ノート:グノーシス主義/グノーシスの物語

グノーシス主義 編集

 グノーシス主義とは、キリスト教の草創期の2~300年において、最も有力だったいくつかの宗派と色々の宗教において、共通して使われる用語です。グノーシスという名前はギリシャ語で「知識」という言葉で、そこには特別な、少数の人しか所有することが出来ない、隠された知識(深遠な知識)があるという考え方を示しています。このグノーシスの教義の神秘性と、正統のキリスト教からの攻撃からその教えが生まれてきたのだという数々の証拠があり、その事実が、異なるグノーシス学説間の違いを正確に区別することを難しくしています。最近では、グノーシス主義という言葉は、ニューエイジ運動を形成してきた、より近代の宗派や、論理上の二元性という主要な核心概念を、本当には共有していない人を説明するために使われてきました。


グノーシス主義の信仰 編集

 グノーシス主義は、物質は悪であり、下級神(プラトン以降、それはデミウルゴスと呼ばれる)の創造物だと教えました。世界形成者(デミウルゴス)は、「小さな支配者」アルコーンのボスで、物理的な世界を作った職人です。しかし、人間の体は実体として悪でありながらも、その中に聖なる火・プネウマ、すなわち真の神から降りてきた聖霊)を含んでいます。知識(グノーシス)は聖霊を、元々の真の神に復帰させることが出来るのです。

 多くのグノーシス主義(特にヴァレンチノスの信奉者)は、原始で絶対の神(そのモナドはそのまま、モノイマスによって最初の霊体と呼ばれました)があり、そして次に、その神からそのほかの霊体、下位の霊体の組が連続して生まれると教えました(ヴァレンチーノスはそのような組を30個挙げました)。その霊体たちは共に、プレローマ、すなわち神の豊饒を作りました。そのうち、最も下位の組がソフィア(ギリシャ語で「叡智」)とキリストでした。    グノーシスの創造神話では、ソフィアは遠く離れた絶対の神を求めていました。ある記述の中で は、彼女は遠く離れた一筋の光(それは実際は鏡に映った像だった)を見て、プレロマから知らぬ間に離れてしまいました。    死ぬかもしれないというソフィアの恐怖と苦悶は、神の光を失くしたかのようで、彼女は混乱し、戻りたいという願いを起こしました。これらの願いによって肉体と精神は、偶然に4つの古典的なエレメント、火・水・土・空気を通した実在になりました。獅子の顔を持つ世界形成者(デミウルゴス)の創造もまた、幾つかのグノーシスの資料によれば、ソフィアが片割れの男性なしに、自身のコピーを作ろうとした結果と同じように、追放の失敗だということです。デミウルゴスは、それでもデミウルゴスの創造物に、何とか精神の火(プネウマ)を吹き込み続けるソフィアのことを知らずに、私たちの住む物理的な世界の創造を進めました。    この後、救世主(キリスト)が戻ってきて、彼女に彼女の精神(ギリシャ語でプネウマ)の知識を持ってきて光を再び見せました。救世主は、人間を物理的な世界から救うために、そして精神的な世界へ戻すために必要なグノーシスを人間に与えるためにイエスという男の形で地上に遣わされました。    ソフィアによって体験された3つの感覚で3つのタイプの人間が作られました。物質的な人間(物質に束縛された者、悪の起源)精神的な人間(魂に束縛された者、部分的に悪から救われた者)、精霊の人間、グノーシスを獲得すればプネウマに戻ることが出来、光の世界を見ることができるもの、です。グノーシス主義者は彼ら自身をこのグループの人間だと考えます。    グノーシス主義者は、デミウルゴスと旧約聖書の神とを同一視し、しばしば旧約聖書の神から否定された者たちを賞賛し、このようにして、彼らは旧約聖書とユダヤ教を否定しました。グノーシス主義者の中には、デミウルゴスを魔王(サタン)と同一視した者もいるといわれています。それは多くのキリスト教徒が注目することで、疑惑を助長した信仰です。    物理的な世界が創生されたすぐ後に、ソフィアはを経由してメッセージを送りました。彼女はこうやって人間たちに、デミウルゴス(彼は、自分自身を宇宙の創造主で、この世界の唯一の支配者だと信じていた)の天罰の原因となるグノーシスを与えました。このように「原罪」とは、グノーシス主義の立場からすれば、「最初の啓蒙」であり、罪の行為ということでは全然なかったのです。彼らは、アダムの三男のセツも、グノーシス主義の教義を、アダムとイブによって教えられていて、この知識が宇宙(万物)全体に保存されてきたことも知ります。    グノーシス主義者たちは、旧約聖書を神話として、つまり解釈の対象として受け取ってきたことを銘記しておかなければなりません。

