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[[ファイル:Starr 080731-9548 Coriandrum sativum.jpg|thumb|right|upright|コエンドロの地上部]]
[[ファイル:Coriandrum_sativum_003.JPG|thumb|right|upright|コエンドロの花]]
'''コリアンダー'''({{Lang-en-short| coriander}}; [[学名]]: {{Snamei|Coriandrum sativum}})は、[[セリ科]][[コエンドロ属]]の[[一年草]]である。日本には10世紀頃に渡来した。日本においては、英語由来のコリアンダーのほか、[[和名]]の'''コエンドロ'''(胡荽)、[[タイ語]]由来の'''パクチー'''、[[中国語]]由来の'''シャンツァイ'''(香菜)などで呼ばれる。古くから各地で食用([[野菜]]および[[香辛料]]して流通しされている。
 
[[カール・フォン・リンネ|リンネ]]の『{{仮リンク|植物の種|en|Species Plantarum}}』([[1753年]]) で[[記載]]された植物の一つである<ref>{{Cite book|last=Linnaeus|first=Carolus|year=1753|title=Species Plantarum|location=Holmia[Stockholm]|publisher=Laurentius Salvius|page=256|url=https://www.biodiversitylibrary.org/page/358275|ref=harv|language=la}}</ref>。各地で古くから食用とされている
 
== 名称 ==
属名は[[ラテン語]]から(下記参照)。[[種小名]] {{snamei|sativum}} はラテン語で「栽培種の」といった意味である。
 
和名「'''コエンドロ'''」は[[鎖国]]前の時代に[[ポルトガル語]] ({{lang|pt|coentro}}) から入った古い言葉である。「'''コスイ'''」胡荽、「'''コニシ'''」はコエンドロが用いられる以前の呼称である。[[延喜式]]』『[[和名抄]]などに[[朝廷料理]]で生魚を食べる際に必ず用いる[[薬味]]として記載がある。また、[[カメムシ]]とよく似た独特の匂いのため、別名「カメムシソウ」と呼ばれることもある<ref>[https://jisin.jp/life/beauty/1619150/ 「カメムシソウ」とよばれることも パクチーの名前トリビア] [[女性自身 2015/05/]](2015年5月18日)</ref><ref>[http://jaenchu.ja-shizuoka.or.jp/pickup/crops/detail.html?id=cr1457506729 シャンサイ(香菜)パクチー] 農産物百科 JA遠州中央</ref>。中国植物名は「芫荽」<ref name="YList"/>、漢名では「香荽」「芝茜」とも書かれる{{sfn|武政三男|1997|p=84}}。
 
一般には、[[英語]]に従って、果実や葉を乾燥したものを[[香辛料]]として「'''コリアンダー'''」({{lang-en|coriander}})と呼ぶほか{{Sfn|吉谷監修 マクビカー|2013|p=108}}{{Sfn|伊藤・野口監修 誠文堂新光社編|2013|p=64}}、[[1990年代]]頃から、[[エスニック料理]]店の普及増加とともに、生食する葉を指して「'''パクチー'''」({{lang-th|ผักชี}})と呼ぶことが多くなった{{Sfn|高浜・石倉監修 NHK出版編|2013|p=63}}{{Sfn|吉谷監修 マクビカー|2013|p=108}}{{Sfn|伊藤・野口監修 誠文堂新光社編|2013|p=64}}。
 
また、[[中華料理]]に使う[[中国語]]由来で生菜を「'''シャンツァイ'''」({{lang-zh|'''香菜'''}}; {{ピンイン|xiāngcài}})と呼ぶこともある{{Sfn|高浜・石倉監修 NHK出版編|2013|p=63}}{{Sfn|吉谷監修 マクビカー|2013|p=108}}{{Sfn|伊藤・野口監修 誠文堂新光社編|2013|p=64}}。中華料理にも使われることから、俗に「'''中国パセリ'''」({{lang-en|Chinese parsley}})とも呼ばれるが、[[パセリ]]とは別の植物である。[[中国]]へは[[張騫]]が西域から持ち帰ったとされ<ref group="注">『[[一切経音義 (慧琳)|慧琳音義]]』巻70などに引く[[張華]]『博物志』にこの説が見える。ただし現行の『博物志』では張騫が[[クルミ|胡桃]]をもたらしたという話はあるが、胡荽に関する記載はない</ref>、[[李時珍]]の『[[本草綱目]]』には「胡荽」(こすい)の名で記載がある。
 
