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{{See also|[[:en:Heckscher–Ohlin model#Criticism]]}}
 
HO理論*[[ヘクシャー=オリーン・モデル]]は、それぞれ要素賦存量自然に備わ貿易パターンを決め優位を生かすという思想考えに基づいている。その発想考えには批判もあり、[[:en:Alan Blinder|アラン・ブリンダー]]は「自然の気まぐれは過去におけるよりもずっと重要でない。今日では、比較優位は、自然条件よりも人間の努力に由来する。たとえば、コンピュータ会社がシリコンバレーに集中しているのはシリコンが豊富に埋蔵されていることとはまったく関係ない。」と指摘している<ref>Blinder, Alan S., 2006 Offshoring: The Next Industrial Revolution? ''Foreign Affairs'' March/April 2006. </ref>。
===比較優位===
HO理論は、それぞれの国が自然に備わる優位を生かすという思想に基づいている。その発想には批判もあり、[[:en:Alan Blinder|アラン・ブリンダー]]は「自然の気まぐれは過去におけるよりもずっと重要でない。今日では、比較優位は、自然条件よりも人間の努力に由来する。たとえば、コンピュータ会社がシリコンバレーに集中しているのはシリコンが豊富に埋蔵されていることとはまったく関係ない。」と指摘している<ref>Blinder, Alan S., 2006 Offshoring: The Next Industrial Revolution? ''Foreign Affairs'' March/April 2006. </ref>。
 
HO理論は、新古典派の標準的な貿易論として受入れられているが、*実証的な裏付けに乏しいという指摘がある{{Sfn|クルーグマンほか|2017|pp=第5章}}。また、実証的には多くの反例がある<ref>竹中俊平『国際経済学』東洋経済新報社、1995年、第5章第4節「リオンチェフ以降の実証研究」</ref>。{{仮リンク|ダニエル・トレフラー|en|Daniel Trefler}}は、これらを「ミステリー」と呼んだ<ref>Trefler, Daniel 1995 The Case of the Missing Trade and Other Mysteries. ''American Economic Review'' '''85''': 1029–1046.</ref>。コンウェイは、「ミステリー」というのは、理論が棄却されたという暗号名(code name)であると指摘している<ref>Conway, P. J. 2002 The case of the missing trade and other mysteries: Comment. ''American Economic Review'' '''92'''(1): 394-404.</ref>。
===実証面===
HO理論は、新古典派の標準的な貿易論として受入れられているが、実証的な裏付けに乏しいという指摘がある{{Sfn|クルーグマンほか|2017|pp=第5章}}。また、実証的には多くの反例がある<ref>竹中俊平『国際経済学』東洋経済新報社、1995年、第5章第4節「リオンチェフ以降の実証研究」</ref>。{{仮リンク|ダニエル・トレフラー|en|Daniel Trefler}}は、これらを「ミステリー」と呼んだ<ref>Trefler, Daniel 1995 The Case of the Missing Trade and Other Mysteries. ''American Economic Review'' '''85''': 1029–1046.</ref>。コンウェイは、「ミステリー」というのは、理論が棄却されたという暗号名(code name)であると指摘している<ref>Conway, P. J. 2002 The case of the missing trade and other mysteries: Comment. ''American Economic Review'' '''92'''(1): 394-404.</ref>。
 
HO理論で重要な*ヘクシャー=オリーン・モデルの要素価格均等化定理は、それが成立する貿易によって々の間では、要素価格が同一であると結論均等化する。これは労働についていえば、貿易国間で、ある通貨に換算した賃金率が等しいこを意味予測する。このような状況は、先進国間ではありえても、特に先進国と途上国の間ではありえない。HOこのような理論、とくに要素価格均等化定理の前提が成立する経済は、途上国の貿易問題を考察する基礎として用いることはできない<ref>M. Chacholiades ''The Pure Theory if International Trade'', Aldine Transaction, Second paberback printing: 2009, pp.264-5.</ref>。
===適応可能範囲===
HO理論で重要な要素価格均等化定理は、それが成立する国々の間では、要素価格が同一であると結論する。これは労働についていえば、貿易国間で、ある通貨に換算した賃金率が等しいことを意味する。このような状況は、先進国間ではありえても、先進国と途上国の間ではありえない。HO理論、とくに要素価格均等化定理の前提が成立する経済は、途上国の貿易問題を考察する基礎として用いることはできない<ref>M. Chacholiades ''The Pure Theory if International Trade'', Aldine Transaction, Second paberback printing: 2009, pp.264-5.</ref>。
 
