エキゾーストマニホールド

エキゾーストマニホールド (: Exhaust manifold)は、内燃機関における排気管のうち複数の排気流路を1つにまとめる多岐管(manifold)である。日本語ではエキゾーストマニフォールドと表記されるほか、エキマニと略されることもある。排気マニホールドや排気集合管と呼ぶ場合や、タコ足と俗称される場合もある。イギリス英語ではexhaust extractors、アメリカ英語ではexhaust headersとも呼ばれ、それぞれextractorsあるいはheadersと略される場合もある。

en:Ford Cologne V6 engineを左側から見たところ。錆びている鋳鉄製の3in1形エキゾーストマニホールドが見える。
発電用エンジンのエキゾーストマニホールド。
クライスラー・440 Max Wedgeエンジンのエキゾーストマニホールド。
シコルスキー_H-19のエキゾーストマニホールド
遮熱板が付けられたエキゾーストマニホールド

概要編集

エキゾーストマニホールドはエンジンから排出される燃焼ガスが最初に通る部位であり、複数の排気ポートに接続されるヘッダーパイプと、複数のヘッダーパイプを集合させるコレクターからなり、一般的に高温となり、エンジンの振動も強く伝わることから鋳鉄炭素鋼ステンレス鋼などで作られている。複数のヘッダーパイプを1度にまとめる組み合わせのほか、段階的に合流させる設計もある。組み合わせ方や各ヘッダーの長さに応じてエンジンの出力特性や排気音が変化する。排気の熱を受けて高温になると輻射熱を発生するため、周囲に熱の悪影響を及ぼさないようにグラスウールを利用した断熱材が巻かれる場合や金属製の遮熱板が取り付けられる場合、あるいは外側表面にセラミックコーティングが施される場合がある。

自動車用の量産品では生産が容易で熱容量の大きな鋳鉄製が一般的であったが、軽量化や、厳しさを増す自動車排出ガス規制への対応から、触媒ガソリンエンジンでは三元触媒、ディーゼルエンジンでは酸化触媒)に始動直後からの即効性が求められるようになり、薄肉で温度上昇が早く温度管理に有利なステンレス鋼管製に移行している。排気と触媒温度を保つために薄肉ステンレスプレスの二重管を使うものも増えている。自動車のエンジンルームは他機器も密集しており、エンジン直近の部品ともあって交換やメンテナンス作業は比較的煩雑となる。

これに対し、自動車用アフターパーツとして製造販売されている製品では鋼管製やステンレス鋼管製が一般的で、鋳鉄製のものは鋳型のコストがかかるため生産量が少ないアフターパーツではあまり製造されない。鋼管の加工方法にはパイプベンダーを使った「機械曲げ」と、管の中にを詰めてバーナーで赤熱させて曲げる「手曲げ」がある。機械曲げは単位時間あたりの製作数が多く単価を抑えられる利点があり、手曲げは屈曲部の内径が減少しにくい利点がある。あるいは、曲がり部分を細かく分割し、斜めに切断した直管を組み合わせて溶接して制作する方法もある(いわゆるエビ管)。また、ほとんどの純正品が触媒一体型であるため、交換後の触媒能力と音量について法規制以内に収める必要がある。 エキゾーストマニホールドはガソリン・ディーゼル問わず全ての自動車に装着が義務付けられているわけではなく、ごく稀に非装着の車種が存在する。その場合排ガスの浄化性能は向上するが、排気ガスが直接マフラーに流れるため、トルクが細くなるというデメリットがある。

排気干渉編集

エキゾーストマニホールドはヘッダーパイプの長さや径だけでなく、集合させる組み合わせによってもエンジン特性が変化する。大きく分けると、排気干渉(: exhaust interference)を積極的に利用して掃気効率(: exhaust scavenging efficiency)を高める設計と、排気干渉を利用せずに掃気効率を高める設計がある[1]。エンジンの特性を競技車、スポーツカー、エコカー向けにするかで設計は大きく変わってくる。 独自の排気音を得るため、メーカーの純正状態で管長を調整して排気干渉を意図的にさせる設計も存在する。その代表的なものが2005年頃までのスバル水平対向エンジンである。[2]

