武蔵野夫人』(むさしのふじん)は、大岡昇平恋愛小説1950年発表。戦後を代表するベストセラーとなった。題名どおり東京西部の武蔵野が舞台である。新潮文庫で重版している。ラディゲの『ドルジェル伯の舞踏会』を手本として試みられたロマネスク小説で、没落していく中産階級の姿を描いている[1]

武蔵野夫人
小説:武蔵野夫人
著者 大岡昇平
出版社 講談社
掲載誌 群像
発売日 1950年
映画:武蔵野夫人
監督 溝口健二
制作 東宝
封切日 1951年
上映時間 88分
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武蔵野夫人
監督 溝口健二
脚本 依田義賢
製作 児井英生
出演者 田中絹代轟夕起子森雅之
音楽 早坂文雄
撮影 玉井正夫
配給 東宝
公開 1951年
上映時間 88分
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福田恆存は、世間でこの作品が評価される中、「失敗作だった」とする評論を書き、またその旨を大岡に葉書を送っているが、福田は同作品の舞台の脚色を担当し、『戯曲武蔵野夫人』(旧河出文庫)を出版した(のち『福田恆存戯曲全集 第3巻』(文藝春秋)に収録)。

あらすじ 編集

富士山の見える武蔵野の「はけ」。そのはけに建てられた亡父の家に夫の秋山忠雄と住む道子。この家に道子のいとこの大学生・勉が下宿するようになり、やがて二人は強く惹かれあう。秋山は近所に住む大野英治の妻の富子と姦通しようとしていた。仕事で大野が出張中、秋山と富子は河口湖の旅館で密会。同じ頃村山貯水池に散歩に出ていた道子と勉はキャスリーン台風に襲われ、ホテルで一夜を明かすが、体は許さなかった。勉は武蔵野を出て五反田のアパートに転居するが道子への思いに苦しむ。大野が事業に失敗、金策に奔走する中、秋山夫妻を頼る。やがて両家の夫婦仲はこじれてゆく。秋山は金銭問題と双方の不貞を理由に道子に離婚を迫り、道子は返事をはぐらかす。秋山は家の権利書を持ち出し富子と家出。しかし家を売って金をつくる算段はうまくいかず、富子は勉のアパートへ。やむなく帰宅した秋山は睡眠薬を飲んで倒れている道子を発見。道子はうわごとで勉の名を呼びながら絶命。秋山は涙を流して「すまなかった」と詫びるのだった。

登場人物 編集

秋山道子(29歳)
信三郎の娘。18歳で秋山と結婚。雪子の家庭教師になった勉に生まれてはじめて恋愛感情を覚える。夫が家を出たあと、遺産の一部を大野と勉に譲るという遺言書を書いて、睡眠薬自殺する。
秋山忠雄(41歳)
道子の夫。私立大学のフランス語教師。専門はスタンダール。30歳の時に道子と結婚。一夫一婦制は不合理という考えの持ち主。
大野富子(30歳)
英治の妻。大阪に嫁いだ姉がいる。「コケットリイ」な魅力で秋山や勉を誘惑する。
大野英治(40歳)
富子の夫で、道子の母民子の妹の息子。石鹸工場を経営する戦争成金。妻の不貞を黙認している。
宮地勉(24歳)
大学生。信三郎の弟東吾と先妻の息子。1943年に学徒召集でビルマへ行ったきり消息を絶っていたが、信三郎の死後復員。父の遺産で気ままな学生生活をしていたが、富子の頼みで雪子の家庭教師になり、秋山家に下宿、道子と接近する。
宮地信三郎
元鉄道省事務官。5人兄弟の三男として生まれ、退職後は「はけ」の家で暮らす。妻の民子との間には2男1女が生まれたが、道子以外の息子は2人とも夭逝している。1946年の暮れ心臓麻痺で死去。
末弟の東吾は参謀大佐まで出世したが、終戦の翌日拳銃自殺を遂げている。
大野雪子(9歳)
大野夫妻の娘。

映画 編集

1951年に東宝で映画化された。溝口健二作品として近年再評価の動きがある。東宝からDVDが発売されている。

スタッフ 編集

キャスト 編集

テレビドラマ 編集

1960年版 編集

1960年6月12日フジテレビ系の『百万人の劇場』で放送。

出演者 編集

スタッフ 編集

1965年 編集

武蔵野夫人
ジャンル テレビドラマ
原作 大岡昇平
脚本 生田直親
演出 松本準平
出演者 司葉子
製作
制作 日本テレビ東宝
放送
放送国・地域  日本
放送期間1965年11月4日 - 1966年1月20日
放送時間木曜21:30 - 22:00
放送分30分

特記事項:
鐘淵紡績(現:クラシエ一社提供
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1965年11月4日から1966年1月20日まで、日本テレビ系列の毎週木曜21:30 - 22:00(JST)に放送された。鐘淵紡績(現:クラシエ)の一社提供

出演者 編集

スタッフ 編集

(参考:テレビドラマデータベース

脚注 編集

  1. ^ 田中益三, 「『武蔵野夫人』論」『日本文學誌要』 28巻 p.33-41, 法政大学, ISSN 02877872

外部リンク 編集

フジテレビ 百万人の劇場
前番組 番組名 次番組
武蔵野夫人
(1960年ドラマ版)
日本テレビ 木曜21時台後半 鐘淵紡績一社提供
武蔵野夫人
(1965年ドラマ版)