*ヘクシャー=オリーン・モデルは(1)生産要素は資本・労働・土地など、(2)世界各国は同じ生産関数をもつ、(3)すべての生産要素は完全雇用される―などの仮定の下成立する。これらの過程には、以下のような問題がある。
===理論面===
;生産要素 : 1. は資本が土地や労働(力)とおなじく賦存要素であることを意味する。しかし、**(1)資本は、企業活動の必要によって形成されるものであり、また貿易の対象である{{efn|資本は商品であり、商品は商品により生産される<ref>ピエロ・スラッファ『商品による商品の生産』菱山泉・山下博訳、有斐閣、オンデマンド版2001年</ref>。}}。国際貿易論では、「要素移転」とテーマで資本の国際間移動が分析されているが、賦存要素という設定と貿易不能という仮定に問題があるとされる。
HO理論は次の基本的仮定に基づいている。
;生産関数 : 2. は貿易に従事する各国の各産業(各企業)がすべて同じ生産技術と効率とをもつことを意味する。(1)**(2)これは競争が支配する資本主義経済とはいえない。貿易を担うのが企業であるという新々貿易理論の観点と対立する。(2)また、生産要素の投入比率が自由に変えられる生産関数という概念は、農業などには適用できても、複雑な設計図に基づく工業製品には適用できない<ref>Nadal, Alejandro. Choice of technique revisited: a critical review of the theoretical underpinnings. Frank Ackerman, F. and Alejandro Nadal (eds.) ''The Flawed Foundations of General Equilibrium: Critical essays on economic theory'', Routledge, Chap. 6, 99-116.</ref>。(3)さらに、資本と労働の代替により利潤と賃金率が決まるという生産関数の考え方は、1960年代の[[:en:Cambridge capital controversy|資本測定論争]]により破綻している。
; 完全利用 : 3. **(3)これ労働力については完全雇用を意味する。ケインズ以前の考え方であり、自由貿易を正当化する論点先取となっている<ref>田淵太一『貿易・貨幣・権力』法政大学出版局、2006年、第5章「新古典派貿易理論の誕生―「ケインズ革命」への不感応」</ref>。
 
HO理論*ヘクシャー=オリーン・モデルは、生産要素と完成財の2分法に基づいている。そのため、[[中間財貿易]]・投入財貿易が基本的に扱えない。理論分析も、中間財という第三の分類を導入して行なわれている<ref>Jones, R.W.(2000) ''Globalization and the theory of input trade'' MIT Press.</ref>。しかし、中間財の生産は、用途が指定されているとは限らない。[[加工貿易]]の理論が発展しなかったのは、部分的にはHO理論ヘクシャー=オリーン・モデルのこの性格による。
#生産は資本・労働・土地などの生産要素の結合である。
#世界各国は同じ生産関数をもつ。
#すべての生産要素は完全利用される。
 
これらの前提には、以下のような問題がある。
 
;生産要素 : 1. は資本が土地や労働(力)とおなじく賦存要素であることを意味する。しかし、資本は、企業活動の必要によって形成されるものであり、また貿易の対象である{{efn|資本は商品であり、商品は商品により生産される<ref>ピエロ・スラッファ『商品による商品の生産』菱山泉・山下博訳、有斐閣、オンデマンド版2001年</ref>。}}。国際貿易論では、「要素移転」とテーマで資本の国際間移動が分析されているが、賦存要素という設定と貿易不能という仮定に問題があるとされる。
;生産関数 : 2. は貿易に従事する各国の各産業(各企業)がすべて同じ生産技術と効率とをもつことを意味する。(1)これは競争が支配する資本主義経済とはいえない。貿易を担うのが企業であるという新々貿易理論の観点と対立する。(2)生産要素の投入比率が自由に変えられる生産関数という概念は、農業などには適用できても、複雑な設計図に基づく工業製品には適用できない<ref>Nadal, Alejandro. Choice of technique revisited: a critical review of the theoretical underpinnings. Frank Ackerman, F. and Alejandro Nadal (eds.) ''The Flawed Foundations of General Equilibrium: Critical essays on economic theory'', Routledge, Chap. 6, 99-116.</ref>。(3)資本と労働の代替により利潤と賃金率が決まるという生産関数の考え方は、1960年代の[[:en:Cambridge capital controversy|資本測定論争]]により破綻している。
; 完全利用 : 3. は労働力については完全雇用を意味する。ケインズ以前の考え方であり、自由貿易を正当化する論点先取となっている<ref>田淵太一『貿易・貨幣・権力』法政大学出版局、2006年、第5章「新古典派貿易理論の誕生―「ケインズ革命」への不感応」</ref>。
 
HO理論は、生産要素と完成財の2分法に基づいている。そのため、[[中間財貿易]]・投入財貿易が基本的に扱えない。理論分析も、中間財という第三の分類を導入して行なわれている<ref>Jones, R.W.(2000) ''Globalization and the theory of input trade'' MIT Press.</ref>。しかし、中間財の生産は、用途が指定されているとは限らない。[[加工貿易]]の理論が発展しなかったのは、部分的にはHO理論のこの性格による。
 
== 脚注 ==