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'''繊毛'''(せんもう)[[細胞]]の[[運動器官]]の一つあり、[[鞭毛]]と同じく振り動か細胞の遊泳に必要な推進力を生み出ことので毛のような。'''構造的には鞭毛と全く同じ'''であるが、鞭毛運動に加えて'''繊毛運動'''が可能である点が異なる。また分布様式の点から、短いもの一面に多数んだものを繊毛と呼ぶのに対し、長短に関わらず本数少ない場合は鞭毛との違いでする区別もる。[[原生生物]]においては[[繊毛虫]]が持つもののみが繊毛と呼ばれる。
 
== 繊毛をもつ構造の動作 ==
繊毛の典型的なものは、[[単細胞生物]]である[[ゾウリムシ]]や[[テトラヒメナ]]に見られる。これらの生物では、全身にほぼ同じ長さの毛が一面に生えている。これらの毛は、個々には振り動かすような動きをし、それが全体として、調和の取れた波のような動きを見せる。これによって水を動かし、彼らは前進し、物にぶつかれば、そのままで後退する事ができる。このように、繊毛をもつ単細胞生物を[[繊毛虫]]と言う。繊毛虫の場合、高度なものでは、繊毛の分化が進み、体の一部分だけにもつものや、特殊な配列のものなどが見られる。
 
=== 繊毛と鞭毛運動 ===
繊毛は、多細胞[[動物]]にも見られる。海産[[無脊椎動物]]の、発生初期に[[プランクトン]]生活するものでは、その体表面に繊毛をもって運動するものがたくさんある。また、[[扁形動物]]の[[渦虫綱]]のものは、成体の体の表面に繊毛をもち、これによって移動する。
 
推進力を生み出す有効打(effective stroke)と、次の有効打の準備として鞭毛を元の位置に戻す回復打(recovery stroke)とを繰り返す運動。有効打と回復打を合わせて繊毛打とも呼ばれる。[[水泳]]の平泳ぎのようなイメージであり、繊毛虫の遊泳はこの運動による。多細胞生物では運動が神経支配を受ける例もあり、[[濾過摂食]]時の食物輸送の他、体液循環、排出物や生殖産物の移送、経路の清掃などの役目を担う。
海産無脊椎動物では、[[鰓]]や、それに相当するような、水を多量にこしとる形の摂食装置を持ち、そこに繊毛を持っているものがある。そうして、粘液を分泌し、水中の[[デトリタス]](デトライタス・水中の有機物微粒子)をそこに吸着し、集めて、口まで繊毛運動で運び込むことで餌を食べている。このようなやり方を繊毛粘液摂食といい、二枚貝やゴカイの仲間、その他、様々な動物がこのやり方を取っている。
 
=== 繊毛逆転 ===
また、陸上動物であっても、[[粘膜]]の部分に繊毛をもつものが多々ある。我々ヒトを含む哺乳類でも、鼻孔粘膜や[[気管]]などの表面には繊毛がならび、混入する異物の排除などに役立っている。そのような組織を[[繊毛上皮]]と呼んでいる。
 
繊毛を持つ生物や器官が刺激を受けた際に、一時的に繊毛打の方向が変化する現象。しばしば繊毛運動の一時的な停止を伴う。繊毛打の変化幅は最大180°であり、この時は完全に運動方向が逆転する。繊毛はその運動が周囲の繊毛と共動的であるが、周囲への繊毛波の伝播方向も逆転する。繊毛逆転は、[[カルシウム]]イオンや[[マグネシウム]]イオンといった2価イオンに対する[[細胞膜]]の透過性の変化と、それに伴う細胞内電位の変化により引き起こされると考えられている。[[ゾウリムシ]]の逃避反応が有名であるが、他の繊毛虫、[[棘皮動物]]の[[幼生]]、[[腔腸動物]]、[[軟体動物]]、[[脊索動物]]などでも知られている。
==繊毛と鞭毛==
繊毛は、[[鞭毛]]と共に、単細胞生物の運動器官として重要なものである。全体に短いものを並べたのを繊毛と言うのに対して、長いものを少数だけもつ場合、これを[[鞭毛]]と呼ぶ。かつて、運動性の単細胞生物を[[原生動物]]と扱っていた頃、運動器官の種類が、分類群の決め手の一つと見られ、鞭毛をもつものを鞭毛虫綱、繊毛をもつものを繊毛虫綱としてまとめていた。また、[[細菌]]類にも鞭毛をもつものがあったが、これは細菌類に含まれていた。
 
