チャイルド・レジスタンス包装

チャイルド・レジスタンス包装(チャイルド・レジスタンスほうそう、英語: Child-resistant packagingCR包装)は、敢えて子どもには開封が難しくしてある包装で、子どもが危険物を摂取するリスクを減らすために用いられる特別な包装。特別な安全キャップがしばしば用いられる。

「押し下げて回して開く」という指示が付いたチャイルド・レジスタンスのキャップ付きのアスピリンのボトル

概要 編集

処方薬、市販薬、ニコチン含有電子タバコ機器、そのカートリッジ(EUTPD(Europe Union Transfer Pricing Documentation;EU 移転価格文書)36.7で規定[1][2][3])、農薬や家庭用化学物質を入れることのできる容器において、規制がある[4]。一部の管轄区域(jurisdiction)では、ブリスターパックなどのユニット包装も子どもの安全のために規制されている[5]

米国消費者製品安全委員会は、プレスリリースで「チャイルド・プルーフ(子どもに安全な)包装などありえない。したがって、包装を第一の防衛線と考えるべきではない。むしろ、チャイルド・レジスタンス包装であっても、あなたが最後の防衛線であると考えるべきだ。」と声明を出している[6]

背景 編集

チャイルド・レジスタンス容器用のロックするフタ(locking closure)は、1967年にヘンリー・ブロー博士によって発明された[7]

子どもが家庭用化学物質の包装を開けて内容物を摂取するという事故の歴史により、アメリカ合衆国議会は、ユタ州フランク・E・モス上院議員によって提案された1970年の毒物防止包装法を可決した。 これにより、 米国消費者製品安全委員会[8][9]にこの分野を規制する権限が与えられた。 数十年かけて保護対象となる範囲が増加し、 環境保護庁によって規制されている化学物質を含む他の危険物が含まれるようになった。しかし偶発的な子供の中毒は続いた[10]国際標準を改善するための必要条件とプロトコールの調整がなされた。

開けにくい 編集

チャイルド・レジスタンス包装は、一部の高齢者や障害のある人にとって、問題になる可能性がある[11] [12][13]。 規制では、ほとんどの成人が包装を開けることができることを確認するために、デザインを試験する必要がある[14]。一部の管轄区域では、同居する子どもがいない場合、薬剤師は非CR包装で薬を提供することを許可している。

必要条件 編集

規制は、包装を開封できるかどうかを判断するために、実際の子どもを含んで包装の性能試験(performance test)プロトコルに基づいている。 最近では、高齢者や障害のある人が同じパッケージを開くことができるかどうかを、追加の性能試験も使用して判断している[15][16]

多くの場合、CR包装の要件は、開封のために2つの異なる動作を必要とするフタの構造になっていることが求められる。何百通りもの包装設計が利用可能である。

日本の状況 編集

2011年東京都商品等安全対策協議会は、「子供用水薬を中心とした医薬品容器の安全対策」とした報告書をまとめ、都に提出した[17][18]。水薬用CR容器の利用促進が必要だとし、誤飲防止への積極的な注意喚起・普及啓発と共に、薬局での導入モデル調査の実施などを提言した[17]

2015年消費者庁の消費者安全調査委員会(事故調)は、子供が医薬品を開封しにくい構造の包装容器の導入を検討するよう求める提言をまとめ、厚生労働省に提出した[19][20]

2017年、医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団理事長の土井脩は、「CR容器の導入は医薬品業界にとって大きな負担とはなる」とした上で、「官民で今後真剣に検討する必要がある課題で、厚生労働省としても何らかの対策を講じることが求められている」と記した[21]

2019年現在、日本では、医薬品CR容器の導入は検討中であるが[22]経済産業省による使い捨てライターや点火棒の規制は先んじている。

基準 編集

  • ISO 8317 チャイルド・レジスタンス包装 - 再びフタをすることが可能な包装の要件と試験手順
  • ISO 13127 チャイルド・レジスタンス包装の包装 - 再びフタをすることが可能なチャイルド・レジスタンス包装システムの機械的試験方法
  • ASTM D3475、チャイルド・レジスタンス包装の標準分類
  • ASTM F3159、液体洗濯洗剤個包装の消費者安全仕様

