「光合成」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
リンクの追加
2MeHop (会話 | 投稿記録)
構成を全体的に修正。
11行目:
「光合成」という名称を初めて使ったのは、アメリカ合衆国の植物学者の[[チャールズ・バーネス]](1893年)である<ref name="Newton_200804">『Newton 2008年4月号』 水谷仁 ニュートンプレス 2008.4.7</ref>。日本語でかつては'''炭酸同化作用'''(たんさんどうかさよう)とも言ったが<ref>{{Citation|ref=none|title=最新農薬生物検定法|author=細辻豊二|publisher=全国農村教育協会|year=1986|isbn=9784881370247|page=29}}</ref>、現在はあまり使われない。
 
== 光合成の発見分類 ==
(広義の)光合成は[[真核生物]]、[[細菌]]、[[古細菌]]すべてに分布している(狭義では真核生物および細菌に限定される)。クロロフィルを用いる光合成生物のうち、光合成真核生物以外は[[光合成細菌]]と総称される。クロロフィル型光合成における[[光化学反応]]には2つの機構(Photosystem; PS)が知られており、それぞれ[[光化学系I|'''光化学系I''']](PS I)および[[光化学系II|'''光化学系II''']](PS II)と呼ばれる。酸素発生型光合成ではPS IとPS IIが連結して用いられるのに対し、酸素非発生型光合成ではどちらか一方しか使用されない。
[[File:Jan Baptist van Helmont.jpg|150px|thumb|right|[[ヤン・ファン・ヘルモント]]]]
'''クロロフィル型''' - 真核生物、細菌
[[File:Priestley.jpg|150px|thumb|right|[[ジョセフ・プリーストリー]]]]
*'''酸素発生型''' - 真核生物および細菌(すべて好気性)
[[File:Julius Sachs.jpg|150px|thumb|right|[[ユリウス・フォン・ザックス]]]]
**光合成真核生物([[植物]]、[[植物プランクトン]]、[[藻類]])PS I & PS II
** [[藍藻|シアノバクテリア]] PS I & PS II
* '''酸素非発生型''' - 細菌(嫌気性および好気性)<ref>{{Cite journal|last=Bryant|first=D. A.|last2=Costas|first2=A. M. G.|last3=Maresca|first3=J. A.|last4=Chew|first4=A. G. M.|last5=Klatt|first5=C. G.|last6=Bateson|first6=M. M.|last7=Tallon|first7=L. J.|last8=Hostetler|first8=J.|last9=Nelson|first9=W. C.|date=2007-07-27|title=Candidatus Chloracidobacterium thermophilum: An Aerobic Phototrophic Acidobacterium|url=https://www.sciencemag.org/lookup/doi/10.1126/science.1143236|journal=Science|volume=317|issue=5837|pages=523–526|language=en|doi=10.1126/science.1143236|issn=0036-8075}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Zeng|first=Y.|last2=Feng|first2=F.|last3=Medova|first3=H.|last4=Dean|first4=J.|last5=Kobli ek|first5=M.|date=2014-05-27|title=Functional type 2 photosynthetic reaction centers found in the rare bacterial phylum Gemmatimonadetes|url=http://www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1400295111|journal=Proceedings of the National Academy of Sciences|volume=111|issue=21|pages=7795–7800|language=en|doi=10.1073/pnas.1400295111|issn=0027-8424|pmid=24821787|pmc=PMC4040607}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Ward|first=Lewis M.|last2=Cardona|first2=Tanai|last3=Holland-Moritz|first3=Hannah|date=2019|title=Evolutionary Implications of Anoxygenic Phototrophy in the Bacterial Phylum Candidatus Eremiobacterota (WPS-2)|url=https://www.frontiersin.org/article/10.3389/fmicb.2019.01658|journal=Frontiers in Microbiology|volume=10|pages=1658|doi=10.3389/fmicb.2019.01658|issn=1664-302X|pmid=31396180|pmc=PMC6664022}}</ref>
**[[緑色硫黄細菌]]([[クロロビウム門|クロロビウム]])PS I / 嫌気性
**[[緑色非硫黄細菌]]([[クロロフレクサス門|クロロフレクサス]]の一部)PS II / 嫌気性
** [[紅色硫黄細菌]]([[ガンマプロテオバクテリア綱|ガンマプロテオバクテリア]]の一部)PS II / 嫌気性
** [[紅色非硫黄細菌]]([[アルファプロテオバクテリア綱|アルファプロテオバクテリア]]の一部)PS II / 嫌気性
** <sup>✳︎</sup>[[ヘリオバクテリア]] PS I / 嫌気性
**<sup>✳︎</sup>[[アキドバクテリウム門|アシドバクテリア]] PS I / 好気性
**<sup>✳︎</sup>[[ゲンマティモナス門|ゲンマティモナス]] PS II / 好気性
**<sup>✳︎</sup>エレミオバクテロータ PS II / 好気性
<sup>✳︎</sup>'''レティナル型''' - 古細菌、細菌、真核生物(すべて好気性)<ref>{{Cite journal|last=Waschuk|first=Stephen A.|last2=Bezerra|first2=Arandi G.|last3=Shi|first3=Lichi|last4=Brown|first4=Leonid S.|date=2005-05-10|title=Leptosphaeria rhodopsin: Bacteriorhodopsin-like proton pump from a eukaryote|url=https://www.pnas.org/content/102/19/6879|journal=Proceedings of the National Academy of Sciences|volume=102|issue=19|pages=6879–6883|language=en|doi=10.1073/pnas.0409659102|issn=0027-8424|pmid=15860584|pmc=PMC1100770}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Rinke|first=Christian|last2=Rubino|first2=Francesco|last3=Messer|first3=Lauren F.|last4=Youssef|first4=Noha|last5=Parks|first5=Donovan H.|last6=Chuvochina|first6=Maria|last7=Brown|first7=Mark|last8=Jeffries|first8=Thomas|last9=Tyson|first9=Gene W.|date=2019-03|title=A phylogenomic and ecological analysis of the globally abundant Marine Group II archaea (Ca. Poseidoniales ord. nov.)|url=http://www.nature.com/articles/s41396-018-0282-y|journal=The ISME Journal|volume=13|issue=3|pages=663–675|language=en|doi=10.1038/s41396-018-0282-y|issn=1751-7362|pmid=30323263|pmc=PMC6461757}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Mukohata|first=Yasuo|last2=Sugiyama|first2=Yasuo|last3=Ihara|first3=Kunio|last4=Yoshida|first4=Manabu|date=1988-03|title=An Australian halobacterium contains a novel proton pump retinal protein: Archaerhodopsin|url=https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0006291X88805096|journal=Biochemical and Biophysical Research Communications|volume=151|issue=3|pages=1339–1345|language=en|doi=10.1016/S0006-291X(88)80509-6}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Giovannoni|first=Stephen J.|last2=Bibbs|first2=Lisa|last3=Cho|first3=Jang-Cheon|last4=Stapels|first4=Martha D.|last5=Desiderio|first5=Russell|last6=Vergin|first6=Kevin L.|last7=Rappé|first7=Michael S.|last8=Laney|first8=Samuel|last9=Wilhelm|first9=Lawrence J.|date=2005-11|title=Proteorhodopsin in the ubiquitous marine bacterium SAR11|url=http://www.nature.com/articles/nature04032|journal=Nature|volume=438|issue=7064|pages=82–85|language=en|doi=10.1038/nature04032|issn=0028-0836}}</ref>
* [[高度好塩菌]](古細菌)
* Marine group II(Poseidoniales; 古細菌)
* [[ペラジバクター目|ペラジバクター]]([[アルファプロテオバクテリア綱|アルファプロテオバクテリア]]網)
*一部の菌類
*ほか多数
''('''✳︎'''マークは炭素固定を伴わない光従属栄養性であることを示す)''
 
