[本多勝一]]は、口述筆記を使用していることを公言している<ref>{{Cite web |url=https://web.archive.org/web/20140218113116/http://n-knuckles.com/serialization/hisada/news001203.html |title=マスコミ業界で許容される「職業ゴーストライター」の線引きとは? |accessdate=2014-02-26}}</ref>。[[翻訳]]出版の分野においては、[[下訳]]というかたちで下積みの翻訳家が先におおまかな翻訳をつくることがよく行われている。特に翻訳者として名前が出るのが、作家やタレントなどの著名人である場合には、下訳の重要性が増す。
 
[[漫画]]の分野では、[[漫画原作者]]や[[脚本家|シナリオライター]]などが何らかの理由により、表には名前を出さずにストーリーを手掛け、作品自体は漫画家のみの名義で出される・あるいはストーリー作りへの低評価が原因で中位辺りで伸び悩む作品へのテコ入れ策として編集部がシナリオライターを途中参加させるなどの形で、多くはストーリーの構成の面においてゴーストライターの存在が噂されることがある。編集部サイドや担当編集者の強い主導により作品企画が進められるスタイルの雑誌の場合は、キャラクター設定や物語の概要のみならず、ストーリー制作の実権をも編集部や編集者が握ってしまうこともある。このような場合、編集部の内部でストーリーを考案している雑誌スタッフや編集者が、実質的なストーリー担当者となる。そういう場合であっても、編集部・編集者が原作者や脚本担当としてクレジットされる例は実際にはあまりなく、多くはゴーストライターと同様の形態になる。ただし、編集者も漫画家も自分がストーリーを考えたと思っているケースもあり、どちらが『原作者』であるかという判断は外部からは難しい。両者の言い分が反する場合には、原稿を描いている漫画家の言い分に理があるといえる。また、漫画の場合は[[アシスタント (漫画)|アシスタント]]を使って人物以外の背景やメカなどを描かせるといった分業体制による作画は日常的に行われているが、これらに携わるアシスタントらの名前も通常はクレジットされない。ただし、最近は[[浦沢直樹]]や[[松田奈緒子]]や[[佐藤秀峰]]など一部の漫画家において、単行本では編集者も含めたスタッフ名をすべて表記する流れが見られる。
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=== 音楽業界 ===
出版業界と同様に、[[音楽]]業界・特にテレビ番組の[[主題歌]]やCM音楽などでゴーストライターの存在が噂される事がある。これについては主に[[作詞]]の名義について言われる事が多いが([[大黒摩季#ビーイングスタッフ表記問題]]を参照)、一部には[[作曲]]や[[編曲]]などでこの種の噂が発生する事もある。ニュースサイトTHE PAGEは「実在のシンガーソングライターでも、実際には別の人物が詩や曲を書くケースは多数存在します」と断定的に語っている<ref name="thepage140218" />。
<ref>{{Cite web |url=http://thepage.jp/detail/20140218-00000008-wordleaf |title=<佐村河内さん問題>ゴーストライターはどこまで許される? |accessdate=2014-02-23}}</ref>。
 
レコードや書籍のなかった時代、芸術家は作品を大衆に届ける術を持たず、貴族などのパトロンを必要としていた。当時のパトロンは、題材や材料にまで口を出し、その作品を自分の名で発表することすらあったという。たとえば[[ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト]]の『[[レクイエム (モーツァルト)|レクイエム]]』は、とある貴族が自分の亡くなった妻に捧げるために発注したもので、本来はこの貴族の名で公開されるはずだった曲が、モーツァルトの突然の死により遺作として公表されたものである。これらのゴーストライティングは仕事として普通に存在していた<ref>{{Cite web |url=http://www.nikkei.com/article/DGXBZO66827170U4A210C1000000/ |title=あのモーツァルトも 今こそ学ぼう、偽作音楽史 「HIROSHIMA」の改名にも前例 |accessdate=2014-02-26}}</ref>。
 
名前や顔の売れているタレントや若手アーティストに作詞や作曲をさせる場合には、商品化までにプロデューサーやディレクターやアレンジャーなどの専門家による「手直し」や「修正」が必要になる。それらの修正が多岐にわたり大幅になった場合、結果として修正にかかわった人間がゴーストライター化してしまうことがある。ポピュラー音楽界では、鼻歌や主旋律ていどしか作曲できないアーティストも多いという。音楽関係者によると「歌謡曲で多いのが、有名な作曲家や作詞家が弟子に作品を書かせるケース。アイデアが枯渇しているところに曲の注文がくると“キミ、こんな感じの曲を書いてくれ”と指示。出来上がった曲や歌詞を自分流にアレンジして完成させます。面倒見のいい師匠は、印税の何割かを与える。CDが100万枚売れたので弟子に100万円払ったという話も聞きますよ」という<ref>{{Cite web |url=httphttps://www.nikkan-gendai.netcom/articles/view/geino/147847 |title=芸能界では常識の声…ゴーストライターってどんな仕事? |accessdate=2014-02-26}}</ref>。
 
作曲家の[[青島広志]]は、日本の音楽業界の現状について「ポピュラーでは旋律を書ければ良い方で、時には鼻歌を編曲者が楽譜に起こして編曲し、レコーディングまで持っていく。クラシック畑の作曲家も、ひとたび名が売れてTVドラマや映画音楽の注文が来ると、まず絶対的に一人では楽譜が書けなくなる。初めの内はそれでも頑張っているのだが、締め切りに間に合わなくなるよりはいいので、誰かに助太刀を頼む。依頼主もその先生の名が欲しいので、余程質が落ちない限りは目をつぶるのだ」と書いている<ref>{{Cite web |url=httphttps://web.archive.org/web/20140226180526/https://www.yomiuri.co.jp/entertainment/classic/aoshima/20140225-OYT8T01050.htm |title=作曲の真相について思う |accessdate=2014-02-26}}</ref>。
 
