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{{出典の明記|date=2013年6月23日 (日) 17:58 (UTC)|ソートキー=生物}}
'''用不用説'''(ようふようせつ、{{lang-en-short|use and disuse theory}})は、[[1809年]]に[[進化生物学]]者の[[ジャン=バティスト・ラマルク|ラマルク]]によって提唱され、[[生物]]の[[進化]]に関する[[仮説]]([[進化論]])の一つである。り、'''ラマルキズム'''({{lang-en-short|Lamarckism}})とも呼ばれる。これは'''獲得形質'''(個体が後天的に身につけた形質)が子孫に[[遺伝]]し、[[進化]]の推進力になると唱えるものである。初めて、[[科学的根拠]]<ref>{{Cite journal|date=1997-10-22|title=科学的根拠のある臨床|url=https://doi.org/10.1253/jjcsc.5.2_221|journal=Journal of JCS Cardiologists|volume=5|issue=2|page=|pages=221–221|doi=10.1253/jjcsc.5.2_221|issn=0918-9599}}</ref>をもとに発表された進化論である。
 
== ラマルクの進化論 ==
この仮説では、「生物が特定の[[器官]]を多く使えばそれは発達し、使わなければ萎縮する。この変化が[[男性|オス]]と[[女性|メス]]で共通な場合、両者の[[親族|子孫]]へと変化が[[遺伝]]する。」と推測した<ref name=":0">{{Cite news|title=皇帝ナポレオンにも反抗した「進化学者ラマルク」をご存知か|newspaper=[[ブルーバックス]]|date=2018-11-06|url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58217|author=[[更科功]]|accessdate=2022-01-14|publisher=[[講談社]]}}</ref>。現代では否定されている<ref name=":0" />。
ラマルクは[[無脊椎動物]]<ref>{{Cite journal|last=SATO|first=MINORU|date=2002|url=https://doi.org/10.2331/suisan.68.909|journal=NIPPON SUISAN GAKKAISHI|volume=68|issue=6|pages=909–910|doi=10.2331/suisan.68.909|issn=1349-998X}}</ref>の分類研究を元に、動物の体の仕組みが簡単なものから、次第に高度なものへと変化することで高等な動物が生まれたのだとの確信を得て、そのような変化の起きる仕組みとして、次のような説明を示した。
 
* 動物がその生活の中でよく使う器官は、次第に発達する。逆に、はじめから存在する器官であっても、その生活の中で使われなければ、次第に衰え、機能を失う。このことは、我々の体でも起きることであり、自明のことと言ってよい
なお、ラマルクによる進化論の内容は用不用説だけではなく、用不用説の前提として「 生物は単純なものから複雑なものへと連続的に進化する」という仮説も提唱していた<ref name=":0">{{Cite news|title=皇帝ナポレオンにも反抗した「進化学者ラマルク」をご存知か|newspaper=[[ブルーバックス]]|date=2018-11-06|url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58217|author=[[更科功]]|accessdate=2022-01-14|publisher=[[講談社]]}}</ref>。この説に関しても現代では支持されていない(単純から複雑へとは限らない)が、「当時としては[[科学的方法|科学的]]・先進的な理論だった」として評価されることがある<ref name=":0">{{Cite news|title=皇帝ナポレオンにも反抗した「進化学者ラマルク」をご存知か|newspaper=[[ブルーバックス]]|date=2018-11-06|url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58217|author=[[更科功]]|accessdate=2022-01-14|publisher=[[講談社]]}}</ref>。
 
*そこで、彼はこのようにして生涯の間に身につけた形質(獲得形質)が、子孫に伝わるのだと考えたのである。野外では、多くの動物は一定の環境下で何千、何万年にもわたって世代を繰り返すから、世代ごとの蓄積は少しであっても、それが続くことで次第に大きな変化となると考えたわけである。
== 内容 ==
ラマルクは[[無脊椎動物]]の分類研究を元に、「生物は単純な構造から複雑なものへと連続的に進化してきた。それにより高等な動物が生まれた」と考えた<ref name=":0">{{Cite news|title=皇帝ナポレオンにも反抗した「進化学者ラマルク」をご存知か|newspaper=[[ブルーバックス]]|date=2018-11-06|url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58217|author=[[更科功]]|accessdate=2022-01-14|publisher=[[講談社]]}}</ref>。
 
