ザムザムの泉
ザムザムの泉(アラビア語: زمزم Zamzam)とは、サウジアラビアにある聖地マッカ(メッカ)のマスジド・ハラームにある泉である。
古くからマッカの貴重な水源であり、イスラム社会においては聖なる泉とされている。ザムザムの泉から湧き出る水はザムザムの水と呼ばれ、イスラム教における聖水のようなものとして扱われている。巡礼に来たムスリムはウムラ の儀式が終わるとザムザムの水を飲むのが通例とされている。この水は販売目的での国外への持ち出しはサウジアラビアの法律によって禁止されているが、巡礼者が個人的に持ち帰る分には自由であり、巡礼者の代表的な土産物になっている。マッカの周囲にはザムザムの水を売る店が多数ある。一部の航空会社ではザムザムの水の機内持込に関して荷物の重量制限から一部除外するなど特別な規定を設けているところがある。
泉の発見まで編集
泉の発見は、ハジャルが息子イスマーイールのために水を探し求めているとき、イスマーイールの元を訪れた天使が翼で地面を叩くと、その場所から水があふれ出た伝承に由来する[注 1]。
イスラームの預言者ムハンマドの時代より十数代前に、メッカの構成員であったジュルフム族とクライシュ族の祖のひとつキナーナ族等との間で争いが生じ、ジュルフム族はマッカから追放される時にカアバから黒石を持ち出し、ザムザムの泉も埋めてイェメンへ去ってしまったという。その後泉は塞がれて所在が分からなくなってしまったが、アッラーからの夢告を受けた預言者ムハンマドの祖父アブド・アル=ムッタリブによって泉が再発見されたという。以後泉はアブド・アル=ムッタリブの一族が管理し、アブド・アル=ムッタリブによって泉の水はカアバを詣でる巡礼者に供されるようになったといわれる[1]。
水質編集
泉の水はポンプで汲み上げられており、やや塩気のある味がする[2]。電動式のポンプで汲み上げられた水はマスジド・ハラームの噴水に利用されるほか、タワーフが行われる場所の近くで容器に詰められている[3]。
脚注編集
注釈編集
- ^ 8世紀の伝承学者イブン・イスハークが伝えるところによると、幼いイスマーイールがのどの渇きに苦しんでいたためハジャルが水を求めて周囲を歩き回っていると、アッラーは天使ジブリール(ガブリエル)を遣わし、ジブリールが大地をかかとで踏むと水がわき出したという。ハジャルは猛獣の声を聞いて息子イスマーイールが心配になり駆けよると、イスマーイールは頬の下に湧き出た泉の水を手ですくって飲んでいた、と伝えている。(イブン・イスハーク『預言者ムハンマド伝(1)』、95頁)
出典編集
- ^ イブン・イスハーク『預言者ムハンマド伝(1)』、95-97, 129-135頁
- ^ 橋本「ザムザム」『岩波イスラーム辞典』、415頁
- ^ “Zamzam Studies and Research Centre”. Saudi Geological Survey. 2005年2月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2005年6月5日閲覧。
- ^ Nour Al Zuhair, et. al. A comparative study between the chemical composition of potable water and Zamzam water in Saudi Arabia. KSU Faculty Sites, Retrieved August 15, 2010
参考文献編集
- 橋本卓「ザムザム」『岩波イスラーム辞典』収録(岩波書店, 2002年2月)
- イブン・イスハーク(著)イブン・ヒシャーム(編集)『預言者ムハンマド伝(1)』 (イスラーム原典叢書:後藤明、医王秀行、高田康一、高野太輔 翻訳 )岩波書店、2010年11月。