英名コリアンダー({{lang|en|'''coriander'''}})は属名にもなっている[[ラテン語]]コリアンドルム({{lang|la|'''coriandrum'''}})から変化した仏名コリアンドル(''coriandre'')に由来し、さらに[[古代ギリシア語]]コリアノン({{lang|grc|'''κορίαννον'''}} 〈{{lang|all|koriannon}}〉)へ遡る{{sfn|田中孝治|1995|p=86}}。後者の原語を指して「[[ギリシア語]][[カメムシ]]を意味する<ref>柴田書店『カレーのすべて』([[柴田書店、16]])16頁、ISBN 978-4-388-06022-1。</ref>」などと紹介されることが非常に多いが、これは誤りで、コリアノン({{lang|grc|κορίαννον}})もまた「コリアンダー」を指す言葉である。
 
ギリシア古名コリアノン({{lang|grc|κορίαννον}})自体の語源については、[[キャラウェイ]]または[[クミン]]<ref group="注">いずれも''Cuminum''属で、互いによく似ている。</ref> を意味する {{lang|grc|καρώ}}/{{lang|grc|κάρον}} ({{lang|all|karō}}/{{lang|all|karon}}) の関連語だとする<ref>[http://gernot-katzers-spice-pages.com/engl/Cori_sat.html?spicenames=ja Coriander / Gernot Katzer's Spice Pages]</ref> 考察がある一方、「匂いがカメムシに似ている<ref>稲川俊文編集『花の名前』 [[婦人生活社]]、118)118頁、ISBN 4-574-80336-3。</ref>」として、近縁で類似の臭気をもつ[[トコジラミ]](南京虫)を意味するギリシア語のコリス({{lang|grc|κόρις}}〈{{lang|all|koris}}〉)と、アニスの実の意味を持つアノン(Annon)に関連づけられることも多い{{sfn|田中孝治|1995|p=86}}{{sfn|武政三男|1997|p=84}}。
 
その他、各国語の名称については[[#葉]]も参照のこと。
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[[南ヨーロッパ]]{{sfn|武政三男|1997|p=84}}、[[地中海]]東部沿岸から[[小アジア]]の原産{{sfn|田中孝治|1995|p=86}}{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=246}}。
 
世界各地で栽培されており、主産地は[[ロシア]]からヨーロッパ、[[イスラエル]]にかけての[[ユーラシア]]一帯、中国、[[インド]][[インドネシア]]や[[マレーシア]]などの[[東南アジア]][[中南米]][[グアテマラ]][[アルゼンチン]][[メキシコ]][[北米]]([[アメリカ合衆国]]および[[カナダ]])などである{{sfn|武政三男|1997|p=84}}。
 
日本でも栽培農家がある<ref>【食の進化論】パクチーの価格安定へタッグ 農家と買い手、直接取引で信頼『[[日経MJ]]』2022年1月3日フード面</ref>。
 
== 特徴 ==
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花期は夏(7 - 8月)ころ。白から淡紅色の小花を散状に咲かせ、やがて熟れて緑色になり、秋に球形の茶色い柑橘系の香りがある[[果実]]を実らせる{{sfn|田中孝治|1995|p=86}}{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=246}}。果実は直径3 - 4[[ミリメートル]] (mm) の球形で、表面に粗い筋がある{{Sfn|伊藤・野口監修 誠文堂新光社編|2013|p=64}}。
 
