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== アレニウスの定義 ==
前節で説明した、デービーによる成果を踏まえ、[[スヴァンテ・アレニウス|アレニウス]]は、酸と塩基を以下のように定義した[[#MF1|<sup>MF1</sup>]]{{Rp|page=144}}:
* 酸:水中で[[解離 (化学)|解離]]して[[水素イオン|水素イオン<cechem>{H+}</cechem>]]を生じる物質
* 塩基:水中で[[解離 (化学)|解離]]して[[水酸化物イオン]][[水素イオン|<cechem>{OH^-}</cechem>]]を生じる物質
アレニウスの定義は、[[水|水分子<cechem>{H2O}</cechem>]]が水素イオン[[水素イオン|<cechem>{H+}</cechem>]]と水酸化物イオン[[水素イオン|<cechem>{OH^-}</cechem>]]とに分解できる事を考えると理解しやすい。この事実を鑑みると、なんら物質を溶かしていない[[純水|純粋な水]]の場合、そこに含まれる[[水素イオン|<cechem>{H+}</cechem>]]と[[水素イオン|<cechem>{OH^-}</cechem>]]とは同じ量である。それに対し、酸性の水溶液では、酸が[[水素イオン|<cechem>{H+}</cechem>]]を生じるので[[水素イオン|<cechem>{H+}</cechem>]]の方が[[水素イオン|<cechem>{OH^-}</cechem>]]よりも多く、逆に塩基性の水溶液では塩基が[[水素イオン|<cechem>{OH^-}</cechem>]]を生じるので、[[水素イオン|<cechem>{OH^-}</cechem>]]の方が[[水素イオン|<cechem>{H+}</cechem>]]よりも多い。
 
酸性の水溶液と塩基性の水溶液を混ぜ合わせた時に起こる中和は、酸性の水溶液にある[[水素イオン|<cechem>{H+}</cechem>]]と塩基性の水溶液にある[[水素イオン|<cechem>{OH^-}</cechem>]]が反応して水分子[[水|<cechem>{H2O}</cechem>]]に変わる過程であると解釈できる。
 
=== 欠点 ===
しかしアレニウスの定義は以下のような欠点を持つことが知られている:
* 水以外の溶液に対しては酸性と塩基性を定義できない[[#MF2|<sup>MF2</sup>]]{{Rp|page=320}}
* [[水素イオン|<cechem>{OH}</cechem>]]を含んでいないアンモニア[[水素イオン|<cechem>{NH3}</cechem>]]の水溶液が塩基性になる事を説明できない[[#MF2|<sup>MF2</sup>]]{{Rp|page=320}}
 
== ブレンステッド・ローリーの定義==
{{Main|ブレンステッド-ローリーの酸塩基理論}}
 
アレニウスの定義における欠点を補うため、[[ヨハンス・ブレンステッド|ブレンステッド]]と[[マーチン・ローリー|ローリー]]は、アレニウスの定義において中心的な役割を果たしている[[水素イオン|<cechem>{H+}</cechem>]]、すなわち[[陽子|プロトン]](陽子)をベースとして、酸と塩基の概念を以下のように再定義した:
* 酸:プロトン[[水素イオン|<cechem>{H+}</cechem>]]を他の物質に渡すことができる物質[[#MF2|<sup>MF2</sup>]]{{Rp|page=320}}
* 塩基:プロトン[[水素イオン|<cechem>{H+}</cechem>]]を他の物質から受け取ることができる物質[[#MF2|<sup>MF2</sup>]]{{Rp|page=320}}
よってブレンステッド・ローリーの定義における酸と塩基をそれぞれ'''プロトン供与体'''、'''プロトン受容体'''ともいう[[#MF2|<sup>MF2</sup>]]{{Rp|page=320}}。なおブレンステッド・ローリーの定義では通常の分子である場合はもちろん、イオン化した分子に対しても酸や塩基が定義できる。
 
=== アレニウスの定義との関係 ===
アレニウスによる酸の定義は、ブレンステッド・ローリーによる酸の定義における「他の物質」が水分子であり、しかも[[水素イオン|<cechem>{H+}</cechem>]]を水分子に渡す原因が解離である場合に相当するので、ブレンステッド・ローリーによる酸の定義はアレニウスによる酸の定義を含意する。
 
