IEEE1888は、次世代BEMSスマートグリッド向けに開発され、2011年に国際標準化されたオープンな通信規格である。正式名を UGCCNet (Ubiquitous Green Community Control Network)と呼ぶ。この規格の開発には、日本の東大グリーンICTプロジェクト[1]が関与しており、日本では、FIAP(ふぃあっぷ: Facility Information Access Protocol) と呼ぶこともある。

IEEE1888は、あらゆるセンサ情報をインターネット・オンライン化することだけが目的ではない。BEMSなどに関係する様々な情報システム(アプリケーション・ソフトウェアやクラウド・サービス)をベンダーの枠を超えて連携可能にすることが目的となっている。そのため、IEEE1888には、HTTPとXMLによる通信方式が採用されている。また、データ保管(共有)機能が提供できるように設計されている。

組込みコンピュータへの実装も進んでおり、スマート・シティに関わる各種M2Mクラウド(Machine-to-Machineクラウドコンピューティング)分野への応用も始まっている。

Z-Wave[2]ECHONET[3]などのHEMS規格が家庭内ネットワークを主に想定しているのに対し、IEEE1888は、(1)家庭外との通信、(2)商業施設やオフィスなどの電力・施設管理、をターゲットとしている。

なお、IEEE1888開発において重要な基礎技術(ソフトウェア、開発ツール、マニュアル等)は、積極的に開発・開示されている。

2015年3月 ISO/IECの国際標準としても承認された (ISO/IEC/IEEE 18880[4])。

アーキテクチャ

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IEEE1888 システムアーキテクチャ

IEEE1888では、GW(ゲートウェイ)、Storage(ストレージ)、APP(アプリケーション)、Registry(レジストリ)と呼ばれる機能が定義されている。このうち、GW、Storage、APPは、IEEE1888コンポーネントと呼ばれ、WRITE、FETCH、TRAPと呼ぶ3種類の通信手順を実装する。残りのレジストリは、分散配置されたIEEE1888コンポーネントを管理する役割を持ち、REGISTRATION、LOOKUPと呼ぶ2種類の通信手順を実装する。

ゲートウェイ(GW)

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GWの配下には、Lonworks[5]BACnet[6]Modbus[7]ZigBeeSNMP1-Wire、独自回路、CSVファイルなど、センサやアクチュエータへのアクセス網(フィールドバス)が接続される。GWは、このような様々なアクセス網の規格の差異を吸収し、センサデータをIEEE1888の通信方式で、インターネット上で扱えるようにする。

ストレージ(Storage)

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Storageは、GWを使ってインターネット・オンライン化されたデータを長期間に渡って蓄積する役割を果たす。これにより、例えば、昨年や一昨年の電力消費状況であっても、後に、他のアプリケーションからIEEE1888の通信手順で参照することができる。また、Storageはデータを共有する場としても使われる。GWから集められたデータの共有、アプリケーションが処理したデータの共有などがStorageによって実現される。すなわち、データベースと似た役割を持つ。

アプリケーション(APP)

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APPは、その応用方法によって様々な役割および実装形態がありえる。例えば、見える化アプリケーションの場合、Storageから最新値もしくは特定の履歴データを読み出して表示することがAPPの役割となる。そして,そのようばAPPであれば、Webサーバや表示端末のようなものに実装される。一方、データの加工分析アプリケーションの場合、生データの履歴をStorageから読み出して、それを統計的に処理した後、再びStorageに書き戻す。この場合は、バッチプログラムとして実装されることになる。

通信手順

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IEEE1888通信の例

GW、Storage、APPは、それぞれサーバになることもできるし、クライアントになることもできる。例えば、Storageがサーバとなり、GWがクライアントとなって、GWからStorageに(WRITE手順で)データを送り付けるという実現形態がある。

WRITE手順は、クライアント側からサーバ側に、データを能動的に送りつける方式である。例えば、NAT下にあるGW(クライアントとして動作)から、グローバル・インターネット上にあるStorage(サーバとして動作)にデータを送り付けるときに使われる。

FETCH手順は、クライアント側からサーバ側に問い合わせ、サーバからデータを抜き出してくる方式である。この問い合わせの際には、対象とするデータ範囲を指定する。ここで、指定した範囲のデータ量はしばしば多量になるため、FETCH方式にはデータ量に関するスケール性が備わるような工夫がしてある。例えば、見える化のグラフ画像を生成するソフトウェア(クライアントとして動作)が、Storage(サーバとして動作)からデータを読み出すときに使われる。

TRAP手順は、クライアント側からサーバ側に事前に興味対象を登録しておくことで、サーバ側で観測された変化を、クライアント側に通知する方式である。FETCH方式が、蓄積されたデータの読み出しに用いられるのに対し、TRAPは、変化するデータの通知に使われる。一方的に送り付けるWRITE方式と違い、TRAPでは、動的に送り先を設定できるようになっている。

