「張元至」の版間の差分

| 別名 = [[仮名 (通称)|通称]]：唐兵衛尉→六左衛門尉

| 氏族 = [[張氏]]

[[張氏]]は、[[前漢]]の[[張良]]の子孫を称し、張元至の祖父にあたる[[張由]]は[[明]]の[[北京]]使官を務めた。父の[[張忠]]は来日し、[[大内氏]]の下で医師として[[山口市|山口]]の大町に屋敷を構えていた。

[[明]]から来日し、[[山口市|山口]]の大町に屋敷を構えていた医師の[[張忠]]の子として誕生。始めは'''張思朝'''と名乗り、[[天正]]16年（[[1588年]]）以降に'''張元至'''と改名<ref>名前の「元至」の読み方は、音読みで「げんし」なのか、「もとよし」のような日本風の読みなのかは不明。ただし、孫の[[張就貞|就貞]]（[[張元貞|元貞]]の子）が[[毛利秀就]]から「就」の字を与えられて「就貞」と名乗っている等など、少なくとも子孫は日本風の名前を名乗っているようである。</ref>。父が来日後も姓を改めなかったため、[[明]]の漢姓と日本の[[仮名 (通称)|通称]]を合わせて'''張唐兵衛尉'''と名乗り、天正16年（[[1588年]]）以後は'''張六左衛門尉'''と名乗った。

[[永禄]]8年（[[1565年]]）に父の後跡を継ぐ。その後、[[佐世元嘉]]や[[二宮就辰]]と共に[[毛利輝元]]に近侍し、天正15年（[[1587年]]）に讃岐守を[[受領名|受領]]した。天正20年（[[1592年]]）から始まる[[文禄・慶長の役#文禄の役|文禄の役]]では輝元の側近として渡海しており、[[文禄]]2年（[[1593年]]）8月に帰国して以降、元至は佐世元嘉、二宮就辰、[[榎本元吉]]、[[堅田元慶]]と共に毛利氏家の中央行政を担う事こととなる。この5名の輝元出頭人はそれぞれ様々な出自・経歴を持つ人物であるが、元至の様ように[[帰化人]]が大名権力の中枢を担った例は全国的にも稀であり、出自や家格にとらわれず能力評価に基づいて登用を図る輝元の姿勢が窺える。この登用以後、元至や[[木原元定]]、二宮就辰らは[[代官]]として毛利氏家領国内の各都市に派遣された。

文禄4年（[[1595年]]）に輝元の子・[[毛利秀就]]が生まれ、[[慶長]]3年（[[1598年]]）に秀就が輝元の後継者として[[豊臣政権]]に公認されると、[[国司元蔵]]や[[児玉元経]]と共に秀就付きの家老となり、併せて[[周防国]]と[[長門国]]の内うちに2863余石の知行を与えられた。以後は秀就付きの家老として[[広島市|広島]]にいながら内政の補助を行うようになる。慣例では毛利氏家の次期当主の傅役は[[粟屋氏]]と[[国司氏]]が務めていたが、この時は粟屋氏からの選任がなかった一方で、明からの帰化人という異例の経歴を持つ元至が選ばれた。このことは輝元が伝統的な[[家中]]構造を超克し、自らの絶対性を確立しつつあった事ことを示している。

このように毛利氏家の中枢で活躍した元至であったが、慶長6年（[[1601年]]）に秀就の[[乳母]]との密通を理由として、周防[[大島郡 (山口県)|大島郡]]で切腹させられた。しかし、元至と密通したとされる乳母はその事実を強く否定しており、元至死後の張家も輝元存命中に再興されている事ことから、この密通事件は事実でなく、元至を排除するための名目であったとされる。

慶長5年（[[1600年]]）の[[関ヶ原の戦い]]に敗北したことで輝元の権威は低下したが、後継の秀就は幼少であるため、輝元に代わって当主となる人物もいないという、輝元の責任を追及できない状況にあって、た。[[豊臣政権]]下の輝元専制体制で領国支配から遠ざけられていた[[五奉行 (毛利氏)|五奉行]]系などの旧勢力は、輝元の専制体制を支えていた輝元出頭人を身代わりとした。中でも帰化人である元至はそれらの旧勢力との関係も乏しかったため、身代わりとするには最適であった。また、秀就に対する輝元出頭人の影響力を排除するためにも、元至の失脚が必要となり、密通事件が仕組まれることとなった。いずれにせよ、このような権力闘争によって秀就周辺から輝元出頭人が排除され、[[児玉氏]]と国司氏の五奉行系の家によって秀就の側近が独占されるようになる。