酸素発生型光合成は全ての生物にわたって反応中心、[[電子伝達系]]などの類似性が高い。唯一、集光色素のみがかなり異なっており、[[クロロフィル]]ではクロロフィルaのみ、アンテナ色素である[[カロテノイド]]では[[β-カロテン]]のみが共通している。酸素非発生型の光合成細菌はクロロフィルの代わりに、構造的に類似した[[バクテリオクロロフィル]]を用いる。酸素非発生型の光合成細菌は多くが嫌気性であるため、今日の地球においては限られた生態系でのみ見られる。すべての酸素発生型の光合成生物は[[カルビン回路|還元的ペントース・リン酸回路]]により炭素を固定する。一方、酸素非発生型の光合成生物は、[[カルビン回路|還元的ペントース・リン酸回路]]の他に[[逆クエン酸回路|還元的クエン酸回路]](緑色硫黄細菌)および3-ヒドロキシプロピオン酸二重サイクル(一部の緑色非硫黄細菌)を用いる(詳細は[[炭素固定]]の記事を参照)。
[[1648年]]にフランドルの医師であった[[ヤン・ファン・ヘルモント]]は、鉢植えの[[ヤナギ]]に、水だけを与えて成長させる実験を行った<ref>{{Citation | ref = none | title = 中学校の「理科」を徹底攻略 | author = 小森栄治 | editor = 向山洋一 | publisher = PHP研究所 | year = 2006 | isbn = 9784569655666 | page = 101}}</ref>。生育前と後で、鉢植えの土の重量がほとんど変わらなかったため、彼は「木の重量増加は水に由来する」と考えた。
[[質量保存の法則]]が確立する1世紀も前のことであった。
 
レティナル型光合成は、クロロフィルを用いる光合成とは全く異なる機構で動いており、別個に誕生し進化したと考えられている。レティナルを含有する[[ロドプシン]]は光合成以外にも、[[イオンポンプ|イオン・ポンプ]]や[[光受容体]]など複数の機能を有しており、その元来の機能は光合成ではなかった可能性がある。ロドプシンのアミノ酸配列の相同性から、複数のカテゴリーが存在する<ref name=":0" />。このうち、[[プロトンポンプ|プロトン・ポンプ]]として機能するものは、古細菌、細菌、真核生物すべてのドメインに分布している。
[[1771年]]にイギリスの化学者および聖職者であった[[ジョセフ・プリーストリー]]は「植物はきれいな空気を出して空気を浄化している」と考えた。彼は、密閉したガラス瓶の中でロウソクを燃やして「汚れた空気」を作り、そこに[[ペパーミント|ハッカ]]と[[ネズミ]]を入れた物と、ネズミだけを入れた物を用意した。するとハッカを入れた方のネズミは生き続けたのに対し、入れない方のネズミは数秒で気絶し、その後死亡した。この実験結果を元に、彼は「呼吸で汚れた空気を浄化する何かが有る」と考えた。そして彼は、1774年に酸素を発見し<ref name="Newton_200804">『Newton 2008年4月号』 水谷仁 ニュートンプレス 2008.4.7</ref>、「脱フロギストン空気」と名付けた<ref name="VOET_r3" />。しかし、酸素の燃焼と呼吸での役割を解明したのは[[アントワーヌ・ラヴォアジエ]]である。さらに、ラヴォアジエは酸素(oxygen)と二酸化炭素(carbon dioxide)の名付け親でもある。
 
