「シルデナフィル」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
編集の要約なし
m編集の要約なし
33行目:
シルデナフィルは[[1990年代]]前半、[[狭心症]]の治療薬として研究・開発が始まった。第1相[[臨床試験]]において、狭心症に対する治療効果は捗々しいものではなく、[[治験]]の中止を決めるが、被験者が余剰の試験薬を返却するのを渋ったため、理由を問うたところ、僅かであるが[[陰茎]]の[[勃起]]を促進する作用が認められ、これを適応症として発売されることとなった<ref>{{cite journal|author=Goldstein I, Lue TF, Padma-Nathan H, Rosen RC, Steers WD, Wicker PA|title=Oral sildenafil in the treatment of erectile dysfunction. Sildenafil Study Group|journal=[[ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン|N. Eng. J. Med.]]|year=1998|volume=338|issue=20|pages=1397-1404|pmid= 9580646|doi=10.1161/CIRCULATIONAHA.106.626226}} Erratum in: ''ibid.'' 1998 Jul 2;339(1):59. </ref> 。
 
[[1998年]]3月27日に[[アメリカ食品医薬品局]]の認可を取得し、[[アメリカ合衆国]]で発売。[[性的興奮]]をもたらす[[媚薬]]のような効果は一切ないものの、世界中のマスメディアで誤解や拡大解釈が合わさり'''[[生活改善薬]]'''として「夢の薬」「画期的新薬」と騒がれ、ファイザー社の売上・株価は急上昇し、世界的なセンセーションを巻き起こした。しかし同年7月までの間に360万人に処方されたうち、バイアグラを服用した123症例で死亡症例が判明している。
 
== 作用機序 ==
バイアグラ(シルデナフィル)は、生体内で[[環状グアノシン一リン酸]](cGMP)の分解を行っている5型[[ホスホジエステラーゼ]] (PDE-5) の酵素活性を阻害する。これが陰茎周辺部の[[一酸化窒素|NO]]作動性神経に作用して血管を拡張させ、血流量が増えることによって機能すると考えられている。
 
勃起不全の症状がある場合、この薬を[[性行為]]ねん30分くらい前に服用すると陰茎が勃起し、性行為が正常に行える。ただし、性的なリビドーがない場合や陰茎に対する適切な物理的刺激を受けて[[陰茎]]ない場合には勃起は起するらないとで性行為や[[オナニー]]が正常に行えるだし、性的な気分を高揚させる効果はない。この薬は陰茎の勃起に効果はあるものの[[精液]]の量を増やす効果はなく、[[射精]]時にあまり精液が出ない、いわゆる「空撃ち」状態になると射精の快感は半減する。
 
=== その他の心血管系作用 ===
50行目:
ファイザー側はこの同薬に関する問題に対して、医師・薬剤師への禁忌情報の提供を行うと共に、錠剤パッケージ裏にニトログリセリン等硝酸エステル系薬剤との併用ができない旨を記載している。
 
海外産の「滋養強壮」「精力強壮」を謳った[[健康食品]]・[[サプリメント]]の中にはシルデナフィルを含む物もあり、[[厚生労働省]]が注意喚起している<ref>{{cite web|url=https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet/other/050623-1.html|title=医薬品成分(シルデナフィルおよび類似成分)が検出されたいわゆる健康食品について| 厚生労働省 医薬食品局監視指導・麻薬対策課|date=2009-11-21|accessdate=2009年12月5日}}</ref>。
 
[[アメリカ食品医薬品局]]は2007年10月18日、男性性的不全治療薬の服用で[[突発性難聴]]になる恐れがあると警告し、ファイザー(バイアグラ)、イーライリリー([[シアリス]]、一般名:タダラフィル)、バイエル([[レビトラ]]、一般名:バルデナフィル)の3商品に対し、品質表示ラベルや取扱説明書に、リスクを詳しく記載するよう求める方針である<ref>2007年10月19日 日本経済新聞朝刊</ref>。
 
== 日本での状況 ==
1998年3月のアメリカでの発売直後より、実態が不明の組織によって[[電柱]]や[[電話ボックス]]への違法な[[貼り紙]]や、成人を読者層とした雑誌や[[スポーツ新聞]]を中心とした[[新聞広告]]や成人を読者層とした雑誌の[[広告]]で[[医薬品の個人輸入]]としてバイアグラの[[通信販売]]を仄めかす広告(伏字と電話番号のみを記載したもの)”が席巻するようになった。
 
