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『'''ネオノミコン'''』(''Neonomicon'') とは、[[アラン・ムーア]]原作、{{仮リンク|ジェイセン・バロウズ|en|Jacen Burrows}}作画による全4号のコミックブックシリーズ<ref>{{Cite web|url=http://www.bleedingcool.com/2010/06/07/jacen-burrow-on-alan-moores-neonomicon-puff-piece-interview-of-the-week/|title=Jacen Burrows on Alan Moore's Neonomicon – Avatar Interview of the Week|publisher=[[Bleeding Cool]]|date=7 June 2010|accessdate=22 March 2011}}</ref><ref>{{Cite web|first=Charles|author=Webb|url=http://www.comicsbulletin.com/features/127802307919546.htm|title=Jacen Burrows: Neonomicon Rises – A Lovecraftian Tale|publisher=[[Comics Bulletin]]|date=1 July 2010|accessdate=22 March 2011|archiveurl=https://web.archive.org/web/20100910010841/http://www.comicsbulletin.com/features/127802307919546.htm|archivedate=10 September 2010}}</ref>。2010年に米国の{{仮リンク|アヴァター・プレス|en|Avatar Press}}から刊行された。2003年にバロウズによってコミック化されたムーアの小説作品「{{仮リンク|中庭 (小説)|en|Alan Moore's The Courtyard|label=中庭}}」の続編であり、同じく[[ハワード・フィリップス・ラヴクラフト|H・P・ラクラフト]]の[[クトゥルフ神話]]を題材にしている。この連作はさらに全12号の[[前日譚]]『{{仮リンク|プロヴィデンス (漫画)|en|Providence (Avatar Press)|label=プロヴィデンス}}』が書かれた。2021年10月続いている[[国書刊行会]]から日本語版の刊行が開始された<ref name=kokusyo>{{Cite web|url=https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336072689/|title=ネオノミコン|accessdate=2021-10-03|publisher=国書刊行会}}</ref>
 
ラヴクラフト作品であからさまに描かれない人種や性のテーマを正面から扱った作品だが、それらをコミックというメディアで具体的に描写したことで社会的な批判も受けている。2012年に[[ブラム・ストーカー賞]]を[[グラフィックノベル]]部門で受賞した。
2012年3月、[[ブラム・ストーカー賞]]に新設された[[グラフィックノベル]]部門の初受賞作品となった<ref>{{Cite web|first=Keith|author=Davidsen|url=http://www.avatarpress.com/2012/04/alan-moore-accepts-first-ever-gn-bram-stoker-award-for-neonomicon/|title=Alan Moore Accepts First-Ever GN Bram Stoker Award for Neonomicon|publisher=[[Avatar Press]]|date=1 April 2012|accessdate=29 April 2012}}</ref>。2021年10月に[[国書刊行会]]から日本語版が四部作の第一部として刊行される予定<ref name=kokusyo>{{Cite web|url=https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336072689/|title=ネオノミコン|accessdate=2021-10-03|publisher=国書刊行会}}</ref>。
 
== あらすじ ==
{{Hidden begin|titlestyle = background:lightgray;|title= あらすじを表示}}
[[連邦捜査局|FBI]]捜査官メリル・ブリアーズとゴードン・ランパーは、捜査中の事件について助言を求めるため、精神病院に収容されている元FBIの殺人者アルドー・サックスを訪ね、捜査中の事件について助言を求める。サックスはかつてFBIに所属していまっが、殺人と死体損壊を犯して多の模倣犯意味生むに至ってなさなた。ブリアーズらは解読不能の奇妙な言語で回答か話そうとしない、訪問は無為に終わる。サックスが最後困惑内偵捜査に当たっていた連続殺人事件を調査するうち、ジョニー・カルコサという人物が浮かび上がってくる。その身柄確保は不可解な成り行きで失敗する<ref>Vol. 1</ref>
 
サックスが最後に内偵捜査に当たっていた連続殺人事件を調査するうち、ジョニー・カルコサという人物が浮かび上がってくる。二人はカルコサの身柄確保に失敗するが、彼が残した奇怪な[[張形|ディルド]]を手掛かりに、ブリアーズらは[[マサチューセッツ州]][[セイラム (マサチューセッツ州)|セイラム]]に向かう。一般人を装ってセックスショップに赴いた二人は店主によってオカルト信者の親睦会に誘われる。それは地下の汽水プールで行われる[[乱交]]パーティーだった。ランパーは不意を突かれて殺され、ブリアーズは[[輪姦]]される。川とつながった水路から一体の巨大な[[深きものども|魚人]]が招き入れられ、列席者と交わり始める<ref>Vol. 2</ref>
 