各光合成の収支式は以下の通りである。なお、電子供与体および電子受容体を'''太字'''で示す。
[[1779年]]、ジョセフ・プリーストリーの発見に影響を受けたオランダの医師[[ヤン・インゲンホウス]]は、水草による実験を行った。当時、水草から発生する気体は「ふつうの空気」であると考えられていた。しかし、彼はこの気体を集めて、そこに予め着火した可燃物を入れてみたところ、炎の勢いが増す事を発見した。次に、日光の当たる場所と暗闇に置いた場合の水草を比べてみたところ、前者からは気体が発生したのに対し、後者からは気体が発生しなかった。このような実験の結果から、彼は「植物の空気浄化能は葉の緑色部分であり、光の影響を受ける」ことを発見した。また彼は、火を燃やすことができる「きれいな空気」と植物を入れた容器を暗闇に置くと、その容器内の空気が燃焼が起きない「汚れた空気」に変わることも発見した。今で言う「[[呼吸]]」が起こっていたのである。
* 一般式
*: <chem>CO2 + 2 H2D</chem>(電子供与体)<chem> -> (CH2O)_n </chem>([[炭水化物]])<chem> + H2O + 2D </chem>(酸化を受けた電子供与体)
** 酸素発生型光合成
**: <chem>6CO2 + 12H2O -> C6H12O6 + 6H2O + 6O2</chem>
** 緑色硫黄細菌
**: <chem>6CO2 + 12H2S -> C6H12O6 + 6H2O + 12S</chem>
** 紅色非硫黄細菌
**: <chem>6CO2 + 12CH3CHOHCH3</chem> ([[イソプロパノール]])<chem> -> C6H12O6 + 6H2O + 6CH3COCH3</chem>([[アセトン]])
 
== 酸素発生型光合成 ==
[[1782年]]にスイスの司祭[[ジャン・セネビエ]]は、当時「固定空気」(common air)と呼ばれていた二酸化炭素が、光合成で取り込まれることを示し<ref name="VOET_r3" />、二酸化炭素は根から取り込むと考えた<ref name="Newton_200804" />。しかし、[[1804年]]に同じくスイスの[[ニコラス・テオドール・ド・ソシュール]]は、ジャン・セネビエの二酸化炭素は土から取り込まれるという考えに疑問を持ち、ソラマメを土ではなく小石の上で育てる実験を行った。するとソラマメは普通に育ったため、植物は空気から二酸化炭素を得ていると判明した。また、植物の枝(使われたのは''Lonicera caprifolium、Prunus domestica、Ligustrum vulgare、Amygdalus persica'' の4種)を、二酸化炭素を吸収する[[石灰水]]と同封して育てたところ、葉が全て落ちてしまったことから、植物は二酸化炭素が無いと生きていけないことを発見した。さらに、有機物と酸素の総重量は、植物が取り込んだ二酸化炭素の重量よりも多いことも発見した。光合成には水が必要であるとし、以下の式を導いた。なお、当時はまだ化学式が使われていなかったため、言葉で式が書かれた。
最も研究の進んでいる酸素発生型光合成は[[緑色植物亜界|緑色植物]]の光合成経路である。緑色植物の光合成経路は他の酸素発生型光合成生物のものと共通であると考えられている。酸素発生型光合成経路の最大の特徴は「水分子を[[電子伝達体|電子供与体]]として用いることができる」という点である。水は、[[酸化還元電位]]の高い[[酸素原子]]と、それの低い[[水素原子]]の結合した安定な物質である。この水の光分解によって、酸素分子が副産物として生成する。酸素非発生型の光合成では水を電子供与体として用いることがないため、酸素も発生しない。光合成は、'''光化学反応'''と'''炭素固定回路'''の2つの段階に大別される。炭素固定自体は光を必要としないため、光化学反応を'''明反応'''(Light-dependent reactions)、炭素固定を'''暗反応'''(Light-independent reactions)と呼んで区別する場合がある。
 
: 二酸化炭素 + 水 → 植物の成長 + 酸素
 
[[1842年]]には、ドイツの物理学者[[ユリウス・ロベルト・フォン・マイヤー]]によって、光合成は「光エネルギーを化学エネルギーに変換している」と明らかにされた。
 
[[1862年]]にドイツの植物生理学者[[ユリウス・フォン・ザックス]]は、葉緑体を顕微鏡で見た際に現れる白い粒は、取り込まれた二酸化炭素と何らかの関係を有するのではないかと考えた。彼は当時既に知られていた[[ヨウ素デンプン反応]]を参考に、日光に充分当てた葉にヨウ素液を付着させた。すると葉は紫色に変色した。この結果から彼は「植物は日光が当たると二酸化炭素を取り込んで葉緑体の中でデンプンを作り、それを使って生きている」ことを発見したのであった。
 
=== 葉緑体(クロロプラスト) ===
[[File:Chloroplast.svg|300px|thumb|right|葉緑体の構造<br />1, 外膜<br />2, 膜間部<br />3, 内膜<br />4, ストロマ<br />5, チラコイドルーメン<br />6, チラコイド膜<br />7, グラナ<br />8, チラコイドラメラ<br />9, デンプン<br />10, リボソーム<br />11, DNA<br />12, プラスト顆粒(脂質の玉)]]
[[File:Plagiomnium affine laminazellen.jpeg|200px|thumb|right|[[植物細胞]]中の葉緑体。]]
{{main|葉緑体}}
 
緑色植物において、光合成っていわれるのは、[[葉緑体]]の中の[[細胞小器官]]の一つである葉緑体である。葉緑体は[[細胞]]内に1個から1000個ほど存在し、大きさも形も様々だが、平均的な形状は、長さ約5&nbsp;μmの[[回転楕円体]]状である。葉緑体は、全透性の外膜と半透性の内膜の2枚の膜で囲まれている。内膜の内部のことをストロマと呼ぶ。ストロマには[[酵素]]、[[デオキシリボ核酸|DNA]]、[[リボソーム]]、そして膜で囲まれた[[チラコイド]]がある。チラコイド膜の内部はチラコイドルーメンと呼ぶ。チラコイドは積み重なって[[グラナ]]を構成し、グラナ同士は所々で'''チラコイドラメラ'''(または'''ストロマチラコイド''')で繋がっている。葉緑体の中のグラナの数は、10箇所から100箇所程度である。チラコイド膜は、葉緑体の内膜が陥入して作られる<ref name="VOET_r3" />。
 