[[薬事法]]に反する販売により、副作用による死者、偽薬の流通、[[暴力団]]への資金源に加担など短期間で社会問題にもなった<ref>著名なものでは、芸人の[[江頭2:50]]が1997年にスナックでブランデーと一緒にバイアグラを5錠一気飲みし、直後に倒れて[[急性アルコール中毒]]で緊急搬送された事件がある。この事件は一般紙でも大きく報道され、結果的に日本での認可が遅れる一因となった。</ref>。ほどなくして同年6月頃より、[[狭心症]]を患って[[ニトログリセリン]]などの[[硝酸エステル]]を服用している者(主に[[高齢者]])が[[個人輸入]]で入手したシルデナフィルで[[性行為]]を行った直後に、薬理相互作用によって[[心停止]]に陥り[[腹上死]]する事例が数件報告されるようになった。
 
未承認医薬品による副作用死をうけて、[[厚生省]]は医薬品の安全性を図るべく、[[医師]]の診断・[[処方箋]]が必要となる医療用医薬品(現・[[処方箋医薬品]])として正規販売する運びとなり、った。併用[[禁忌]]による[[副作用]]死([[薬害]])抑止の観点もあり、日本国内での臨床試験を実施せずアメリカ合衆国の承認データを用いるスピード審査ブリッジング試験敢行し新規薬効で初めて用いて、[[1999年]]([[平成]]11年)[[1月25日]]に製造承認、[[3月23日]]より[[ファイザー]]から[[医療機関]]向けに販売された。このスピード審査ブリッジング試験、それまで治療上[[フェキソフェナジン]](テルフェナジン緊急性が高い「代替)、[[抗HIV薬ドネペジル]]などの医療用医薬品や、バイアグラ同様対して行わ個人輸入で副作用が問題視さてい[[ミノキシジル]]([[ダイレクトOTC]]として発売)にのだっ適用された。
 
ただし、正規での入手には医師の診察(問診)を経て[[処方箋]]が必要な上、疾病の治療ではなく生活の質([[クオリティ・オブ・ライフ]])を改善する用途'''[[生活改善薬]]'''であるため、[[勃起不全]]薬の処方は[[健康保険]]の[[診療報酬]]が適用されない[[自由診療]]扱いとなる。そのため、各医療機関が診療費から調剤薬価まで、自由に価格を設定することができる。
 
1999年(平成11年)の発売当初は、[[泌尿器科]]([[性病科]])や[[内科|一般内科]]などの医師が、ファイザーの[[医薬情報担当者]]から説明を受けるなど専門知識を習得した[[泌尿器科]]([[性病科]])や特定の診療所・病院の診療[[内科|一般内]]などの医師おい限っ取り扱われ、患者が問診と血圧測定などの生理的検査を行い、EDと確定されれば処方される仕組みのみであった。なお、この検査において、基本的に[[陰茎]]を医師の前で露わにしたり触診させる必要はない。その後[[2000年代]]以降は診療科の縛りが緩和され、[[心身医学|心療内科]]や自由診療主体の[[美容外科学|美容外科]]においても問診だけで、勃起改善薬を処方する[[診療所]]も見受けられる{{要出典|date=2018年8月}}。一方、医療機関や[[調剤薬局]]へ出向くのが恥ずかしい、と思いこむ者をターゲットにした依然として[[個人輸入代行業者]]による販売が行われている。こうした業者の販売する薬物からは、[[偽薬]]あるいは海賊薬が発見される事もある。
 
日本国内の医療機関で処方されている剤形は、25 mg 錠または50 mg 錠(一錠に 25 mg ないしは 50 mg の有効成分が含まれる)だが、ファイザーが米国等海外において製造・発売している剤形には、100 mg 錠もある。しかしこの 100 mg 錠は日本国内での製造承認は出ておらず、日本の医療機関では処方されない。
 
2014年(平成26年)5月にバイアグラとしての成分特許が切れたことから、それ以降は合法的な[[後発医薬品]](ジェネリック)が発売・流通されている。ただし国内での入手には引き続き医師の処方箋が必要な『[[処方箋医薬品]]』である<ref name="postseven140610">{{Cite web|url = http://www.news-postseven.com/archives/20140610_260026.html|title = ジェネリックED薬が発売開始 「本家」の半額以下で購入可能|publisher = NEWSポストセブン|date = 2014-06-10|accessdate = 2014-08-22}}</ref>。
 
