クリスピヌスとクリスピニアヌス

クリスピヌスとクリスピニアヌス(Crispinus & Crispinianus、フランス語:Crépin et Crépinien, クレパンとクレピニヤン、イタリア語:Crispino e Crispiniano, クリスピーノとクリスピニアーノ、スペイン語:Crispín y Crispiniano, クリスピンとクリスピニャーノ、英語:Crispin and Crispinian, クリスピンとクリスピニアン。他にも、クリスピアヌスクリスパンとも)は、カトリック教会聖公会正教会聖人とされる人物。靴屋や製皮・皮革職人の守護聖人

クリスピヌスとクリスピニアヌス
死没 286年
ローマ
崇敬する教派 カトリック教会
聖公会
正教会
記念日 10月25日
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生涯 編集

 
聖クリスピヌスとクリスピニアヌスの殉教
(Aert van den Bossche画、1494年)

聖クリスピヌスとクリスピニアヌスは双子の兄弟で、3世紀ローマの貴族の家に生まれた。信仰の迫害から逃れて、ソワソンに辿り着き、そこでガリア人にキリスト教を説き、夜は靴を作った。布教は順調だったが、ガリア・ベルギカ総督リクティウス・ウァルス(Rictius Varus)の耳にも届き、ウァルスは二人を拷問の末、斬首刑に処した。286年頃のことである。

6世紀になって、ソワソンに兄弟を祀る教会が建てられた。

聖クリスピヌスとクリスピニアヌスはケントのフェイヴァシャム(Faversham)とも関係がある。2007年のはじめにSt Mary of Charity教会の南側廊に聖クリスピヌスとクリスピニアヌスの祭壇が作られた。

聖クリスピヌスとクリスピニアヌスの墓と言われる墓が、ローマのサン・ロレンツォ・イン・パニスペルナ教会(San Lorenzo in Panisperna)にある。

聖人としての地位 編集

聖クリスピヌスとクリスピニアヌスの聖名祝日10月25日[1]である(サンクリスピンデー)。カトリック教会第2バチカン公会議において、二人が実在したという証拠が不十分であるという理由で、カトリック教会の聖人暦からその祝日を取り除いた。確かに、靴屋であること、双子であること、祝日のタイミングは、二人がその地方のケルト神話の神(Lugus-Mercurius)の象徴で、習合の結果として聖人になった可能性もある。しかし、イングランド国教会の聖人暦Calendar of saints (Church of England))にはまだ残っている。

聖クリスピンの祝日の演説 編集

聖クリスピヌスの名を最も有名にしたものは、ウィリアム・シェイクスピア作の『ヘンリー五世』の中で、アジャンクールの戦い1415年10月25日)の直前のヘンリー5世の演説だろう。この演説の中で、クリスピニアン(Crispinian)の名前が「クリスピアン(Crispian)」と綴られている。おそらく、シェイクスピアの時代のロンドンでの発音だけでなく、弱強五歩格に合わせる意味もあったのだと思われる。

全文は以下の通りである。

今日はクリスピヤン祭と称される日だ。今日死なゝいで帰国する者は、此後(こののち)此祭日が来た時には、クリスピヤンの名を聞くと同時に、(我れ知らず)足を爪立て(我ながら肩身を広く感ず)るであろう。今日死なないで老いに及ぶ者は、年々此祭の前夜(よみや)に隣人を饗応して、明日(あす)は聖(セント)クリスピヤンだといって、袖を捲(まく)って古傷を見せて、こりゃクリスピヤン祭に受けたのだといふだろう。老人は忘れっぽい。何もかも忘れるだらうが、此日にした事だけは、利子を附けて憶ひ出すだらう。その際、彼等の口に俗諺(ことわざ)のやうに膾炙(くわいしゃ)するのは我々の名だらう。王ハーリー、ベッドフォードにエクシーター、ウォーリックにタルボット、ソルズバリーにグロースターを、彼等はなみなみと注(つ)いだ酒盃(さかづき)を挙げて、又新たに憶ひ出すだらう。戸主が此話を其息子に伝へるから、今日から世界の終るまで、クリスピヤンが来さへすればわれわれの事は憶ひ出される。われわれは、われわれ幸福な少数は、兄弟(けいてい)団とも称すべきだ。今日(けふ)わたしと共に血を流す者はわしの同胞(きやうだい)なんだから。どんな卑賤な者も今日で以て貴紳(きしん)と同列になる。イギリスで今寝てゐる貴紳連は、後日聖(セント)クリスピヤン祭に、われわれと一しょに戦った誰れかに其話を聞きゃ、きっと今日こゝにゐなかったのを残念がり、男がすたったやうに思ふだらう。 — 坪内逍遥・訳

この演説はさまざまな小説、映画で引用されている。

大衆文化の中の聖クリスピヌスとクリスピニアヌス 編集

名前 編集

脚注 編集

  1. ^ パブロ・ピカソはこの日が誕生日。ピカソのフルネームを参照。

参考文献 編集

外部リンク 編集