ユウスゲ(夕菅、学名Hemerocallis citrina Baroni var. vespertina (H.Hara) M.Hotta[1])は、ワスレグサ属分類される多年草の1[4][5]名(Hemerocallis)は、hemera(1日)とcallos(美しく)の2語に由来する[6]和名は花が夕方に開き翌日の午前中にしぼみ[4]、葉がスゲに似ていること[7]に由来する。別名が、キスゲ[4][8]

ユウスゲ
ユウスゲ、伊吹山(滋賀県米原市)、2017年7月28日16時23分に撮影
ユウスゲ、伊吹山滋賀県米原市)にて
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 単子葉類 monocots
: キジカクシ目 Asparagales
: ワスレグサ科 Asphodelaceae
亜科 : ワスレグサ亜科 Hemerocallidoideae
: ワスレグサ属 Hemerocallis
: ウコンカンゾウ H. citrina
変種 : ユウスゲ
H. citrina var vespertina
学名
Hemerocallis citrina Baroni var. vespertina (H.Hara) M.Hotta[1]
シノニム
  • Hemerocallis vespertina H.Hara[2]
  • Hemerocallis thunbergii auct. non Baker[3]
和名
ユウスゲ

特徴 編集

の高さは100-150 cm[8]は黄色いひも状で塊にならない[4]根生葉は線形で、長さ40-50 cm、幅5-15 cm[7][8]、2列に出て扇状に開き上部だけわずかに下垂する[4]。1本の茎の先端が花序が枝分かれして[8]、レモン色[9]ラッパ状の花を上向きに次々と咲かせる[7]ハマカンゾウと異なり花ではアントシアニンは合成されず、花弁は赤味を帯びない[10]。花弁は6つに深く裂け、やや芳香がある[5][7]花被片の長さや幅は個体によりいろいろで、花被片の長さは6.5-7.5 cm、花筒の長さは2.5-3 cm[5]雄蕊は花被片より短く、は黒紫色、花柱は雄蕊よりやや長い[5]。花期は7-9月[7][8]。夕方に花を開き、翌日の午前中にしぼみ[8]スズメガ媒花である[10]蒴果は広楕円形で長さ約20 mmで先端がへこむ[5]種子は長さ約5 mm、黒色の卵形で光沢がある[5]

分布と生育環境 編集

シベリア中国東北部、朝鮮半島日本温帯から暖帯の地域に分布する[4]

日本では本州四国九州に分布する[8][5]田中澄江による『新・花の百名山』で榛名山を代表する花の一つとして紹介されている[11]兵庫県美方郡香美町では花に指定されている[12]

山地草原[4]や林縁[8]などのやや乾いた場所に生育する[5]中部地方の山地にあるものは葉が広く大型になり、アズマキスゲと呼ばれる[5]。本州南西部から九州のものは葉が狭く、ユウスゲまたはキスゲと呼ばれる[5]山野草として利用されている。

分類 編集

 
Hemerocallis citrina ウコンカンゾウ

クロンキスト体系新エングラー体系などの分類ではユリ科に分類されていたが[5]APG IVではワスレグサ科に含められる[1]。学名はHemerocallis thunbergii auct. non Baker[3]とする説、独立種とする説、中国原産のウコンカンゾウ変種Hemerocallis citrina Baroni var. vespertina (H.Hara) M.Hotta)とする説がある[5]

種の保全状況評価 編集

日本では以下の多数の都道府県で、レッドリストの指定を受けている。千葉県では絶滅したものと考えられている[13]。海岸開発[14]、道路工事[14]、草地開発[14][15]、自然遷移[14][16][17][15]、園芸採集[15][17]などにより、個体数が減少している地域がある。長野県霧ヶ峰[18]滋賀県伊吹山3合目のユウスゲ群落などでは[19]ニホンジカ食害により植生の衰退が危惧されている[20]

静岡県賀茂郡南伊豆町奥石廊ユウスゲ公園周辺には、ユウスゲ群落があり、富士箱根伊豆国立公園の指定植物の一つとされている[21]。南伊豆町は希少価値の高いユウスゲを保護・育成して地域資源として活用するため、奥石廊・池の原(静岡県道16号下田石廊松崎線沿い)にある日本でも数少ない群生地を整備し、雑草の刈り取りや人工繁殖したユウスゲの苗の移植などを行った[22]

岐阜県大垣市赤坂町の金生山にある「ユウスゲ自生地」は、2013年平成25年)2月21日に市の天然記念物に指定された[23]