一方ブレンステッド・ローリーによる塩基の定義はアレニウスによる塩基の定義と見かけ上大幅に異なるが、アレニウスによる塩基の中に存在する[[水素イオン|<cechem>{OH^-}</cechem>]]が「他の物質」である反応相手の酸から[[水素イオン|<cechem>{H+}</cechem>]]を奪って水分子[[水|<cechem>{H2O}</cechem>]]を生成すると考えれば、ブレンステッド・ローリーによる塩基の定義がアレニウスによる塩基の定義を含意する事が分かる。
 
=== 欠点の解消 ===
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また、ブレンステッド・ローリーの定義は、アレニウスの定義と違い、アンモニアが水に対して塩基になる事を説明できる。実際、アンモニアが水分子と反応して[[加水分解]]する過程
: <cechem>{NH3} + H2O\ <=>\ {NH4^+} + OH^-</cechem>
において、アンモニアは水分子から[[水素イオン|<cechem>{H+}</cechem>]]を奪っているので、ブレンステッド・ローリーの定義における塩基である[[#MF2|<sup>MF2</sup>]]{{Rp|page=321}}。
 
=== 定義の相対性 ===
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なお、この式は左辺から右辺への反応が生じるのと同時に右辺から左辺への反応も生じる事を意味する<ref group=注釈>ただし、この2つの反応の速度は等しいとは限らないので最終的に右辺だけ、もしくは左辺だけが残る場合もあり得るし、両者の反応速度が等しければ[[化学平衡|平衡状態]]になって右辺と左辺の両方の物質が残る。</ref>。
 
そこで逆に、右辺から左辺への反応過程を見てみると、(ブレンステッド・ローリーの定義における)塩基[[水素イオン|<cechem>{A-}</cechem>]]と酸[[水素イオン|<cechem>{HB+}</cechem>]]が反応して、HAとBとを生成していると解釈できる。
 
こうした理由により、[[水素イオン|<cechem>{A-}</cechem>]]を酸 HAの'''共役塩基'''(conjugate base)と呼び、[[水素イオン|<cechem>{HB+}</cechem>]]を塩基Bの'''共役酸'''という[[#MF2|<sup>MF2</sup>]]{{Rp|page=321}}。
 
== ルイスの定義 ==
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* 酸:電子対の受容体[[#MF2|<sup>MF2</sup>]]{{Rp|page=346}}
* 塩基:電子対の供与体[[#MF2|<sup>MF2</sup>]]{{Rp|page=346}}
ブレンステッド・ローリーの塩基Bは、プロトン[[水素イオン|<cechem>{H+}</cechem>]]を受け取る際、B内にある電子対を[[水素イオン|<cechem>{H+}</cechem>]]に供与する事により、[[水素イオン|<cechem>{HB+}</cechem>]]を作るので、ブレンステッド・ローリーの塩基はルイスの塩基でもある[[#MF2|<sup>MF2</sup>]]{{Rp|page=346}}。同様の理由により、ブレンステッド・ローリーの酸はルイスの酸でもある[[#MF2|<sup>MF2</sup>]]{{Rp|page=346}}。
 
しかしルイスの定義は、プロトン[[水素イオン|<cechem>{H+}</cechem>]]の授受を伴わない反応に対しても酸や塩基を定義できる事に利点がある。例えば反応
: <math>\mathrm{Al}^{3+} + 6\mathrm{H_2O}</math><cechem>\ <=>\ </cechem><math>\mathrm{Al}(\mathrm{H_2O})_6{}^{3+}</math>
ではプロトン[[水素イオン|<cechem>{H+}</cechem>]]の授受は行われないが、<math>\mathrm{H_2O}</math>の電子対を<math>\mathrm{Al}^{3+}</math>に供与するため、<math>\mathrm{Al}^{3+}</math>、<math>\mathrm{H_2O}</math>はルイスの定義における酸と塩基である[[#MF2|<sup>MF2</sup>]]{{Rp|page=346}}。
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