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2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル

化合物
DPPHから転送)

2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル[読み疑問点](略称:DPPH)は、有機化合物の一つ。安定な遊離ラジカル分子から成る暗色の結晶粉末である。DPPH は抗酸化能アッセイ[1]などのラジカルの関与する化学反応と、電子スピン共鳴 (EPR) 信号の位置および強度の標準物質の二つの大きな実用・研究双方での用途がある。

2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル
DPPH の構造式<
DPPH分子の空間充填モデル{{{画像alt1}}}
識別情報
略称 DPPH
CAS登録番号 1898-66-4 チェック
PubChem 74358
ChemSpider 2016757 チェック
特性
化学式 C18H12N5O6
モル質量 394.32 g/mol
外観 Black to green powder, purple in solution
密度 1.4 g/cm3
融点

135 °C, 408 K, 275 °F ((decomposes))

への溶解度 insoluble
危険性
安全データシート(外部リンク) MSDS
NFPA 704
NFPA 704.svg
1
0
0
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

物性と応用編集

DPPH は対称性融点の異るいくつかの結晶をもつ。市販されている粉末は 130 °C 付近で融ける複数の相の混合物である。DPPH-I(融点 106 °C)は直方晶系、DPPH-II(融点 137 °C)はアモルファス、DPPH-III(融点 128–129 °C)は三斜晶系である[2]

DPPH は良く知られたラジカルであり、他のラジカルの捕捉剤(スカベンジャー)でもある。したがって、DPPH を加えて反応速度が低下する反応にはラジカルが関与していると言える。520 nm 付近に強い吸収帯を持つため、DPPHラジカル溶液は深紫色を呈し、中性化により無色または白っぽい黄色に変化する。この性質から反応を可視化することができ、また520 nm における吸光もしくは EPR 信号からラジカルの初期濃度とその変化を測定することもできる[3]

 

DPPH は効率的なラジカル捕捉剤であるため、強力なラジカル重合阻害剤でもある[4]

 
DPPH によるポリマー鎖 R の重合阻害

安定かつ特性のよく知られたラジカル源として、DPPH は EPR 信号の位置 (gマーカー) および強度の標準物質として伝統的かつおそらく最も普及したものである。新鮮な試料を用いればラジカル数を計数することができ、分裂因子を g = 2.0036 で校正することができる。DPPH の信号は通常一つのスペクトル線に集中し、強度もマイクロ波強度の自乗根に対して広い範囲で線形にスケールするため使い勝手が良い。DPPH ラジカルの希薄な性質(41原子あたり1不対スピン)の結果として、linedeprecated[訳語疑問点]は比較的小さい (1.5–4.7 Gauss)。 linedeprecated[訳語疑問点]はしかし、溶媒分子が結晶中に残っており、高周波 EPR (~200 GHz) で測定すると大きくなり、若干の g 異方性が検出できる[5][6]

DPPH は通常は常磁性固体であるが、0.3 K 付近の極低温まで冷却すると反強磁性状態に遷移する。この現象は1963年アレクサンドル・プロホロフにより初めて報告された[7][8][9][10]

出典編集

  1. ^ DPPH antioxidant assay revisited.
  2. ^ Kiers, C. T. (1976年). “The crystal structure of a 2,2-diphenyl-1-picrylhydrazyl (DPPH) modification”. Acta Crystallographica Section B 32 (8): 2297. doi:10.1107/S0567740876007632. 
  3. ^ Mark S. M. Alger (1997). Polymer science dictionary. Springer. p. 152. ISBN 0-412-60870-7. https://books.google.com/books?id=OSAaRwBXGuEC&pg=PA152. 
  4. ^ Cowie, J. M. G.; Arrighi, Valeria (2008). Polymers: Chemistry and Physics of Modern Materials (3rd ed.). Scotland: CRC Press. ISBN 0-8493-9813-4. 
  5. ^ M.J. Davies (2000). Electron Paramagnetic Resonance. Royal Society of Chemistry. p. 178. ISBN 0-85404-310-1. https://books.google.com/books?id=ywjuZo9UackC&pg=PA178. 
  6. ^ Charles P. Poole (1996). Electron spin resonance: a comprehensive treatise on experimental techniques. Courier Dover Publications. p. 443. ISBN 0-486-69444-5. https://books.google.com/books?id=P-4PIoi7Z7IC&pg=PA443. 
  7. ^ A. M. Prokhorov and V.B. Fedorov, Soviet Phys.
  8. ^ Teruaki Fujito (1981年). “Magnetic Interaction in Solvent-free DPPH and DPPH–Solvent Complexes”. Bulletin of the Chemical Society of Japan 54 (10): 3110. doi:10.1246/bcsj.54.3110. http://www.journalarchive.jst.go.jp/english/jnlabstract_en.php?cdjournal=bcsj1926&cdvol=54&noissue=10&startpage=3110. 
  9. ^ Stig Lundqvist (1998). “A. M. Prokhorov”. Nobel lectures in physics, 1963-1970. World Scientific. p. 118. ISBN 981-02-3404-X. https://books.google.com/books?id=uywFzcv3Tv8C&pg=PA118. 
  10. ^ Aleksandr M. Prokhorov, The Nobel Prize in Physics 1964