排気ポートから排気が行われると、排気管内には圧力波が生じて管内を往復する、排気脈動 (: exhaust pulse)と呼ばれる現象が起こる[3]。エキゾーストマニホールド内では、1つのシリンダで発生した排気脈動は集合部で反射波となって別のシリンダの排気ポートへ到達するが、排気ポートを開くタイミングで排気脈動の負圧が到達するようにヘッダーパイプの長さを調整すると、掃気を促し新気の充填効率を高くすることができる[4]。一方で、掃気の終盤で圧力波の高圧部分が排気ポートに到達すると新気の吹き抜けを抑える[要出典]

4気筒エンジンでは、排気干渉を利用して掃気効率を上げる設計として、4本から2本、2本から1本へと段階的に集約する「4-2-1」レイアウトが利用されることが多い[5]。一方、排気効率を優先する場合は等長ヘッダーパイプによる「4-1」レイアウトが組み合わされる[6]。これは乾燥重量の低減(軽量化)にもメリットがある。シリンダーから集合部までの距離が長い4-2-1レイアウトは通常の道路を走行する際に利用される中低速域でのトルクや燃費に優れ、シリンダーからの距離が短い4-1レイアウトは高回転を多く利用するレース車両に向いている[1][5]。オートバイの4気筒エンジンの場合、かつてはエキゾーストマニホールドを設けずに各シリンダーから1本ずつに分かれたままの排気管を採用していたが、現在では4-1レイアウトと4-2-1レイアウトが主流である[7]

「タコ足」という呼称は、各排気ポートから集合部までを長さを等長化する際に、狭いスペースの中で、排気の抵抗となるような屈曲を避け、しかも長さを稼ぐ必要からうねるような曲がりが付き、それがタコの足のような形状になることに由来している。

マニ割り編集

 
1953年式コルベットのブルー・フレイム L6エンジン。本来は大衆車向けのターンフローエンジンを150馬力まで向上させる為に、ハイリフトカムシャフトや三連装キャブレタースプリット・ヘッダーが装備された。

日本のアートトラックバニングにおいては、集合管であるエキゾーストマニホールドを意図的に二分割する事で、排気音を大幅に変化させる改造が行われる事が多く、これをマニ割 (り)と呼ぶ。

ディーゼルエンジンを搭載する日本車トラックは、大型自動車の場合はV型8気筒以上の多気筒エンジンを搭載する事が多く、マフラーを交換する事でアメリカ車におけるクロスプレーンクランクシャフトのV8に特有の排気音(バブリーサウンド)に近づける事が比較的容易に行えるが、中型自動車以下の車格のトラックでは直列6気筒直列4気筒の採用がほとんどの為、これらの排気音をV8に出来るだけ近づける目的でデコトラチューナーの間でマニ割りが編み出されたものとされる[8]

具体的には直4の場合には、4-1のエキゾーストマニホールドの1気筒分を切断加工して3-1とし、残る1気筒に独立したマフラーを装着してデュアルマフラーとする事が多く、直6の場合には6-1のエキゾーストマニホールドの1気筒分を切断加工して5-1と1気筒のデュアルマフラーとする事が多い。分割されたエキゾーストマニホールドの多気筒側はエンジンブレーキの際にが鳴る様な排気音(俗に「鳴き」と呼ばれる)を発し、単気筒側は加速の際に太鼓を叩く様な排気音(俗に「叩き」と呼ばれる)を発する為、双方のマフラーはそれぞれ「鳴き」や「叩き」を強調するよう設計されたものが装着される。チューナーによっては直4では2-1+2-1、直6では4-1+2-1といったかたちにマニ割りが行われる場合もある[8]。マニ割りは理論上はガソリンエンジンでも行えるが、ディーゼルエンジンと比較して常用回転数が高い為、ディーゼルエンジン程極端な排気音の変化は起こしにくい。