チラコイド膜の組成は特殊で、[[リン脂質]]は1割しかない。チラコイド膜で最多の構成成分は、全体の8割を占める[[糖脂質]]([[ガラクトシルジアシルグリセロール]]と[[ジガラクトシルジアシルグリセロール]])である。そして残りの1割は、[[スルホリピド]](6-スルホキノボシルジアシルグリセロール)と[[キノボース]](6-デオキシグルコース)である。チラコイド膜の脂質は高度に不飽和であるため、流動性が大きい<ref name="VOET_r3" />。葉緑体は光の強弱に反応して細胞内を移動でき、強光下では光を避け、弱光下では光を捕集するように配置を変える。光の強さを検知しているのは、青色光受容体([[フォトトロピン]])である。なお、葉緑体の運動には、[[アクチン]]と言うタンパク質が関与する。
 
光合成チラコイド膜では、光化学反応とカ[[クロロフィビン回路の2つの段階に大別される。]](化学反応は、合成色素)が光エネルギーを利用使って水を分解、[[NADPH]]水素#水素イオン[[ATP]]を合成する過程である。カルビン回路は、還元的ペ水素化物イオ|プロースリ]](H<sup>+</sup>)と回路とも呼ばれ、NADPHとATPを使って、CO素分子(O<sub>2</sub>を固定・還元し)と炭素数3つの化合物である、グリセルアルデヒド3そして[[電子]](e<sup>-リン酸</sup>)合成する過程である。光化学反応が行われる場所は、チラコイド膜である<ref name="lack2002pp156to162">{{Citation | ref = none | title = 植物化学キーノート | first = A. J. | last = Lack | editors = 岩渕正樹 訳; 坂本 亘 訳 | publisher = シュプリンガー・ジャパン | year = 2002 | isbn = 9784431709787 | pages = 156-162}}</ref>。カルビン回路はストロマこの際に行われるきた電子によって[[ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸|NADP<SUP>+<ref name="lack2002pp156to162" /SUP>]](酸化型)から、NADPH(還元型)が作られるカルビン回路さらに、チラコイド膜内外産物とプロトン濃度勾配を利用して得られたグリセル、[[ATP合成酵素]]によって[[ヒド3-ノシン三リン酸は、]] (ATP) が作られる。以上が[[光化学反応]](明反応)である。次にチラコイド膜の外側にあるストロマ(葉緑体基質)、光化学反応で作られたNADPHとATPを使って二酸化炭素を固定・還元して[[スクロース]]に変換さが作ら蓄積する。この一連の反応は酵素反応(暗反応)である。このように光エネルギーを使って水を[[酸化]]し、二酸化炭素を[[還元]]して、スクロースを生成する反応が、葉緑体の中で完結する。なお、こうして生成したスクロースは、[[デンプン]]の形にして貯蔵する植物が多いものの、例えば、サトウキビなどのようにスクロースのまま貯蔵する植物や、スクロースを分解してグルコースやフルクトースの形で貯蔵する場合もある。
 
葉緑体を持たない光合成細菌の場合、細胞膜か細胞膜が陥入してできたクロマトフォアで光化学反応が行われる<ref>{{Citation|ref=none|title=生化学キーノート|last=Hames|first=B. David|last2=Hooper|first2=N. M.|editors=田之倉 優 訳; 村松知成 訳; 阿久津秀雄 訳|publisher=シュプリンガー・ジャパン|isbn=9784431709190|page=391}}</ref>。シアノバクテリア以外の光合成細菌は光化学系を1つしか持っておらず、電子は光化学系内を循環する(循環的光リン酸化)か、非循環的に酸素やNAD<sup>+</sup>に電子伝達される(非循環的光リン酸化)。
なお、こうして生成したスクロースは、[[デンプン]]の形にして貯蔵する植物が多いものの、例えば、サトウキビなどのようにスクロースのまま貯蔵する植物や、スクロースを分解してグルコースやフルクトースの形で貯蔵する場合もある。
 
=== 光化学反応(明反応) ===
これに対して葉緑体を持たない光合成原核生物では、細胞膜か細胞膜が何層も陥入してできたクロマトホアで光化学反応が行われる<ref>{{Citation | ref = none | title = 生化学キーノート | last = Hames | first = B. David | last2 = Hooper | first2 = N. M. | editors = 田之倉 優 訳; 村松知成 訳; 阿久津秀雄 訳 | publisher = シュプリンガー・ジャパン | isbn = 9784431709190 | page = 391}}</ref>。
 
== 酸素発生型光合成 ==
最も研究の進んでいる酸素発生型光合成は緑色植物の光合成経路である。緑色植物の光合成経路は基本的に全ての酸素発生型光合成に応用可能であり、上記に挙げられる生物群全てに、以下の経路を当てはめても良い。酸素発生型光合成経路の最大の特徴は「水分子を電子供与体として用いることができる」という点である。水は、[[酸化還元電位]]の高い[[酸素原子]]と、それの低い[[水素原子]]の結合した安定な物質である。この「水の光分解」を開発したことが、現在の酸素呼吸型生物を産み出したとも言える。
 
チラコイド膜では、[[クロロフィル]](光合成色素)が光エネルギーを使って水を分解し、[[水素#水素イオンと水素化物イオン|プロトン]](H<sup>+</sup>)と酸素分子(O<sub>2</sub>)と、そして[[電子]](e<sup>-</sup>)を作る。この際にできた電子によって[[ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸|NADP<SUP>+</SUP>]](酸化型)から、NADPH(還元型)が作られる。さらに、チラコイド膜内外のプロトン濃度勾配を利用して、[[ATP合成酵素]]によって[[アデノシン三リン酸]] (ATP) が作られる。以上が[[光化学反応]](明反応、Light-dependent reactions)である。
 
次にチラコイド膜の外側にあるストロマ(葉緑体基質)で、光化学反応で作られたNADPHとATPを使って二酸化炭素を固定・還元して[[糖]]が作られる。この一連の反応は酵素反応(暗反応、Light-independent reactions)である。
 
=== 光化学反応 ===
[[File:Thylakoid membrane(ja).png|300px|thumb|right|チラコイド膜での光化学反応の概略図]]
{{main|光化学反応}}
 