== 繊毛を含む構造 ==
しかし、この区別が通らない場合があった。たとえば[[シロアリ]]の腸内に生息する[[超鞭毛虫]]類は、長い鞭毛を多数、種によっては全身にもっている。これでは繊毛と鞭毛の区別がつきにくい。さらに、カエルなどの腸に寄生するオパリナ類では、全身に短い毛が生えており、当初は原始的な繊毛虫と考えられたが、それ以外の生物的特徴から、次第に繊毛虫ではないとされ、鞭毛虫に属させられる事になった。そうすると、見掛けは繊毛にしか見えないが、実際は鞭毛だと言う事になる。そういった矛盾が生じていた。
 
;小膜(繊毛虫)
ところが、[[電子顕微鏡]]の発達により、鞭毛や繊毛の微細構造が明らかになり、話は変わって来た。まず、[[細菌]]の鞭毛と[[真核生物]]の鞭毛は根本的に違うものである事、真核生物の鞭毛は中に[[微小管]]が走っていて、特徴的な"9+2構造"をもっていることが明らかになった。しかも、断面の構造では、鞭毛と繊毛の区別がない事がわかってきた。これによって、鞭毛と繊毛を区別する意味は、大きく変わってしまった。
:繊毛虫において、繊毛が2~3に配列して密生、融合し、共動して膜のように振舞う器官。細胞口の近辺に見られる。
 
;波動膜(繊毛虫)
ちなみに、動物の起源は[[えり鞭毛虫]]だとの説が有力である。この生物は、単細胞の鞭毛虫で、一方の端に1本の鞭毛をもち、その鞭毛の基部に"えり"という鞭毛の根本を囲むような構造がある。ところが、最近、多細胞動物の繊毛で、その”えり”に似た構造が発見された。これがえり鞭毛虫のえりと相同のものであれば、多細胞動物の繊毛が、実は鞭毛だった、ということになる。
:繊毛虫において、繊毛が一列に配列して密生、融合し、共動して膜のように振舞う器官。細胞口の近辺に見られる。[[パラバサリア]]の[[トリコモナス]]類に見られる同名の器官とは異なる。
 
;棘毛(繊毛虫)
したがって、今日では、鞭毛と繊毛は根本的違いはなく、ある意味で、それぞれの生物で、その使い方が違うにすぎないとでも言うべきである。
:多数の繊毛が密生し、円錐形の構造を為したもの。繊毛虫の腹部に見られる。
 
;繊毛環
:繊毛が環状に生えている生物体の部分の総称。海産[[無脊椎動物]]の幼生に良く見られ、幼生の運動器官及び摂食器官として重要である。また、繊毛輪の位置や形状の変遷は幼生型の分類基準となる。
 
;繊毛冠
:[[輪形動物]]の頭部にある繊毛環の一種。繊毛の生えた輪状の運動・摂食器官で、ワムシの運動器官と摂食器官とを兼ねる。
 
;繊毛溝
:動物の[[上皮細胞|上皮組織]]において、溝状の繊毛上皮として機能を持つ部分の総称。分泌、吸収、排出などの役目を担う他、感覚器として機能するものもある。
 