よく[[キリン]]の首が引き合いに出される。キリンは[[ほ乳類]]の中にあって、他のものと比べて異様に首が長い。それを進化で説明しようとすれば、元は首が短かったと見るのが当然である。そこで、キリンの首が長いのは高い枝にある木の葉を食べようとして、いつも首を伸ばしていた。そのために次第に首が長くなり、大人になるまでには首が長く、強くなる。そのようなキリンが子供を生めば、生まれた子供にはその形質がわずかに伝わるので、親が生まれたときよりも、その子供の首は少しだけ長くなっている(はずだ)。キリンはそのような生活を何千年にもわたってアフリカのサバンナで繰り返していた。その結果長い年月の間に首が伸びたと考えるものである。
この進化の原理として、次のような仮説を提唱した。これが用不用説である。
 
彼の進化論は、生物側に変化の主体性があるのが特徴である。
* 動物がその生活の中でよく使う器官は、次第に発達する。逆に、はじめから存在する器官であっても、その生活の中で使われなければ、次第に衰え、機能を失う。
*このことは、我々の体でも起きることであり、自明のことと言ってよい。
*このようにして生涯の間に身につけた形質(獲得形質)が、子孫に伝わる。
*野外では、多くの動物は一定の環境下で何千、何万年にもわたって世代を繰り返すから、世代ごとの蓄積は少しであっても、それが続くことで次第に大きな変化となる。
 
=== 進化論自体ラマルク説への批判 ===
この用不用説の特徴は、「生物の進化においては、各個体による行動が形質変化の主体となる」と主張していることである。
ラマルクの進化論は多くの学者の注目を引きつつも、批判が多かったようである。特に、獲得形質の[[遺伝]]の可否については、すぐにさまざまな問題点が指摘された。特に有名な反論は、[[アウグスト・ヴァイスマン|ヴァイスマン]]が[[ネズミ]]を使って行った実験である。彼はネズミの尾を切り取り、それを育てて子を産ませ、その子ネズミもしっぽを切って育て、それを22世代にわたって繰り返し、ネズミの尾の長さに変化が生じなかったことを示した。
 
これに対して、用不用説を支持する者によるラマルク擁護派の反論は、「ネズミにとっては尾は必要な器官であるから、使わなかったのとは訳が違う」という理屈ものである。事実、ラマルクは自説の中で、怪我は獲得形質に含まれない旨の説明をしている。しかし、生物側でその区別「必要な器官」をどう区別するやってつくのかについて支持者は説明していできない。
本説においては、よく[[キリン]]の首が引き合いに出される。本説では次のように主張する。
 
この実験への批判としてもう一つ可能なのは、実験期間が短すぎる、というものである。せめて100年続ければ、何か結果が出たかも知れない。これは、進化に関する実験の難しさでもある。
* キリンは[[ほ乳類]]の中にあって、他のものと比べて異様に首が長い。それを進化で説明しようとすれば、元は首が短かったと見るのが当然である。
* そこで、キリンの首が長いのは高い枝にある木の葉を食べようとして、いつも首を伸ばしていた。そのために次第に首が長くなり、大人になるまでには首が長く、強くなる。
* そのようなキリンが子供を生めば、生まれた子供にはその形質がわずかに伝わるので、親が生まれたときよりも、その子供の首は少しだけ長くなっている(はずだ)。
* キリンはそのような生活を何千年にもわたってアフリカのサバンナで繰り返していた。その結果長い年月の間に首が伸びたはずだ。
 
ラマルクの用不用説は素朴でなじみやすいが、科学的説明としては問題も多く、その後そのままの形でこれを主張するものはいなかった。しかし、生物側に進化の主体性を求める主張は繰り返しあり、そのような主張を[[ネオ・ラマルキズム]]と呼ぶ。
== 論評 ==
 
[[チャールズ・ダーウィン]]の[[自然選択説]]が発表されたことで、進化論の正当性が認められ、進化論の中心はその後はずっとダーウィニズムと、その継承であるネオ・ダーウィニズムへと続くことになるが、その理論は完全に機械的で、その説明によれば、生物の進化は偶然にのみ左右されるように見える。そこに疑問を感じてネオ・ラマルキズムに近づくものがいるのも事実である。
=== 進化論自体への批判 ===
ラマルクによる進化論は多くの注目を引いたが、発表当時から多くの批判を受けた。これは用不用説に対する批判だけでなく、「生物は進化して姿を変えた」という理論自体に対しての批判もあった<ref name=":0">{{Cite news|title=皇帝ナポレオンにも反抗した「進化学者ラマルク」をご存知か|newspaper=[[ブルーバックス]]|date=2018-11-06|url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58217|author=[[更科功]]|accessdate=2022-01-14|publisher=[[講談社]]}}</ref>。
 
