ニホンウサギコウモリ(Plecotus sacrimontis)は、翼手目ヒナコウモリ科ウサギコウモリ属に分類されるコウモリ。

ニホンウサギコウモリ
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 翼手目 Chiroptera
: ヒナコウモリ科 Vespertilionidae
: ウサギコウモリ属 Plecotus
: ニホンウサギコウモリ
P. sacrimontis
学名
Plecotus sacrimontis
Allen, 1908[1][2][3]
和名
ウサギコウモリ[2]
ニホンウサギコウモリ[4]
英名
Japanese long-eared bat[2]

分布 編集

日本北海道本州四国)、千島列島[1]。以前は九州で発見例がなかったが、2010年に大分県(2012年にも同じ場所・2013年には県内の別の場所で)で本種と思われるウサギコウモリ類が発見され、後にこの個体の飛膜片のミトコンドリアDNAシトクロムbの分子系統推定でも本種であるという解析結果が得られた[5]

模式標本の産地(基準産地・タイプ産地・模式産地)は富士山[3]

特徴 編集

ウサギのような大きな耳をもち、頭よりも耳が大きい。これが和名の由来にもなっている。

主に灰色であるが、濃い色と薄い色の2種類が知られている。

分類 編集

以前はウサギコウモリが日本にも分布する、もしくは日本産は亜種ニホンウサギコウモリP. a. sacrimontisとされていた[6]。2006年に発表されたウサギコウモリ属のミトコンドリアDNA16S rRNAの分子系統推定から、ウサギコウモリを細分化(新種記載・亜種を独立種とするなど)する説が提唱された[3]。この系統推定では本種はシベリア南部からウスリー地方・サハリンなどに分布するP. kozroviや、モンゴル南部や内モンゴル自治区に分布するP. ogneviに近縁とする解析結果が得られている[3]

生態 編集

元々は樹洞をねぐらとして利用していたが、営巣木の減少に伴い洞窟や人工建造物も利用するようになったと考えられている[2]

主に樹洞を昼間の隠れ家とするが、洞窟や人工物も利用する[7]。初夏に出産する。出産保育コロニーのサイズは10-30個体が一般的とされるが、なかには150個体以上のコロニーも報告されている[8]。飛翔する昆虫を食べる[7]。超音波の周波数は30-50Hzで、他のコウモリと比べてあまり強くはない[7]

尾瀬の管理施設内に侵入した個体のものと思われる食べ残しから、カギバガ類やシャクガ類・メイガ類ヤガ類などの鱗翅目・カゲロウ類を食べていたとする報告例がある[9]

人間との関係 編集

営巣木の減少に伴う影響が懸念されている[2]近畿地方以西の愛媛県岡山県徳島県奈良県三重県和歌山県といった地域では報告例が限られている上に分布域も分断されていて、地域個体群の絶滅が懸念されている[2]

絶滅のおそれのある地域個体群環境省レッドリスト[2]

2002年(平成14年)3月に『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物 -レッドデータブック- 1 哺乳類』が作成された際には絶滅危惧II類(VU)であったが、2007年(平成19年)8月3日に発表されたレッドリスト(2007年版)では、生息確認地点数の増加と広範囲での分布確認を理由に、ランク外とされた[10]

出典 編集

  1. ^ a b c Maeda, K. & Sano, A. 2008. Plecotus sacrimontis. The IUCN Red List of Threatened Species 2008: e.T136664A4324871. doi:10.2305/IUCN.UK.2008.RLTS.T136664A4324871.en, Downloaded on 22 August 2018.
  2. ^ a b c d e f g 前田喜四雄 「近畿地方以西のウサギコウモリ」『レッドデータブック2014 -日本の絶滅のおそれのある野生動物-1 哺乳類』環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室編、株式会社ぎょうせい、2014年、98-99頁。
  3. ^ a b c d Friederike Spitzenberger, Petr P. Strelkov, Hans Winkler, Elisabeth Haring, "A preliminary revision of the genus Plecotus (Chiroptera, Vespertilionidae) based on genetic and morphological results," Zoologica Scripta, Volume 35, Issue 3, 2006, Pages 187-230.
  4. ^ 川田伸一郎, 岩佐真宏, 福井大, 新宅勇太, 天野雅男, 下稲葉さやか, 樽創, 姉崎智子, 横畑泰志世界哺乳類標準和名目録」『哺乳類科学』58巻 別冊、日本哺乳類学会、2018年、1-53頁。
  5. ^ 船越公威, 河合久仁子, 原田正史, 荒井秋晴, 渡邊啓文「九州で初めて生息が確認されたニホンウサギコウモリPlecotus sacrimontisについて」『霊長類研究』第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会 セッションID: C1-2, doi:10.14907/primate.29.0.94.1
  6. ^ 前田喜四雄 「シリーズ 日本の哺乳類 種名検討編, 日本産翼手目(コウモリ類)の和名再検討」『哺乳類科学』36巻 2号、日本哺乳類学会、1996年、237-256頁, doi:10.11238/mammalianscience.36.237
  7. ^ a b c 小宮輝之『フィールドベスト図鑑 日本の哺乳類』学習研究社、2002年3月29日。ISBN 4-05-401374-0 
  8. ^ 吉倉智子, 村田浩一, 三宅隆, 石原誠, 中川雄三, 上條隆志 「【原著論文】ニホンウサギコウモリの出産保育コロニーの構造と繁殖特性」『哺乳類科学』2009年 49巻 2号 p.225-235, doi:10.11238/mammalianscience.49.225
  9. ^ 吉行瑞子ニホンウサギコウモリPlecotus auritus sacrimontisの食物残渣」『哺乳類科学』7巻 5-6号、日本哺乳類学会、1979年、321-323頁, doi:10.11238/jmammsocjapan1952.7.321
  10. ^ 環境省自然環境局野生生物課 (2010年3月). “改訂レッドリスト付属説明資料 哺乳類” (PDF). p. 11. 2012年8月26日閲覧。[リンク切れ]

関連項目 編集