== 繊毛を持つ生物 ==
 
=== 繊毛虫 ===
 
繊毛の典型的なものは、ゾウリムシや[[テトラヒメナ]]等の繊毛虫に見られる。繊毛虫はおおよそ同じ長さの繊毛を細胞の一部もしくは全体に持っており、これを振り動かして遊泳する。繊毛虫の繊毛は細胞表面の皮層(cortex)を基部としており、繊毛全体としては調和の取れた波のような動きを見せる。通常の遊泳中は細胞前部の繊毛の位相が早く、繊毛打の波が細胞後方へ向けて伝播する。
 
この繊毛の働きにより、ゾウリムシの回避反応や逃避反応、[[少毛類]]に見られる跳躍的な移動といった複雑な遊泳が可能となっている。繊毛の生え方にも多様性があり、小毛類では数本の繊毛が束となったもの(stiff cilia、bristles)が見られる。''Uronema''など一部の属では、極端に長い繊毛を1本~数本、細胞の後端部に持つものもある。
 
尚、以下の原生生物は繊毛虫に類似するが繊毛虫では無い。従って、多数生えている毛は全て鞭毛扱いである。
 
*[[超鞭毛虫]](ケカムリなど)→ パラバサリア
*[[オパリナ]]類 → [[ストラメノパイル]]
*''Multicilia'' → [[アメーボゾア]]
*''Stephanopogon'' → かつて原始的な繊毛虫とされた事もあったが、現在は位置不明。
 
=== 多細胞動物 ===
 
繊毛は多細胞[[動物]]にも見られる。海産[[無脊椎動物]]の、では発生初期に[[幼生]]が[[プランクトン]]生活するを営むものではが多く、その体表面に繊毛をって運動するものがたくさんある。また、[[扁形動物]]の[[渦虫綱]]のものは、成体の体の表面に繊毛をもち、これによって移動する。
 
海産無脊椎動物では、[[鰓]]やその他の濾過摂食器官に繊毛を持つものもある。また、餌を[[粘液]]で吸着してから繊毛を使って摂食器官まで運ぶ摂食様式もあり、これは[[繊毛粘液摂食]]と呼ばれる。二枚貝やゴカイの仲間、その他、様々な動物がこの方式を採用している。また、陸上動物であっても[[粘膜]]に繊毛を持つものが多々ある。我々ヒトを含む[[哺乳類]]でも、鼻孔粘膜や[[気管]]などの粘膜上皮細胞表面には繊毛が並び、混入する異物の排除などに役立っている。
 
ちなみに、多細胞生物の起源は[[襟鞭毛虫]]であるとする説がある。襟鞭毛虫は単細胞の鞭毛虫で、単鞭毛の周囲にそれを囲む襟構造を持つ。これが[[海綿]]動物の内壁表層を構成する[[襟細胞]](choanocyte)に類似しているという、両者の相同性から導き出された説である。この説が事実であれば、多細胞動物の繊毛の由来は鞭毛である、という事になる。
 
== 参考文献 ==
 
*原生動物図鑑 猪木正三 監修 講談社(1981) ISBN 4-06-139404-5
 
*生物学辞典第4版 岩波書店(1996) ISBN 4-00-080087-6
 
* {{cite journal | author = Nikolaev SI, Berney C, Petrov NB, Mylnikov AP, Fahrni JF, Pawlowski J | title = Phylogenetic position of ''Multicilia marina'' and the evolution of Amoebozoa | journal = Int J Syst Evol Microbiol | year = 2006 | volume = 56 | issue = 6| pages = 1449-58}}
 
* {{cite journal | author = Kostka M, Hampl V, Cepicka I, Flegr J | title = Phylogenetic position of ''Protoopalina intestinalis'' based on SSU rRNA gene sequence | journal = Mol Phylogenet Evol | year = 2004 | volume = 33 | issue = 1 | pages = 220-4}}
 
* {{cite journal | author = Hutner SH, Corliss JO | title = Search for clues to the evolutionary meaning of ciliate phylogeny | journal = J Protozool | year = 1976 | volume = 23 | issue = 1 | pages = 48-56}}
 
== 関連項目 ==
 
*[[鞭毛]]
*[[繊毛虫]]
 
[[Category:細胞生物学|せんもう]]