「マッコウクジラ」の版間の差分
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[[ファイル:Sperm whale size.svg|thumb|245px|マッコウクジラとヒトの大きさ比較]]
[[ファイル:Sperm Whale blowhole.jpg|thumb|245px|マッコウクジラ 2頭 (噴気孔が見える)]]
本種は全てのクジラ類の中で最も大きな性差をもつ。標準的なオスの体長は約16 -
本種を特徴づける著しく肥大化した頭部は、その長さがオスで体長の3分の1に達する。これは、クジラ類の中でも例外的に巨大である。[[脳]]は、おそらく全ての動物の中でも最大・最重量であり、成体のオスでは平均
背中の色は一様に灰色だが、日光の下では褐色に見えるかもしれない。背中の皮膚は通常凸凹(でこぼこ)で、他の大きなクジラのほとんどが滑らかな皮膚をしているのとは対照的。
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== 分類 ==
[[ファイル:Zahn Pottwal.jpg|thumb|190px|マッコウクジラの歯]]
マッコウクジラ属のみでマッコウクジラ科を構成する説もある<ref name="rice" />。MSW3(Mead & Brownell,2005)ではマッコウクジラ科にコマッコウ属''Kogia''を含め亜科は認めていない<ref name="mead brownell">Games G. Mead & Robert L. Brownell Jr., "[http://www.departments.bucknell.edu/biology/resources/msw3/browse.asp?id=14300126 Physeteridae]". ''Mammal Species of the World'', (3rd ed.), Volume 1, Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Johns Hopkins University Press, 2005, Page 737.</ref>。
== 生態 ==
=== 歯と食性 ===
[[ファイル:Physeter macrocephalus(jaw).jpg|thumb|245px|マッコウクジラの下顎の骨格<br/>([[神戸市立須磨海浜水族園]]での展示)]]
[[下顎]](したあご)に20 - 26対の[[円錐]]形の歯を有する。それぞれの歯は約
丸呑みが可能なイカ類を食べるために歯は不要と考えられており、本種が歯を備えている理由ははっきりとは分かっていない。歯を持たないにもかかわらず健康に太った野生の個体も、実際に観察されている。現在では、同種のオス同士で争う際に歯が使用されるのではないかと考えられている。この仮説は、成熟したオス個体の頭部に見つかる傷の形状が歯形にあっていたり、歯が円錐形で広い間隔を空けて配置されている理由も説明できる。上顎の中にも未発達の歯が存在するが、口腔内まで出てくることはまれである。似た食性を持つ[[ハナゴンドウ]]もマッコウクジラと同じく下顎にのみ歯を有している。この種は[[マイルカ科]]に属すが、多くの部分でマッコウクジラと酷似している。
近年の研究
=== 食餌 ===
[[ヤリイカ]]や[[ダイオウイカ]]など主な食性はイカ類であり、[[スケソウダラ]]や[[メヌケ]]、[[フリソデウオ科]]や[[ツノザメ科]]のような大型の[[深海魚]]類も餌となる。
試算では、マッコウクジラの摂餌量は年間で9千万トン - 2億2千8百万トンと推計される<ref name=zen-ika/>。この95%がイカとすれば、およそ8千万トン - 2億トンのイカがマッコウクジラに食べられ、それは世界中の年間漁獲量の30
他にも、優先度は低いものの[[ウバザメ]]、[[オンデンザメ]]、[[メガマウス]]、[[アオザメ]]、[[エイ]]、[[マグロ]]などの大型魚類や[[ウナギ]]や[[サーモン]]などの多様な魚類を捕食していると考えられる記録もある
=== 子育てと社会形成 ===
本種は家族の絆がとても強い。子は生まれてすぐには深海に潜ることができない。母親は子が深海へ潜ることができるようにするため、しばしば訓練をするが、子がなかなか潜ろうとしない場合は[[母乳]]を飲ませながら潜る。最近の研究では頻繁に深海と海面を行き来することが分かっている。
成熟した雄は、通常は独り立ちし、雌や子供が進出しない極海に至るまで広範囲を回遊する。若い雄同士で独自のグループを形成する。また、雌や子供の群れが[[シャチ]]や捕鯨船などに襲われた際に救出にくる
=== その他の行動 ===
近年、[[ホエールウォッチング]]
