「天然痘」の版間の差分

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* [[飛沫感染]]や[[接触感染]]により感染し、7 - 16日の[[潜伏期間]]を経て発症する。
* 40℃前後の[[高熱]]、[[頭痛]]・[[腰痛]]などの初期症状がある。
* 発熱後3 - 4日目に一旦解熱して以降、[[頭部]][[顔|顔面]]を中心に[[皮膚]]色と同じまたはやや白色の豆粒状の[[丘疹]]が生じ、全身に広がっていく。
* 7 - 9日目に再度40℃以上の高熱になる。これは発疹が[[化膿]]して膿疱となる事によるが、天然痘による病変は体表面だけでなく、[[呼吸器]]・[[消化器]]などの[[内臓]]にも同じように現われ、それによる肺の損傷に伴って[[呼吸困難]]等を併発、重篤な[[呼吸不全]]によって、最悪の場合は死に至る。
* 2 - 3週目には膿疱は[[瘢痕]]を残して治癒に向かう。
* 治癒後は[[免疫系|免疫]][[抗体]]ができるため、二度とかかることはないとされるが、[[感染症|再感染]]例や再発症例の報告も[[希少性|稀少]]ではあるが存在する。
天然痘ウイルスの感染力は非常に強く、患者の[[かさぶた]]が落下したものでも1年以上も感染させる力を持続する。天然痘の予防は[[種痘]]が唯一の方法であるが、種痘の有効期間は5年から10年程度である。何度も種痘を受けた者が天然痘に罹患した場合、仮痘(仮性天然痘)と言って、症状がごく軽く瘢痕も残らないものになるが、その場合でも他者に感染させることはある。
 
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[[アル・ラーズィー]]が著書『天然痘と麻疹の書』(Kitab fi al-judari wa-al-hasbah) において[[麻疹]]と天然痘の違いについて言明した<ref>A Treatise on the Small-pox and Measles, [[ウィリアム・アレキサンダー・グリーンヒル]]による英訳, 出版者Printed for the Sydenham Society [by C and J. Adlrd], 1848年, pp. 252, [http://books.google.com/books?id=LC0IAAAAIAAJ URL]</ref>。
 
===[[ヨーロッパ]]===
[[古代ギリシア]]における紀元前430年の「[[アテナイ]]の疫病」は「[[アテナイ]]の[[ペスト]]」とも呼ばれたが、記録に残された症状から天然痘であったと考えられる(他に、[[麻疹]]、[[発疹チフス]]、あるいはこれらの同時流行とする説もある)。[[165年]]から15年間にわたり[[ローマ帝国]]を襲った「[[マルクス・アウレリウス・アントニヌス|アントニヌス]]の疫病(アントニヌスのペスト)」も天然痘とされ、少なくとも350万人が死亡した。その後、[[12世紀]]に[[十字軍]]の遠征によって持ち込まれて以来、流行を繰り返しながら次第に定着し、ほとんどの人が罹患するようになる。[[ルネサンス期]]以降に[[肖像画]]が盛んに描かれるようになったが、天然痘の瘢痕を描かないのは暗黙の了解事項であった。
 
=== アメリカ ===
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[[北アメリカ]]では白人によって故意に天然痘がインディアンに広められた例もあると言われている。[[フレンチ・インディアン戦争]]や[[ポンティアック戦争]]では、[[イギリス軍]]が天然痘[[患者]]が使用し汚染された[[毛布]]等の物品をインディアンに贈って発病を誘発・殲滅しようとしたとされ、19世紀に入ってもなおこの[[民族浄化]]の手法は続けられた。[[モンタナ州]]の[[ブラックフット族]]などは、部族の公式ウェブサイトでこの歴史を伝えている。ただし、肝心の英国側にはそのような作戦を行った証拠となる記録は無い。
 
===[[東アジア]][[日本]]===
[[画像:Sarubobo-phone.jpg|thumb|200px|さるぼぼ。色が赤いのはもともとは天然痘除けのためである]]
[[中国]]では、[[南北朝時代 (中国)|南北朝時代]]の[[斉 (南朝)|斉]]が[[495年]]に[[北魏]]と交戦して流入し、流行したとするのが最初の記録である。頭や顔に発疹ができて全身に広がり、多くの者が死亡し、生き残った者は瘢痕を残すというもので、明らかに天然痘である。その後短期間に中国全土で流行し、[[6世紀]]前半には[[朝鮮半島]]でも流行を見た。
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[[1977年]]の[[ソマリア]]人青年の[[アリ・マオ・マーラン]]を最後に自然感染の天然痘患者は報告されておらず<ref>『人類と感染症の歴史 未知なる恐怖を越えて』p25 加藤茂孝 丸善出版 平成25年3月30日発行</ref>、3年を経過した[[1980年]][[5月8日]]、WHOは'''地球上からの天然痘根絶宣言'''を発するに至った。現在[[自然界]]において天然痘ウイルス自体が存在しないとされている。天然痘は、人間に感染する感染症で人類が根絶できた唯一の例である(人間以外を含む感染症全般では[[ウシ]]などに感染する[[牛疫]]が[[2011年]]に撲滅宣言されている。)。
 
1978年にイギリスの[[バーミンガム大学]]メディカル・センターにおいて、[[微生物学]]研究室からウイルスが漏洩し、研究室の上階で働いていた[[ジャネット・パーカー]]が天然痘を罹患して1か月後に死亡した。彼女は天然痘により死亡した世界最後の患者である(「[https://bsl4731.exblog.jp/22698514/ バーミンガム事件]」と言われる。漏洩させてしまった研究者は、責任を感じて自ら命を絶った)。
 
1984年にWHOでなされた合意に基づいて、[[アメリカ疾病予防管理センター]] (CDC) と[[ロシア国立ウイルス学・生物工学研究センター]] (VECTOR) の[[バイオセーフティーレベル|レベル4施設]]以外の研究所が保有していた株は全て廃棄された。この2施設における天然痘株についても破壊することがWHOの会議で一旦決定されたが、実際の作業は数度に渡り延期され、2001年にアメリカが株の廃棄に反対する姿勢を明確にしたことで中止となった。
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== 問題 ==
===[[テロリズム|テロ]]の危険 ===
根絶されたために根絶後に予防接種を受けた人はおらず、また予防接種を受けた人でも免疫の持続期間が一般的に5 - 10年といわれているため、現在では免疫を持っている人はほとんどいない<ref name="mod2002">[http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/meeting/vaccine/houkoku/hou02.pdf ワクチンなどに係る検討会報告書 平成14年7月8日(防衛省資料)]</ref>。そのため、[[生物兵器]]として使用された場合に、大きな被害を出す危険が指摘されており<ref name="mod2002"/>、感染力の強さからも短時間での感染の拡大が懸念されている<ref name="mod2002"/>。天然痘撲滅宣言後にも、[[ソビエト連邦|ソ連]]は天然痘ウイルスを生物兵器として極秘に量産、備蓄しており、ソ連崩壊後に[[ウイルス]]株や生物兵器技術が流出した可能性が指摘されている<ref>山内一也、三瀬勝利『忍び寄るバイオテロ』[[NHKブックス]] 2003年</ref><ref name="Alibek">ケン・アリベック『バイオハザード』[[二見書房]] 1999年</ref>。『[[ワシントン・ポスト]]』(2002年11月5日号)は、[[CIA]]が天然痘ウイルスの[[サンプル]]を隠し持っていると思われる国として、[[イラク]](注:記事はイラク戦争前のもの)、[[北朝鮮]]、[[ロシア]]、[[フランス]]を挙げている(ただし、イラクとフランスについては可能性はとても高いというわけではないとしている)<ref>[http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/06/12/AR2006061200704.html 4 Nations Thought To Possess Smallpox, November 5, 2002 ,The Washington Post.]</ref>。
[[国防部 (大韓民国)|韓国国防省]]は北朝鮮が天然痘ウイルスを保持していると分析し、[[在韓米軍]]兵士も2004年から天然痘のワクチン接種を受けている<ref>[http://www.asahi.com/special/08001/TKY201107060729.html 生物兵器テロ想定、米韓が図上演習 5月、北朝鮮意識か]『[[朝日新聞]]』2011年7月7日</ref><ref>[http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1710/26/news013_4.html 北朝鮮の「生物兵器」は、どれほどの脅威なのか] ITMediaビジネスオンライン、2017年10月25日</ref><ref>[http://japanese.donga.com/List/3/all/27/281600/1 在韓米軍、炭疽菌と天然痘の予防接種]『[[東亜日報]]』2004年7月1日</ref><ref>[http://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2017/html/n1221000.html 平成29年版防衛白書]。 韓国の『2016国防白書』は、「(北朝鮮は)1980年代から[[化学兵器]]を生産し始め、約2,500~5,000トンの様々な化学兵器を貯蔵していると推定される。また、[[炭疽菌]](たんそきん)、天然痘(てんねんとう)、ペストなど様々な種類の生物兵器を独自に培養し、生産しうる能力を保有していると推定される」と指摘している。</ref>。アメリカはテロ対策のため天然痘ワクチンの備蓄を強化し、2001年に1200万人分だった備蓄量を、2010年までに全国民をカバーする3億人分まで増やした<ref>[https://usatoday30.usatoday.com/news/health/2010-05-25-smallpox25_ST_N.htm U.S. government stockpiles new, safer smallpox vaccine] [[USAトゥデイ|USA Today]]、2010年5月25日</ref>。
 
[[世界保健機関|WHO]]専門家会議は2015年に、天然痘ウイルスの人工合成は技術的に可能になったと結論し、天然痘が再び発生するリスクがなくなることはないと報告している<ref name="primate">[http://www.primate.or.jp/info/104%EF%BC%8E%E3%82%B2%E3%83%8E%E3%83%A0%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%81%8C%E6%98%8E%E3%82%89%E3%81%8B%E3%81%AB%E3%81%97%E3%81%9F%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%81%AE%E5%A4%A9%E7%84%B6 ゲノム科学が明らかにしたジェンナーの天然痘ワクチンの由来] 2017年11月7日、一般社団法人 予防衛生協会</ref>。2018年には[[カナダ]]のグループが、メール注文したDNA断片を用いて、天然痘ウイルスに近縁の[[馬痘|馬痘ウイルス]]の人工合成に成功している<ref name="primate"/><ref>Kupferschmidt, Kai. "[http://www.sciencemag.org/news/2017/07/how-canadian-researchers-reconstituted-extinct-poxvirus-100000-using-mail-order-dna How Canadian researchers reconstituted an extinct poxvirus for $100,000 using mail-order DNA.]" [[サイエンス|Science]] July 6 (2017).</ref><ref>[https://mainichi.jp/articles/20180207/k00/00m/040/062000c 天然痘近縁種の合成発表に疑問の声 悪用への懸念も]『[[毎日新聞]]』2018年2月6日</ref>。同年に[[アメリカ食品医薬品局]](FDA)は、初の天然痘治療薬を認可した<ref name="FDA">[https://newsphere.jp/politics/20180718-3/ 「バイオテロから国民を守る」 初の天然痘治療薬、米当局が認可] NewSphere、2018年7月18日</ref>。[[動物実験]]で有効性が証明され、健康な人に服用してもらう[[試験]][[安全性]]が確認されため、テロから国民を守るために認可したとFDAは説明している<ref name="FDA" />。
 
=== 類似ウイルス ===