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インポーチン(importin)は、核局在化シグナル(nuclear localization signal/sequence、NLS)と呼ばれる特定のアミノ酸配列に結合して、タンパク質細胞核の中に運び込む役割を担う輸送タンパク質である。インポーチンはカリオフェリンの1つに分類される[1]

Karyopherin subunit alpha 1
識別子
略号 KPNA1
Entrez 3836
HUGO 6394
OMIM 600686
RefSeq NP_002255
UniProt P52294
他のデータ
遺伝子座 Chr. 3 q21.1
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Karyopherin subunit beta 1
識別子
略号 KPNB1
Entrez 3837
HUGO 6400
OMIM 602738
RefSeq NP_002256
UniProt Q14974
他のデータ
遺伝子座 Chr. 17 q21.32
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インポーチンは2つのサブユニット、αとβから構成されている。インポーチンαは、核に輸送する対象となるタンパク質のNLSに結合する。一方インポーチンβは、インポーチンヘテロ二量体-輸送対象タンパク質複合体が核孔に結合するのを助ける。NLS-インポーチンα-インポーチンβ三量体は核内に移行し、GTP結合型Ran英語版 (Ran-GTP) に結合してから解離する[2]。2つのインポーチンタンパク質は再利用のために細胞質へ送られる。

発見編集

インポーチンは、インポーチンα/βのヘテロ二量体、またはインポーチンβの単量体として存在する。インポーチンαは1994年にマックス・デルブリュック分子医学センター (Max Delbrück Center for Molecular Medicine) の Enno Hartmann を含むグループによって最初に単離された[1]。すでに以前のレビューにおいてタンパク質の核内輸送の過程は記述されいたものの[3]、この過程に関与する主要なタンパク質が明らかにされたのは初めてであった。インポーチンαは約 60 kDaの細胞質のタンパク質で、タンパク質の核内への輸送に必須であり、ツメガエル属 (Xenopus) の卵から精製されたSRP1pタンパク質と44%の配列同一性があった。クローニング、配列決定、そして大腸菌での発現が行われ、シグナル依存的な輸送の完全な再構成のためにはRan(TC4)とともに用いられる必要があった。研究では、他の主要な促進因子も発見された[1]

インポーチンβは、インポーチンαとは異なり酵母に直接的なホモログは存在しないが、90–95 kDaのタンパク質として精製され、多くの場合でインポーチンαとヘテロ二量体を形成することが判明した。このことを示した研究には Michael Rexach によって率いられた研究[4]も含まれており、 Dirk Görlich によってさらなる研究が行われた[5]。彼らのグループは、インポーチンαが機能するにはインポーチンβが必要であり、共に核局在化シグナル受容体を形成して核内への輸送を可能にしていることを発見した。これらの1994年と1995年の初期の発見以降、IPO4英語版IPO7英語版などの多くのインポーチン遺伝子が、その構造や分布の違いによって、わずかに異なる積み荷タンパク質の核内輸送を促進していることが判明した。

構造編集

インポーチンα編集

アダプタータンパク質であるインポーチンαの大部分は、直列に並んだいくつかのアルマジロリピートから構成されている。これらのリピート構造は積み重なって湾曲した構造を形成し、特定の積み荷タンパク質のNLSへの結合を促進する。NLSの主結合部位はN末端に存在し、副結合部位がC末端に存在する。アルマジロリピートに加えて、インポーチンαは90アミノ酸のN末端領域を含んでいる。この領域がインポーチンβへの結合を担い、IBB (importin-β binding domain) として知られている。また、この領域は自己阻害部位でもあり、インポーチンαが核へ到達した際に積み荷が解離する過程への関与が示唆されている[6]

インポーチンβ編集

インポーチンβは、カリオフェリンスーパーファミリーの典型的構造である。構造の基本は、18–20個のHEATモチーフの直列リピート構造である。リピート構造のそれぞれはターンで連結された逆平行のαヘリックスから構成され、それらが積み重なってタンパク質の全体構造が形成されている[7]

積み荷を核へ輸送するために、インポーチンβは核膜孔複合体と結合しなければならない。インポーチンβは、ヌクレオポリンのさまざまなFGモチーフと弱い一時的結合を形成することでこれを行っている。X線結晶構造解析によって、これらのモチーフはインポーチンβの表面の浅い疎水的なポケットに結合することが示されている[8]