関連項目 編集

脚注 編集

  1. ^ The Tobacco and Related Products Regulations 2016”. www.legislation.gov.uk. 2020年1月6日閲覧。
  2. ^ Sanbar, Shafeek S. (2007). Legal medicine. Elsevier Health Sciences. p. 393. ISBN 978-0-323-03753-2. https://books.google.com/books?id=3tJEEZnkXmYC&pg=PA393&lpg=PA393&dq=%22safety+cap%22medicine 2010年11月6日閲覧。 
  3. ^ Winter, Harold (2005-05-01). Trade-offs: an introduction to economic reasoning and social issues. University of Chicago Press. p. 98. ISBN 978-0-226-90225-8. https://books.google.com/books?id=VE7-ITbQSk8C&pg=PA98&dq=%22safety+cap%22medicine 2010年11月6日閲覧。 
  4. ^ Gaunt (2007年5月). “Child-resistant does not mean Childproof”. Pharmacy Times. 2009年3月3日閲覧。
  5. ^ Smith (2005年3月16日). “PPPA, Unit Packaging”. CPSC. 2010年7月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年3月25日閲覧。
  6. ^ "New National Emergency Hotline Assessed; CPSC Joins in Launching Poison Prevention Week to Stop 30 Deaths Each Year" (Press release). CPSC. 2008年12月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年3月26日閲覧
  7. ^ Dr. Henri Breault”. Canadian Medical Hall of Fame. 2012年3月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年2月28日閲覧。
  8. ^ CPSC (2007年2月9日). “Poison Prevention Packaging Information”. U.S. Consumer Product Safety Commission. 2008年12月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年12月19日閲覧。
  9. ^ Viscusi, W. Kip (1995). Fatal tradeoffs: public and private responsibilities for risk. Oxford University Press US. p. 235. ISBN 978-0-19-510293-2. https://books.google.com/books?id=uBRYXzjOztcC&pg=PA235&dq=%22safety+cap%22medicine 2010年11月6日閲覧。 
  10. ^ Schwebel, D C (2017). “Unintentional child poisoning risk: A review of causal factors and prevention studies”. Children's Health Care 46 (2): 109–130. doi:10.1080/02739615.2015.1124775. http://people.uncw.edu/nguyens/files/schwebel%20et%20al%202017.pdf 2018年10月21日閲覧。. 
  11. ^ de la Fuente. “The use of a universal design methodology for developing child-resistant drug packaging”. Master's Thesis. Michigan State University. 2013年10月16日閲覧。
  12. ^ de la Fuente. “Perceptions and attitudes of people with disabilities and older adults about child-resistant drug packaging”. Journal for Patient Compliance. 2013年10月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年10月16日閲覧。
  13. ^ de la Fuente, Javier; Bix, Laura (2010). User-pack interaction: Insights for Designing Inclusive Child-resistant Packaging. 89–100. doi:10.1007/978-1-84996-166-0_9. ISBN 978-1-84996-165-3 
  14. ^ CPSC. “Testing procedure for special packaging”. U.S. Consumer Product Safety Commission. 2015年8月21日閲覧。
  15. ^ CPSC. “Poison Prevention Packaging”. US Consumer Product Safety Commission. 2015年8月21日閲覧。
  16. ^ Bix, Laura; de la Fuente, Javier; Pimple, Kenneth D.; Kou, Eric (2009). “Is the test of senior friendly/child resistant packaging ethical?”. Health Expectations 12 (2): 430–437. doi:10.1111/j.1369-7625.2009.00534.x. PMC 5060504. PMID 19650857. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5060504/. 
  17. ^ a b 注目されるCR容器普及の提言”. 薬事日報 (2011年5月13日). 2020年1月6日閲覧。
  18. ^ 子供を守る「チャイルドレジスタンス」 医薬品容器の安全対策を提言”. セルフメディケーションPro. (2011年10月11日). 2020年1月6日閲覧。
  19. ^ “医薬品包装「子供が開けにくい構造を」 消費者事故調が提言 高齢者対策に課題も”. 産経ニュース. (2015年12月18日). https://www.sankei.com/article/20151218-LGLDXUB5ONIU5O5VMUKAAA23MU/ 2020年1月6日閲覧。 
  20. ^ “子供開けにくい薬に チャイルドレジスタンス(CR)機能、誤飲防止で提言”. 毎日新聞. (2015年12月19日). https://mainichi.jp/articles/20151219/ddm/041/040/128000c 2020年1月6日閲覧。 ( 要購読契約)
  21. ^ 土井, 脩  「子供の医薬品誤飲対策:チャイルドレジスタンス包装(薬事温故知新 Vol. 91)」(PDF)『医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス(PMDRS)』第48巻第7号、2017年、500-501頁、2020年1月7日閲覧 
  22. ^ “大人の薬、子供が誤飲 どう防ぐ? 開けにくい容器導入へ理解を”. 産経新聞. (2019年5月3日). https://www.sankei.com/life/news/190503/lif1905030014-n1.html 2020年1月6日閲覧。 

参考文献 編集

  • Yam, K. L., "Encyclopedia of Packaging Technology", John Wiley & Sons, 2009年、ISBN 978-0-470-08704-6
  • Lockhart, H., and Paine, F.A., "Packaging of Pharmaceuticals and Healthcare Products", Blackie, 2006年、ISBN 0-7514-0167-6    

外部リンク 編集

ニュース記事とプレスリリース: