キング・オブ・コメディ

キング・オブ・コメディ』(原題:The King of Comedy)は、1982年に製作されたアメリカ映画

キング・オブ・コメディ
The King of Comedy
監督 マーティン・スコセッシ
脚本 ポール・D・ジマーマン
製作 アーノン・ミルチャン
製作総指揮 ロバート・グリーンハット
出演者 ロバート・デ・ニーロ
ジェリー・ルイス
撮影 フレッド・シュラー
編集 セルマ・スクーンメイカー
製作会社 リージェンシー・エンタープライズ
配給 アメリカ合衆国の旗 20世紀フォックス
日本の旗 松竹富士
公開 アイスランドの旗 1982年12月18日
アメリカ合衆国の旗 1983年2月18日
日本の旗 1984年5月19日
上映時間 109分
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $19,000,000[1]
興行収入 $2,536,242[2]
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目次

ストーリー編集

コメディアンとして有名になりたいと考えているルパート・パプキンは、有名コメディアンのジェリー・ラングフォードを熱狂的ファンの群れから救い出し、強引にコネをつける。「今度事務所に自演テープを持って来い」と言われて有頂天になったパプキンは、早くも自分はスターになったと錯覚し、昔から好きだった女性リタにも接近するが……。

キャスト編集

※括弧内は日本語吹替

カメオ出演編集

劇中のトーク番組『ザ・ジェリー・ラングフォード・ショー』のプロデューサー役を、実際のテレビプロデューサーであるエドガー・J・シェリックフレデリック・デ・コルドヴァが演じている。

『ザ・ジェリー・ラングフォード・ショー』のアナウンサー役としてエド・ハーリヒー、バンドリーダー役としてルー・ブラウン、ゲスト役としてヴィクター・ボーグジョイス・ブラザーズがそれぞれカメオ出演している。ハーリヒーは『ザ・ジェリー・ラングフォード・ショー』のモデルとなった実在のトーク番組『ザ・トゥナイト・ショー』でかつてアナウンサーを担当していた。また、劇中で『ザ・ジェリー・ラングフォード・ショー』のゲスト司会者役を演じたトニー・ランドールは『ザ・トゥナイト・ショー』の常連ゲストだった。

マーティン・スコセッシの母親であるキャサリン・スコセッシがルパートの母親役として声の出演を果たし、スコセッシの父親であるチャールズ・スコセッシもバーの客役で出演している。さらに、スコセッシの娘であるキャシー・スコセッシがドロレス役で、スコセッシの当時の弁護士だったジェイ・ジュリアンがラングフォードの弁護士役でそれぞれ出演しているほか、スコセッシ自身も番組ディレクター役としてランドールと会話を交わしている。

製作編集

本作の脚本は『ニューズウィーク』誌の映画評論家だったポール・D・ジマーマンが執筆したものである。ロバート・デ・ニーロ1974年にジマーマンの脚本を手に入れ[3]マーティン・スコセッシに監督を依頼したが、興味が湧かないとの理由でオファーを断られていた[4]。その後はマイケル・チミノにも監督を依頼したが、『天国の門』の制作を理由にオファーを断られていた[5]

一方、スコセッシは『レイジング・ブル』の完成後、長編劇映画の制作から引退し、ドキュメンタリーの制作に専念するつもりでいた[6]。しかし、イエス・キリストの生涯を描く劇映画『最後の誘惑』の制作を検討し始め、デ・ニーロにキリスト役を打診する。デ・ニーロはキリスト役の打診を断ったものの、以前から温めていた本作の企画を再び持ち出し、スコセッシに対し、自分と一緒にジマーマンの脚本を映画化しないかと逆に持ちかける。映画プロデューサーのアーノン・ミルチャンの後押しもあり、最終的にスコセッシが本作の監督を務めることが決まった。

キャスティング編集

ジェリー・ラングフォード役には当初、『ザ・トゥナイト・ショー』の司会者であるジョニー・カーソンが検討されていた[7]。カーソンにオファーを断られた後はフランク・シナトラディーン・マーティンの名前も候補に挙がったが、最終的にはジェリー・ルイスに落ち着いた[7][8]。劇中に登場するラングフォードのサインはルイス本人が記したものである。撮影開始前に初めて会話を交わした時から、スコセッシはルイスのプロフェッショナルな姿勢に敬意を抱き、この人物とならば円滑に仕事ができると思ったという[9]

マーシャ役にはメリル・ストリープが想定されていたが、オファーを断わられたため、サンドラ・バーンハードがマーシャ役に起用された[10]

メアリー・エリザベス・マストラントニオのデビュー作になるはずだったが、マストラントニオの出演シーンは編集段階ですべてカットされた。ただし、冒頭の群集シーンに一瞬だけ姿を見ることができる。その後、マストラントニオはスコセッシ監督の『ハスラー2』のヒロインに抜擢された。