ブリアーズは魚人とともに幽閉され、繰り返し[[強姦|犯され]]続けることになる。薬物で昏睡したブリアーズの夢にカルコサが現れ、[[ナイアーラトテップ]]の化身を名乗り、聞き取りにくい言葉で祝福を告げると「ここが[[ルルイエ]]だ」という。目覚めたブリアーズは魚人と会話を試み、その助けによって地下から解放され、[[SWAT]]隊を手配してカルト集団の拠点を一掃す<ref>Vol. 3</ref>
一般人を装ってセックスショップに赴いた二人は店主によってオカルト信者の親睦会に誘われる。それは地下の汽水プールで行われる[[乱交]]パーティーだった。ランパーは不意を突かれて殺され、ブリアーズは[[輪姦]]される。川とつながった水路から一体の巨大な[[深きものども|魚人]]が招き入れられ、列席者と交わり始める。ブリアーズは魚人とともに幽閉され、繰り返し[[強姦|犯され]]続けることになる。
 
[[SWAT]]隊の突入によりカルトの拠点は一掃される。数カ月が経ち、ブリアーズはサックスと語り合うため再び精神病院を訪れる。二人は今や{{仮リンク|アクロ (架空の言語)|en|Aklo|label=同じ言語}}を話し、同じ感覚を共有している。世界の感覚高次空間への投影と変容て感じられ、過去・現在・未来の区別は意味を失った。ラヴクラフトの著作は単なる創作ではなく、実際の見聞でもなく、未来にこれから起きことの記録に過ぎなかった。ブリアーズは自らの体内に宿った[[クトゥルフ]]が眠りを終え夢から覚め、人間の世界に終末をもたらすのを待ち望んでいる<ref>Vol. 4</ref>{{Hidden end}}
薬物で昏睡したブリアーズの夢にカルコサが現れ、[[ナイアーラトテップ]]の化身を名乗り、聞き取りにくい言葉で祝福を告げると「ここが[[ルルイエ]]だ」という。目覚めたブリアーズは魚人の助けによって地下から解放され、[[SWAT]]隊を手配してカルト集団の拠点を一掃する。
 
数カ月が経ち、ブリアーズはサックスと語り合うため再び精神病院を訪れる。二人は今や{{仮リンク|アクロ (架空の言語)|en|Aklo|label=同じ言語}}を話し、同じ感覚を共有している。世界は高次空間への投影として感じられ、過去・現在・未来の区別は意味を失った。ラヴクラフトの著作は単なる創作ではなく、実際の見聞でもなく、未来に起きたことの記録に過ぎなかった。ブリアーズは自らの体内に宿った[[クトゥルフ]]が眠りを終え、人間の世界に終末をもたらすのを待ち望んでいる。
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== 登場人物 ==
;メリル・ブリアーズ
:白人女性のFBI捜査官。[[性依存症|性依存]]、[[アルコール依存症|アルコール依存]]、[[自尊心]]低下の問題を抱えてしばらく休職していた<ref name=tcj/>。ラヴクラフトの著作に詳しく、メタフィクショナルな解説役も果たす<ref name=mvc>{{cite web|url=http://www.multiversitycomics.com/reviews/review-alan-moores-neonomicon-4/|accessdate=2021-10-11|title=Review: Alan Moore’s Neonomicon #4|publisher=Multiversity Comics|date=2011-03-29}}</ref>
 
;ゴードン・ラン
:黒人男性のFBI捜査官。既婚者で<ref>Vol.2, p.7, pnl.1</ref>、ブリアーズとは息の合ったパートナーである。
 
;アルドー・サックス
:[[ホモフォビア|同性愛嫌悪]]、[[反ユダヤ主義|ユダヤ嫌悪]]の傾向がある男性<ref name=tcj/>。前編中庭』において」の主人公で本編では殺人者として拘留されている。連続殺人事件の捜査中にジョニー・カルコサと接触したらしい。本編では殺人者として拘留されている
 
;カール・パールマン
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;ジョニー・カルコサ
:常にバンダナのようなもので顔の下半分を隠しており、摩擦音の多い独特の喋り方をする。特殊な薬物を売買しており、サックスが追っていた事件連続儀式殺人の鍵を握ると見られている。
 