俗にノコギリコリアンダーと呼ばれる、[[東南アジア]][[中南米]]でコエンドロと同様に香味野菜として用いられている[[オオバコエンドロ]](''[[:en:Eryngium foetidum|Eryngium foetidum]]''、{{lang-th|ผักชีฝรั่ง}} パクチー・ファラン、{{lang-es|culantro}} クラントロ)は、[[セリ科]][[ヒゴタイサイ属]]に属する熱帯アメリカ原産の別の植物である。オオバコエンドロにもコエンドロと同じような香りがある。カメムシとも形容される特異な臭いは、地上部の茎葉や未熟果に含まれる[[カプリンアルデヒド]]という成分に由来する{{sfn|田中孝治|1995|p=86}}。
 
== 歴史 ==
3000年以上前から使用されており、記録としては紀元前1550年頃の『[[エーベルス・パピルス|テーベの医学パピルス]]』や[[サンスクリット語]]の書物に料理法や薬用について記載があり、[[旧約聖書]]にも登場する{{Sfn|吉谷監修 マクビカー|2013|p=108}}{{Sfn|伊藤・野口監修 誠文堂新光社編|2013|p=64}}{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=246}}。[[ガイウス・プリニウス・セクンドゥス|プリニウス]]の『[[博物誌]]』には、最も良い品質のコリアンダーは[[エジプト]]産という記述がある。[[古代エジプト]]では、調理や医療に用いられていた。[[古代ギリシャ]]や[[古代ローマ]]でも、特によく用いられた薬草のひとつであり、「医学の父」とよばれる[[ヒポクラテス]]も健胃・睡眠作用の薬効を挙げている{{sfn|武政三男|1997|p=86}}。古代ローマの医師[[ディオスコリデス]]は、コリアンダーが男性の性能力を高めるようだと記した{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=247}}。
 
またエジプトでは、[[紀元前1000年]]ごろからコエンドロと亡骸をいっしょに墓に葬る習慣があった<ref name="kitano">北野佐久子『基本ハーブの事典』([[東京堂出版]]、2005年、p44)p44</ref>。中国では不老不死の妙薬と考えられ、中世ヨーロッパや『[[千夜一夜物語]]』の記述では、恋をかなえる秘薬の成分([[媚薬]])としても用いられた{{sfn|武政三男|1997|p=86}}{{Sfn|吉谷監修 マクビカー|2013|p=108}}{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=246}}。[[イギリス]]([[グレートブリテン島]])へは、[[青銅器時代]]に侵攻したローマ人からもたらされ、[[]]の風味づけや、[[クミン]]や[[酢]]と混ぜて肉の保存に使われた{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=246}}。
 
古代の地中海沿岸地域ではコリアンダーを料理に使ったが、中世に入り、ヨーロッパへ東洋の異国情緒ある香辛料が伝わるようになると、コリアンダーの人気は下火になった{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=246}}。[[中南米]]には、16世紀[[コンキスタドール|スペイン]]の征服者]]によって伝えられ、中南米料理に使われるようになった{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=246}}。[[アメリカ]]へは17世紀初頭にイギリスからの最初の移住者が伝えたとされ、好んで栽培された<ref name="kitano" />{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=246}}。この時代の[[フランス]]では、コリアンダーの[[蒸留酒]]も作られている{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=246}}。現代においては、[[熱帯]][[亜熱帯]]のほとんどの地域で栽培されるようになった{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=246}}。
 
== 栽培 ==
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== 利用 ==
コリアンダーは料理にも薬にも用いられている重要な[[ハーブ]]として知られ{{Sfn|吉谷監修 マクビカー|2013|p=108}}、[[アジア]]、[[インド]]、[[メキシコ]]、アメリカ合衆国[[テキサス州|テキサス]]、[[中国]]、[[アフリカ]]、[[南米]]、[[スカンジナビア]]など、世界中の様々な地域の料理で使われる{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=246}}<ref name=Samuelsson>{{cite book|last=Samuelsson|first=Marcus|title=Aquavit: And the New Scandinavian Cuisine|date=2003|publisher=Houghton Mifflin Harcourt|isbn=978-0-618-10941-8|page=12 (of 312)|url=https://books.google.com/books?id=oxhA_Xp1ZjAC}}</ref>。種・葉・茎・根が利用され{{Sfn|伊藤・野口監修 誠文堂新光社編|2013|p=64}}、新鮮な葉と乾燥した種子が料理で最も伝統的に使われる部分である。風味は、葉・茎・根・未熟果にクセのある強い香り、熟した果実には柑橘類様の甘いスパイシーな香りがある{{Sfn|伊藤・野口監修 誠文堂新光社編|2013|p=64}}。
 
