Wikipedia:外来語表記法/セルビア・クロアチア語

この文書は、セルビア・クロアチア語、ならびにセルビア語クロアチア語ボスニア語モンテネグロ語などのセルビア・クロアチア諸語に由来する外来語を、日本語の仮名文字で表記する際の参考資料として作成されたガイドラインです。特定の表記を強制するものではありません。もちろん、編集は大胆に。

概要 編集

セルビア・クロアチア諸語はスラヴ語派に属しており、ロシア語やブルガリア語、チェコ語など他のスラヴ語と似た部分が多く見られます。しかしながら、よく似ているが故に他のスラヴ語と取り違えられ、日本語での表記にぶれが生ずるひとつの原因ともなっています。ここでは、そうした表記ぶれを少なくし、セルビア・クロアチア諸語を分かりやすく仮名に転写するための、一つの指針を示します。

原語に関して 編集

原語表記について 編集

キリル文字を使用する場合、ラテン文字表記を併記するとより分かりやすいですが、必ずしも必要ではありません。 表記に際しては、正しく表示されるように{{lang}}タグの使用が推奨されます。

例1:「{{lang|sh|Карађорђевић / Karađorđević}}」 → 「Карађорђевић / Karađorđević」(カラジョルジェヴィチ家
例2:「{{lang|sr|Београд}}」 → 「Београд」(ベオグラード
例3:「{{lang|hr|Šibenik}}」 → 「Šibenik」(シベニク

言語コードはセルビア・クロアチア語が「sh」、セルビア語は「sr」、クロアチア語は「hr」、ボスニア語は「bs」です。

  • セルビア・クロアチア語ではキリル文字とラテン文字の両方を標準としています。キリル文字、ラテン文字のどちらを使用してもかまいません。
  • クロアチア語とボスニア語ではラテン文字を標準としています。ラテン文字で表記してください。
  • セルビア語とモンテネグロ語ではキリル文字を標準としていますが、ラテン文字による表記も広く行われています。キリル文字で表記することが望ましいですが、ラテン文字による表記もできます。

方言と標準形 編集

セルビア・クロアチア諸語にはさまざまな方言がありますが、その土地固有の方言について基本的には言及する必要はありません。標準形を使用してください。

セルビア・クロアチア語には、クロアチア語の母体となった西部標準形と、セルビア語の母体となった東部標準形があります。必要に応じて、どの標準形を使用してもかまいません。

仮名転写に関して 編集

セルビア・クロアチア諸語の大原則は、話すとおりに書き、書いたとおりに話すです。そして、それを日本語に転写する際にも、文字の書かれている通りに転写します。また、日本語表記には片仮名を用います。なお、日本語への転写は、厳密に原音を表記したものとは異なるということを念頭に入れておく必要があります。

  • 慣習によって、原音とはあまり似ていない表記が定着していることもあります。基本的には、慣習に基づく表記を優先してください。必要に応じて、原音に近い表記を併記すると、より親切です。
例: ゴラン・イワニセビッチGoran Ivanišević)、より原音に近い表記では「ゴラン・イヴァニシェヴィッチ」
  • 長音記号「ー」は、入れても入れなくてもかまいません。長音記号が入っているところは、強勢が置かれていると見なされるため、強勢のないところには長音記号を入れるべきでありません
  • 促音記号「ッ」は、人名の姓に見られる接尾語「-ić」の転写において頻繁に使用されます。慣習に従うことを第一優先とし、使用してもしなくてもかまいません。また、人名の「-ić」以外においては、使用しないことが推奨されます
例1: パヴレ・カラジョルジェヴィチPavle Karađorđević
例2: ゾラン・ジンジッチZoran Đinđić

人名 編集

  • 慣習がある場合、慣習に基づいたものを優先してください。必要に応じて、より原音に近いものを併記するとより親切です。
  • 表記は「名・姓」とし、名と姓の間は全角中黒「・」で区切って下さい。
  • ハイフンがある場合は、ハイフンは全角等号「=」で表記してください。

地名 編集

例: ウルツィニ(セルビア語:Ulcinj / アルバニア語ではウルチニ Ulqini
  • クロアチアにおいてはクロアチア語を優先し、必要があれば他言語を併記します。
  • セルビア、モンテネグロにおいてはセルビア語を優先し、必要があれば他言語を併記します。
  • ボスニア・ヘルツェゴビナでは、セルビア語、クロアチア語、ボスニア語の3言語の対等が求められています。しかしながら、同国がボスニア・ヘルツェゴビナ連邦スルプスカ共和国によって実質的に分断されている現状を鑑み:
  • ウィキペディア日本語版では、コソボは独立国と同様に扱われています。コソボの地名についてはセルビア・クロアチア語を採用する必要はありません。
例: ペヤ(アルバニア語:Peja / Pejë、セルビア語ではペーチ:Пећ / Peć

企業名 編集

  • 日本に支社がある場合は、支社が用いている表記を尊重して下さい。
  • 原則として、セルビア・クロアチア諸語での正式な社名を優先して下さい。但し、日本で格別別言語名で定着している場合はその限りではありません。