ライフスタイル 編集

 いくつかのグノーシス主義の学派は、正統派のキリスト教の教義の教えと調和していない「イエスおよび・または救世主の本性の神秘説」を奉ずるキリスト教徒でした。例えば、グノーシス主義は大抵、仮現説(イエスは物理的な体を持っていなかった、むしろ目に見える彼の物理的な肉体は幻影で、磔の刑は肉体的なものではなかったという信仰)を教えました。

 殆どのグノーシス主義者は、肉体の楽しみは邪悪なものだという考えに立って、禁欲と苦しい修行とを実践します。しかし少数の者たちは、肉体が邪悪なものなら汚さなければならないと主張して、自由思想を実践しました。これはさらに疑惑をもたらし、実践に従わないその他の集団と同じレベルの罪でした。


グノーシス主義の学派 編集

(注:グノーシス主義の学派が、考え方の実際の共有が行われていたか、または、互いに承認をしていたかどうか?彼らが、多少なりとも偶然に、同じ基本教義を持っていたかどうか?というのが争点です)    まず、グノーシスの学派は、よく、東方すなわちペルシャ学派と、シリアエジプト学派に分けられます。ペルシャ学派は、シリアエジプト学派が、よりプラトン主義よりなのに対して、光と闇の区別を明確にします。後者(シリアエジプト学派)はグノーシス主義とよく結びつき、いくつかのキリスト教の要素を含むことで知られているものです。オフィス派として知られ、これらの両極の中間に位置するという集団もあります。

  1. ペルシャのグノーシス主義
  • マンダヤ教 今日も存在しています。でも非キリスト教徒的です。
  • マニ教 それだけで独立した完全な宗教でしたが、現在は消滅しました。
  1. シリアエジプトのグノーシス主義
  • ケリントス
  • シモン・マグスとシノペのマルキオンは、どちらもグノーシス主義に傾倒していましたが、完全にグノーシス主義ではありませんでした。彼らはどちらも偉大な徒弟に成長しました。シモン・マグスの弟子メナンドロスも含まれます。
  • ヴァレンチヌスの指導の下、ヴァレンチヌス派は、複雑なグノーシス主義の宇宙論を発展させました。
  • ヴァシレイデス派
  • オフィス派(と世に言われるのは、創世記に出てくるヘビを、知識を授けたものとして崇拝するからです)
  • カイン派(エサウ、コラ、ソドム人と同じようにカインを崇拝し、罪に耽ることが救済の鍵と信じる人たち)
  • カルポクラテス派
  • ボルボリッツ派
  • カタリ派(異端カタリ、アルビ派またはアルビジョア派)

起源 編集

 グノーシス主義の情報として、私たちは二つの主な歴史的な資料を持っています。それは、正統派のキリスト教によるグノーシス主義への攻撃(テルトゥリアヌスやヒッポリュトス、エイレナイオス、サラミスのエピファニオスによる異端研究論文)とグノーシス主義者のもともとの著作です。

 これらのどちらも、完全に満足なものではありません。正統派キリスト教徒によるグノーシス主義への攻撃は、実のところそのままでは都合が悪く、たいがいある程度の偏見が入っているようです。そして正統派キリスト教は、彼らと対立する異なる集団と混ざり合う傾向がありました。正統派キリスト教の書物に対して、正統派キリスト教の聖書に隅々まで影響された、かなりたくさんのグノーシス主義の著作があります。

 多くのグノーシス主義の著作と、その他の作品で、19世紀の終わりから20世紀までに書かれたものは、グノーシスと対立する人々の作品の中に断片的に引用されたものを除いては、何も残っていません。19世紀の学者の多くは、反対者の著作の中に散らばった引用文を集めて、グノーシス主義の資料を再編集するのにかなりの労力をつぎ込みました。

 ナグハマディ写本以来、いくつかの原稿の発見がありました。しかし、私たちはかなりの量のグノーシス文献を持ちながら、それらはグノーシスの教えの深さのせいで依然として理解するのが困難です。そしてどの学派の誰が、どの原稿を書いたのかを特定する困難さにも直面しています。ナグハマディ蔵書は英訳があります。そしてグノーシス研究のための資料として疑いなく最も重要な蔵書です。グノーシス主義の概念についての基本的な知識がある程度あれば、そんなに複雑な読み物ではありません。


グノーシスの文献 編集

   グノーシス主義については何でもそうですが、その文献がグノーシス主義のものであるか否かは論争を呼ぶものです。しかし、ほとんどのナグハマディ写本は、プラトンのコピーとトマスの福音書の格言を除いては、本質はグノーシス主義のものであると思われることを覚えておいてください。