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どの部分も食することができ、料理に使ったときに、葉と種子では風味が異なる{{Sfn|吉谷監修 マクビカー|2013|p=108}}。種子はオレンジが混じったような優しい香りがあり、葉は個性的な特有の味わいとクセがある強い香りを持っている{{Sfn|吉谷監修 マクビカー|2013|p=108}}。[[葉]]を[[香草]]あるいは葉菜として、果実を[[香辛料]]として用いる。葉を料理に使うときは開花前の若い葉がよいとされる{{Sfn|吉谷監修 マクビカー|2013|p=108}}。また、煮込み料理などでは[[茎]]や[[根]]も使用されることがある。葉が持っている独特の香気を活かすために、調理の最後に加えるとよい{{Sfn|吉谷監修 マクビカー|2013|p=108}}。また、コエンドロには消化を促す作用がある{{Sfn|吉谷監修 マクビカー|2013|p=108}}。
 
[[中華料理]]、[[タイ料理]]、[[インド料理]]、[[ベトナム料理]]、[[メキシコ料理]]、[[ポルトガル料理]]などに広く用いられ、葉・茎・根はタイやベトナム料理には欠かせないハーブで、消化促進効果があるといわれている{{Sfn|伊藤・野口監修 誠文堂新光社編|2013|p=64}}。また甘い香りの種子は、幅広い料理に使われ、[[カレー粉]]、[[チリパウダー]]、[[ガラムマサラ]]、[[ベルベル]]などのブレンドスパイスにも使われている{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=246}}{{Sfn|伊藤・野口監修 誠文堂新光社編|2013|p=64}}。特に合わせると相性が良いと言われている食材に、[[レンズマメ]]、[[マメ]]などの豆類、[[タマネギ]]、[[ジャガイモ]]、[[ソーセージ]]、[[豚肉]]、[[シーフード]]、仔羊の[[シチュー]]、[[ペストリー]]が挙げられている{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=246}}。
 
[[日本料理]]に用いられる食材ではないため、日本国内ではスーパーマーケットや[[百貨店]]の地下食品売り場や大型食材店でも入手は困難であった。しかし[[1990年代]]頃からいわゆる[[エスニック料理]]の店が増えるにつれて生のコエンドロの需要が増加し、栽培が増えて入手しやすくなっている。なお、タイ・ラオス料理に、コエンドロのみのサラダや大量に使用するような「パクチー料理」というものは存在せず、あくまで薬味として扱う事が基本であるという<ref>[http://www.j-cast.com/2017/04/15295621.html?p=all 京都のタイ料理店「パクチー料理ありません」 店主、異様なブームに「嫌気差した」] [[ジェイ・キャスト|J-CAST 2017-04-]](2017年4月15日)</ref>。[[アメリカ合衆国]]では、コリアンダーが料理に使われる機会は少ない{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=246}}。
 
==== 葉 ====
[[ファイル:A scene of Coriander leaves.JPG|thumb|right|コリアンダーの葉]]
 
[[葉]]は主に薬味として利用される。[[ピネン]]、[[デカナール]]、[[ノナナール]]、[[リナロール]]<ref>江蘇新医学院編『中薬大辞典』上海科学技術出版社、pp15381986年)pp.1538-1539、1986年、ISBN 7-5323-0842-1</ref> などに由来する独特の風味があるため、人によって好き嫌いが大きく分かれる。茎立ち前の若い苗の芳香は欧米人や中国人に好まれ、台湾、東南アジア、インドなどの地域では常食されている{{sfn|武政三男|1997|p=85}}。[[ピネン]]などの[[テルペノイド|モノテルペン]]類は蒸散しやすく、栄養価の点では、生の葉は[[アスコルビン酸|<small>L</small>-アスコルビン酸]]([[ビタミンC]])を比較的豊富に含み、β-カロテンや[[チアミン|ビタミンB<sub>1</sub>]]、[[リボフラビン|B<sub>2</sub>]]、[[ビタミンE|E]]、[[ビタミンK|K]]、[[食物繊維]]や、[[カルシウム]]、[[カリウム]]といった栄養素が豊富である{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=247}}。「体内に蓄積された毒素を排出するデトックス効果がある」とも言われるが、これは科学的に信頼できる資料に裏付けられたものではない<ref name="nibiohn"/>。
 