光化学反応とは光エネルギーを化学エネルギーに変換する系である。光を必要とするため明反応とも呼ばれる。狭義には光エネルギーが関与する[[光化学系II]](PSII)および[[光化学系I]](PSI)の反応を指すが、広義には光化学反応に関わる[[電子伝達系]]の全体の反応を指す。光化学反応は、光化学系II(PSII)、[[シトクロムb6/f複合体|シトクロム''b''<sub>6</sub>''f'']]、光化学系I(PSI)の3種のタンパク質複合体で構成され、これらは全てチラコイド膜に存在する。PSIIとシトクロム''b''<sub>6</sub>''f'' の間は[[プラストキノン]](PQ)、シトクロム''b''<sub>6</sub>''f'' とPSIとの間は[[プラストシアニン]](PC)で結ばれている。PSIIに光(hν)が当たることによってH<sub>2</sub>OからNADP<sup>+</sup>に電子が流れ(青矢印)、プロトンがチラコイドルーメンに取り込まれる(赤矢印)。また、[[酸素発生複合体]](OEC)によって水が分解されて酸素が発生する際にも、プロトンがチラコイドルーメンに生成する。チラコイドルーメンとストロマの間にできたプロトンの濃度勾配の浸透圧エネルギーによって、ATP合成酵素がATPを合成する。ATP合成酵素は1秒間に17回転し、ADPと遊離したリン酸から、ATPを合成しているのである
 
光化学反応は、光化学系II(PSII)、[[シトクロムb6/f複合体|シトクロム''b''<sub>6</sub>''f'']]、光化学系I(PSI)の3種のタンパク質複合体で構成され、これらは全てチラコイド膜に存在する。PSIIとシトクロム''b''<sub>6</sub>''f'' の間は[[プラストキノン]](PQ)、シトクロム''b''<sub>6</sub>''f'' とPSIとの間は[[プラストシアニン]](PC)で結ばれている。PSIIに光(hν)が当たることによってH<sub>2</sub>OからNADP<sup>+</sup>に電子が流れ(青矢印)、プロトンがチラコイドルーメンに取り込まれる(赤矢印)。また、[[酸素発生複合体]](OEC)によって水が分解されて酸素が発生する際にも、プロトンがチラコイドルーメンに生成する。チラコイドルーメンとストロマの間にできたプロトンの濃度勾配の浸透圧エネルギーによって、ATP合成酵素がATPを合成する。ATP合成酵素は1秒間に17回転し、ADPと遊離したリン酸から、ATPを合成しているのである。
 
光化学反応の収支式は以下の通りである。
75 ⟶ 84行目:
ATP合成酵素はエネルギー勾配を使って光リン酸化によってATPを合成するが、NADPHはZ機構の酸化還元反応によって合成される。電子が光化学系Iに入ると、再び光によって励起される。そして再びエネルギーを落としながら電子受容体に伝えられる。電子受容体によって作られたエネルギーは、チラコイドルーメンにプロトンを輸送するのに使われている。電子はカルビン回路で使われるNADPを還元するために使われる。循環的電子伝達系は非循環的電子伝達系に類似しているが、これはATPの生成のみを行いNADPを還元しないという点が違う。電子は光化学系Iで光励起されて電子受容体に移されると、再び光化学系Iに戻ってくる。ゆえに循環的電子伝達系と呼ばれるのである。
 
=== カルビ還元的ペトース・リン酸回路(暗反応) ===
[[File:Melvin Calvin.jpg|thumb|right|150px|[[メルヴィン・カルヴィン]]<br />[[ノーベル化学賞]]を受賞。]]
[[File:Calvin-cycle3.png|thumb|right|200px|カルビン回路。]]
{{main|カルビン回路}}
 
カルビ還元的ペトース・リン酸回路は'''暗反応'''とも呼ばれる過程で二酸化炭素CO<sub>2</sub>の固定・還元を行なう代表的な[[炭酸固定]]反応である。NADPHとATPを使って、CO<sub>2</sub>から炭素数3つの化合物である、グリセルアルデヒド3-リン酸を合成する過程である。カルビン回路の産物として得られたグリセルアルデヒド3-リン酸は、葉緑体内で[[スクロース]]に変換され蓄積する。還元的ペントース・リン酸回路は複数の[[酵素]]と中間代謝物からなる複雑な回路であり、[[リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ]](RubisCO)を初発酵素とし、炭素数5の化合物リブロース1,5-ビスリン酸と二酸化炭素から、炭素数3の化合物3-ホスホグリセリン酸2分子を生成する二酸化炭素の固定反応から始まる。3-ホスホグリセリン酸は還元され、グリセルアルデヒド3-リン酸を生成する。二酸化炭素の固定反応を継続するためには、産物として生じたグリセルアルデヒド3-リン酸から、RubisCOの基質であるリブロース1,5-ビスリン酸を再生産しなければならない。このため、5分子のグリセルアルデヒド3-リン酸(炭素数3の化合物)が、3分子のリブロース1,5-ビスリン酸(炭素数5の化合物)へ転換される。
 
これら一連の「二酸化炭素の固定・還元・基質の再生産」の過程が、カルビ還元的ペトース・リン酸回路を構成する。したがって、カルビン回路が3回転した結果、3分子の二酸化炭素が固定され、1分子のグリセルアルデヒド3-リン酸を生成する。この過程で、光化学反応によって作ったNADPHおよびATPが消費される。収支式で示すと以下の通りである。
 
:<chem>3CO2 + 5H2O + 6NADPH + 9ATP -></chem>
93 ⟶ 101行目:
この式は[[好気呼吸]]の収支式の逆反応であり、炭素消費および固定の収支が極めて巨大な[[生態系]]視野でもうまく行くことが理解できる。{{main|炭素循環}}
 