2016年10月21日、ファイザーは「バイアグラODフィルム」を日本で発売開始した<ref name=":0">{{Cite web|title=勃起不全治療剤「バイアグラ(R)」の新剤形「バイアグラ(R)ODフィルム」 10月21日に新発売~ED治療剤として“国内初”のODフィルム製剤~|url=https://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2016/2016_10_21.html|website=www.pfizer.co.jp|accessdate=2021-03-27|publisher=ファイザー|date=2016-10-21}}</ref>。勃起不全治療薬として日本で最初に発売されたODフィルム製剤で、口腔内で速やかに溶け、水なしでも服用が可能<ref name=":0" />。
 
バイアグラに追従するかたちで1990年に承認申請された状態だった[[低用量ピル]]も1999年6月に日本で医療用医薬品として承認された。<!--1965年以来、185以上の国連加盟国各国はピルを承認し、世界中で2000万人の女性が服用する中、日本はピルを承認する最後の先進国であった<ref>{{cite web|url=https://core.ac.uk/download/pdf/232680898.pdf|title=Potency and Pregnancy in Japan: Did Viagra Push the Pill |author=Patricia L. Martin |publisher=the university of tulsa|accessdate=2020-12-20}}</ref>。国連加盟国185か国で当時唯一の未承認国であった<ref>{{cite web|url=http://rhic.kenkyuukai.jp/special/index.asp?id=4380|title=国会からの報告|publisher=リプロ・ヘルツ情報センター|accessdate=2020-12-21}}</ref>。HIV感染拡大の懸念から薬事審議会が一時審議を凍結し、感染症問題を管轄する公衆衛生審議会に意見を求めるなど調整が難航し、承認時にもなお感染症対策をもっと詰めて承認を決めるべきだったとの意見(東京医科歯科大学大島博幸教授)があった<ref>読売新聞 第44227号 低用量ピル解禁 1999(平成11)年6月13日 1面31面 2020年12月20日閲覧</ref>。低用量ピルが長期審議から一転解禁となった背景には、男性用性的不能治療薬「バイアグラ」を個人輸入で大量に出回り死亡例が発生したことから安全に処方されるためとの理由で、申請からわずか半年で承認された。これにより-->バイアグラのスピード承認が男性本位との批判が起こったことが関係しているとの見解もある<ref>毎日新聞 記者の目 バイアグラのスピード承認 男性本位の「性」倫理 小川節子 1999年1月26日 2020年12月20日閲覧</ref>。<!--厚労省はピル解禁を世の中の理解が進みピルを温かく見守る環境ができた(平井俊樹審査管理課長)との講和を発表した。ピルが承認されない一方でバイアグラが超特急で承認されたことに対しニューヨークタイムズ紙では世界的に安全性が確立された低用量ピルが認可されていないのみならず副作用ゆえに米国では88年以降販売されなくなった「危険な」高用量ピルのみが認可され,販売され続けていることも紹介し日本の薬事行政の奇妙さを紹介したと言われている<ref>{{cite news|url=https://www.nytimes.com/1999/04/27/science/japan-s-tale-of-two-pills-viagra-and-birth-control.html|title=Japan's Tale of Two Pills: Viagra and Birth Control|publisher=New york times|date=1999-04-27|accessdate=2020-12-20}}</ref><ref>{{cite web|url=https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/old/old_article/n2006dir/n2691dir/n2691_05.htm|title=〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第88回ピル(医療と性と政治)(19)「性の乱れ」を防ぐことに躍起となる権力者たちの習性|publisher=医学界新聞|author=李啓充 医師/作家(在ボストン)|accessdate=2020-12-20}}</ref>。また、承認時に婦人科に行きピルを処方する際に性病の検査をしたほうがいいとの議論があり、その項目は女性に必要ならば男性にも必要で、女性に失礼だとの[[黒川清]]委員の見解で削除された。なお当時の審議会の構成には女性は2名しか参加していなかったことも述べられている<ref>{{cite web|url=https://kiyoshikurokawa.com/igakuseinoobenkyou_2-3|title=「医学生のお勉強」 Chapter2:避妊、中絶、ジェンダー・イッシュー(3)|author=黒川清|accessdate=2020-12-23}}</ref>。平成11年2月衆議院予算特別委員会での国会審議において、末松義規議員よりバイアグラのスピード承認に対しピル承認が9年以上も審議にかかることについて、中央薬事審議会が社会的な価値観を持ち込んでいる疑問が呈され、同議員は「どうも何か大きな思惑があったのじゃないかと思わざるを得ない」と意見している<ref>{{cite web|url=https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=114505270X00219990218&spkNum=138&current=25|title=第145回国会 衆議院 予算委員会第四分科会 第2号 平成11年2月18日139.141末松義規|accessdate=2020-12-29}}</ref>。-->
{{see also|低用量ピル}}