既存のM2M規格との関係性

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ビルの設備・エネルギー監視には、1990年代より、Modbus、BACnet、Lonworksなどのローカルな監視制御ネットワーク規格が用いられている。IEEE1888は、これらのローカルな監視制御機能を、リモート(クラウド)に接続することを可能にする。これによって、ビル内の専用コンピュータが組込みシステム化され、オペレータは、場所を問わず、通常のWebブラウザ(スマートフォンやタブレット端末を含む)があれば業務を行うことができるようになる。

既存のM2M規格との比較 (ビル設備管理の分野において)
IEEE1888 Lonworks BACnet/IP Modbus ZigBee
主要な用途 設備・エネルギー管理 ビルオートメーション ビルオートメーション 設備状態監視 センサ・アクチュエータの無線化
システムの規模 地球規模/都市規模の展開 × × × ×
中/大規模ビル内の展開 × ×
小規模ビル内の展開 ×
フロア/部屋内の展開
データ蓄積 データサーバでの蓄積 △(アプリとして各自で開発) △(アプリとして各自で開発) △(アプリとして各自で開発) △(アプリとして各自で開発)
末端デバイスでの蓄積 × × ×
蓄積しない運用
利用する技術(下位層) HTTP 2本線(ツイストペア) UDP RS485 or TCP IEEE 802.15.4
電文形式 XML Binary Binary Binary 自由(Binary/Text/XML/etc...)
センサアクチュエータ・データモデル 個別用途向け 用途ごとに設計・実装(エンジニアリング)する or 用途ごとに標準形式を別途作成する 標準形式はある程度定義されているが、LonMakerにより用途ごとに別途、詳細を設計・実装する必要あり 基礎形式はある程度定義されているが、加えて用途ごとに別途、設計・実装(エンジニアリング)する必要あり 用途ごとに設計・実装(エンジニアリング)する 用途ごとに設計・実装(エンジニアリング)する or 定義されている用途向けの標準プロファイルを利用する
時系列データ × × ×
通信遅延 ビル内通信: 1ms~100ms インターネット通信: 100ms~5s ビル内: 1ms~100ms ビル内: 1ms~100ms ビル内通常: 1ms~100ms 通信混雑時: 1~60s フロア内: 10ms~1s
時刻同期 一般的な方式を利用する(NTP, GPS, 3G, ...) 通常は時刻同期は行わない 通常は時刻同期は行わない(一部独自の方式により行う) 通常は時刻同期は行わない 通常は時刻同期は行わない(一部行う)

導入事例

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東京大学では、本郷キャンパス、駒場Ⅰキャンパス、駒場Ⅱキャンパス、柏キャンパス、白金キャンパスにIEEE1888のGWをそれぞれ導入し、特別高圧を含む受電設備の計測データを、オンラインでリアルタイムに管理している。電力会社から受電する66kVの他、キャンパス内に張り巡らされた6600Vの電力線が個別に最速1分間隔で計測されている。ビル単位での計測も含めると約400系統の電力線がこのシステムの管理対象になる。上記、5キャンパスの電力需要の合計は、5万キロワットを超える(夏場)。

東京大学の電力見える化サービスは、キャンパス毎の電力消費量を表示しているが、実際には、エリア単位・建物単位での電力消費量も把握できるようになっている(詳細なデータは学外には公開されていない)。

開発環境

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IEEE1888SDKの構成図

IEEE1888のソフトウェア開発キット(SDK)、実装参照ソースコード、プロトコルテスター が、東大グリーンICTプロジェクトのWebページにて無償で公開されていて、自由にダウンロードすることができる。SDKは、仮想マシン(VMware Player)イメージによって提供されており、インストール方法も詳しく紹介されている。SDKに同梱されているドキュメントには、C#、Java、PHP、C言語によるサンプルプログラムが掲載されており、これらを参照することによって、IEEE1888の通信スタックをどのように実装すればよいかが、事細かにわかるようになっている。

 
IEEE1888通信ボード

またIEEE1888は、Arduino(+Ethernetシールド)や、mbedプラットフォームのような小型で安価な組込みコンピュータにも実装され、そのライブラリも公開されている[8][9][10]。東京大学で開発された IEEE1888通信ボードは、一般向けに販売されている。

外部リンク

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参考文献

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  1. ^ 東大グリーンICTプロジェクト ホームページ
  2. ^ Z-wave Alliance ホームページ
  3. ^ ECHONET コンソーシアム
  4. ^ ISO/IEC/IEEE 18880
  5. ^ Lonworks: local operating networks for building automations
  6. ^ BACnet: a data communication protocol for building automation and control networks
  7. ^ Modbus ホームページ
  8. ^ 落合秀也,"IEEE 1888対応スマート・タップの設計"、デジタルデザインテクノロジ誌,CQ出版社,vol.12, pp.116-127, 2012年.
  9. ^ 落合秀也,井上博之,"ネットワーク温度&照度計 後編 Ethernetシールド付きArduinoにアップロードのためのライブラリを搭載",トランジスタ技術,CQ出版社,vol.49, no.2,pp.189--195, 2012年2月.
  10. ^ IEEE1888(FIAP)をmbedで使う