カラチャイ湖 (カラチャジ湖、ロシア語: Карача́й 英語: Karachai,Karachaj ) は、中央ロシアの南ウラル山脈にある小さな湖。

ソビエト連邦が1951年からマヤーク核技術施設からの放射性廃棄物の投棄場所として使用していた。

マヤーク核技術施設はオジョルスクの近くにある核廃棄物貯蔵および再処理施設である(当時はチェリャビンスク-40と呼ばれていた)。現在、湖は完全に埋められており、「地表近くの恒久的で乾燥した核廃棄物貯蔵施設」として機能している。 [1]

カラチャイ湖の衛星画像/地図

湖の放射能は、史上最悪の原子力事故であるチェルノブイリ事故に匹敵する。

背景 編集

カラチャイという名前は、タタール語を含むいくつかの北西トルコ語で「黒い水」または「黒い小川」を意味する。

1946 年から 1948 年にかけて完全に秘密裏に建設されたマヤーク工場は、ソ連の原子爆弾開発計画のためにプルトニウムを製造するために使用された最初の原子炉であった。スターリニズムに従い内務人民委員部ラヴレンチー・ベリヤによって監督された計画では、広島と長崎への原爆投下後の米国の核優位性に匹敵する十分な兵器級の材料を生産することが最優先事項とされたために、労働者の安全や廃棄物の処分方法については、全くと言っていいほどに考慮されていなかった。原子炉はプルトニウム生産に特化しており、毎日何トンもの汚染物質を生産し数千リットルの原子炉に送る冷却水を直接汚染する冷却システムを利用していた。 [2] [3]

キジルタシュ湖は原子炉に冷却水を供給できる付近にある中で最大の自然湖で、この冷却システムにより急速に汚染されていった。カラチャイ湖はこれよりも近くに位置したものの小さすぎて十分な冷却水を確保できなかったために、マヤークの施設の地下貯蔵タンクに保管するには「熱すぎる」大量の高レベル放射性廃棄物を投棄するための投棄場に指定された。当初の計画では高レベル放射性廃棄物をタンクに入れられるようになるまで湖を利用して貯蔵する予定であったが、放射能の高さのために不可能であった。

この湖は、1957年ウラル核惨事が起きて冷却システムが故障、地下タンクが爆発してしまうまでこの目的で使用されていた。この事件により、マヤーク地域全体 (および北東部の広大な地域) が広範囲に汚染された。国際的な批判を免れないとした行政は隠蔽工作に走ったために、テチャ川の源流付近に存在するマヤークから放射性物質がその河川系であるオビ川に大きく広がった。[3][4]

1960 年代に入ると湖は干上がり始め、その面積は0.5km2から1993年末までに0.15km2 にまで減少した。[5] 1968 年、この地域で干ばつが発生し風が放射性物質を飛散させ、50 万人が被害を受けた。 [6]そこで1978 年から 1986 年にかけて、放射性物質の飛散を防ぐために湖は約 10,000 個の中空のコンクリートブロックで埋められた。 [7]影響を受けた地域の保全は、ロシアの連邦目標プログラム「2008 年と 2015 年までの期間の原子力と放射線の安全確保」を通じて 2000 年代まで続けられ、2015 年 11 月に湖の残りの部分が最終的に埋め戻された。 [1]保全作業は 2016 年 12 月に岩と土の最終層が追加されて完了し、かつての湖は「地表近くの永久的で乾燥した核廃棄物貯蔵施設」と呼ばれるものとなる。 [1]

現況 編集

核廃棄物に関するワールドウォッチ研究所の報告によるとカラチャイ湖は、放射能によって地球上で最も汚染された(屋外の) 場所で、1平方マイルあたり4.44EBq(エクサベクレル)以上である。 [6]

チェルノブイリ原子力発電所事故におけるセシウム137は数千平方マイルあたり 0.085 EBq程であるのに対し、この湖では 1 平方マイルあたり3.6 EBqのセシウム137や、0.74 EBqのストロンチウム90が検出された。 [8] (チェルノブイリの総放出量はセシウム134と137および微量のストロンチウム90からなり、5~12 EBqと推定されている。)

湖底はおよそ11フィート (3.4 m)の深さまで、ほぼ完全に高レベル放射性廃棄物の堆積物で構成されていると言われる。

1990 年時点で、天然資源防護協議会(英語名:Natural Resources Defense Council)の調査によると、放射性廃液が湖に放出された場所の近くの地域の放射線は1時間あたり 600 レントゲン(約 6 Sv /h)と、 1 時間以内に人体に急性放射線症候群を引き起こすほどだという。

2015 年 11 月に完全に埋め戻され、岩と土の最終層を配置する前に監視されていた。モニタリングデータは10 か月後に「表面への放射性物質の沈着が明らかに減少した」ことを示した。[9] 数十年間にわたる地下水の監視プログラムが、その後すぐに実施される予定であった。[1]

2016 年 12 月の時点で、湖は特殊なコンクリート ブロック、岩、および土を使用して完全に埋められている。

文化 編集

参考文献 編集

  1. ^ a b c d Russia’s Mayak continues clean-up of Lake Karachai”. Nuclear Engineering International Magazine. Global Trade Media (2016年11月30日). 2017年8月18日閲覧。
  2. ^ Nuclear History - The Forgotten Disasters”. Nuclear-News (2016年). 2017年8月18日閲覧。
  3. ^ a b James Martin Center for Nonproliferation Studies (2013年3月6日). “Mayak Production Association”. Nuclear Threat Initiative. 2017年8月18日閲覧。
  4. ^ Radioactive water contamination and its dispersal in South Ural (Mayak area) 福島大学&環境放射能研究所 論文”. 2022年10月14日閲覧。
  5. ^ Russia's Plutonium”. Battelle Seattle Research Center (2005年5月20日). 2006年10月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年8月18日閲覧。
  6. ^ a b Pike, J.. “Chelyabinsk-65 / Ozersk”. WMD Information - GlobalSecurity.org. 2017年8月18日閲覧。
  7. ^ Clay, R. (2001). “Cold war, hot nukes: Legacy of an era”. Environmental Health Perspectives 109 (4): A162–9. doi:10.2307/3454880. PMC 1240291. PMID 11335195. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1240291/. 
  8. ^ Lake Karachay”. Nuclear Encyclopedia. Kose Parish, Estonia. 2015年3月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年8月18日閲覧。
  9. ^ Russia’s Mayak continues clean-up of Lake Karachai”. Nuclear Engineering International Magazine. Global Trade Media (2016年11月30日). 2017年8月18日閲覧。

関連項目 編集

外部リンク 編集