演出編集

コメディアン志望の青年であるルパート・パプキンを演じるにあたり、デ・ニーロは数か月間に渡ってスタンダップコメディアンたちのステージを鑑賞し続け、パフォーマンスにおける間やタイミングを研究した[11]

本作のDVDに特典映像として収録されているドキュメンタリーで、スコセッシは、ルイス演じるラングフォードが街頭の老婦人から「お前なんかになってしまえばいいんだ」と罵倒されるシーンはルイスの演出によるものであることを明らかにしている。ルイスはかつて実際に同様の言葉を投げかけられたことがあり、本作の撮影現場ではルイス自らが老婦人役の女優に台詞のタイミングを教えていたという。

音楽編集

ロビー・ロバートソンが本作のサウンドトラックをプロデュースした。劇中ではロバートソンのオリジナル曲『Between Trains』をはじめ、B.B.キングヴァン・モリソンレイ・チャールズらの楽曲が使用されたほか、ボブ・ジェームスの楽曲が『ザ・ジェリー・ラングフォード・ショー』のテーマ曲およびルパート・パプキンのテーマ曲として採用されている。

サウンドトラックアルバム編集

本作のサウンドトラックアルバムは1983年ワーナー・ブラザース・レコードからレコード盤として発売され、2016年にはウーンデッド・バード・レコードからCD盤として発売された。

  1. プリテンダーズ 『チェイン・ギャング』 (3:51)
  2. B.B.キング 『'Taint Nobody's Bizness (If I Do)』 (3:33)
  3. トーキング・ヘッズスワンプ』 (5:13)
  4. ボブ・ジェームスKing Of Comedy』 (4:23)
  5. リッキー・リー・ジョーンズRainbow Sleeve』 (3:39)
  6. ロビー・ロバートソンBetween Trains』 (3:25)
  7. リック・オケイセックSteal The Night』 (3:55)
  8. レイ・チャールズ降っても晴れても』 (3:40)
  9. デイヴィッド・サンボーンThe Finer Things』 (4:27)
  10. ヴァン・モリソンWonderful Remark』 (3:57)

評価編集

興行的には失敗したものの、業界関係者からの評価は高く、黒澤明ヴィム・ヴェンダース松田優作レオナルド・ディカプリオらが本作のファンであることを公言している。松田優作は『ペントハウス』誌のインタビューで、本作で主人公を演じたロバート・デ・ニーロについて「この映画を見る前までは手が届く存在だと思っていたが、これを見て脱帽した」と発言している。

日本お笑いタレントの中にもファンがおり、関根勤は「僕の中では『キング・オブ・コメディ』こそがデ・ニーロの最高傑作」と評している[12]。また、2000年から2015年まで活動したお笑いコンビキングオブコメディ」の名前は本作に由来する。

2000年に「アメリカ喜劇映画ベスト100」の候補500本にノミネートされたほか[13]2003年には編集者のスティーヴン・ジェイ・シュナイダーの著書『死ぬまでに観たい映画1001本』で1001本のうちの一本に挙げられた。

受賞・ノミネート編集

1983年第36回カンヌ国際映画祭でオープニング作品として上映され[14][15]、監督のマーティン・スコセッシパルム・ドールにノミネートされた。

1984年の第37回英国アカデミー賞ではスコセッシが監督賞に、デ・ニーロが主演男優賞に、ジェリー・ルイス助演男優賞に、ポール・D・ジマーマンオリジナル脚本賞に、セルマ・スクーンメイカー編集賞にそれぞれノミネートされ、ジマーマンがオリジナル脚本賞を受賞した。同年の第4回ロンドン映画批評家協会賞では本作が作品賞に輝き、第18回全米映画批評家協会賞ではサンドラ・バーンハード助演女優賞を受賞している。

影響編集

マーシャ役を演じたサンドラ・バーンハードは、2013年に行われたインタビューで、コメディアンのジャック・ブラックが本作のリメイクに関心を持っていたことを明かしている。しかし、バーンハードはリメイクの企画について「時すでに遅し」として却下したという[16]

俳優のスティーヴ・カレルと映画監督のベネット・ミラーは、本作の主人公であるルパート・パプキンの社会病質性を参考にして、2014年製作の映画『フォックスキャッチャー』におけるジョン・デュポンのキャラクター像を造成した[17]

2011年製作の映画『マイ・バック・ページ』の監督である山下敦弘は、主人公の梅山を演じた松山ケンイチに対し、梅山のキャラクターを学ぶために本作と『誘う女』を観るよう勧めたという[18]

エンディングをめぐる論争編集

映画研究者のデヴィッド・ボードウェルは、2003年に発表した著書『Film Viewer's Guide』の中で、本作のエンディングが現実であるか幻想であるかをめぐる論争が絶え間なく続いていることに言及している[19]