さまざま様々な地域で葉の香りを生かした料理に用いられている。
 
* [[八重山列島]]の[[与那国島]]([[沖縄県]][[八重山郡]][[与那国町]])では'''クシティ'''と呼ばれ、[[和え物]]等にして食べる。[[第二次世界大戦]]前に[[出稼ぎ]]などで[[台湾]]わたった人が持ち帰ったとされ、島野菜として定着している<ref>[http://www.y-mainichi.co.jp/news/29083/ 【新年特集】長命草に次ぐ特産品〝クシティ〟] 『[[八重山毎日新聞]]』2016年1月2日</ref>。
* [[中華人民共和国|中国]]では{{lang-zh|'''香菜'''}}(シアンツァイ、{{ピン音|xiāngcài}})と呼ばれ、[[スープ]]、[[麺]]類、[[粥]]、[[鍋料理]]などの風味付けに利用されるほか、[[中国東北部|東北地方]]には「老虎菜」(ラオフーツァイ)という[[キュウリ]]、[[唐辛子|青唐辛子]](レシピによっては[[ピーマン]]で代用される)と共に[[サラダ]]の様に生食する[[郷土料理]]もある。[[北魏]]時代に執筆された[[農書]]『[[斉民要術]]』に密植による[[軟化栽培]]の方法が記されている。
* [[タイ王国|タイ]]では'''パクチー'''({{lang-th|[[:th:ผักชี|ผักชี]]}})と呼ばれ、[[トムヤムクン]]などの[[スープ]]や[[タイスキ]]をはじめとしたさまざま様々な料理の薬味に用いられる。(あくまでも薬味である<ref>{{Cite web |url =http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52757 |title =パクチー |publisher =jbpress.ismedia.jp |date = |accessdate =2018-12-04 }}</ref>。)
* [[ベトナム]]では'''ザウムイ'''({{lang-vi|[[:vi:rau mùi|rau mùi]]}}、[[チュノム]]: 蔞味)と呼ばれ、本場の[[生春巻き]]や[[フォー]]の添え物には欠かせない食材となっている{{Sfn|高浜・石倉監修 NHK出版編|2013|pp=63, 69}}。
* [[インド]]では'''ダニヤー'''({{lang-hi|धनिया}} ; {{lang|all|dhaniyā}})と呼び、[[カレー (代表的なトピック)|カレー]]にもよく使われるスパイスのひとつである。
* [[中南米]]では'''シラントロ'''({{lang-es|cilantro}})と呼ばれ、スープや[[ワカモレ]]などの[[サルサ (料理)|サルサ]]などに広く用いられる。
* [[アメリカ合衆国]][[メキシコ]]からの移民が多いため、英語のコリアンダーよりもスペイン語の'''シラントロ'''の方が一般的な呼称となっている。
* [[ポルトガル]]では'''コエントロ'''({{lang-pt|coentro}})と呼ばれ、魚介類と野菜を主な材料とする鍋料理であるカタプラーナなどの郷土料理によく用いられる。[[ポルトガル料理]]の味を特徴づける重要な食材である。
 
調理方法は、冷菜の飾りにしたり、スープやおかずに散らしたりことが多い{{sfn|武政三男|1997|p=85}}。中国料理では、肉の臭み消しの目的で、マトン料理のタレである[[シュワンヤンロウ]]に細かく刻んだ葉を入れる{{sfn|武政三男|1997|p=85}}。
 
