終止
終止(しゅうし)とは、音楽用語で、音楽の段落の終わりのことである。楽節と呼ばれる、おおむね4小節から8小節の長さのまとまりの終わりには、この終止が置かれる。終止とはいうものの、その終止感の大きさはさまざまであり、曲の終わる感じはしないが、少し区切りを感じる、というものも含まれる。なお、一般に終止形の語は、日本語では別の概念である。 以下、特に断りがない場合は、長調を例にして階名(いわゆる移動ド)で説明する。 また、日本の楽典では一般的ではないが、英語版Wikipedia(en:Cadence)に掲載されている終止形を各小見出しのその他の項に記す。
全終止
編集Vの和音(ソ・シ・レ)またはその派生和音(V7など)からIの和音(ド・ミ・ソ)に進行して終止するもの。
完全終止
編集Vの和音(ソ・シ・レ)またはその派生和音(V7など)からIの和音(ド・ミ・ソ)に進行して終止し、旋律が主音(ド)で終わるもの。両方の和音はいずれも転回形でない。完全な終止感が得られ、古典的な楽曲の最後に用いられる。また、大きな段落の終わりに用いられる。
不完全終止
編集Vの和音(ソ・シ・レ)またはその派生和音(V7など)からIの和音(ド・ミ・ソ)に進行して終止するが、どちらかまたは両方の和音が転回形であるか、旋律が主音で終わらないもの。完全な終止感が得られないため、古典的な楽曲の最後には用いられない。ある程度の終止感は欲しいが、継続する感じも必要な場合に使われる。
その他
編集- Evaded cadence(回避終止):属七の和音の第3転回形からIの和音の第1転回形への進行。
偽終止
編集V の和音(ソ・シ・レ)またはその派生和音(V7 など)からI以外の和音(典型的にはIIm(レ・ファ・ラ)、VIm(ラ・ド・ミ)、VI(ラ・ド♯・ミ))に進行して終止するもの。浮遊感を呼び起こすため弱い終止だとされる。聞く人に意外な印象を与えるので、偽終止の名がある。本来楽曲の終わりであるはずの所に、さらに曲を続けたいような場合に用いられることが多い。
とりわけ有名な例ではヨハン・ゼバスティアン・バッハの「パッサカリアとフーガ ハ短調」 (BWV582) のコーダにおいての使用である。聴衆にIの和音への解決を期待させながら、印象的なフェルマータで聴衆を完全に煙に巻き、D♭M の第一転回形(♭II - ナポリの六度)へ偽終止させている。意味深長なポーズに続いて、「本当の」エンディングが始まるのである。
変終止
編集IVの和音(ファ・ラ・ド)などからIの和音(ド・ミ・ソ)に進行して終止するもの。サブドミナントからトニックに至るため、全終止と比べやや柔らかい印象を与える。あまり十分な終止感を与えないが、古典的な楽曲の最後の用いられることがある。この場合、完全終止の後にさらにアーメン終止を付け足すこともよく行われる。賛美歌の最後の「アーメン」がこの和音で歌われることが多いことから、アーメン終止の名がある。変格終止、プラガル終止(プラガルは教会旋法の変格(羅plagalis)に由来する語。語源はギリシャ語で「横、斜め」を意味するplagios)とも言う。これに対し、完全終止、不完全終止、偽終止を正格終止と呼ぶ。 ショパン、ドビュッシーが多用した。
その他
編集- Minor plagal cadence:IVの和音の第3音を半音下げた和音(ファ・ラ♭・ド)からIの和音(ド・ミ・ソ)に進行して終止するもの。完全変終止とも。
- Moravian cadence(モラヴィア終止):四の和音に第6音が付加された和音からIの和音の第1転回形への進行(IVadd6 → I6)。レオシュ・ヤナーチェクらが使用した。
半終止
編集Vの和音(ソ・シ・レ)で終止するもの。ある程度の区切り感はあるが、終止感は全くない。小さな段落の終わりに用いられる。稀に下属和音であるIVの和音(ファ・ラ・ド)で終止することもある。これをIVの和音の半終止(Plagal half cadence)として、半終止の仲間に入れて考えることがある。
その他
編集- Phrygian half cadence(フリギア半終止):短調での、Ⅳの和音の第1転回形からIの和音の基本形への進行。
- Lydian cadence(リディア終止):短調での、Ⅳの和音の第1転回形を半音上げた和音からIの和音の基本形への進行。
- Burgundian cadence(ブルゴーニュ終止):上声に並達4度が用いられる。ブルゴーニュ楽派が多用した。