ガリア戦記

共和政ローマ期の政治家および軍人のガイウス・ユリウス・カエサルによるガリア戦争の遠征記録、および元老院への戦況報告

ガリア戦記』(ガリアせんき、ラテン語: Commentarii de Bello Gallico)は、共和政ローマ期の政治家・軍人のガイウス・ユリウス・カエサルが自らの手で書き記した、「ガリア戦争」の遠征記録である。続篇として、ルビコン渡河以降の「ローマ内戦」を記録した『内乱記』がある。

C. Iulii Caesaris quae extant, 1678

指揮官カエサル自らが書いた本書は、もともとは元老院への戦況報告の体裁を取っていたと考えられ、文中において自己に言及するときは「カエサル」もしくは三人称で書かれていることが特徴である。また文中の所々にガリア人ゲルマン人の風俗についての記述がある。

タイトル

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中世の写本などから、カエサルが刊行した当初の題名は、『ガイウス・ユリウス・カエサルの業績に関する覚書』(C.Iulii Caesaris Commentarii Rerum Gestarum) であり、今日では『ガリア戦記』と分離されている続篇『内乱記』とひとまとめの書物であったと推測される。後に便宜上、『ガリア戦記』の方を「~ de Bello Gallico」、『内乱記』の方を「~ de Bello Civili」等と区別・分離するようになっていった。ルネサンス以降の刊行における題名は『カエサルのガリア戦争に関する覚書』(Caesaris Commentarii de Bello Gallico) であり、さらに省略され今日流布している題名になった。

構成

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本書は全8巻からなり、紀元前58年から同51年にかけて8年間にわたるガリアゲルマニアブリタンニアへの遠征について記述している。なお第8巻のみ、カエサルでは無く、元同僚のアウルス・ヒルティウスが執筆している。

第1巻(紀元前58年
ヘルウェティイ族との戦闘、アリオウィストゥス率いるゲルマニア人との戦い
スイスの山地に住んでいたヘルウェティイ族がガリアに移動を開始した。カエサルは移動中のヘルウェティイ族をアラル川の戦いで攻撃。これがガリア戦争の始まり。続いて、ガリアの所有権を主張するゲルマン人に、ウォセグスの戦いで勝利。
第2巻(紀元前57年
ガリア北東部(ベルガエ人たちの居住地)への遠征
ベルガエ(ベルギー)人が南隣のレミ族英語版を攻撃。救援を求められ、カエサル軍はベルガエ人連合軍、およびもっとも強硬なネルウィイ族サビス川の戦いで勝利。
第3巻(紀元前57年-56年)
大西洋岸諸部族との戦争(山岳部族、アクィタニー人、北方部族との戦い)
ブルターニュのウェネティ族モルビアン湾の海戦で勝利。プブリウス・リキニウス・クラッススの軍団がアクイタニア(ガリア南西部)を平定。
第4巻(紀元前55年
第一次ゲルマニア遠征、第一次ブリタンニア遠征
ゲルマン人がまたライン川を超えてきた。カエサルもライン川を渡りゲルマニアを攻撃。ブリタニアにも上陸。
第5巻(紀元前54年
第二次ブリタンニア遠征、ガリア遠征初の大敗
第二次遠征でブリタニアを朝貢国とした。ベルギーのエブロネス族が反乱し、サビヌス率いるローマの第14軍団が壊滅(アドゥアトゥカの戦い)。
第6巻(紀元前53年
第二次ゲルマニア遠征
ガリア人の反乱をゲルマン人が援助したため、第二次ゲルマニア遠征。主要な敵であるスエビ族が森まで後退したため、カエサルもガリアに撤退。前年の報復に、エブロネス族をほぼ絶滅。
第7巻(紀元前52年
ウェルキンゲトリクス率いるガリア人の大反攻
アウァリクム包囲戦ゲルゴウィアの戦い、続くアレシア包囲戦で、ウェルキンゲトリクスは敗れて降伏。
第8巻(紀元前51年-50年)
本巻のみアウルス・ヒルティウスの著
ベルギーのベッロヴァキ族英語版に勝利。ガリア南西部のセノネス族英語版カドゥルキ族英語版が籠城するウクセッロドゥヌムの戦い英語版で、相手の水源を断って勝利。全ガリアを平定。

日本語訳

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※は電子書籍も刊

脚注・出典

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  1. ^ 初刊は1942年で旧かな表記、1964年(第4刷)に改版
  2. ^ 初刊は角川文庫(1970年)、『カエサル文集』 筑摩書房(1981年)に『内乱記』と併録

参考文献

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  • 高橋宏幸 『カエサル「ガリア戦記」 歴史を刻む剣とペン』 岩波書店〈書物誕生 あたらしい古典入門〉、2009年。ISBN 978-4-00-028291-8
  • ケルト文明とローマ帝国 ガリア戦記の舞台』 創元社「知の再発見」双書〉、2004年
    フランソワーズ・ベック、エレーヌ・シュー、遠藤ゆかり訳、鶴岡真弓監修。ISBN 4-422-21174-9
  • トム・ホランド 『ルビコン 共和政ローマ崩壊への物語』 中央公論新社、2006年
    小林朋則訳、本村凌二監修。ISBN 4-12-003764-9

関連項目

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外部リンク

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