食用以外では、[[カニ]]や[[エビ]]を食べた後に手を洗う[[フィンガーボウル]]に入れて[[臭い]]消しにする例がある。
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[[ファイル:Coriander.png|thumb|right|乾燥コリアンダーシード(コリアンダーホール)]]
 
果実は主にスパイスとして利用され、そのままか、砕いて使われる{{Sfn|吉谷監修 マクビカー|2013|p=108}}。[[ヨーロッパ]][[インド]]では香辛料として種子(植物学上では果実)の利用も盛んである。乾燥したコエンドロの果実は'''コリアンダーシード'''{{Sfn|高浜・石倉監修 NHK出版編|2013|p=63}}や'''コリアンダーホール'''{{Sfn|伊藤・野口監修 誠文堂新光社編|2013|p=64}}などとも呼ばれる。果実をすりつぶした粉末は'''コリアンダーパウダー'''ともよばれる。葉とは全く風味が異なり、[[柑橘類]]、[[オレンジ]]、[[アニス]]のような、あるいは[[レモン]]と[[セージ]]を合わせたような香りと表現される{{sfn|武政三男|1997|p=84}}。種子は容易に砕くことができ、家庭でも挽いて粉末にできるが、インドでは少し焙煎して香りを引き立ててから粉に挽いている{{sfn|武政三男|1997|p=85}}{{Sfn|伊藤・野口監修 誠文堂新光社編|2013|p=64}}。
 
肉・卵・豆料理などに広く利用され、[[カレー (代表的なトピック)|カレー]]はもとより、[[チャツネ]]、[[ラタトゥユ]]、[[サルサソース]]、[[ピクルス]]、[[ソーセージ]]に用いられ、[[アップルパイ]]、[[シフォンケーキ]]の風味づけにも使われる{{sfn|武政三男|1997|p=85}}{{Sfn|伊藤・野口監修 誠文堂新光社編|2013|p=64}}。[[ベルギー]]では小麦ビールの醸造に、[[中東]]では挽肉や卵料理、豆の煮込み、[[ファラフェル]]に、また[[欧米]]ではピクルスや[[マリネ]]用のスパイスとして使われる{{Sfn|伊藤・野口監修 誠文堂新光社編|2013|p=64}}{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=247}}。[[牛乳]]や[[紅茶]]と共に入れて煮るという利用法もある。[[ウォッカ]]や[[ジン (蒸留酒)|ジン]]に漬け込み、[[果実酒]]とすることもできる。
 
[[モロッコ]]産のものが多く流通しており、インド産のものは香りに甘味がある{{Sfn|伊藤・野口監修 誠文堂新光社編|2013|p=64}}。果実の匂いの主な成分は葉の臭い成分とは異なり、モノテルペン類の[[リナロール|''d''-リナロール]]である。品質の評価は、粒の大きさあるいは、香り成分のリナロール臭の強弱によって決まり、一般に小粒のものが香味が強い{{sfn|武政三男|1997|p=84}}。使うときは、同じ甘い芳香を持つスパイスとの併用が効果的ともいわれ、相性のよい他のスパイスとして、[[アニス]]、[[カルダモン]]、[[クローブ]]、[[シナモン]]、[[ナツメグ]]、[[セージ]]などが挙げられている{{sfn|武政三男|1997|p=86}}。
 
種子を大量に摂取すると、強い眠気に襲われるときがある。そのため、コリアンダーは dizzycorn (「めまいの実」の意)ともよばれる{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=246}}。
 
=== 薬用 ===
9 - 10月ころに黄変して熟した果実を採取し、陰干ししたものをコリアンダー・シーズ(種子の意)、または胡荽子(こすいし)とよんで薬用部位とする{{sfn|田中孝治|1995|p=86}}。[[中国医学]]では全草の乾燥品である「胡荽」(こすい)の性質を温、辛として[[生薬]]のひとつともしている。胡荽の名は、[[前漢]](紀元前2世紀 - 紀元後1世紀)のころに、中国の使節が古代中国西方の[[胡 (春秋)|胡]](現在の[[イラン]]北方)から持ち帰ったことに由来する{{sfn|田中孝治|1995|p=86}}。
 
