ヘテロ三量体Gタンパク質

ヘテロ三量体Gタンパク質(ヘテロさんりょうたいGタンパクしつ、: heterotrimeric G protein)は、ヘテロ三量体型複合体を形成する膜結合型Gタンパク質であり、単量体の低分子量GTPアーゼとの対比で"large G protein"と呼ばれることもある。ヘテロ三量体Gタンパク質と単量体Gタンパク質との最大の差異は、ヘテロ三量体タンパク質はGタンパク質共役受容体(GPCR)と呼ばれる細胞表面受容体に直接結合することである。これらのGタンパク質は、α、β、γのサブユニットから構成される[1]。αサブユニットはGTPGDPのいずれかを結合しており、Gタンパク質の活性化のオン・オフのスイッチとして機能する。

Heterotrimeric G-protein GTPase
識別子
EC番号 3.6.5.1
CAS登録番号 9059-32-9
データベース
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ヘテロ三量体Gタンパク質が脂質アンカーとともに描かれている。GDPは黒、αサブユニットは黄色、βγサブユニットは青で示されている。
ヘテロ三量体型Gタンパク質の立体構造

リガンドがGPCRに結合すると、GPCRはグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)としての能力を獲得し、Gタンパク質αサブユニットに結合したGDPをGTPへ交換することでGタンパク質を活性化する。αサブユニットへのGTPの結合によって構造変化が引き起こされ、Gタンパク質の残りの部分からの解離が引き起こされる。一般的に、αサブユニットは下流のシグナル伝達カスケードの膜結合型エフェクタータンパク質に結合するが、βγ複合体もこうした機能を果たす。Gタンパク質はcAMP/PKA経路、イオンチャネルMAPKPI3Kを介した経路などに関与している。

このようなGタンパク質には、Gi/oGqGsG12/13という4つの主要なクラスが存在する[2]

αサブユニット 編集

 
Gタンパク質共役受容体活性化経路におけるGタンパク質の役割

1980年代初頭に行われた再構成実験では、精製されたGαサブユニットが直接エフェクター酵素を活性化することが示された。GTP結合型のトランスデューシン英語版(Gt)αサブユニットは網膜桿体の外節のcGMPホスホジエステラーゼを活性化し[3]、GTP結合型のGsタンパク質αサブユニットはホルモン感受性アデニル酸シクラーゼを活性化する[4][5]。同じ組織に複数のタイプのGタンパク質が共在することもあり、例えば脂肪組織では、アデニル酸シクラーゼを活性化または阻害するために、交換可能なβγ複合体を持つ2種類の異なるGタンパク質が利用される。刺激ホルモンの受容体によって活性化されたGsタンパク質のαサブユニットはアデニル酸シクラーゼを活性化し、アデニル酸シクラーゼによってcAMPが産生されて下流のシグナル伝達カスケードに利用される。一方、抑制ホルモンの受容体によって活性化されたGiタンパク質のαサブユニットはアデニル酸シクラーゼを阻害し、下流のシグナル伝達カスケードが遮断される。

Gαサブユニットは、GTPアーゼドメインとαヘリカルドメインの2つのドメインから構成される。

Gαサブユニットは少なくとも20種類存在し、配列相同性に基づいて4つの主要なグループへ分類される[6]

ファミリー αサブユニット 遺伝子 シグナル伝達 利用する受容体 (例) 影響 (例)
Giファミリー (InterPro英語版IPR001408)
Gi/o αi, αo GNAO1英語版, GNAI1英語版, GNAI2英語版, GNAI3英語版 アデニル酸シクラーゼの阻害、K+チャネルの開口(β/γサブユニットを介して)、Ca2+チャネルの閉口 ムスカリン性アセチルコリン受容体英語版 M2英語版M4英語版[7]ケモカイン受容体英語版α2アドレナリン受容体英語版セロトニン受容体 5-HT1英語版ヒスタミン受容体 H3英語版H4英語版、D2ドーパミン受容体カンナビノイド受容体英語版 CB2英語版[8] 平滑筋収縮、神経活動の抑制、白血球からのインターロイキンの分泌[8]
Gt αt (トランスデューシン英語版) GNAT1英語版, GNAT2英語版 PDE6英語版(ホスホジエステラーゼ6)の活性化 ロドプシン 視覚
Ggust αgust (ガストデューシン英語版) GNAT3英語版 PDE6の活性化 味覚受容体英語版 味覚
Gz αz GNAZ英語版 アデニル酸シクラーゼの阻害 蝸牛内リンパ液と外リンパ液の電解質バランスの維持
Gsファミリー (InterPro英語版IPR000367)
Gs αs GNAS英語版 アデニル酸シクラーゼの活性化 βアドレナリン受容体セロトニン受容体 5-HT4英語版5-HT6英語版5-HT7英語版、D1様ドーパミン受容体、ヒスタミン受容体 H2英語版、 カンナビノイド受容体 CB2[8] 心拍の増加、平滑筋の弛緩、神経活動の刺激、白血球からのインターロイキンの分泌[8]
Golf αolf GNAL英語版 アデニル酸シクラーゼの活性化 嗅覚受容体 嗅覚
Gqファミリー (InterPro英語版IPR000654)
Gq αq, α11, α14, α15, α16 GNAQ英語版, GNA11英語版, GNA14英語版, GNA15英語版 ホスホリパーゼCの活性化 α1アドレナリン受容体英語版、ムスカリン性アセチルコリン受容体 M1英語版M3英語版M5英語版[7]、ヒスタミン受容体 H1英語版、セロトニン受容体 5-HT2英語版 平滑筋収縮、Ca2+の流入
G12/13ファミリー (InterPro英語版IPR000469)
G12/13 α12, α13 GNA12英語版, GNA13英語版 RhoファミリーGTPアーゼの活性化 細胞骨格機能、平滑筋収縮