マッコウクジラは基本的には深海性だが、たとえばアジア圏では[[千島列島]]や[[コマンドルスキー諸島]]、[[知床半島]]や[[金華山]]沖、東京湾や房総半島周辺([[館山湾]]、[[三浦半島]]<ref>https://www.youtube.com/watch?v=t5xVIc5zCts</ref>、[[白浜]]沖<ref>https://www.youtube.com/watch?v=6JZaXzhfK4s</ref>、[[千倉町]]<ref>http://www.asahi-net.or.jp/~it6m-sbym/marine/9509kuji.html</ref>など)、[[伊豆半島]]周辺<ref>https://sv361.xserver.jp/~tes-sev/kohkaimaru.com/?photo_gallery&l=1</ref><ref>https://www.youtube.com/watch?v=purfxbOkkk0</ref>から伊豆諸島、[[火山列島]]、[[屋久島]]・[[奄美諸島]]から[[南西諸島]]<ref>http://monodon.jimdo.com/ryukyu-islands/</ref><ref>http://blogs.yahoo.co.jp/kujirabaka/48480791.htmlAnimal</ref>、[[台湾]]、[[マリアナ諸島]]<ref>https://www.youtube.com/watch?v=YJw6xwNueYY</ref>など、沿岸近くに見られる海域も数多く存在する。これらの海域では積極的な観察の対象になることも多い。特に成熟雄などは満足な遊泳ができないほどの浅い湾などに入り込み、しばらく休息してから外洋に出ていくこともある。[[スコットランド]]沖や[[フィリピン]]沿岸になど、沿岸性の特殊な個体群なども存在する<ref>http://www.wildlifeextra.com/go/news/scotland-sperm-whales.html#cr</ref>。
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=== 潜水 ===
[[ファイル:Sperm whale fluke.jpg|thumb|245px|潜水しようとするマッコウクジラの尾鰭 <br />([[メキシコ湾]]にて撮影)]]
また、その生涯の3分の2を深海で過ごす。軽く2,
本種の潜水能力はクジラの中で群を抜いている。[[ヒゲクジラ]]類の潜水深度は200-
=== 深海への適応 ===
マッコウクジラは、ハクジラの中でも特殊な'''深海潜行型'''として高度に進化適応を遂げた種である。この進化がどのような条件下で引き起こされたものであるかについては未だ詳らかにされないものの、彼らの祖先にあたるクジラが、他の大小多様なハクジラ類や大型サメ類との浅海域での生存競争に敗れ、食いはぐれての結果的選択であるとの推論は成り立つ<ref>[[日本放送協会|NHK]] 『ダーウィンがきた!』より</ref>。そのような動物も他所に活路を見出して、その上で新たな環境への的確な適応を遂げられた場合に限って、新しい種として子孫を残し、進化を次の段階へ進めていくことが可能となる。しかしまた、優勢種であるがためにその一部が分布域を拡大していくうちに、異なる形質を獲得していき、遂には別の種として分化した、との考え方もあり得る。いずれにしても、彼らの祖先は、何らかの条件の下でクジラ類にとっては未踏の海域であった深海という環境に挑み、長い時間をかけて現在の高度に適応したマッコウクジラの形質を獲得していったと考えられ、ダイオウイカ等の巨大無脊椎動物の生息によって深海という環境の生物量が決して貧しくはないことが、彼らの祖先の進化を下支えしつつ促したといえる。ハクジラ類が持っている反響定位の能力も深海にあって大いに威力を発揮し、彼らを優勢種に押し上げている。
ハイドロフォン([[:en:Hydrophone|Hydrophone]])による[[ニュートリノ]]検出を目的とした海洋ノイズ検出実験において、[[カターニア]]東方にある深度
[[File:Pénis de cachalot.jpg|thumb|200px|マッコウクジラのペニス]]
[[ファイル:Marguerite formation.png|thumb|200px|仲間を助ける様子]]
=== 繁殖と寿命 ===
本種は低い出生率と遅い成熟と長命を獲得している。メスは4歳から6歳で成熟し、メスの妊娠期間は少なくとも12か月、最長で18か月。そして、子育ては2 - 3年続く。マッコウクジラの家族は、母系家族でメスが中心となる。オスは単独行動、もしくは若い雄同士が小さな群れを造る。オスの[[繁殖]]適齢期は10歳ごろから20歳ごろまでの約10年間続き、40歳を超えても成長は止まらず、約50歳で最大に達する。また、出産は5年に一度しか行わない。
