「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」の版間の差分

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すばらしくよくまとまったあらすじだったのですが、「導入型」を改めようということで、手を加えさせていただきました。「最高傑作」については、二次資料がそれなりに揃いましたので、加えました。「名場面」は、時系列通りに入れ替えました。
38行目:
その寅次郎は青森で、通勤途中不意に蒸発したくなったという重役サラリーマン・兵頭([[船越英二]])と出会う。人がうらやむような地位や財力に恵まれながらも、自由な生き方に憧れると言う兵頭に手を焼いてしまう寅次郎だが、二人で函館に渡った後、偶然にもリリーと再会して大喜びする。三人で啖呵売や駅のベンチでのごろ寝もこなして楽しい道中となるが、小樽に着いた兵頭はどうしても会いたい人がいると言う。それは彼の初恋の人だったが、未亡人になった彼女(信子)が女手一つで子供を育て、懸命に生きる姿を見た兵頭はいたたまれなくなる。「僕っていう男はたった一人の女性すら幸せにしてやることもできないダメな男なんだ」と言う兵頭に対して、リリーが「女が幸せになるには男の力を借りなきゃいけないとでも思ってんのかい」と反論したことをきっかけに、そんな発言を「可愛げがない」と言う寅次郎とリリーが対立してしまい、ついには喧嘩別れしてしまう。寅次郎は、去っていくリリーをどうすることもできない。
 
やがて柴又に帰ってきた寅次郎だが、リリーとの一件を悔やんで表情は沈んだまま。だがそこへひょいとリリーが現れる。リリーもまたあの一件を悔やんでおり、二人はあっという間にりを戻す。寅次郎ととらやに居候し始めたリリーとは、その仲むつまじい様子が近所でも噂になるほど。大げんかをした<ref>メロン騒動。</ref>後でも、その日のうちに仲直りする<ref>相合い傘。</ref>。さくらは、そんな二人を見て、苦労人のリリーだったら風来坊の寅次郎でもきちんとコントロールできるだろうと思い、「あの二人の喧嘩は夫婦げんかのようなもの」、「案外うまくいくんじゃないのかな」という博の発言にも後押しされる形で、思い切ってリリーに「リリーさんがお兄ちゃんの奥さんになってくれたらどんなに素敵だろうな」と言う。リリーは、一点を見つめたままの真剣な表情で、「いいわよ。あたしみたいな女でよかったら」と答える。さくらを始めとらやの人びとは、そのリリーの答えにざわめきたつ。
 
そこへ寅次郎が帰ってきて、さくらから報告を受ける。しかし、寅次郎は本気に取らない。「冗談なんだろ」と言う寅次郎の言葉に、リリーも表情を変え、笑顔で「そう、冗談に決まってるじゃない」と返し、とらやを去ってしまう。<ref>この部分については、後掲の註のように「リリーの自立」の物語と考え、寅次郎がそうしたリリーの内心を尊重した必然的な結果のように考える書物もある。小樽での喧嘩についての言及であるが、「その寅でさえリリーの根源にある悲しいまでの自立と自由への意志を自分のものにできない」(『男はつらいよ魅力大全』p.183)などはその一つである。一方で、寅次郎が照れてしまったので、リリーもそれに合わせざるを得なかったという考え方もできるのであって、「ねえ、寅さん、どうして追いかけてきてくれなかったの。参道を駅に向かって歩きながら、あたし絶対後ろを振り返らなかったけど、ほんとはね、おいリリー、ちょっと待て、そう言って呼び止める寅さんの声が聞こえやしないかと耳を澄ませてたのよ。あたし本気だったのよ。悪い冗談なんかじゃなかったのよ。本気で結婚してもいいと思ってたの。だってあたし寅さんに惚れてたんだもん。そんなあたしの気持ちも知らないでさ」というリリーの言葉もある。(『男はつらいよ寅次郎相合い傘―寅さんへリリーからの手紙[新潮CD]』)</ref>リリーの発言は冗談ではなかった、リリーを追いかけるべきだと言うさくらに、寅次郎は「あいつは頭のいい、気性の強い、しっかりした女なんだよ。俺みてえなバカとくっついて、幸せになれるわけがねえだろ」と言う。そして、さらに付け加える。「あいつも俺と同じ渡り鳥よ。腹すかせてさ、羽根怪我してさ、しばらくこの家に休んだまでのことだ。いずれまたパッと羽ばたいてあの青い空へ……な、さくら、そういうことだろう」「……そうかしら」のやりとりに、寅次郎、リリー、さくらの「定住と漂泊」をめぐる思いがクロスする。<ref>『pen 2019年6月1日号』p.54。この視点については、『男はつらいよ魅力大全』の記述が興味深い。『忘れな草』を「徹頭徹尾、定着への讃歌」(p.176)の作品であると形容し、寅次郎の牧場での労働と再訪、リリーのとらやの団らんへの憧れ、最後の結婚をその流れの中に位置づける。逆に、『相合い傘』は「一方的な定着と労働の勝利を軌道修正する」(p.177)作品と考え、リリーの離婚と「可愛げのない」女としての自立、真面目なサラリーマンだった兵頭の一時的な出奔を説明する。</ref>