ステイルメイト
ステイルメイト(英: stalemate、手詰まり)とは、チェス用語の一つ。「ステイル・メイト」や「ステールメイト」と表記される場合もある。
条件編集
次の3つの条件が全て揃った時が、対戦相手によって「ステイルメイトされた」状態に該当する。
- 自分の手番である。
- 相手にチェックはされていない。
- 合法手がない。つまり、反則にならずに次に動かせる駒が一つもない。
概説編集
ステイルメイトは、王手(チェック)されていないという点でチェックメイトとは異なっている。しかし次の手を指すことができず、そのままではゲームを継続することができない。そのためルール上に何らかの対処が必要となる。今日のチェスでは、引き分けになると規定されている。
相手をステイルメイトの状態にした場合は、その時点で自分がかなり優勢な局面であることが一般的である。ステイルメイトの対処の仕方もこの事を前提に考えられている。現在存在するチェス系のゲームでは、ステイルメイトの対処には次のようなルールがある。
- ステイルメイトになった方が負け
- ステイルメイトが起こった時点での、単純な戦力の差を根拠としている。または、ルール上に定義が無いことにより、結果としてステイルメイトされた側が必然的に打つ反則手または投了により負けとなるという解釈である。シャンチーや本将棋・中将棋などがこれに該当する。
- 引き分け
- かつて王侯貴族の相手をしていた客分のプロフェッショナルチェスプレーヤーは王侯貴族の面子をつぶさないため、ステイルメイトは引き分けというルールを思いついた[1]。これが、いつの間にか王侯貴族相手でなくても一般的になり、チェスでは公式戦においてもステイルメイトは引き分けと規定されている[2]。
- その他の特殊なパターン
- マークルックは公式戦ではステイルメイトは<負け><引き分け><勝ち>のいずれかとすることを開始前に決めることとなっている。マックルック酒場では事前取り決めのない場合、ステイルメイトは<負け>である。チャンギはパスが可能なため、ステイルメイト自体が発生しない。
チェスの歴史の中でも、草創期からステイルメイトのルールが確立していたわけではない。その取り扱いは、時代や場所(国)により幾度も変遷してきた。(シャンチーなどの)他のゲームについても、それぞれの特性に応じて、より面白く・より適切と考えられる対処が採用されている。
チェスにおけるステイルメイト編集
チェス系ゲームにおいて、ステイルメイトは極めて重要である。英語圏以外のヨーロッパ諸国では、「pat」とも呼ばれている[3]。
図はチェスにおけるステイルメイトの一例。黒の手番のとき、a8にいる黒のキングはb6の白のクイーンが利いているためにa7・b8・b7のいずれにも動けず、指せる手がひとつもない。今日のチェスのルールではこうした状況をステイルメイトと呼ぶ。ステイルメイトが生じたら引き分けとしてゲームは終了する。ただし、この一つ前の白の手番においては、白はステイルメイトを回避することもできた(一方がキングとクイーンを持ち一方がキングのみの場合において、キングとクイーンを持つ側は最善を尽くせば必ず相手をチェックメイトできる)。
a | b | c | d | e | f | g | h | ||
8 | 8 | ||||||||
7 | 7 | ||||||||
6 | 6 | ||||||||
5 | 5 | ||||||||
4 | 4 | ||||||||
3 | 3 | ||||||||
2 | 2 | ||||||||
1 | 1 | ||||||||
a | b | c | d | e | f | g | h |
ステイルメイトを引き分けと規定することで、わずかな違いで勝ちとドローが分かれる局面が増えた。またステイルメイトを狙っての捨て駒、ポーンが余分にあるために負けになる局面、クイーンの下位互換であるルークやビショップへのプロモーションの有効性など、チェス終盤の複雑性が増している。
将棋におけるステイルメイト編集
本将棋編集
本将棋でも理論上、ステイルメイトは存在する。しかし本将棋の実戦では、ステイルメイトが発生するケースは皆無に近い[注釈 1]。本将棋では、ステイルメイトについてルール上は規定されていない。