=== 光合成の分類速度と呼吸速度 ===
(広義の)光合成は[[真核生物]]、[[細菌]]、[[古細菌]]すべてに分布している。クロロフィルを用いた光合成を行う生物のうち、光合成真核生物以外は[[光合成細菌]]と総称される。以下の表のうち、酸素発生型・酸素非発生型については、[[光化学系I]]および[[光化学系II]](PS IおよびPS II)のどちらに相同のシステムをもつかも併記している。
*酸素発生型光合成 - 真核生物および細菌の一部(すべて好気性)
**光合成真核生物([[植物]]、[[植物プランクトン]]、[[藻類]])PS I & PS II
** [[藍藻|シアノバクテリア]] PS I & PS II
* 酸素非発生型光合成 - 細菌の一部(嫌気性および好気性)<ref>{{Cite journal|last=Bryant|first=D. A.|last2=Costas|first2=A. M. G.|last3=Maresca|first3=J. A.|last4=Chew|first4=A. G. M.|last5=Klatt|first5=C. G.|last6=Bateson|first6=M. M.|last7=Tallon|first7=L. J.|last8=Hostetler|first8=J.|last9=Nelson|first9=W. C.|date=2007-07-27|title=Candidatus Chloracidobacterium thermophilum: An Aerobic Phototrophic Acidobacterium|url=https://www.sciencemag.org/lookup/doi/10.1126/science.1143236|journal=Science|volume=317|issue=5837|pages=523–526|language=en|doi=10.1126/science.1143236|issn=0036-8075}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Zeng|first=Y.|last2=Feng|first2=F.|last3=Medova|first3=H.|last4=Dean|first4=J.|last5=Kobli ek|first5=M.|date=2014-05-27|title=Functional type 2 photosynthetic reaction centers found in the rare bacterial phylum Gemmatimonadetes|url=http://www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1400295111|journal=Proceedings of the National Academy of Sciences|volume=111|issue=21|pages=7795–7800|language=en|doi=10.1073/pnas.1400295111|issn=0027-8424|pmid=24821787|pmc=PMC4040607}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Ward|first=Lewis M.|last2=Cardona|first2=Tanai|last3=Holland-Moritz|first3=Hannah|date=2019|title=Evolutionary Implications of Anoxygenic Phototrophy in the Bacterial Phylum Candidatus Eremiobacterota (WPS-2)|url=https://www.frontiersin.org/article/10.3389/fmicb.2019.01658|journal=Frontiers in Microbiology|volume=10|pages=1658|doi=10.3389/fmicb.2019.01658|issn=1664-302X|pmid=31396180|pmc=PMC6664022}}</ref>
**[[緑色硫黄細菌]]([[クロロビウム門|クロロビウム]])PS I
**[[緑色非硫黄細菌]]([[クロロフレクサス門|クロロフレクサス]]の一部)PS II
** [[紅色硫黄細菌]]([[ガンマプロテオバクテリア綱|ガンマプロテオバクテリア]]の一部)PS II
** [[紅色非硫黄細菌]]([[アルファプロテオバクテリア綱|アルファプロテオバクテリア]]の一部)PS II
** [[ヘリオバクテリア]] PS I
**[[アキドバクテリウム門|アシドバクテリア]] PS I(好気性)
**[[ゲンマティモナス門|ゲンマティモナス]] PS II(好気性)
**エレミオバクテロータ PS II(好気性)
* レティナル型光合成 - 古細菌、細菌、真核生物の一部(すべて好気性)<ref>{{Cite journal|last=Waschuk|first=Stephen A.|last2=Bezerra|first2=Arandi G.|last3=Shi|first3=Lichi|last4=Brown|first4=Leonid S.|date=2005-05-10|title=Leptosphaeria rhodopsin: Bacteriorhodopsin-like proton pump from a eukaryote|url=https://www.pnas.org/content/102/19/6879|journal=Proceedings of the National Academy of Sciences|volume=102|issue=19|pages=6879–6883|language=en|doi=10.1073/pnas.0409659102|issn=0027-8424|pmid=15860584|pmc=PMC1100770}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Rinke|first=Christian|last2=Rubino|first2=Francesco|last3=Messer|first3=Lauren F.|last4=Youssef|first4=Noha|last5=Parks|first5=Donovan H.|last6=Chuvochina|first6=Maria|last7=Brown|first7=Mark|last8=Jeffries|first8=Thomas|last9=Tyson|first9=Gene W.|date=2019-03|title=A phylogenomic and ecological analysis of the globally abundant Marine Group II archaea (Ca. Poseidoniales ord. nov.)|url=http://www.nature.com/articles/s41396-018-0282-y|journal=The ISME Journal|volume=13|issue=3|pages=663–675|language=en|doi=10.1038/s41396-018-0282-y|issn=1751-7362|pmid=30323263|pmc=PMC6461757}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Mukohata|first=Yasuo|last2=Sugiyama|first2=Yasuo|last3=Ihara|first3=Kunio|last4=Yoshida|first4=Manabu|date=1988-03|title=An Australian halobacterium contains a novel proton pump retinal protein: Archaerhodopsin|url=https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0006291X88805096|journal=Biochemical and Biophysical Research Communications|volume=151|issue=3|pages=1339–1345|language=en|doi=10.1016/S0006-291X(88)80509-6}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Giovannoni|first=Stephen J.|last2=Bibbs|first2=Lisa|last3=Cho|first3=Jang-Cheon|last4=Stapels|first4=Martha D.|last5=Desiderio|first5=Russell|last6=Vergin|first6=Kevin L.|last7=Rappé|first7=Michael S.|last8=Laney|first8=Samuel|last9=Wilhelm|first9=Lawrence J.|date=2005-11|title=Proteorhodopsin in the ubiquitous marine bacterium SAR11|url=http://www.nature.com/articles/nature04032|journal=Nature|volume=438|issue=7064|pages=82–85|language=en|doi=10.1038/nature04032|issn=0028-0836}}</ref>
** [[高度好塩菌]](古細菌)
** Marine group II(Poseidoniales; 古細菌)
** Pelagibacterales(アルファプロテオバクテリア)
**一部の菌類
 