その他 編集

  • 人名・地名が元になっているもの(航空機名、艦船名など)は、元の人名・地名に合わせるか、少なくとも関連が容易にわかる表記を選んで下さい。

仮名転写方法 編集

次の表に従って片仮名に転写することができます。

子音 編集

有声音 無声音 転写方法
(単独)は後ろに母音を伴わない場合
キリル文字 ラテン文字 キリル文字 ラテン文字
Б б B b П п P p それぞれ、バ行音およびパ行音で転写します。
(単独)ブ、プ
ボリス・タディッチBoris Tadić
ポドゴリツァPodgorica
Д д D d Т т T t それぞれ、ダ行音およびタ行音で転写します[1]
(単独)ド、ト[2]
ドゥブロヴニクDubrovnik
トロギルTrogir
Г г G g К к K k それぞれ、ガ行音およびカ行音で転写します。
(単独)グ、ク
ゴラン・ユリッチGoran Jurić
コトルKotor
Дс дс Ds ds[3] Ц ц
Тс тс
C c
Ts ts
[4]
それぞれ、ザ行音およびツァ行音で転写します。
(単独)ズ、ツ

ツェツァCeca
Џ џ Dž dž[5] Ч ч Č č それぞれ、ジャ行音およびチャ行音で転写します。
(単独)ジュ、チュ あるいはジ、チ[6]
レフィク・シャバナジョヴィッチRefik Šabanadžović
チャチャクČačak
Ђ ђ Đ đ[7] Ћ ћ Ć ć それぞれ、ジャ行音およびチャ行音で転写します。
(単独)ジ、チ[8]
ゾラン・ジンジッチZoran Đinđić
チェヴァプチチĆevapčići
Ф ф F f ファ行音で転写します。
(単独)フ
フラニョ・トゥジマンFranjo Tuđman
З з Z z С с S s それぞれ、ザ行音およびサ行音で転写します。
(単独)ズ、ス
ザグレブZagreb
スティエパン・メシッチStjepan Mesić
Ж ж Ž ž Ш ш Š š それぞれ、ジャ行音およびシャ行音で転写します。
(単独)ジュ、シュ または ジ、シ[6]
ジェリコ・ラジュナトヴィッチŽeljko Ražnatović
シベニクŠibenik
Х х H h ハ行音で転写します。
(単独)フ
フヴァルHvar
М м M m マ行音で転写します。
(単独)ム または ン
モスタルMostar
Н н N n ナ行音で転写します。
(単独)ン
ニシュNiš
Њ њ Nj nj[5] ニャ行音で転写します。
(単独)ニ[8]
ズレニャニンZrenjanin
В в V v ヴァ行音で転写します[9]
(単独)ヴ
ヴォイスラヴ・コシュトゥニツァVojislav Koštunica
Ј ј J j ヤ行音で転写します[10]
(単独)イ
ヤドランカJadranka
Л л L l ラ行音で転写します。
(単独)ル
ルカ・モドリッチLuka Modrić
Љ љ Lj lj[5] リャ行音で転写します。
(単独)リ[8]
ムリェトMljet
Р р R r ラ行音で転写します。
(単独)ル
ラドヴァン・カラジッチRadovan Karadžić
  1. ^ di、tiをジ、チとしたり、dja、tjaをジャ、チャとしてはいけません。また、dje、tjeなどはディエ、ティエのようにしてください。
  2. ^ d、tは、後ろに母音を伴わない場合はそれぞれド、トとします。
  3. ^ dsは例外的に2文字でひとつの発音になります。発音はzと同様です。例:ベオグラズキBeogradski、ベオグラードの)
  4. ^ tsは例外的に2文字でひとつの発音になります。発音はcと同様です。例:フルヴァツカHrvatska、クロアチア)
  5. ^ a b c njljはそれぞれ1文字と見なされます。
  6. ^ a b čžšは、後ろに母音を伴わない場合にイ段、ウ段のどちらもよく使われますが、ウ段がより望ましいです。
  7. ^ ラテン文字表記がđではなくdjとなっている場合にキリル文字表記がдјだとђの発音にはならないことに注意してください。例:サシャ・ズディエラルSaša Zdjelar
  8. ^ a b c đćnjljは、後ろに母音を伴わない場合は常にイ段で転写されるべきです。
  9. ^ vjeなどはヴィエのようにしてください。例:ヴィエコスラヴ・シュクリニャルVjekoslav Škrinjar
  10. ^ 他の子音から続く場合は、拗音のようにしてください。例:ミリャナ・マルコヴィッチMirjana Marković

母音 編集

キリル文字 ラテン文字 転写方法
А а A a ア段で転写します。 アリヤ・イゼトベゴヴィッチAlija Izetbegović
Е е E e エ段で転写します。 ベオグラードBeograd
И и I i イ段で転写します。 イリジャIlidža
О о O o オ段で転写します。 オパティヤOpatija
У у U u ウ段で転写します。 ウスタシャUstaša

気をつけるべき点 編集

セルビア・クロアチア語の文字体系は、ヴク・カラジッチによる大原則「話すとおりに書き、書いたとおりに話す」に従ったものです。以下に、他のスラヴ諸語との取り違えなとによって、間違いやすい点を挙げます。

有声化・無声化 編集

セルビア・クロアチア語では、ロシア語やブルガリア語などとは異なり、仮名転写する際に有声化・無声化を気にする必要はありません。

  • 語末の子音は無声化されません。
例:ベオグラードBeograd)、ザグレブZagreb
  • 子音連続による有声化・無声化は、表記に反映されます。
例:スルビヤSrbija、セルビア)、スルプスカ共和国Republika Srpska、セルビア人共和国)
  • 外来語などの影響による、有声子音と無声子音の連続についても、表記どおりに転写します。
例:アリヤ・イゼトベゴヴィッチAlija Izetbegović

v音の取り扱い 編集

v音はf音と対になる有声子音とはみなされず、常に有声音であり、それに従って転写します。

例:スラヴコ・クヴァテルニクSlavko Kvaternik)、ヴォイスラヴ・コシュトゥニツァVojislav Koštunica

関連項目 編集