ニガヨモギ英語: Wormwood, 古代ギリシャ語では ἀψίνθιον アプシンシオン または ἄψινθος アプシントス)は、ヨハネの黙示録に登場する[要曖昧さ回避](ひいては天使のこと)である[2]

黙示録"The third trumpet: destruction of the waters" の図[1]

旧約聖書 編集

ニガヨモギに相当する言葉はヘブライ語聖書に7回登場するが、7回ともその苦さを含みにしている[3]英語訳聖書でもワームウッド (wormwood) は7回言及されるが、この言葉はヘブライ語の לענה(ヘブライ語では「呪い」の意味もある)を翻訳したものである。

新約聖書 編集

ニガヨモギは新約聖書ではヨハネの黙示録の第8章11節で一度言及されるのみである。

第三の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、たいまつのように燃えている大きな星が、空から落ちてきた。そしてそれは、川の三分の一とその水源との上に落ちた。この星の名は「苦よもぎ」と言い、水の三分の一が「苦よもぎ」のように苦くなった。水が苦くなったので、そのために多くの人が死んだ。

ここのニガヨモギにあたるギリシャ語は、何か苦味のあるものを暗示するために取り上げられた、アルテミシア属の植物を指すと考えられている。英訳に使われた「ワームウッド」は、腸内寄生虫 (intestinal worm) を殺すために用いられる、この植物でつくる暗緑色のオイルも表わす。これはヨハネの黙示録においては、ニガヨモギに変化した、つまり苦くなってしまった水にあたる[4]

解釈 編集

論者によっては、この「大きな星」が政治史あるいは教会史における重要人物のことだという人もいる。一方で聖書辞典やその注釈書は、この言葉が天空の存在に言及したものだとしている。『聖書の辞典』(A Dictionary of The Holy Bible) では、「このニガヨモギと呼ばれる星は、倒れたり落下する有力な君主、天使、楽器を表わしたものだと思われる」[5]

この星はイエス・キリストを指していると解釈することもできる。イエス・キリストは明けの明星=星であり、星が落ちるとは、即ち「イエス・キリストの再臨」のことだと解釈できる。川と水が苦くなったとは、つまり、苦くなる前は、苦くなかった=甘かったのであり、それは乳と蜜の流れる地と例えられるように、楽園の中を流れる川と水を表すのである。すなわち、この解釈では、ルシファーの謀略とともに、人類が楽園から追放されたことを意味するのである。また、この時、蛇は神によって呪われている。

歴史主義 編集

セブンスデー・アドベンチスト教会などの宗派やマシュー・ヘンリジョン・ジルなどの神学者は[6]、黙示録の第8節は人類史における過去の出来事を象徴的に表したものだと考えている。ニガヨモギについては、アッティラ王が率いていたフン族の軍勢を意味すると考える歴史主義者もいる。彼らは、この預言の受容史とヨーロッパにフン族が攻め入った歴史とが時代的に一致していることをその根拠とする[7]。そのほかにもアリウスコンスタンティヌス1世オリゲネス、原罪を教義として否定したペラギウスなどの名前が挙がる[6]

その他の解釈 編集

聖書学者の多くが、ワームウッド (Wormwood) という単語は、困難にある時代に地に満ちる苦しみをただ象徴的に表現したものだと考えている。ニガヨモギ (Artemisia absinthium)、オウシュウヨモギ (Artemisia vulgaris) などがこの植物の名前とされているが、これらは受け入れがたいほど苦いものを指す聖書のなかでも最もよく知られた比喩である。ニガヨモギ (wormwood) に相当するウクライナ語のチョルノーブィリ (чорнобиль) は、キエフ州の都市であるチェルノブイリのウクライナ語名である[8][9][10]

脚注 編集

  1. ^ Walters Ms. W.917, Apocalypse with patristic commentary
  2. ^ Lewis, James R., Oliver, Evelyn Dorothy (1996), Angels A to Z, entry: "Wormwood", p. 417, Visible I'nk Press
  3. ^ Wormwood”. Plant Site: Bible Plants. Old Dominion University (2007年4月12日). 2013年6月2日閲覧。
  4. ^ Danker, Frederick W (2000). "ἀψίνθιον". A Greek-English Lexicon of the New Testament and Other Early Christian Literature, Third Edition. University of Chicago Press. p. 161. ISBN 0-226-03933-1
  5. ^ Rand, W. W. (1859), A Dictionary of the Holy Bible: for general use in the study of the scriptures; with engravings, maps, and tables, Entry: WORM WOOD at Internet Archive
  6. ^ a b Gill, John, Exposition of the Entire Bible, Revelation 8:10 Archived 2006-10-30 at the Wayback Machine. at bible.crosswalk.com
  7. ^ Nichol, Francis D (1957), The Seventh-day Adventist Bible Commentary, Volume 7, Revelation, p. 789, Review and Herald Publishing Association, Washington, D.C.
  8. ^ Wormwood in Ukrainian - English-Ukrainian Dictionary - Glosbe” (英語). Glosbe. 2018年11月29日閲覧。
  9. ^ Mugwort is Wormwood is Artemesia” (英語). www.flavorandfortune.com. 2017年11月24日閲覧。
  10. ^ Mugwort Herb Uses, Side Effects and Benefits”. The Herbal Resource. 2018年11月29日閲覧。

外部リンク 編集