酸素発生型光合成は全ての生物にわたって反応中心、[[電子伝達系]]などの配列類似性が高い。唯一、集光色素のみがかなり異なっており、[[カロテノイド]]では[[β-カロテン]]、[[クロロフィル]]ではクロロフィルaのみが共通に存在している。酸素発生型光合成はPS IとPS IIが連結されているのに対して、酸素非発生型光合成ではどちらか一方しか利用しない。そのため、酸素非発生型の光合成の方が起源が古いと考える場合が多いものの、各光合成細菌の起源は現在もわかっていない(藍藻の[[藍藻#進化|進化]]の項目も参照)。また、酸素非発生型の光合成細菌はクロロフィルの代わりに、構造的に類似した[[バクテリオクロロフィル]]をもつ。
 
酸素発生型の光合成はシアノバクテリアが生み出したと現在のところ考えられており、このシアノバクテリアの活動によって[[地球の大気]]の組成は大きく変化したとされる。特に約24億年前に起こったとされる地球上の酸素濃度の増加は{{仮リンク|大酸化イベント|en|Great_Oxidation_Event}}と呼ばれる。シアノバクテリアは初期の真核生物との[[細胞内共生説|細胞内共生]]により、[[葉緑体]]として真核生物に取り込まれたと推定されている。葉緑体によって酸素発生型の光合成能力が真核生物に受け継がれ、様々な植物プランクトン、藻類、陸上植物の誕生につながっていった。葉緑体の成立過程については、例えば[[ハテナ (生物)|ハテナ]]が注目されている。
 
酸素非発生型の光合成を行う細菌類は多くが嫌気性であるため、今日の地球においては限られた生態系でのみ見られる。これらの光合成細菌には、カルビン回路以外の[[炭素固定]]回路をもつものがいる。
 
各光合成の収支式は以下の通りである。なお、電子供与体および電子受容体を'''太字'''で示す。
* 一般式
*: <chem>CO2 + 2 H2D</chem>(電子供与体)<chem> -> (CH2O)_n </chem>([[炭水化物]])<chem> + H2O + 2D </chem>(酸化を受けた電子供与体)
** 酸素発生型光合成
**: <chem>6CO2 + 12H2O -> C6H12O6 + 6H2O + 6O2</chem>
** 緑色硫黄細菌
**: <chem>6CO2 + 12H2S -> C6H12O6 + 6H2O + 12S</chem>
** 紅色非硫黄細菌
**: <chem>6CO2 + 12CH3CHOHCH3</chem> ([[イソプロパノール]])<chem> -> C6H12O6 + 6H2O + 6CH3COCH3</chem>([[アセトン]])
 
== 光合成速度と呼吸速度 ==
光合成を行う植物や藻類、例えば[[ミドリムシ]]のような一部の原生生物は、光合成と同時に呼吸も行っている。したがって、光が当たっている状態で放出されるO<sub>2</sub>量は、見かけの光合成速度である。これに対し、真の光合成速度は、見かけの光合成速度に呼吸速度を加えた値である。
 
光合成によるCO<sub>2</sub>吸収速度と呼吸によるCO<sub>2</sub>放出速度が同じになる光の強さを、補償点と呼ぶ<ref>{{Harvnb|Mohr|Schopfer|1998|pp=222-226}}</ref>。補償点において、見かけの光合成速度は0である。
 
=== 光合成速度と外的要因 ===
光合成速度は、光の強さ、CO<sub>2</sub>濃度、温度などの外的要因を強く受ける。
 
145 ⟶ 117行目:
もちろん、照度・温度・二酸化炭素濃度のどれもが限定要因になり得る。これらの関係は、長さの異なる板で箱を作った際に、水は長さの最も短い板の高さまでしか入れられない事を例に説明されたりする。
 
== 酸素非発生型光合成の起源 ==
酸素発生型光合成では2つの光化学系[[光化学系I|PS I]]と[[光化学系II|PS II]]が連結して用いられるのに対し、酸素非発生型光合成ではどちらか一方しか使用されない。そのため一般には、PS IおよびPS IIを用いる酸素非発生型の光合成がそれぞれ別個に誕生し、後に融合して酸素発生型の光合成が進化したと仮定する場合が多い。しかし、各光化学系をもつ光合成細菌の起源は現在も不明であり、光合成の起源および進化の順序についてはっきりしたことはわかっていない(藍藻の[[藍藻#進化|進化]]の項目も参照)。
酸素発生型光合成を行う生物はすべて独立栄養生物だが、酸素非発生型の光合成を行う生物は、独立栄養および従属栄養のどちらも存在する。
 
酸素発生型の光合成は[[藍藻|シアノバクテリア]]が生み出したと現在のところ考えられており、このシアノバクテリアの活動によって[[地球の大気]]の組成は大きく変化したとされる。特に約24億年前に起こったとされる地球上の酸素濃度の増加は{{仮リンク|大酸化イベント|en|Great_Oxidation_Event}}と呼ばれる。さらに、シアノバクテリアは初期の真核生物との[[細胞内共生説|細胞内共生]]により、[[葉緑体]]として真核生物に取り込まれたと推定されている。葉緑体によって酸素発生型の光合成能力が真核生物に受け継がれ、様々な植物プランクトン、藻類、陸上植物の誕生につながっていった。葉緑体の成立過程については、例えば[[ハテナ (生物)|ハテナ]]が注目されている。
* 光合成[[独立栄養生物]] - 紅色硫黄細菌、一部の紅色非硫黄細菌、緑色硫黄細菌、一部の緑色非硫黄細菌。
* 光合成[[従属栄養生物]] - 一部の紅色非硫黄細菌、一部の緑色非硫黄細菌、ヘリオバクテリア、アシドバクテリア、ゲンマティモナス、エレミオバクテロータ。
 
== 光合成の発見 ==
光合成独立栄養生物の場合は、炭素固定経路として還元的ペントースリン酸回路([[カルビン回路]])を用いる場合が多い。しかし、緑色硫黄細菌は[[クエン酸回路|還元的クエン酸回路]]を用いて炭酸固定を行う。また、一部の緑色非硫黄細菌は3-ヒドロキシプロピオン酸二重サイクルを利用する(炭素固定の[[炭素固定#光合成生物と炭素固定|記事]]を参照)。
[[File:Jan Baptist van Helmont.jpg|150px|thumb|right|[[ヤン・ファン・ヘルモント]]]]
[[File:Priestley.jpg|150px|thumb|right|[[ジョセフ・プリーストリー]]]]
[[File:Julius Sachs.jpg|150px|thumb|right|[[ユリウス・フォン・ザックス]]]]
 
