(ねずみ)は、村上春樹長編小説『僕と鼠もの』(鼠三部作) シリーズに登場する「僕」の友人[1][2]

解説 編集

大学に入った三年前の春に「僕」と知り合う。何故知り合ったのか記憶にないが、「僕」は朝4時過ぎに泥酔して鼠の黒塗りのフィアット600に乗り合わせ、時速80kmで公園の石柱にぶつかり、車は大破するが2人とも怪我ひとつしなかった。

金持ちの境遇に我慢できず逃げ出したがっている。大学を中退し、「ジェイズ・バー」に通い、1970年の一夏中かけて「僕」と二人で25メートル・プール一杯分のビールを飲み干し、床いっぱいに5センチの厚さにピーナツの殻をまきちらした。セックス・シーンがなく、登場人物は誰一人として死なない小説を書こうとしている。(以上「風の歌を聴け」) [3]

1973年の夏、設計事務所に勤める27歳の「女」と逢瀬を重ね、「ジェイズ・バー」に通い続けるが、散々ためらった後、ジェイに「街」から出ていくことを告げる。(以上「1973年のピンボール」) [4][5]

1977年、青森から原稿用紙200枚ほどの小説を僕に送りつける。

1978年、北海道から僕に羊の写真を送りつけ、それを人目につくところに出してほしいと頼む。「僕」はPR雑誌の広告にその羊の写真を使うことで右翼の大物(先生)にまつわる「羊を巡る冒険」に巻き込まれ、鼠は死に掛けた「先生」から抜け出し、鼠を宿主にしようとした「羊」に憑かれたまま自殺する。(以上、「羊を巡る冒険」) [6]

「鼠」という名前の由来は、明里千草によれば、映画真夜中のカーボーイでダスティ・ホフマンが演じたホームレス、"Ratso"(ラッツオ)から来ている。(『村上春樹の映画記号学』明里千草(2008))

脚注 編集

  1. ^ デュイスシロ・シャルル マルタ「村上春樹の初期作品について : 背景も視野に入れながら」『岩手大学大学院人文社会科学研究科研究紀要』第17巻、岩手大学大学院人文社会科学研究科、2008年7月、69-86頁、CRID 1390290699641869056doi:10.15113/00013080 
  2. ^ 田口真弥「村上春樹初期三部作における<僕>の人物像:―『羊をめぐる冒険』を中心に―」、兵庫教育大学、2010年、hdl:10132/3842 
  3. ^ 太田鈴子「村上春樹『風の歌を聴け』論 -内面を語るまいとする自我-」『學苑』第879巻、光葉会、2014年1月、59-66頁、CRID 1050001202933967360ISSN 13480103 
  4. ^ 新宮崇史、「『1973年のピンボール』論一 「僕」 と 「鼠」の決裂―」 武庫川女子大学 文学部日本語日本文学科 平成28年度修士課程2年研究発表会
  5. ^ 岡野進「MURAKAMI HARUKI RELOADED III 「1973年のピンボール」」『言語文化論究』第27巻、九州大学大学院言語文化研究院、2011年10月、1-15頁、CRID 1390009224763866496doi:10.15017/21783hdl:2324/21783ISSN 13410032 
  6. ^ 鄭秀鎮「村上春樹『羊をめぐる冒険』における部分と全体」『言語態』第16巻、言語態研究会、2017年3月、57-78頁、CRID 1390855511137158784doi:10.15083/0002004088hdl:2261/0002004088ISSN 13487418