== 制作背景 ==
=== 原作 ===
原作者のムーアは本作について「これまで書いた中で一番不愉快な内容<ref name=wired/>」「最も黒く、最も厭世的な作品の一つ<ref name=skinny/>」と語っている。ムーアによると、それには執筆当時の精神状態が影響していた。強く反対していた『[[ウォッチメン]]』の[[ウォッチメン (映画)|ハリウッド映画化]](2009年)を版元[[DCコミックス]]によって強行され、憤懣の余り{{仮リンク|アメリカズ・ベスト・コミックス|en|America's Best Comics}}ラインを打ち切ってDCと(1980年代に続き二度目に)絶縁したところだった<ref name=skinny/>。「巨大エンターテインメント産業コングロマリット」への怒りは、妥協なきホラー要素の追求として本作に現れているという<ref name=skinny/>。
 
DCからの離脱は経済的な苦境をもたらした。「税金の支払い」に迫られたムーアは<ref name=wired/>、[[アメリカン・コミックスにおけるクリエイターの権利|クリエイター・オウンド]]作品の著作権]]を要求しない小出版社アヴァター・プレスからのオファーを受けた<ref name=skinny/>。「4号のシリーズを書くつもりがあるならいくらか出せると言われたんで、そうした」<ref name=wired>{{Cite web|first=Scott|author=Thill|url=https://www.wired.com/underwire/2010/08/alan-moore/all/1|title=Alan Moore Gets Psychogeographical With Unearthing|publisher=[[Wired (magazine)|Wired]]|date=9 August 2010|accessdate=24 March 2011}}</ref>。アヴァターは題材に制約を課さなかったが、ムーアはさらに踏み込んで「[[勃起]]や[[性的挿入|挿入]]」を描いても構わないという言質を取った<ref name=skinny/>。
 
ムーアが持っていた構想は、過去に短編小説「中庭」で扱った[[クトゥルフ神話]]テーマの再訪だった<ref name=wired/>。1994年に編まれたアンソロジー ''The Starry Wisdom: A Tribute to H. P. Lovecraft'' で発表された「中庭」は、2003年に{{仮リンク|アントニー・ジョンストン|en|Antony Jounston}}(翻案)とジェイスン・バロウズ(作画)によるコミック版がアヴァターから刊行され<ref name=tcj>{{cite web|url=https://www.tcj.com/providence-lovecraft-sexual-violence-and-the-body-of-the-other/|accessdate=2021-10-08|title=Providence: Lovecraft, Sexual Violence, and the Body of the Other|publisher=The Comics Journal|date=2016-02-03}}</ref>、ムーアもその出来に満足していた<ref name=wired/>。
 
単なるラヴクラフトの[[パスティーシュ|模作]]にとどまらないものを書くためのアイディアは二つあった。一つは作品から1930年代の雰囲気を排除して現代的なリアリズムを持ち込むことである。ムーアは現代的な描写の例としてテレビドラマ『[[THE WIRE/ザ・ワイヤー|The Wire]]』の「信憑性受け入れやすさ、[[自然主義|ナチュラリズム]]」を挙げている。もう一つは、ラヴクラフト自身が抑圧し、模作者たちが避けて通ってきた要素を正面から扱うことだった。「[[人種差別主義]]、[[反ユダヤ主義]]、[[性差別|性差別主義]]、[[性嫌悪]]」である<ref name=skinny/>。ムーアはラヴクラフトの作品集(2014年)に寄せた序文でこう書いている。
 
{{Quote|ラヴクラフトの作品や信を生み出したのは、この世のものならぬ怪奇への恐怖などではなく、現代世界における権力関係や価値観の変遷を何より恐れる白人・中産階級・異性愛者・プロテスタント系男性のそれにほかならない<ref name=tcj/>。}}
 