  • 1948年以前に回復されたグノーシス主義の著作:
    1. 教会によって保存された作品
      • トマス伝(特に真珠の賛美歌と光のローブの賛美歌を含む)
      • ヨハネ伝(特にイエスの賛美歌)
    2. アスキュー写本(1784年に大英博物館が寄贈)
      • ピスティス・ソフィア:救いの本
      • ブルース写本(ジェームス・ブルースによって発見されたもの)
      • 見えない神のグノーシス ゲームの本
      • 題名なしの黙示録 光のグノーシス
    3. ベルリン写本またはアクミーム写本(エジプトのアクミームで発見された)
    4. 出典不明
  • ナグハマディ書庫は1948年に発見されました。

 完全なリストはナグハマディのリンクに飛んでみてください。

よく知られたグノーシス主義者たち 編集

ざっと時間順です:

  • シモン・マグス グノーシス傾向があって最初のグノーシス主義者とも言われる
  • レウシウス・シャリウス
  • メナンドロス
  • サタニウス
  • モノイマス
  • カルポクラテスとその妻アレキサンドラ
  • エデッサのバルダイサン
  • プレトミーとコロバサス
  • バレンティヌスと別名ヴァレンティーノス
  • アレキサンドラのバシレイデス
  • シノペのマルキオン グノーシス主義の傾向を持っていました

近代のグノーシス主義 編集

 グノーシス主義は、近代の作家や哲学者心理学者によって、ようやく詳しく取り扱われるようになりました。

  • カールジャンと彼の助手GRSミードは心理学的な立場からグノーシスの信仰を理解し説明しようと努力しました。
  • 神智学の創始者へレナ・ペトロヴナ・ブラヴァンスキは楽しんでグノーシスの考え方について集中的に書きました。
  • エリック・ヴォーゲリンは、グノーシス主義を、近代化のすべての「罪」の側面の根源と見なしました。彼は、グノーシス主義の影響は、歴史を通じて保存されていて、すべての科学の試み、特に科学技術は、「地上の天国」を作ろうとする企てだとし、「古典的なキリスト教の伝統」を「グノーシス主義者たち」から守りたいと言いました。彼は、共産主義やナチズムを含む、すべての全体主義は、グノーシス主義の刺激が原因だと言いました。この考え方は陰謀説と類似性があって、一般的には重大には受け取られませんが、多くのカトリックの学者たちはそうすることを好み、しばしばアウグスティン・バルエル神父によって作られた、強烈な比喩的表現を使って拡大解釈します。
  • 米国では、別の系統のグノーシス教会がいくつかあって、その一つが、最初はロサンジェルスにあった、グノスティック協会というグノーシス研究組織に加盟している、エクレシア・グノーティカです。この二つの組織の現在のリーダーは、グノーシス主義と神秘事象について、徹底的に書いてきたステファン・A・ホラーです。


グノーシス主義は近年、大衆文化において再燃のようなものが見られます。

  • ハロルド・ブルームは彼の小説「堕天の戦い:グノーシスのファンタジー」そしてウィリアム・ゴールディングと一緒に「アメリカ人の宗教:ポスト・キリスト教国の出現」の中で、アメリカ人の信仰におけるグノーシス主義について明らかにしています。
  • 陰謀説のいくつかはグノーシス主義を言外に含んでいます。(エリック・フェーゲリンによるところが大きいです)
  • 「ダーク・シティ」「マトリックス」「トゥルーマン・ショー」「12モンキーズ」「トイ・ストーリー」などの映画は特に、私たちが知覚しているこの世界は、私たちを愛していない誰かの作り出した幻想だ、という考え方において、グノーシス主義の趣旨を、程度の差こそあれ、深く掘り下げています。
  • フィリップ・プルマンの三部作「黄金の羅針盤(原題:His Dark Material)」は、グノーシスの趣旨をたくさん引用しています。
  • ロールプレイングゲームの「クルト」(スウェーデン生まれの大人向けオカルト/ホラーRPGで、未訳・絶版)もまた、グノーシスの考え方に基づいています。
  • Jesus Mysteries という、Timothy FrekeとPeter Gandyによる論文には、グノーシス主義が色濃くあらわれています。
  • ゼノサーガ系列と同様に、元スクエアソフトの仲間で、現在はモノリススタジオ(として知られている)の管理下にある、スクウェアソフトによるロールプレイングゲーム、ファイナルファンタジー7と10、クロノ・トリガーと、クロノ・クロスと、ゼノ・ギアスも、徹底的にでなくても(ゼノ・ギアスの場合のように)、ほんのりとグノーシス主義の趣旨と、グノーシス主義への言及を含んでいます。
  • ベストセラー小説「ザ・ダヴィンチ・コード」は、グノーシスの経典の引用と、それらの近代における再解釈をたくさん引用しています。
  • 月刊アフタヌーンに連載中の遠藤浩樹の漫画「EDEN -It's the end of world-」は、グノーシス主義が政治思想として世界を支配するまでになった近未来を舞台にしています。
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