雄は一体で複数の雌を獲得する[[ハーレム]]によって子孫を残す性質で、複数の雌と交尾した後には子育てには参加しない。成熟した雄のペニスの長さは
群れを造る雌と子供達は結束が強く、弱って傷ついた仲間を囲って天敵であるシャチやサメなどの攻撃から守ったり、その囲いを解かずにそのままの姿勢で安全地帯へと押しやるような行動も観察されている。
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成熟した個体には、リング状の傷が帯状に付いていて、特に口と顔周りに多いが、これはダイオウイカの必死の抵抗により、強力な触腕にしがみつかれ、皮膚に傷を負ったものである。南極近くに住む個体には、[[ダイオウホウズキイカ]]によって付けられたと思われる鉤爪が刺さったままのものも見受けられた。
泳ぎが遅く、深海性の
=== 天敵 ===
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[[蝋#動物系蝋|鯨蝋]](げいろう)とは頭部から採取される白濁色の脳油の別名である。脳油は精液に似ているため、精液と誤解されていたことがあり、英語では spermaceti (原義:「鯨-精液」)と呼ばれている。英名の sperm whale はこのことに由来する。
脳油はイルカやシャチなどのハクジラ類にみられる反響定位(エコーロケーション)の際に音波を集中する[[レンズ]]の機能を持つ[[メロン (動物学)|メロン]]と呼ばれる頭部器官を満たす[[ワックスエステル]]である。
脳油は他のハクジラ類のメロンと異なり、マッコウクジラの体温下では液状であるが、約25℃で[[凝固]]することが知られている。鯨類学者クラークはこの性質に着目し、潜水の際には鼻から海水を吸い込
=== 捕鯨 ===
鯨蝋は高級[[蝋燭]]や[[石鹸]]の原料、[[灯油]]、機械油として利用された。特に精密機械の[[潤滑油]]としては代替品が無く、1970年代まで需要があった。かつてはこの鯨蝋を目的に大量のマッコウクジラが乱獲された。特に[[アメリカ合衆国|米国]]では18世紀から19世紀にかけて盛んにマッコウクジラを捕獲した。米国が日本に[[開国]]を迫った理由の一つに捕鯨船の中継基地の設置が挙げられるが、[[アメリカ大陸]]近海のマッコウクジラを捕り尽くし、日本に近い西太平洋地域に同じマッコウクジラの大規模な群れがあるのを発見してのことである。今でも同海域には数万頭のマッコウクジラがいるといわれる。
マッコウクジラは肉にも蝋を含むため、食用の際に油抜きをする。日本では主に[[大和煮]]に用いられたり、大阪では油抜きをした皮(コロ)を[[おでん]](関東煮)で食すのが一般的である<ref>[http://www.zukan-bouz.com/sonota/kujira/makkoukujira.html マッコウクジラ 市場魚貝類図鑑]</ref>。和歌山県田辺市鮎川や[[インドネシア]]・[[小スンダ列島]]のレンバタ島では[[干物]]にする。{{seealso|鯨肉#鯨種と食味}}
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あくまで小説中の話ではあるものの、捕鯨船員のキャリアを持つ[[ハーマン・メルヴィル]]が書いた『[[白鯨]]』の中では、欧米においても鯨食は強くタブーとしていなかったため、同時代人から見ても「船員の食肉とすらしない」というのは疑問であったようである。これに対して「眼の前の数十トンの肉塊を見て食欲を催すことはない」「捕鯨船では商品にならない絞り粕を油として使うが、鯨の肉を鯨自身の油で焼くのはさすがに縁起が悪い」と言った主旨のことが述べられている。一方無価値と見られた故に食べたいという船員に対して止めることもなかったようであり、マッコウの尾のステーキなども紹介されている。
食料として見た場合、マッコウクジラの体内に含まれる微量の[[水銀]]に注意する必要がある。厚生労働省は、マッコウクジラを[[妊婦]]が摂食量を注意すべき魚介類の一つとして挙げており、2005年11月2日の発表では、1回に食べる量を約
== 映像 ==
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{{Wiktionary|en:sperm whale}}
* [[クジラ学]] - 古代ギリシア自然学の流れを汲みつつも近代的・現代的な、海生哺乳類学の一分野。
* [[「ブラインドセーリング」プロジェクト]] - [[金華山]]の約1,
* [[生物に関する世界一の一覧]] - 世界一(質量の)大きい肉食動物(約
* 長さの比較資料
**[[1 E1 m]] - 本種の体格、巨大イカの体格、ほか。
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