『[[インスマウスの影]]』などが異種族混交を扱っているのは明らかだが、ラヴクラフト作品で性行為が具体的に描かれることはなく<ref name=greve>{{Quotecite book|title=American Weird: Concept and Medium|author=Julius Greve, Florian Zappe|publisher=Bloomsbury Publishing|year=2020|pages=202-203|url={{Google books|UswAEAAAQBAJ|The American Weird: Concept and Medium|page=202|plainurl=yes}}|accessdate=2021-10-11}}</ref>、「名付けえぬ儀式」「冒涜的な儀式」のような抑圧された表現が用いられる。「そこでこう考えた。人種がらみの不快な要素をぜんぶ取り戻そうしてやる。セックスも取り戻そうしてやる。本物の「名けえぬ儀式」を作り出して、それに名前を付けてやろうる」<ref name=skinny>{{Cite web|first=Bram|author=Gieben|url=http://www.theskinny.co.uk/article/100258-choose-your-reality-alan-moore-unearthed|title=Choose Your Reality: Alan Moore Unearthed|publisher=[[The Skinny (magazine)|The Skinny]]|date=1 September 2010|accessdate=24 March 2011}}</ref>。}}
ムーアにとって、ラヴクラフト作品に見られる「名付けえぬ儀式」「冒涜的な儀式」のような表現が性行為や異種族混交への恐怖を表しているのは明らかだった<ref name=skinny/>。
 
{{Quote|そこでこう考えた。人種がらみの不快な要素をぜんぶ取り戻そう。セックスも取り戻そう。本物の「名づけえぬ儀式」を作り出して、それに名前を付けてやろう<ref name=skinny>{{Cite web|first=Bram|author=Gieben|url=http://www.theskinny.co.uk/article/100258-choose-your-reality-alan-moore-unearthed|title=Choose Your Reality: Alan Moore Unearthed|publisher=[[The Skinny (magazine)|The Skinny]]|date=1 September 2010|accessdate=24 March 2011}}</ref>。}}
 
=== 作画 ===
作画のジェイセン・バロウズは「中庭」に続編があるとは思っていなかったが、アラン・ムーアの作品に再び関われるのは歓迎だった。長大で難解なことで悪名高いムーアの[[スクリプト (アメリカンコミック)|スクリプト]]も苦にならなかった<ref name=tcj2020/>。
 
すっきりした線でディテールを明瞭に描くのをモットーとするバロウズは、クトゥルフ神話特有の「名状しがたい」怪物を描くにあたっても実験的な抽象描写を避けた。質感の異様さを強調したり、何らかの光学的効果を取り入れることで、克明ながらも全容を把握できないようにしたのだった。バロウズはそのような怪物の見せ方の例として、『[[遊星からの物体X]]』(1982年)や、『[[AKIRA (漫画)|AKIRA]]』の鉄雄を例に挙げている。作中で描かれる[[深きものども|深きもの]]のデザインは古典的な[[ギルマン|半魚人]]から出発したが、水泳選手[[マイケル・フェルプス]]の体形をモデルにして大幅にリファインされた<ref name=tcj2020>{{cite web|url=https://www.tcj.com/providence-was-really-exhausting-finishing-it-felt-like-finishing-college-an-interview-with-jacen-burrows/|accessdate=2021-10-08|title="Providence Was Really Exhausting. Finishing It Felt Like Finishing College": An Interview With Jacen Burrows|publisher=The Comics Journal|date=2020-10-06}}</ref>。
 
== 作風とテーマ ==
[[コミック弁護基金]]は本作をムーアの「古典文学の登場人物やテーマを[[ポストモダン]]の物語に流用する」作品の系譜に位置づけている<ref name=BC2012/>。[[クトゥルフ神話]]の要素は豊富に取り入れられているが、原典の忠実な再現ではなく、作中作としてのラヴクラフト作品の引用という形で提示される<ref name=mvc/>。[[メタフィクション]]的な仕掛けによって現実と創作の境を壊すのは『[[リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン]]』など後年のムーア作品に共通する傾向である<ref name=mvc/><ref name=thelist>{{cite web|url=https://www.list.co.uk/article/39452-alan-moore-and-jacen-burrows-neonomicon/|accessdate=2021-10-11|title=Alan Moore & Jacen Burrows - Neonomicon|publisher=The List|date=2012-01-05}}</ref>。「概念や物語が現実を規定する」という作者の思想は<ref name=mvc/>、作中の「[[アクロ (架空の言語)|アクロ]]」にも反映されている<ref name=tcj/>。アクロは[[アーサー・マッケン]]が作り出し、[[ラヴクラフト]]が自作に取り入れた神秘的な古代言語だが<ref >{{cite book|title=Encyclopedia of Fictional and Fantastic Languages|author = Tim Conley, Stephen Cain |publisher=Greenwood Publishing Group|year=2006|page=83|url={{Google books|cQhke8K9G60C| Encyclopedia of Fictional and Fantastic Languages |page=83|plainurl=yes}}|accessdate=2021-10-11}}</ref>、本作では人間の認知と意識を侵食する力を持つとされた<ref name=tcj/>。
 