[[1648年]]にフランドルの医師であった[[ヤン・ファン・ヘルモント]]は、鉢植えの[[ヤナギ]]に、水だけを与えて成長させる実験を行った<ref>{{Citation|ref=none|title=中学校の「理科」を徹底攻略|author=小森栄治|editor=向山洋一|publisher=PHP研究所|year=2006|isbn=9784569655666|page=101}}</ref>。生育前と後で、鉢植えの土の重量がほとんど変わらなかったため、彼は「木の重量増加は水に由来する」と考えた。
酸素非発生型光合成にも明反応・暗反応に該当する反応系が存在し、それぞれ光化学反応系および炭素固定経路と呼称される。光化学系複合体は通常1つしか持っておらず、電子は光化学系内を循環する(循環的光リン酸化)か、非循環的に酸素やNAD<sup>+</sup>に電子伝達される(非循環的光リン酸化)。
[[質量保存の法則]]が確立する1世紀も前のことであった。
 
[[1771年]]にイギリスの化学者および聖職者であった[[ジョセフ・プリーストリー]]は「植物はきれいな空気を出して空気を浄化している」と考えた。彼は、密閉したガラス瓶の中でロウソクを燃やして「汚れた空気」を作り、そこに[[ペパーミント|ハッカ]]と[[ネズミ]]を入れた物と、ネズミだけを入れた物を用意した。するとハッカを入れた方のネズミは生き続けたのに対し、入れない方のネズミは数秒で気絶し、その後死亡した。この実験結果を元に、彼は「呼吸で汚れた空気を浄化する何かが有る」と考えた。そして彼は、1774年に酸素を発見し<ref name="Newton_200804" />、「脱フロギストン空気」と名付けた<ref name="VOET_r3" />。しかし、酸素の燃焼と呼吸での役割を解明したのは[[アントワーヌ・ラヴォアジエ]]である。さらに、ラヴォアジエは酸素(oxygen)と二酸化炭素(carbon dioxide)の名付け親でもある。
== レティナル型光合成 ==
レティナル型光合成は、クロロフィルを用いる光合成とは全く異なる機構で動いており、別個に誕生し進化したと考えられている。レティナルを含有する[[ロドプシン]]は光合成以外にも、[[イオンポンプ|イオン・ポンプ]]や[[光受容体]]など複数の機能を有しており、その元来の機能は光合成ではなかった可能性がある。
 
[[1779年]]、ジョセフ・プリーストリーの発見に影響を受けたオランダの医師[[ヤン・インゲンホウス]]は、水草による実験を行った。当時、水草から発生する気体は「ふつうの空気」であると考えられていた。しかし、彼はこの気体を集めて、そこに予め着火した可燃物を入れてみたところ、炎の勢いが増す事を発見した。次に、日光の当たる場所と暗闇に置いた場合の水草を比べてみたところ、前者からは気体が発生したのに対し、後者からは気体が発生しなかった。このような実験の結果から、彼は「植物の空気浄化能は葉の緑色部分であり、光の影響を受ける」ことを発見した。また彼は、火を燃やすことができる「きれいな空気」と植物を入れた容器を暗闇に置くと、その容器内の空気が燃焼が起きない「汚れた空気」に変わることも発見した。今で言う「[[呼吸]]」が起こっていたのである。
ロドプシンのアミノ酸配列の相同性から、複数のカテゴリーが存在する<ref name=":0" />。このうち、[[プロトンポンプ|プロトン・ポンプ]]として機能するものは、古細菌、細菌、真核生物すべてのドメインに分布している。
 
[[1782年]]にスイスの司祭[[ジャン・セネビエ]]は、当時「固定空気」(common air)と呼ばれていた二酸化炭素が、光合成で取り込まれることを示し<ref name="VOET_r3" />、二酸化炭素は根から取り込むと考えた<ref name="Newton_200804" />。しかし、[[1804年]]に同じくスイスの[[ニコラス・テオドール・ド・ソシュール]]は、ジャン・セネビエの二酸化炭素は土から取り込まれるという考えに疑問を持ち、ソラマメを土ではなく小石の上で育てる実験を行った。するとソラマメは普通に育ったため、植物は空気から二酸化炭素を得ていると判明した。また、植物の枝(使われたのは''Lonicera caprifolium、Prunus domestica、Ligustrum vulgare、Amygdalus persica'' の4種)を、二酸化炭素を吸収する[[石灰水]]と同封して育てたところ、葉が全て落ちてしまったことから、植物は二酸化炭素が無いと生きていけないことを発見した。さらに、有機物と酸素の総重量は、植物が取り込んだ二酸化炭素の重量よりも多いことも発見した。光合成には水が必要であるとし、以下の式を導いた。なお、当時はまだ化学式が使われていなかったため、言葉で式が書かれた。
 
: 二酸化炭素 + 水 → 植物の成長 + 酸素
 
[[1842年]]には、ドイツの物理学者[[ユリウス・ロベルト・フォン・マイヤー]]によって、光合成は「光エネルギーを化学エネルギーに変換している」と明らかにされた。
 
[[1862年]]にドイツの植物生理学者[[ユリウス・フォン・ザックス]]は、葉緑体を顕微鏡で見た際に現れる白い粒は、取り込まれた二酸化炭素と何らかの関係を有するのではないかと考えた。彼は当時既に知られていた[[ヨウ素デンプン反応]]を参考に、日光に充分当てた葉にヨウ素液を付着させた。すると葉は紫色に変色した。この結果から彼は「植物は日光が当たると二酸化炭素を取り込んで葉緑体の中でデンプンを作り、それを使って生きている」ことを発見したのであった。
 
== 光合成に関した研究の年表 ==