その理由は次の通り。
- 本将棋では取った駒を自らの持ち駒として使えるので、「合法手がない」という状態が極めて起こりにくい。
- 強引に想定した場合、攻め手と受け手の戦力差が通常では考えられないほど開いてしまう。
- つまりステイルメイトになるずっと前の段階で、ほとんど勝負は決着しているのである。
- ステイルメイトの状況まで対局を続けるのは、攻め手・受け手ともに好ましくなく、礼を欠いた行為とみなされている。
右図は、将棋におけるステイルメイトの一例である。注目すべき点は先手の持ち駒で、王将と銀1枚以外の駒が、すなわち全40枚の駒のうち38枚が先手の持ち物となっている(ちなみに敵玉を除く全ての駒(平手の場合39枚)を自分のものにすることを「全駒(ぜんごま)」という)。もし後手の駒台に歩が1枚でもあれば、それはまだステイルメイトの状況ではない。
右図以外の形でも、将棋のステイルメイトは一様に全駒またはそれに近い大差がついた物となっている。将棋の実戦でステイルメイトが発生するのは、圧倒的に優勢な攻め手(右図では先手)が、終盤でわざと詰めに行かない場合などに限られる。また、詰め方をまだ理解していない初心者が、勝勢にもかかわらず詰みを見付けられないために、結果的にステイルメイトを成立させることがある[4]。同様に、コンピュータ将棋の世界コンピュータ将棋選手権でも、詰みが見付けられない・適切な投了ができないといった理由で、ステイルメイトになるまで対局が続行した例がある[5]。当然対局も長引き、対局開始からステイルメイトまでの手数は数百手におよぶこともある。
将棋でステイルメイトが発生しうるような、全駒またはそれに近い圧倒的戦力差の場合は、実戦レベルでは逆転の可能性はゼロと断言してよく、仮にそのような大差を逆転できたとしても、受け手(右図では後手)はチェスのような積極的な戦略を立てることができない。受け手にできることといえば、万に一つの偶然を祈りながら投了しないで対局を続けることくらいである。
本将棋でステイルメイトが起きた場合は、パスができないルールから慣習的に詰みと同様に受け手の負け[注釈 2]とされている。明確にルールとして定められていない理由は、そこまで長びいて大差のついた内容の対局を本将棋は想定していないからと言えよう。
本将棋では勝敗の決着は、原則「詰み」または「投了」が前提となっている。一般的な慣習としては、攻め手はこのような大差がつく前に相手を詰めるべきとされている。また、受け手はもっと前の適切な段階で投了すべきとされている(前述の理由4.に該当し、全駒などステイルメイトが発生しうるような大差がついていながら対局を続行するのは、実際の駒を使う将棋・ネット将棋の場合ともに、双方ともに礼を欠く行為と取られる)。
なお、右図も実戦ではまずありえない局面であるが、この図では先手が後手玉以外の39枚を持っているにもかかわらずステイルメイト状態となっている。この例では、先手は圧倒的に駒得してはいるが、先手が敵陣の駒を動かそうにも歩が邪魔で、先手の盤上の駒が全て1 - 5段目でがんじがらめになっている。また先手の持ち駒は全て歩であり、どこに打っても二歩になるため使うことができず、先手は39枚あっても指すことができない状態となっている。前述の慣習によれば先手の負けとなり、後手が「玉1枚だけで勝ち」となる。
持ち駒制度のない将棋類編集
中将棋や大将棋などの持ち駒制度のない将棋類(主に古将棋の多く)では相手の駒を取っても持ち駒として使う事ができないため、ステイルメイトが成立する事がある。
中将棋では、ステイルメイトになった方が負けと、明確にルールとして定められている。持ち駒制度のない他の将棋でもそれに準ずるものと思われる。
その他の将棋編集
フェアリー詰将棋では、自玉をステイルメイトの状態にすることを目的とした物も存在している。「ばか自殺ステイルメイト」または「協力自殺ステイルメイト」などと呼ばれている。
その他のボードゲームにおけるステイルメイト編集
その他のチェス系統のボードゲームでも、ステイルメイトに関する対処が存在する。