監督のマーティン・スコセッシは『黒水仙』のDVDコメンタリーで、マイケル・パウエル監督作品を参考にして本作が作られたことを明らかにしている。スコセッシによれば、パウエルの作品では現実と幻想は常に同一のものとして扱われ、幻想的なシーンも現実的に描かれていたという。スコセッシは本作の結末が現実であるか幻想であるかについて問われると回答を拒否したが、エンディングをめぐる論争はそれぞれの観客がどのように本作を観ているかを示すものであり、「幻想は現実よりも現実的なものだ」と話している。

『タクシードライバー』との関係編集

本作の主人公であるルパート・パプキンは、1976年製作の映画『タクシードライバー』の主人公であるトラヴィス・ビックルとの共通点を指摘されることが多い。どちらもスコセッシ監督作品でロバート・デ・ニーロが演じた役柄であり、現実と幻想を識別する能力に困難を抱えているためである[20]。芸能コラムニストのマリリン・ベックは、観客はトラヴィス・ビックルよりもルパート・パプキンのほうに自分と重なり合う点を見つけやすく、直接的な血と暴力が描かれていないだけに、『タクシードライバー』よりも本作のほうがより危険であると指摘している[21]

監督のスコセッシも、本作のDVDに特典映像として収録されているドキュメンタリーで、「トラヴィスもルパートも社会から孤立した人間だ。トラヴィスよりもルパートのほうが危険かと言われたら、たぶんそうだろう」と話している。

関連項目編集

脚注編集

  1. ^ Aubrey Solomon, Twentieth Century Fox: A Corporate and Financial History, Scarecrow Press, 1989 p260
  2. ^ The King of Comedy (1982)” (英語). Box Office Mojo. 2010年4月4日閲覧。
  3. ^ Baxter, John De Niro A Biography pp. 219/20.
  4. ^ LoBrutto, Vincent (2008). Martin Scorsese: A Biography. Westport, Conn.: Praeger. ISBN 978-0-275-98705-3. 
  5. ^ Grist, Leighton (2013). The Films of Martin Scorsese, 1978-99: Authorship and Context II. Basingstoke, UK: Palgrave Macmillan. p. 69. ISBN 978-1-403-92035-5. 
  6. ^ Jousse, Thierry; Saada, Nicolas (March 1996). “De Niro et moi”. Les Cahiers du cinéma n°500. 
  7. ^ a b Christie and Thompson, Ian and David. Scorsese on Scorsese, p.89.
  8. ^ Schoell, William. Martini Man: The Life of Dean Martin. Dallas, Texas: Taylor Publishing 1999. 0-87833-231-6.
  9. ^ Thompson, ed. by David Thompson (1991). Scorsese on Scorsese (Repr. ed.). London u.a.: Faber and Faber. p. 90. ISBN 0-571-15243-0. 
  10. ^ IMDB:The King of Comedy (1982) Trivia
  11. ^ Dougan, Andy (2011). Untouchable: Robert De Niro: Unauthorised. London: Random House. ISBN 0-7535-0407-3. 
  12. ^ 関根勤がおすすめする「ロバート・デ・ニーロを堪能する」9本(2015年7月28日、T-SITEニュース)
  13. ^ http://connect.afi.com/site/DocServer/laughs500.pdf?docID=251
  14. ^ “Jerry Lewis Is The King At Cannes Film Festival”. The New York Times. (1983年5月9日). https://www.nytimes.com/1983/05/09/movies/jerry-lewis-is-the-king-at-cannes-film-festival.html 
  15. ^ Latest Movie Features | Best & Worst Lists | Spoilers - Empire”. gb: Empireonline.com. 2017年2月6日閲覧。
  16. ^ Frank DiGiacomo (2013年4月19日). “Sandra Bernhard Says 'It's Too Late' To Remake 'The King of Comedy'”. Movieline. 2015年1月21日閲覧。
  17. ^ Tim Robey (2015年1月9日). “Bennett Miller interview: 'Foxcatcher is a film about fathers'”. London: The Daily Telegraph. http://www.telegraph.co.uk/culture/film/film-news/11330625/Bennett-Miller-interview-Foxcatcher-is-a-film-about-fathers.html 2015年1月21日閲覧。 
  18. ^ cut』(2011年2月)
  19. ^ Bordwell (2003). The McGraw-Hill film viewers guide. Boston: McGraw-Hill. p. 30. 
  20. ^ Wernblad, Annette (2011). The Passion of Martin Scorsese: A Critical Study of the Films. Jefferson, USA: McFarland & Company. p. 92. ISBN 0786449462. 
  21. ^ Beck, Marilyn (1983年2月2日). “The King of Comedy”. New York Daily News 

外部リンク編集