 
伊吹山滋賀県米原市)の自生地ではニホンジカなどによる食害対策として、ネットで保護されている。

脚注 編集

  1. ^ a b c 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “ユウスゲ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年12月1日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “ユウスゲ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2017年10月7日閲覧。
  3. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “ユウスゲ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2017年10月7日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g 牧野 (1982)、733頁
  5. ^ a b c d e f g h i j k l 佐竹 (1982)、30頁
  6. ^ 大川 (2009)、123頁
  7. ^ a b c d e 高村 (2005)、318頁
  8. ^ a b c d e f g h 林 (2009)、615頁
  9. ^ 今井 (1992)、399頁
  10. ^ a b 新田 (2007)、100-106頁
  11. ^ 田中 (1995)、123-125頁
  12. ^ 香美町の町花、町木”. 香美町. 2017年10月7日閲覧。
  13. ^ a b 千葉県レッドデータブック植物編(2011年改訂版)” (PDF). 千葉県. pp. 88 (2011年). 2015年3月20日閲覧。
  14. ^ a b c d e 福井県の絶滅のおそれのある野生動植物2016” (PDF). 福井県. pp. 314 (2016年6月15日). 2017年10月7日閲覧。
  15. ^ a b c d ユウスゲ”. 愛媛県 (2014年). 2015年3月20日閲覧。
  16. ^ a b 改訂しまねレッドデータブック2013植物編、ユウスゲ(キスゲ)” (PDF). 島根県. pp. 80 (2013年). 2015年3月20日閲覧。
  17. ^ a b c 香川県レッドデータブック、ユウスゲ”. 香川県 (2004年3月). 2017年10月7日閲覧。
  18. ^ 尾関 (2009)、21-25頁
  19. ^ 安原 (2003)、124頁
  20. ^ 滋賀県における鳥獣対策の強化” (PDF). 滋賀県. pp. 4 (2012年). 2015年3月20日閲覧。
  21. ^ 奥石廊ユウスゲ公園”. 南伊豆町ホームページ. 南伊豆町 (2002年4月25日). 2024年1月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月1日閲覧。
  22. ^ 『静岡新聞』1997年10月21日朝刊19頁「ユウスゲの繁殖本格化 7000本の苗植える―南伊豆・奥石廊」(静岡新聞社)
  23. ^ 徳指定文化財一覧表” (PDF). 大垣市. pp. 8. 2017年10月7日閲覧。
  24. ^ 徳島県版レッドデータブック維管束植物<改訂:平成26年>” (PDF). 徳島県. pp. 9 (2014年). 2017年10月7日閲覧。
  25. ^ 福岡県の希少野生生物 福岡県レッドデータブック2011、キスゲ”. 福岡県. 2017年10月7日閲覧。
  26. ^ 維管束植物” (PDF). 大阪府. pp. 4. 2017年10月7日閲覧。
  27. ^ 三重県データブック2015、維管束植物” (PDF). 三重県. pp. 522. 2017年10月13日閲覧。
  28. ^ 全上重要なわかやまの自然―和歌山県レッドデータブック―【2012改訂版】” (PDF). 和歌山県. pp. 34. 2017年10月7日閲覧。
  29. ^ <カテゴリー別>高知県レッドリスト(植物編)2010改訂版” (PDF). 高知県. pp. 14. 2017年10月7日閲覧。
  30. ^ 宮崎県版レッドリスト及びレッドデータブックについて”. 宮崎県 (2016年4月24日). 2017年10月7日閲覧。
  31. ^ 植物絶滅危惧Ⅱ類(436種)(平成27年度改訂)”. 鹿児島県 (2016年6月30日). 2017年10月7日閲覧。
  32. ^ 長野県版レッドリスト(植物編)2014年、維管束植物” (PDF). 長野県. pp. 17 (2017年6月27日). 2017年10月7日閲覧。
  33. ^ 岐阜県レッドリスト(植物編)改訂版” (PDF). 岐阜県. pp. 13. 2017年10月7日閲覧。
  34. ^ 京都府レッドデータブック2015、ユウスゲ(キスゲ”. 京都府 (2016年6月30日). 2017年10月7日閲覧。
  35. ^ キスゲ”. 大分県 (2011年). 2017年10月7日閲覧。
  36. ^ レッドデータブック2016改訂版 選定種目録(奈良県レッドリスト)、維管束植物” (PDF). 奈良県. pp. 10. 2017年10月7日閲覧。
  37. ^ 兵庫県版レッドデータブック2010(植物・植物群落)、ユウスゲ” (PDF). 兵庫県 (2010年). 2017年10月7日閲覧。

参考文献 編集

  • 今井建樹『信州高山高原の花』信濃毎日新聞社、1992年6月30日。ISBN 4784092153 
  • 大川勝德『伊吹山の植物』幻冬舎ルネッサンス、2009年10月20日。ISBN 9784779005299 
  • 尾関雅章、岸元良輔「霧ケ峰におけるニホンジカによる植生への影響--ニッコウキスゲ・ユウスゲの被食圧」『長野県環境保全研究所研究報告』第5巻、長野県環境保全研究所、2009年、NAID 120005319022 
  • 高村忠彦(監修)『季節の野草・山草図鑑―色・大きさ・開花順で引ける』日本文芸社〈実用BEST BOOKS〉、2005年5月。ISBN 4537203676 
  • 田中澄江新・花の百名山文春文庫、1995年6月10日。ISBN 4167313049 
  • 新田梢、長谷川匡弘、三宅崇、安元暁子、矢原徹一「キスゲとハマカンゾウの送粉シンドロームに関する花形質の遺伝的基礎を探る」『日本生態学会誌』第57巻第1号、日本生態学会、2007年3月30日、NAID 110006277369 
  • 佐竹義輔大井次三郎北村四郎、亘理俊次、冨成忠夫 編『日本の野生植物 草本Ⅰ単子葉類』平凡社、1982年1月10日。ISBN 4582535011 
  • 林弥栄『日本の野草』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2009年10月。ISBN 9784635090421 
  • 牧野富太郎、本田正次『原色牧野植物大図鑑北隆館、1982年7月。ASIN B000J6X3ZENCID BN00811290全国書誌番号:85032603https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001728467-00 
  • 安原修次『伊吹山の花』ほおずき書籍、2003年8月20日。ISBN 4434033212 

関連項目 編集

外部リンク 編集