しかし、マニ割りは排気効率や本来のエンジン性能に即したエキゾーストマニホールド形状を無視した改造となる為、多くの場合独特の排気音の獲得と引き換えにエンジン性能が低下し[9]、最高速度の低下や燃費の悪化などのドライバビリティの低下や、排気騒音の増大により車検に不通過となったり、公道走行中に交通警察保安基準違反として検挙されるリスクが発生する。特に平成17年排出ガス規制以降の車両は、DPF尿素SCRシステムなどの排ガス対策機器が取り付けられている為、マニ割りを行った上で排ガス検査を通過する事は難しい。

なお、アメリカ合衆国におけるピックアップトラックローライダーホットロッド等でも、日本のマニ割りに類似した分割型エキゾーストマニホールドを用いてデュアルマフラーとする改造が行われる事がある。但し、純正エキゾーストマニホールドを直接改造する日本のデコトラとは異なり、米国のアフターマーケット市場では、古くから改造部品としてスプリット・ヘッダーと呼ばれる分割型エキゾーストマニホールドが販売されており、多くはこれらを用いる事で改造が行われる。スプリット・ヘッダーは1960年代以前の直6や直4を搭載したシボレークライスラーの車種(シボレー・アドバンス・デザイン英語版など)で用いられ、6-1または4-1のエキゾーストマニホールドを半分に分割したものを装着する事が多い。純正エキゾーストマニホールドでスプリット・ヘッダーを製作する場合には、4-1または6-1の中間部分にもう一つ排気口を設ける加工を行う。米国でのスプリット・ヘッダーの発祥は古く、1953年に登場したシボレー・コルベット初代モデル英語版で用いられた、235立方インチ「ブルー・フレイム」英語版エンジンが、市販車では初の事例であるとされている[10]。これより後年のV8やV型6気筒搭載車両では左右のシリンダーバンク英語版の排気を集合させる、HパイプまたはXパイプと呼ばれる部品を取り外し、左右シリンダーバンクの排気を独立してデュアルマフラーで排気する改造が行われる事がある。しかし、HパイプやXパイプは排気音の静粛化や排気脈動を利用した排気効率の向上(エンジン性能の向上)に大きく寄与するものであり、これの取り外しは排気音の増大以外の効能が得られず、エンジン性能自体は低下してしまう為、米国の車両チューニングでは余り推奨されない方法とされる[11]

脚注編集

  1. ^ a b HM Headers - Performance headers, extractors, mufflers, exhaust systems, hi flow catalytic converters, complete exhaust or cat back systems - Technical Information About Headers”. HM Headers. 2014年2月19日閲覧。
  2. ^ その後、環境性能への配慮から消滅した
  3. ^ バイク用語辞典”. ヤマハ発動機株式会社. 2014年2月19日閲覧。
  4. ^ 『マツダ技報 No.30』マツダ株式会社、2012年、5頁。 
  5. ^ a b HowStuffWorks "What does a 4-2-1 exhaust system do?"”. HowStuffWorks, Inc. 2014年2月19日閲覧。
  6. ^ Exhaust Manifold - Product Philosophy - MUGEN”. M-TEC Co.,Ltd. 2014年2月19日閲覧。
  7. ^ バイク用語辞典”. ヤマハ発動機株式会社. 2014年2月19日閲覧。
  8. ^ a b 『マニ割り』とは? デコトラのマフラー音の秘密まとめ - NAVERまとめ
  9. ^ マニ割り - K.M's Garage いまさら聞けない!?自動車用語辞典
  10. ^ 1955 Chevrolet 3100 – Splitting Six-Cylinder Exhaust Manifolds the Old Way - ホットロッド (雑誌)英語版、2016年5月17日。
  11. ^ Are X-pipes and H-pipes Better Than Straight Pipes on Dual Exhaust Systems? - carid.com、2015年8月17日。

関連項目編集