音大の学生によると、「音大では作曲科専攻の学生が恩師の代わりに作曲することは珍しくない」・「私の後輩は普通に先生のゴーストライターをしていた。1曲あたり5000円で引き受け、先生からアルバイト料をもらっていた。中には一人ではできない大曲もあり、同じ学科の学生が総出で、ゴーストした経験もある」・「実際の作曲者が無名の場合、世に知れた音楽家の名前で曲が売られることはよくある」との証言がある。バッハやモーツァルトのような大作曲家ですら、本人が作曲したことの確証が取れない“偽作疑惑”の曲が多く存在するという<ref>{{Cite web |url=httphttps://www.sankei.jp.msn.com/entertainments/news/140207/ent14020717550020ent1402070002-n1.htmhtml |title=「150005000円」で作曲 有名音大ではゴーストは実力の証し!? |accessdate=2014-02-26}}</ref>。
 
また、特に1990年代以降の[[テレビアニメ]]の世界などでは、[[主役]]級の[[キャラクター]]の声を演じる人気[[声優]]が番組[[主題歌]]を歌唱し、同時にその主題歌の作詞の担当者としてクレジットされる例が一部に見られる。これらの中にも、「声優に対する報酬確保のため、主題歌の作詞者として声優の名義を設定し、実際には別の作詞家がゴーストとして作詞している」などといった、まことしやかな噂が真偽は別としても発生する事がある。この様な噂が発生する背景には、大半の声優はアニメ出演の[[ギャランティー|ギャラ]]の金額決定に際し「[[声優#ランク制|ランク制]]」という声優業界特有の制度が用いられているという事情がある。これにより、人気絶頂の声優であろうが、内外から演技力について高い評価を受けている声優であろうが、一律金額的な上限が存在するため、出演に対してそれ以上の報酬を出す事が必要とされる場合には、主題歌の歌唱担当など以外にもこの様な「ランク制」の影響を受けない別の手段を講じる事が求められる場合がある。
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[[2006年]]、ジョン万次郎銅像事件の控訴審判決で[[知的財産高等裁判所]]は、著作者名を他人名義にする合意は著作権法121条に触れることを根拠に無効と判断した<ref>
[http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/89562E05CC7455DC49257123001CFD36.pdf 本訴 平成17年(ネ)第10100号 著作者人格権確認等請求控訴事件] [http://www.courts.go.jp/ 裁判所公式サイト]内</ref><ref>[httphttps://web.archive.org/web/20140214103058/https://www.47news.jp/CN/200602/CN2006022701002395.html 2審も「制作者は西氏」 万次郎像めぐり知財高裁] [[47NEWS]]([[共同通信]]) 2006年2月27日</ref><ref>[http://ootsuka.livedoor.biz/archives/50363844.html 「ジョン万次郎銅像事件」控訴審判決〜著作者人格権確認等請求控訴事件(知財判決速報)〜] [http://ootsuka.livedoor.biz/ 駒沢公園行政書士事務所日記] 2006年3月2日</ref>。
 
著作権法第十九条:著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。
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* [[林下清志]](ビッグダディ) - 講演会で、著書は「自分で書いていない」と発言<ref>[http://npn.co.jp/article/detail/08892620/ ビッグダディ 最新刊「ダディから君へ」でゴーストライター使っていた!]</ref>。
* ひろゆき([[西村博之]]) - 『2ちゃんねるはなぜ潰れないのか?』は[[2ちゃんねる]]創設者のひろゆき([[西村博之]])名義で出されているが、あとがきでひろゆき自身が「ほとんど文章を書いてない」、「この本のほとんどを書いた杉原さんに感謝です」などとゴーストライターの存在を暴露している。ちなみにライターの[[杉原光徳]]の名前は目次の最後に「構成・撮影」の名目で記載されている。
* [[堀江貴文]] - 小説「拝金」と「成金」はゴーストライターの代筆である、と表紙絵を描いた[[佐藤秀峰]]が暴露。担当編集者や本人の口から聞いた事実で「小説の世界ではよくある制作手法で、何ら恥ずべきことだとは思っておりません」と編集者は言っていたらしい<ref>[https://web.archive.org/web/20140307163334/http://ch.nicovideo.jp/shuhosato/blomaga/ar476796 堀江貴文氏「拝金」の代筆問題について]</ref>。堀江が最初に1000字程度の指示書を書き、それをもとにゴーストライターがあらすじを作り、お互いに意見を交わすかたちで作業が進められた。テーマやあらすじや人物などには堀江のアイデアが入っているが、文章はすべてライターが書いた。印税の取り分は当初、堀江6:ライター4が予定されていたが、堀江が「しっかり宣伝するから」と主張して7:3になった<ref>[http://shukan.bunshun.jp/articles/-/3804{{Cite 週刊文春 2014年4月3日journal 55周年特大号「|和書|title=佐村河内と同じく指示書を(笑) ホリエモン小説のゴーストを直撃 |date=2014-04-03 |publisher=[[文藝春秋]] |journal=週刊文春 |volume=56 |issue=13 |id={{NDLBibID|025354881}} |quote=55周年特大号。『ワイド特集 乱倫でいいかな?』コーナーより。[http://shukan.bunshun.jp/articles/-/3804 当該号の目次一覧] }}</ref>。その他の著書もライターが書いていることを公けにしている。たとえばベストセラーになった『ゼロ』は[[古賀史健]]が書いた。
* [[松本伊代]] - 自分の本が出た後に、テレビで「まだ読んでない」と発言<ref name="matumotoiyo"/>。