チピラシル(Tipiracil)は、癌の治療に用いられる医薬品である。切除不能な進行・再発の結腸直腸癌の治療に、トリフルリジン・チピラシルの配合剤の形で使用承認されている[1]。チピラシルは、トリフルリジンを代謝する酵素チミジンホスホリラーゼ英語版を阻害することで、トリフルリジンの血中濃度を維持する役割を担う[1][2]

IUPAC命名法による物質名
臨床データ
ライセンス EMA:リンク
薬物動態データ
生物学的利用能≥27%
血漿タンパク結合<8%
代謝10
半減期2.1–2.4 hrs
排泄Faeces (50%), urine (27%)
識別
CAS番号
183204-74-2
183204-72-0 (HCl)
PubChem CID: 6323266
DrugBank DB09343
ChemSpider 13243748
UNII NGO10K751P チェック
KEGG D10467
ChEBI CHEBI:90879 チェック
ChEMBL CHEMBL235668
化学的データ
化学式C9H11ClN4O2
分子量242.66 g·mol−1
物理的データ
水への溶解量5 mg/mL (20 °C)
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副作用 編集

単剤での副作用は知られていない。

相互作用 編集

In vitro での相互作用の研究のみが利用可能である。これらの研究では、チピラシルは、溶質キャリア英語版(SLC)タンパク質であるSLC22A2英語版およびSLC47A1英語版によって輸送されることが判明した。これらの輸送体と相互作用する薬剤は、チピラシルの血中濃度に影響を与える可能性がある[3]

作用機序 編集

チピラシルはチミジンホスホリラーゼ(TPase)阻害剤であり、TPaseを阻害することでトリフルリジンの分解を抑制するため、チピラシルをトリフルリジンと併用した場合、トリフルリジンの全身曝露量が増加する[3]

薬物動態 編集

チピラシルの少なくとも27%は腸から吸収される。癌患者では、3時間後に最高血中濃度に達する。この物質は体内に蓄積される傾向はない。ヒト血漿でのin vitro タンパク結合率は8%以下である。チピラシルは、シトクロムP450(CYP)酵素では代謝されない。僅かに6-ヒドロキシメチルウラシルに加水分解されるが、主な部分は未変化体のまま糞便(50%)および尿(27%)に排泄される。排泄半減期は1日目に2.1時間、12日目に2.4時間とやや増加する[3][4]

チピラシルは、トリフルリジンのCmax(最高血中濃度)を22倍、曲線下面積を37倍に増加させる[3]

COVID-19 編集

チピラシルはSARS-CoV-2のNsp15を阻害し、酵素の活性部位のウリジン結合ポケットと相互作用することが、結晶学、生化学、全細胞を用いたアッセイにより明らかになっている[5]。SARS-CoV-2の主要なプロテアーゼを標的とした非常に有望なヒット化合物として、計算機による薬物再利用研究で提案されていた[6]

参考資料 編集

  1. ^ a b Taiho's Lonsurf(R) (trifluridine and tipiracil hydrochloride) Tablets Approved In Japan for Treatment of Advanced Metastatic Colorectal Cancer” (2014年3月24日). 2021年9月20日閲覧。
  2. ^ “Repeated oral dosing of TAS-102 confers high trifluridine incorporation into DNA and sustained antitumor activity in mouse models”. Oncology Reports 32 (6): 2319–26. (December 2014). doi:10.3892/or.2014.3487. PMC 4240496. PMID 25230742. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4240496/. 
  3. ^ a b c d Haberfeld, H, ed (2015) (German). Austria-Codex. Vienna: Österreichischer Apothekerverlag 
  4. ^ Lonsurf: EPAR – Product Information. European Medicines Agency. (12 May 2016). http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/EPAR_-_Product_Information/human/003897/WC500206246.pdf. 
  5. ^ Kim, Youngchang; Wower, Jacek; Maltseva, Natalia; Chang, Changsoo; Jedrzejczak, Robert; Wilamowski, Mateusz; Kang, Soowon; Nicolaescu, Vlad et al. (2020). “Tipiracil binds to uridine site and inhibits Nsp15 endoribonuclease NendoU from SARS-CoV-2”. bioRxiv. doi:10.1101/2020.06.26.173872. https://www.biorxiv.org/content/biorxiv/early/2020/06/28/2020.06.26.173872.full.pdf. 
  6. ^ Baby K, Maity S, Mehta CH, Suresh A, Nayak UY, Nayak Y (2021). “Targeting SARS-CoV-2 Main Protease: A Computational Drug Repurposing Study.”. Arch Med Res 52 (1): 38–47. doi:10.1016/j.arcmed.2020.09.013. PMC 7498210. PMID 32962867. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7498210/.