「ティスラン・パラメータ」の版間の差分

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ティスランの判定式について加筆
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== 定義 ==
一般に、小天体の軌道長半径を <math>a\,\!</math>、軌道離心率を <math>e</math>、軌道傾斜角を <math>i</math> とし、摂動天体の軌道長半径を <math>a_P</math> としたとき、ティスラン・パラメータは以下の式で定義される{{R|Kawakita2008|BonsorWyatt2012}}。
:<math>T_P\ = \frac{a_P}{a} + 2\cos i\sqrt{\frac{a}{a_P} (1-e^2)}</math>
ティスラン・パラメータの準保存性は、ティスランの判定式{{R|astro-dic_Tisserand's_criterion}}の帰結である。
 
== ティスランの判定式 ==
== 適用 ==
[[File:Tisserand parameter conservation animation.webm|thumb|木星による摂動を受ける彗星の軌道のシミュレーション。図中の赤点が太陽、黒点が木星、青点が彗星を表す。距離および時間の単位は木星公転運動の半径および周期。薄い青色の楕円が初期の軌道、濃い青の楕円が摂動後の軌道である。]]
[[File:Tisserand parameter conservation plot.svg|thumb|上記アニメーションにおける彗星の長半径、離心率、ティスラン・パラメータの時間変化をプロットしたもの。木星の摂動によって長半径は4.0から1.9へ、離心率は0.80から0.64へと変化しているものの、ティスラン・パラメータは2.65で不変である。]]
 
具体的に太陽-木星-彗星という三体系について考える。彗星の質量は他の二体に比べて極めて小さく、彗星が木星の軌道に与える影響は無視できる(制限三体問題){{R|Fitzpatrick}}。木星の公転運動の離心率は 0.0489<ref>{{Cite web |url=https://nssdc.gsfc.nasa.gov/planetary/factsheet/jupiterfact.html |title=Jupiter Fact Sheet |accessdate=2021-02-04}}</ref> でありその軌道はほぼ円運動である{{R|Fitzpatrick}}。
 
彗星の軌道は木星から十分に離れていれば[[ケプラーの法則]]に従う楕円形であるが、木星近傍を通過すると木星の重力による摂動を受け、軌道が大きく変化し得る{{R|Fitzpatrick}}。その結果、木星の近傍を通過する前後で、同一の彗星であるにもかかわらずその軌道が大きく異なっているように見える。そのため、異なる時刻に別の位置に観測された彗星が同じひとつの彗星であるか、それとも異なるふたつの彗星であるかが問題となる。
 
これが同一の彗星であるならば、彗星の長半径、離心率、軌道傾斜角の摂動前後での値 <math>a</math>, <math>a'</math>, <math>e</math>, <math>e'</math>, <math>i</math>, <math>i'</math> はティスランの判定式
{{Indent|<math>\frac{a_\mathrm{J}}{a} + 2\cos i\sqrt{\frac{a}{a_\mathrm{J}} (1-e^2)} = \frac{a_\mathrm{J}}{a'} + 2\cos i'\sqrt{\frac{a'}{a_\mathrm{J}} (1-e'^2)}</math>}}
(<math>a_\mathrm{J}</math> は木星の軌道長半径)を満足する{{R|Fitzpatrick|astro-dic_Tisserand's_criterion}}。これは円制限三体問題における保存量である[[ヤコビ積分]]から導かれる{{R|Tisserand1889|Tisserand1896|astro-dic_Tisserand's_criterion}}。それ故にこの等式が成立する彗星は同一のものである可能性が高く、これにより彗星の同一性が判定できる{{R|Fitzpatrick|astro-dic_Tisserand's_criterion}}。
 
== 用 ==
* 木星を摂動天体としたときのティスラン・パラメータ <math>T_J</math> は、太陽系小天体の分類に用いられる。{{math|''T''{{sub|J}} > 3}} であれば[[小惑星帯|メインベルト小惑星]]、{{math|2 < ''T''{{sub|J}} < 3}} であれば[[木星族彗星]]とされる{{R|Ishiguro2012|Tisserand-Jewitt}}。
* イギリス生まれの天文学者[[デビッド・C・ジューイット]]は、[[ダモクレス族]]の定義として {{math|''T''{{sub|J}} &le; 2}} という条件を提唱している{{R|Damocloids-Jewitt}}。
* ティスラン・パラメータは、小天体が摂動天体と接近遭遇して軌道が変化しても値は大きく変わらずほぼ一定であるため、ある天体が以前に観測された天体と同じものか否かをティスランの判定式で判断するために使われる{{R|astro-dic_Tisserand's_criterion}}。
* [[重力アシスト]]を利用可能な外部太陽系探査機の軌道は、ティスラン・パラメータの準保存性によって制約を受ける。
* 海王星を摂動天体としたときのティスラン・パラメータ <math>T_N</math> は、海王星の影響を受ける[[散乱円盤天体]]と影響を受けない[[分離天体]]を区別する指標として提唱されている。
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== 関連概念 ==
このパラメータは、[[三体問題|3体系]]の摂動[[ハミルトニアン]]の研究に用いられる、いわゆる[[シャルル=ウジェーヌ・ドロネー|ドロネー]]変数の1つに由来している{{要出典|date=2021年2月}}。高次の摂動項を無視すると、以下の値が保存される。
 
:<math> \sqrt{a (1-e^2)} \cos i</math>
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|publisher=Princeton University Press|location=Princeton, NJ|isbn=9781400846122
|url=https://openlibrary.org/works/OL16802359W/Dynamics_and_Evolution_of_Galactic_Nuclei}}</ref>
 
<ref name="Fitzpatrick">{{Cite web
|author=Richard Fitzpatrick |date=2016-03-31
|url=https://farside.ph.utexas.edu/teaching/celestial/Celestial/node82.html
|title=Tisserand criterion
|accessdate=2021-02-04}}</ref>
 
<ref name="Tisserand1889">{{Cite journal