当時の西欧社会では、「すべての生物は[[神]]が今ある形のままに作ったもので、永遠に変化しない」とする[[創造論]]が支配的であった<ref name=":0">{{Cite news|title=皇帝ナポレオンにも反抗した「進化学者ラマルク」をご存知か|newspaper=[[ブルーバックス]]|date=2018-11-06|url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58217|author=[[更科功]]|accessdate=2022-01-14|publisher=[[講談社]]}}</ref>。ラマルクは創造論を公然と批判し、独自の進化論を提唱したために、保守的な創造論の支持者から攻撃を受けた<ref name=":0">{{Cite news|title=皇帝ナポレオンにも反抗した「進化学者ラマルク」をご存知か|newspaper=[[ブルーバックス]]|date=2018-11-06|url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58217|author=[[更科功]]|accessdate=2022-01-14|publisher=[[講談社]]}}</ref>。
 
[[フランス皇帝]]の[[ナポレオン・ボナパルト]]や著名な[[博物学|博物学者]]の[[ジョルジュ・キュヴィエ]]も創造論の信奉者であり、ラマルクと対立して妨害を行った<ref name=":0">{{Cite news|title=皇帝ナポレオンにも反抗した「進化学者ラマルク」をご存知か|newspaper=[[ブルーバックス]]|date=2018-11-06|url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58217|author=[[更科功]]|accessdate=2022-01-14|publisher=[[講談社]]}}</ref>。
 
=== 先進性に対する評価 ===
ラマルクは1809年の著書『動物哲学』の中で、次のように考えていた。
 
* 地球の表面で変わらないものは1つもない。長い時間が経てば、山も海も形を変える。すべてのものは変化する。
* 生命は複雑ではあるが、単なる物理的な現象であり、特別なものではない。
* 生きているとは、一定の秩序にしたがって物質が運動している状態のことである。
 
これに関しては、日本の[[分子生物学|分子古生物学者]]である[[更科功]]は[[2018年]]に「200年前のものとは思えないほど、現代的な考え方だ」「[[チャールズ・ダーウィン|ダーウィン]]による[[自然選択説]]の発表よりも以前とは思えないほど、先進的な考えだ」と評価している(ダーウィンはラマルクの理論を参考としていたという)<ref name=":0">{{Cite news|title=皇帝ナポレオンにも反抗した「進化学者ラマルク」をご存知か|newspaper=[[ブルーバックス]]|date=2018-11-06|url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58217|author=[[更科功]]|accessdate=2022-01-14|publisher=[[講談社]]}}</ref>。
 
=== 用不用説に対する批判 ===
用不用説における「獲得形質が[[遺伝]]する」と主張した部分については、当時からさまざまな問題点が指摘された。
 
有名な反論は、[[アウグスト・ヴァイスマン]]が[[ネズミ]]を使って行った実験である。彼はネズミの尾を切り取り、それを育てて子を産ませ、その子ネズミもしっぽを切って育て、それを22世代にわたって繰り返し、ネズミの尾の長さに変化が生じなかったことを示した。
 
これに対して、用不用説を支持する者による擁護は、「ネズミにとっては尾は必要な器官であるから、使わなかったのとは訳が違う」という理屈である。しかし、生物が「必要な器官」をどう区別するのかについて支持者は説明していない。
 
また、ラマルクの実験期間が短すぎることも批判の対象となった。
 
ラマルクの用不用説は単純でわかりやすいものではあったが、のちに[[チャールズ・ダーウィン|ダーウィン]]による[[自然選択説]]や、[[グレゴール・ヨハン・メンデル|メンデル]]による[[メンデルの法則|遺伝の法則]]の発表などを経て、現代では否定されている。
 
== 脚注 ==
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*[[ボールドウィン効果]]
*[[トロフィム・ルイセンコ]]
*[[ネオ・ラマルキズム]]
 
{{Normdaten}}