果実に含まれる[[精油]]([[デ・リナロール]]、[[ピネーン]]、[[ディペンテン]]、[[テルピネン]]、[[ピ・チモール]]、[[フェランドレン]]など)は、胃液の分泌を良くし、腸内ガスを排出する作用、口やのど粘膜を刺激して気道の粘液の分泌を良くして痰を切る作用があると言われ{{sfn|田中孝治|1995|p=86}}、頭痛の軽減や消化不良の改善に役立つとされている{{Sfn|伊藤・野口監修 誠文堂新光社編|2013|p=64}}。ほのかなオレンジ様の香りは、[[アロママッサージ]]にも使われ、不安を取り除いたりするのに使われる{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=247}}。
 
中国やベトナムでは、料理に茎葉が香菜、芫菜(げんさい)として登場して用いられているが、これは食欲増進と消化を助ける一種の薬味として、[[薬食同源]]の考えに基づいている{{sfn|田中孝治|1995|p=86}}。[[民間療法]]では、胃の調子が悪いとき、食欲不振、腸内ガスでお腹が張るとき、[[]]止めに、紅茶に胡荽子を3 - 5粒入れてかき混ぜて、数分後おいてから飲む方法が知られている{{sfn|田中孝治|1995|p=86}}。
 
コエンドロは、[[鼓腸]]、[[関節炎]]、[[リウマチ]]の治療に使われてきた歴史を持ち、インドでは、強壮剤、咳止めの薬の材料として現代においても広く用いられている{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=247}}。有益な植物栄養素や抗酸化作用のある成分を含み、身体から有害な重金属や有害物質の排出に役立つと考えられている{{Sfn|日本メディカルハーブ協会監修 ハジェスキー|2016|p=247}}。ただし「炎症を緩和する」「気分を落ち着ける」「体内の毒素を排泄する」等と言われているが、[[ヒト]]での有効性について科学的に信頼できるデータはない<ref name="nibiohn">{{Hfnet|944|コリアンダー、コエンドロ、シャンツァイ(香菜)、中国パセリ、パクチー}} 更新日2017/04/18、閲覧日2018年9月26日</ref>。
 
== 味と匂い ==
コエンドロの葉と種子の[[精油]]は[[ポリフェノール]]類と[[テルペン]]類を含む。[[リナロール]]がコエンドロの芳香と風味を司る主要な成分である<ref>{{cite journal|pmid=25132088|year=2014|last1=Zheljazkov|first1=V. D|title=Hydrodistillation extraction time effect on essential oil yield, composition, and bioactivity of coriander oil|journal=J. Oleo Sci.|volume=63|issue=9|pages=857–65|last2=Astatkie|first2=T|last3=Schlegel|first3=V|doi=10.5650/jos.ess14014}}</ref>。青葉や未熟果が持っている悪臭ともいえる芳香成分は[[カプリアルデヒド]]で、種子が完熟する頃にはこの臭気は失われ、レモンとセージを合わせたような香りへと変化する{{sfn|武政三男|1997|p=85}}。この種子が持っている芳香成分は[[コリアンドロール]]とよばれるリナロールの一種で、精油の60 - 70%を占める{{sfn|武政三男|1997|p=85}}。
 