重厚でおどろおどろしい原典とは裏腹に[[刑事ドラマ]]の乾いたトーンで語られており、ドラマとしての構成も周到である<ref name=mvc/><ref name=scifinow>{{cite web|url=https://www.scifinow.co.uk/reviews/neonomicon-by-alan-moore-and-jacen-burrows-review/|accessdate=2021-10-11|title=Neonomicon by Alan Moore and Jacen Burrows review|publisher=SciFiNow|date=2011-11-30}}</ref>。『{{仮リンク|サイファイナウ|en|SciFiNow}}』誌のレビューは、長年にわたる執筆活動の中でムーアの関心は単純なストーリーテリングから「概念のかさぶたを剥いでまわる」ことに移ってきたが、本作はどちらの要素も十分に備えているとしている<ref name=scifinow/>。
 
ラヴクラフト作品では間接的にしか描かれない人種差別、性差別、性行為へのコンプレックスを正面から取り扱っており<ref name=mvc/>、その描写はムーア自身「やりすぎ」と認めるほど徹底している<ref name=skinny/>。女性に対する性暴力はムーア作品に頻出するが、本作のそれを[[ミソジニー]]と解釈すべきかについてはさまざまに論じられている<ref name=tcj/><ref name=bc3>{{cite web|url=https://bleedingcool.com/comics/recent-updates/neonomicon-3-and-the-anthropormorphic-penis/|accessdate=2021-10-10|title=Neonomicon #3 And The Anthropomorphic Penis|date=2010-12-22|publisher=Bleeding Cool}}</ref>。
 
作画のジェイセン・バロウズのアートも評価が高く、煽情的なホラーコミックというより「映画の[[スチル写真]]」のような明瞭な絵が、現実と狂気が交錯する本作のストーリーと好相性だと評されている<ref name=mvc/>。ウェブメディア{{仮リンク|Ain't It Cool News|en|Ain't It Cool News}}は、ムーアの代表作『[[ウォッチメン]]』の作画家{{仮リンク|デイヴ・ギボンズ|en|Dave Gibbons}}と同じく「派手さはないが、フォルムと空間の描写が緊密でリアリスティック」だとした<ref>{{cite web|url=http://legacy.aintitcool.com/node/46020#4|accessdate=2021-10-11|title=AICN COMICS REVIEWS GREEN LANTERN! SPIDER-MAN! TRUE BLOOD! NEONOMICON & MUCH MORE!!!|date=2010-08-04}}</ref>。『[[SFX (雑誌)|SFX]]』誌もバロウズのディテールへの気配りと構図の妙、さらに「セックスとゴアを正確に容赦なく描く能力」がムーアの作風に合っていると述べている<ref>{{cite web|url=https://www.gamesradar.com/neonomicon-comics-review/|accessdate=2021-10-11|title=Neonomicon COMICS REVIEW|publisher=GamesRadar+|date=2012-02-16}}</ref>。
 
== 社会的評価 ==
=== 評価 ===
2012年3月、[[ブラム・ストーカー賞]]に新設された[[グラフィックノベル]]部門の初受賞作品となった<ref>{{Cite web|first=Keith|author=Davidsen|url=http://www.avatarpress.com/2012/04/alan-moore-accepts-first-ever-gn-bram-stoker-award-for-neonomicon/|title=Alan Moore Accepts First-Ever GN Bram Stoker Award for Neonomicon|publisher=[[Avatar Press]]|date=1 April 2012|accessdate=29 April 2012}}</ref>。2011年に出た単行本はペーパーバック版、ハードカバー版の両者が『[[ニューヨーク・タイムズ]]』紙ベストセラーリストに載っている<ref>{{cite web|url=https://artsbeat.blogs.nytimes.com/2011/11/18/graphic-books-best-sellers-twin-sightings/|accessdate=2021-10-10|title=Graphic Books Best Sellers: Twin Sightings|publisher=The New York Times|date=2011-11-18}}</ref>。同紙は2020年に「斬新な視点や雰囲気」を持つラヴクラフトの翻案作品として本作を挙げ、「殺人、陰謀、悪質な麻薬、もっと悪質な[[性魔術]] … のごった煮」と紹介した<ref>{{cite web|url=https://www.nytimes.com/2020/08/07/arts/television/hp-lovecraft.html|accessdate=2021-10-10|title=Gods, Monsters and H.P. Lovecraft’s Uncanny Legacy|publisher=The New York Times|date=2020-08-07 }}</ref>。ウェブメディア[[コミック・ブック・リソーシズ|CBR]]はラヴクラフト愛好者向きのコミックを紹介する記事で本作に触れ、ムーアを「ラヴクラフトに始まる濃密な神話を完全に我が物としてさらに進歩させたトップクリエイターの一人」と呼んだ<ref>{{cite web|url=https://www.cbr.com/hp-lovecraft-cosmic-horror-comic-recommendations/|accessdate=2021-10-10|title=10 Comics To Read If You Love H.P. Lovecraft (& Cosmic Horror)|publisher=CBR|date=2020-04-02}}</ref>。
[[コミック弁護基金]]は本作が「古典文学の登場人物やテーマを[[ポストモダン]]の物語に流用する」というムーアの作風に沿った作品だと述べている<ref name=BC2012/>。
 
