行列表示

量子力学において、行列表示（ぎょうれつひょうじ）とは、演算子を行列、状態ベクトルを縦ベクトルとして計算する方法である。

実際に計算機を用いて計算を行う場合は、微積分などの演算子を使う形式よりも行列表示の方が扱いやすい。

演算子の行列要素

任意の完全正規直交系$\left\{|1\rangle ,\dotsc ,|m\rangle ,\dotsc ,|n\rangle ,\dotsc \right\}$をひとつ選ぶと、これを用いて演算子と状態ベクトルは以下のように展開できる。

${\begin{aligned}{\hat {A}}&={\hat {1}}{\hat {A}}{\hat {1}}=\sum _{m,n}|m\rangle \langle m|{\hat {A}}|n\rangle \langle n|=\sum _{m,n}|m\rangle A_{mn}\langle n|\\|\psi \rangle &={\hat {1}}|\psi \rangle =\sum _{n}|n\rangle \langle n|\psi \rangle =\sum _{n}\psi _{n}|n\rangle \end{aligned}}$

この$\langle m|{\hat {A}}|n\rangle \ =A_{mn}\$を、「演算子${\hat {A}}\$の行列要素」と呼ぶ。

行列表示での計算

このように行列表示をすれば、「状態ベクトル$|\psi \rangle$に演算子${\hat {A}}\$を作用して、新たな状態ベクトル$|\psi '\rangle$を得た」

${\hat {A}}|\psi \rangle =|\psi '\rangle$

ということは、「行列$(A_{mn})$と縦ベクトル$(\psi _{n})$のかけ算で、新たな縦ベクトル$(\psi '_{n})$を得た」

$\sum _{n}\ A_{mn}\psi _{n}=\psi '_{m}$

あるいは

${\begin{pmatrix}A_{11}&A_{12}&\cdots &&\\A_{21}&\ddots &&&\\\vdots &&A_{mn}&&\vdots \\&&&\ddots &\\&&\cdots &&\\\end{pmatrix}}{\begin{pmatrix}\ \psi _{1}\\\ \vdots \\\ \psi _{n}\\\ \vdots \\\end{pmatrix}}={\begin{pmatrix}\ \psi '_{1}\\\ \vdots \\\ \psi '_{m}\\\ \vdots \\\end{pmatrix}}$

と表現できる。

参考文献

• Attila Szabo; Neil S. Ostlund 著、大野公男; 望月祐志; 阪井健男 訳『新しい量子化学―電子構造の理論入門』東京大学出版会、1987年。ISBN 978-4130621113。 
• 清水明『新版 量子論の基礎―その本質のやさしい理解のために―』サイエンス社、2004年。ISBN 4-7819-1062-9。