タンパク質の核内輸送のサイクル編集

インポーチンの主要な機能は、核局在化シグナル (NLS) を有するタンパク質が核膜孔複合体を通って核内へ移行するのを媒介することであり、この過程は nuclear protein import cycle (核タンパク質輸送サイクル) として知られる。

積み荷の結合編集

このサイクルの最初のステップは積み荷 (cargo) の結合である。単量体のインポーチンβもこの機能を果たすことができるが、通常はインポーチンαを必要とする。インポーチンαはNLSと相互作用し、積み荷タンパク質に対するアダプターとして機能する。NLSは核へ向かう積み荷としてタンパク質をタグ付けする塩基性アミノ酸配列である。積み荷タンパク質はこれらのモチーフを1つか2つ含んでおり、インポーチンα主結合部位と副結合部位に結合する。[9]

 
核タンパク質輸送サイクルの概観

積み荷の輸送編集

いったん積み荷タンパク質が結合すると、インポーチンβは核膜孔複合体と相互作用し、複合体は細胞質から核へ拡散する。拡散の速度は、細胞質に存在するインポーチンαの濃度とインポーチンαの積み荷への結合親和性の双方に依存する。核の内部へ移動すると、複合体はRasファミリーGTPアーゼであるRan-GTPと相互作用する。これによってインポーチンβのコンフォメーションが変化し、複合体はインポーチンβ/Ran-GTPとインポーチンα/積み荷タンパク質へと解離する。インポーチンβはRan-GTPと結合したまま、再生の過程へと入る[9]

積み荷の解離編集

続いて、インポーチンβから解離したインポーチンα/積み荷タンパク質複合体から、積み荷タンパク質が核内へ放出される。インポーチンαのN末端のIBBドメインは、NLSモチーフを擬態する自己調節領域を含んでいる。インポーチンβの解離によってこの領域は自由になり、NLS主結合部位において積み荷タンパク質のNLSと競合するようになる。この競合がタンパク質の解離を引き起こす。一部の場合では、Nup2やNup50といった特定の解離因子が積み荷の解離を助けるために利用されることもある[9]

再生編集

最後に、インポーチンαが細胞質へ戻るためには、核からの排出を助けるRan-GTP/CAS英語版複合体と結合しなければならない。CAS (cellular apoptosis susceptibility protein) はインポーチンβスーパーファミリーのカリオフェリンで、核外輸送因子として定義される。インポーチンβはRan-GTPと結合したまま細胞質へ戻る。細胞質では、Ran-GTPはRanGAPによって加水分解されてRan-GDPとなり、インポーチンαとインポーチンβが解離して更なる活動に利用される。全体としては、GTPの加水分解がこのサイクルのエネルギー源となっている。核内ではGEFがRanにGTP分子を結合させ、細胞質ではGAPによって加水分解される。このRanの活性によって、タンパク質の一方向の輸送が可能になっている[9]

疾患編集

インポーチンαとインポーチンβの変異や発現の変化と関連した疾患と病理がいくつか存在する。

インポーチンは配偶子形成英語版胚発生の過程に必須の調節タンパク質である。そのため、インポーチンαの発現パターンの破壊はキイロショウジョウバエ Drosophila melanogaster において妊性の欠陥を引き起こすことが示されている[10]

また、インポーチンαの変化と一部のがんとの関連が研究で示されている。乳がんの研究からは、NLS結合ドメインが欠けたインポーチンαとの関連が示唆されている[11]。加えて、インポーチンαはがん抑制遺伝子であるBRCA1を核内へ輸送することが示されている。インポーチンαの過剰発現は、ある種のメラノーマにおいて低い生存率と関連している[12]

インポーチンの活性は、いくつかのウイルスの病理とも関係している。例えば、エボラウイルスの感染経路において重要な段階は、チロシン残基がリン酸化されたSTAT1 (PY-STAT1) の核内輸送の阻害である。エボラウイルスのタンパク質VP24はインポーチンα上の、PY-STAT1が結合する非典型的結合部位に結合し、核内への輸送を選択的に阻害する[13]