=== 批判 ===
2012年、米国[[サウスカロライナ州]]のある図書館で本書の利用が禁じられる事件があった。14歳の少女が成人用の書架から本書を借り出そうと、内容を問題視たのが発端である。一見して子供向けのコミック本だと判断した母親は借り出し許可を与えた、後に内容を知って図書館に正式に抗議したのが発端である<ref>{{cite web|url=http://cbldf.org/banned-challenged-comics/case-study-neonomicon/|accessdate=2021-10-10|title=Case Study: Neonomicon|publisher=Comic Book Legal Defense Fund}}</ref>。図書館書架から本書を除去し、作品そのものの価値と「不快な内容 (disturbing content)」を勘案して所蔵に値しないと判断したと述べた<ref name=guardian>{{cite web|url=https://www.theguardian.com/books/2012/dec/06/alan-moore-neonomicon-censored-library|accessdate=2021-10-07|title=Alan Moore's Neonomicon censored by US library |publisher=The Guardian|date=2012-12-06}}</ref>。問題の図書館で「人種差別、レイプ、殺人、性行為」を扱った書籍が一切利用できないわけではないが、本書は特に絵画的な表現が問題だとされた<ref name=BC2013>{{cite web|url=https://bleedingcool.com/comics/recent-updates/librarian-reverses-boards-decision-to-put-neonomicon-back-on-the-shelves/|accessdate=2021-10-07|title=Librarian Reverses Board's Decision To Put Neonomicon Back On The Shelves|date=2013-01-08|publisher=Bleeding Cool}}</ref>。これを受けて、[[コミック弁護基金]]、{{仮リンク|全米反検閲連合|en|National Coalition Against Censorship}}、{{仮リンク|自由な表現を支持するアメリカ小売書店協会|en|American Booksellers for Free Expression}}は連名で図書館に書簡を送って本書を擁護した。
{{Quote|『ネオノミコン』は … 人種、犯罪、性欲という複雑な問題を掘り下げた。… 絵で表現するグラフィックノベル・メディアの性質を利用してラヴクラフトの原作が扱っていた主題を徹底的に追求し、ラヴクラフトばかりかホラージャンル自体への批評となさを生み出ている。不快感を覚えるように意図された暴力的な性描写は、ジャンル全体でそのような主題がどう扱われているかを批判的に論じたものである。… 批評家からの絶賛が証明しているように、本書の芸術的価値は性的要素に支えられているのであって、性的要素によって損なわれているのではない<ref name=BC2012/>。}}
また同時に、成人読者からも本書の利用機会を奪うのは[[アメリカ合衆国憲法修正第1条|憲法]]で禁じられた検閲に当たると主張した<ref name=BC2012>{{cite web|url=https://bleedingcool.com/comics/the-cbldf-go-to-bat-for-neonomicon/|accessdate=2021-10-07|title=The CBLDF Goes To Bat For Neonomicon|publisher=Bleeding Cool|date=2012-06-18}}</ref>。
 
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* [https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336072689/ ネオノミコン] ― 国書刊行会公式
 
<nowiki>
{{DEFAULTSORT:ねおのみこん}}
[[Category:ニューヨーク市を舞台とした漫画作品]]
[[Category:アラン・ムーア]]
[[Category:アメリカンコミック]]
[[Category:クトゥルフ神話を題材とした作品]]</nowiki>