Gβγ複合体 編集

βサブユニットとγサブユニットは互いに密接に結合しており、Gβγ複合体と呼ばれる。βサブユニットとγサブユニットの双方にさまざまなアイソフォームが存在し、いくつかの組み合わせで二量体が形成されるが、他の組み合わせでは形成されない。例えば、β1はγ1、γ2の双方と結合するが、β3はどちらとも結合しない[9]。GPCRの活性化に伴って、Gβγ複合体はGαサブユニットのGDP-GTP交換後に放出される。

機能 編集

遊離したGβγ複合体はそれ自身がシグナル伝達分子として作用し、他のセカンドメッセンジャーを活性化したり、イオンチャネルを直接開閉したりする。

例えば、ヒスタミン受容体に結合していたGβγ複合体はホスホリパーゼA2を活性化する。一方、ムスカリン性アセチルコリン受容体に結合していたGβγ複合体はGタンパク質共役内向き整流カリウムチャネル英語版(GIRK)を直接開口する[10]アセチルコリンが細胞外リガンドである場合、心臓細胞は正常に過分極して心筋の収縮を低下させる。ムスカリンのような物質がリガンドとして作用すると、危険なレベルの過分極によって幻覚が引き起こされる。このよに、Gβγが正しく機能することは我々の生理的な健康に重要である。他の機能としては、H3受容体の薬理作用としてみられるように、L型カルシウムチャネル英語版の活性化がある。

出典 編集

  1. ^ “Genomic characterization of the human heterotrimeric G protein alpha, beta, and gamma subunit genes”. DNA Research 7 (2): 111–20. (April 2000). doi:10.1093/dnares/7.2.111. PMID 10819326. 
  2. ^ Nature Reviews Drug Discovery GPCR Questionnaire Participants (July 2004). “The state of GPCR research in 2004”. Nature Reviews. Drug Discovery 3 (7): 575, 577–626. doi:10.1038/nrd1458. PMID 15272499. 
  3. ^ “Flow of information in the light-triggered cyclic nucleotide cascade of vision”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 78 (1): 152–6. (January 1981). doi:10.1073/pnas.78.1.152. PMC 319009. PMID 6264430. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC319009/. 
  4. ^ “Reconstitution of a hormone-sensitive adenylate cyclase system. The pure beta-adrenergic receptor and guanine nucleotide regulatory protein confer hormone responsiveness on the resolved catalytic unit”. The Journal of Biological Chemistry 259 (16): 9979–82. (August 1984). doi:10.1016/S0021-9258(18)90913-0. PMID 6088509. 
  5. ^ “Reconstitution of catecholamine-stimulated adenylate cyclase activity using three purified proteins”. The Journal of Biological Chemistry 260 (29): 15829–33. (December 1985). doi:10.1016/S0021-9258(17)36333-0. PMID 2999139. 
  6. ^ “G alpha 12 and G alpha 13 subunits define a fourth class of G protein alpha subunits”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 88 (13): 5582–6. (July 1991). doi:10.1073/pnas.88.13.5582. PMC 51921. PMID 1905812. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC51921/. 
  7. ^ a b “Inactive-state preassembly of G(q)-coupled receptors and G(q) heterotrimers”. Nature Chemical Biology 7 (10): 740–7. (August 2011). doi:10.1038/nchembio.642. PMC 3177959. PMID 21873996. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3177959/. 
  8. ^ a b c d Saroz, Yurii; Kho, Dan T.; Glass, Michelle; Graham, Euan Scott; Grimsey, Natasha Lillia (2019-10-19). “Cannabinoid Receptor 2 (CB 2 ) Signals via G-alpha-s and Induces IL-6 and IL-10 Cytokine Secretion in Human Primary Leukocytes” (英語). ACS Pharmacology & Translational Science 2 (6): 414–428. doi:10.1021/acsptsci.9b00049. ISSN 2575-9108. PMC 7088898. PMID 32259074. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7088898/. 
  9. ^ “Specificity of G protein beta and gamma subunit interactions”. The Journal of Biological Chemistry 267 (20): 13807–10. (July 1992). doi:10.1016/S0021-9258(19)49638-5. PMID 1629181. http://www.jbc.org/content/267/20/13807. 
  10. ^ “Targeting G protein-coupled receptor signaling at the G protein level with a selective nanobody inhibitor”. Nature Communications 9 (1): 1996. (2018). Bibcode2018NatCo...9.1996G. doi:10.1038/s41467-018-04432-0. PMC 5959942. PMID 29777099. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5959942/. 

外部リンク 編集