積み荷のタイプ編集

多くの種類のタンパク質がインポーチンによって核内へ輸送される。多くの場合、異なるタンパク質は転位のために異なる組み合わせのαとβを必要とする。いくつかの例を下に示す。

積み荷 核内輸送受容体
SV40英語版 インポーチンβとインポーチンα
ヌクレオプラスミン英語版 インポーチンβとインポーチンα
STAT1英語版 インポーチンβとNPI-1 (インポーチンαのタイプ)
TFIIA英語版 インポーチンαは不要
U1A英語版 インポーチンαは不要

ヒトのインポーチン遺伝子編集

インポーチンを全体的に説明するためにインポーチンαとインポーチンβが用いられるが、それらは実際には、類似した構造と機能を有するタンパク質ファミリーである。αとβの双方に関してさまざまな遺伝子が同定されており、その一部を下に挙げる。

出典編集

  1. ^ a b c “Isolation of a protein that is essential for the first step of nuclear protein import”. Cell 79 (5): 767–78. (December 1994). doi:10.1016/0092-8674(94)90067-1. PMID 8001116. 
  2. ^ “Nucleocytoplasmic transport: the soluble phase”. Annual Review of Biochemistry 67: 265–306. (1998). doi:10.1146/annurev.biochem.67.1.265. PMID 9759490. 
  3. ^ “Nuclear protein localization”. Biochim. Biophys. Acta 1071 (1): 83–101. (March 1991). doi:10.1016/0304-4157(91)90013-m. PMID 2004116. 
  4. ^ “Identification of a yeast karyopherin heterodimer that targets import substrate to mammalian nuclear pore complexes”. J. Biol. Chem. 270 (28): 16499–502. (July 1995). doi:10.1074/jbc.270.28.16499. PMID 7622450. 
  5. ^ “Two different subunits of importin cooperate to recognize nuclear localization signals and bind them to the nuclear envelope”. Current Biology 5 (4): 383–92. (April 1995). doi:10.1016/s0960-9822(95)00079-0. PMID 7627554. 
  6. ^ “Crystallographic analysis of the recognition of a nuclear localization signal by the nuclear import factor karyopherin alpha”. Cell 94 (2): 193–204. (July 1998). doi:10.1016/s0092-8674(00)81419-1. PMID 9695948. 
  7. ^ “Structural basis for nuclear import complex dissociation by RanGTP”. Nature 435 (7042): 693–6. (June 2005). doi:10.1038/nature03578. PMID 15864302. 
  8. ^ “Structural basis for the interaction between FxFG nucleoporin repeats and importin-beta in nuclear trafficking”. Cell 102 (1): 99–108. (July 2000). doi:10.1016/s0092-8674(00)00014-3. PMID 10929717. 
  9. ^ a b c d “Regulating access to the genome: nucleocytoplasmic transport throughout the cell cycle”. Cell 112 (4): 441–51. (February 2003). doi:10.1016/s0092-8674(03)00082-5. PMID 12600309. 
  10. ^ “Crossing the nuclear envelope: hierarchical regulation of nucleocytoplasmic transport”. Science 318 (5855): 1412–6. (November 2007). doi:10.1126/science.1142204. PMID 18048681. 
  11. ^ “Truncated form of importin alpha identified in breast cancer cell inhibits nuclear import of p53”. The Journal of Biological Chemistry 275 (30): 23139–45. (July 2000). doi:10.1074/jbc.M909256199. PMID 10930427. 
  12. ^ “Gene expression profiling of primary cutaneous melanoma and clinical outcome”. Journal of the National Cancer Institute 98 (7): 472–82. (April 2006). doi:10.1093/jnci/djj103. PMID 16595783. 
  13. ^ Xu, Wei; Edwards, Megan R.; Borek, Dominika M.; Feagins, Alicia R.; Mittal, Anuradha; Alinger, Joshua B.; Berry, Kayla N.; Yen, Benjamin et al. (2014-08-13). “Ebola virus VP24 targets a unique NLS binding site on karyopherin alpha 5 to selectively compete with nuclear import of phosphorylated STAT1”. Cell Host & Microbe 16 (2): 187–200. doi:10.1016/j.chom.2014.07.008. ISSN 1934-6069. PMC: PMCPMC4188415. PMID 25121748. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25121748. 

関連項目編集

外部リンク編集