コエンドロの葉の味の感じ方は人によって異なり、嗜好性が強い{{sfn|武政三男|1997|p=85}}。好む人々が、コエンドロの葉は気分をすっきりさせる、レモンの様な、あるいはライムの様な香りを持つと言うのに対して、嫌いな人々はその味と匂いに対して強い嫌悪感を示し、せっけん[[石鹸]]のようなまたは腐ったような味と匂いだと述べる<ref name=McGee>{{cite news |title=Cilantro Haters, It's Not Your Fault |first=Harold |last=McGee |authorlink= Harold McGee |url= https://www.nytimes.com/2010/04/14/dining/14curious.html |newspaper=The New York Times |date=13 April 2010 |accessdate=24 July 2012 |quote= Some people may be genetically predisposed to dislike cilantro, according to often-cited studies by Charles J. Wysocki of the Monell Chemical Senses Center in Philadelphia.}}</ref><ref>{{cite news |title=Across the Land, People Are Fuming Over an Herb (No, Not That One) |first=Sarah |last=Rubenstein |url=https://www.wsj.com/article/SB123446387388578461.html |newspaper=[[ウォールストリートジャーナル|The Wall Street Journal]] |date=13 February 2009 |accessdate=24 July 2012}}</ref>。あるいは、葉と未熟な実のクセのある匂いは、[[南京虫]]の悪臭に例えられることもある{{sfn|武政三男|1997|p=84}}。その風味を嫌う人には[[カメムシ]]のような風味であるとも評され、パクチーの臭いの好き嫌いには、臭いの感じ方の違うDNA(OR6A2)[[デオキシリボ核酸|DNA]](OR6A2)遺伝的要因が関係している事が研究により発見されている<ref>{{Cite web | url = https://www.mirror.co.uk/news/weird-news/people-like-coriander-others-think-23557477 | title = Why some people like coriander and others think it tastes like soap, according to science | publisher = Mirror | accessdate = 20-03-27 }}</ref>
<ref>{{Cite web | url = https://arxiv.org/pdf/1209.2096.pdf | title = A genetic variant near olfactory receptor genes influences cilantro preference | publisher = Cornell University | accessdate = 20-03-27 }}</ref><ref>{{Cite web |url =https://laccord.info/archives/516 |title =パクチーの味を表現するとカメムシ?好き嫌いの原因はDNA成分反応 |publisher =laccord.info |date = |accessdate =2018-12-04 }}</ref>。
 
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== アレルギー ==
一部の人々はコエンドロの葉または種子に対して[[アレルギー]]がある<ref name="aip">{{cite journal|pmid=12078423|year=2002|last1=Moneret-Vautrin|first1=D. A|title=Food allergy and IgE sensitization caused by spices: CICBAA data (based on 589 cases of food allergy)|journal=Allergie et Immunologie|volume=34|issue=4|pages=135–40|last2=Morisset|first2=M|last3=Lemerdy|first3=P|last4=Croizier|first4=A|last5=Kanny|first5=G}}</ref>。ある研究では、[[皮膚アレルギー検査|ピン・プリック検査]]を行った子供の32%、大人の23%がコエンドロならびに[[キャラウェイ]]、[[フェンネル]]、[[セロリ]]を含む[[セリ科]]植物に対して陽性だった<ref name=aip />。アレルギー症状は軽度あるいは生命に関わるかもしれない<ref>{{cite web|url=https://www.healthline.com/health/cilantro-allergy#Overview1|title=How to Recognize a Cilantro Allergy|publisher=Healthline|author=Kathleen Pointer|date=29 March 2017|accessdate=17 March 2018}}</ref><ref>{{cite web|url=https://blogs.scientificamerican.com/oscillator/allergy-recapitulates-phylogeny/|title=Allergy Recapitulates Phylogeny|publisher=Scientific American|author=Christina Agapakis|date=18 September 2011|accessdate=17 March 2018}}</ref>。
 
== 人気 ==
=== 日本 ===
本場タイでも有り得ない、パクチーを山盛りにする料理がブームになるなど、絶大な人気を誇っている<ref>{{Cite web|title=「タイ料理といえばパクチー」は日本人の幻想だった|url=https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52757|website=JBpress(日本ビジネスプレス)|date=2018-04-06|accessdate=2020-06-14|language=ja}}</ref>。2016年のトレンド鍋([[ぐるなび]]調べ)に「草鍋」が選ばれた<ref name="2016trend">[https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000595.000001511.html 2016年版トレンド鍋は“草鍋”] - PR TIMES(2016年10月19日)</ref>。草鍋は、青菜・せり・パクチーを中心とした青野菜をメインとしながらも、野菜がどっさり入った鍋の総称<ref name="2016trend" />。
 
== 脚注 ==